若き騎士達の危険な日常

あーす。

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東の聖地の一時

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 昼前に、小高い丘の上の東の聖地が見えて来る。

シェイルは周囲が途端、開放的で明るい雰囲気に包まれるのを、感じた。

一面若草色の丘を駆け上がって行く。

シェイルは後ろに引っ張られ、より一層ローフィスの腰に、しっかりしがみついた。

ローフィスは手慣れた手綱捌きで、ぐんぐん馬を駆け上がらせ…やがて、ぴり…!と身に一瞬痺れが走り、けれどそのまま駆けると木々に囲まれた道に出て、やがてその先に白い建物が見えて来た。

真っ白で…二階建ての、かなり大きな建物で…。
ローフィスが馬を止め、シェイルに振り向くと、シェイルは馬の後ろから滑り降りる。

ローフィスも直ぐ、馬から飛び降りる。
二人が馬の横に降り立つと直ぐ。
真横に空間から人がいきなり、現れて…。

シェイルはぎょっ!として目を見開いた。

オレンジがかったピンク色のフードを被り、髪の色は真っ直ぐの、青っぽい銀色。
瞳は琥珀色の、色白の細面の美形。

けれど『光の民』特有の、2mを超す長身。

毎度シェイルは思ったけど、彼らからしたら自分達は、彼らの子供くらいの身長なのかな?
と首捻った。

彼は、驚く二人に、すまなそうな表情を浮かべ、告げる。
「ああ…失礼。
今日ディラフィスは、一緒じゃ無かったんですね?
彼の“気”に近いけど、違う者…って…あなたの事ですね?
ええと…ディラフィスの息子さん?」

「ローフィスといいます」
「ええ今、読み取れました。
その、私は心話は苦手で。
かなり強い念じゃないと、読み取れないので。
人間の対応を任されています」

ローフィスもシェイルも、心をあんまり読まれないのかな?
と思った。

が、彼(多分)は笑う。
「それっくらいの感情は、読み取れますよ」

ローフィスもシェイルも、同時にがっくり、首垂れた。

けれど突然景色が変わり始める。

ローフィスは内心、瞬間移動はすっごく、得意なのかな?
とも、思った。

もう室内に居て、目前にはシェリアンが、ソファに座ってお茶を飲んでいたから。

けれど突然姿を現すシェイルを見ると、立ち上がって駆け寄る。
シェイルは直ぐ、シェリアンの胸に飛び込んだ。

シェイルは暫く、抱きついていたけど。
シェリアンの胸から顔を上げて見つめる。

「少し…逞しくなった?」
そう尋ねると、シェリアンは笑う。

シェイルと同じ、柔らかなウェーブの銀髪だったけれど。
瞳は碧緑あおみどり色で…とても綺麗な宝石のようだ。
と、ローフィスは傍目はためで見て、思った。

確かに前回会った時より、肩も…胸幅も、広くなってる。

「…体が軽いから…動き回っててね。
ディラフィスが良く来てくれる。
それで…訓練に、付き合ってくれる」

シェイルは父の笑顔を見つめる。
こけていた頬も引き締まって…以前の、快活な表情が戻りつつある。

懐かしい…遠い遠い、記憶の中の笑顔。

シェイルは幻を見るように、父を見つめた。

「訓練…って、何をするの?」
「剣や乗馬や…。
残念ながら…『闇の第二』の痕跡がしつこくて。
かなり浄化しないと、ここを出ると『影』に憑かれかねないと。
“癒す者”に、出る事を禁止されててね」

シェイルは、顔を下げる。
けれど胴回りも…筋肉が付いて、引き締まってる。

シェリアンはだけど、囁く。
「まだ…すっかり昔には、戻ってない。
記憶も…結婚前の記憶だけは、はっきり覚えてる…。
けれどライラアンとお前のことは…断片的にしか、思い出せなくて」

シェイルが父親を見上げる。
「じゃあ…囚われたことは?」
「その辺りを思い出そうとすると、頭痛がする」

その時、空間から別の…以前見た、とても綺麗で女顔の“癒す者”が姿を見せた。

金髪のエンジェルヘア。
白いフード。
瞳は茶色。

つん。としていて、『光の民』にしては、背が低い。

「…解説してあげようと、現れたのに。
何ですか?
貴方方、私がどーーーしても!
女性に見えるんですか?!」

シェイルもローフィスも、頷きかけて…顔を下げたまま、互いをこそっと、見た。

案内人が、ぼそりと囁く。
「彼、私より心話得意ですから」

ローフィスとシェイルは、撃沈したように、顔を下げた。

けど現れた“癒す者”は消えて行こうとするので、ローフィスが慌てて叫ぶ。
「解説は?!」

消えかけた姿は、再びくっきりし出す。

「仕方ありませんね…。
彼、『闇の第二』と深く関わってた頃、自衛手段だと思うんですけど。
神聖呪文を唱え続けてたせいで。
呪文に集中したらしくて、その辺りの記憶がとても不鮮明なんです。
貴方方でも、他に気を取られてたら、目の前で起こってる事でも、あんまり覚えて無い事ってあるでしょ?」

「…ある…な」
ローフィスが呟くと、シェイルは尋ねた。
「じゃ…伯父に監禁されてた頃って…」

シェリアンは苦笑した。
「思い出そうとすると、頭痛が酷い」

シェイルは頷く。
「思い出さなくていい…」
シェリアンは笑う。
「それより、『教練キャゼ』の様子を聞かせてくれ」
「いいけど…母様は?
元気になった?!」

シェリアンは頷く。
「二日前に会って、お前の事を伝えたら…」

けれど言い淀むから、シェイルは続きが聞きたくて、待った。

“癒す者"が口を出す。
「シェリアンに会えたことと、貴方の心配が無くなったら。
気絶するように眠りについてしまって。
多分無意識に、ずっと緊張していたんでしょうね。
寝顔なら見られます。
後で案内致しましょう。
けど、あんまり長くはダメです。
やっと何一つ心配無く、気持ち良く眠れるようになったんですから。
休ませてあげて下さい」

シェイルは頷く。

シェリアンはシェイルに微笑んで囁いた。
「一日に一度。
花を枕元に添えると…眠ってるのに、微笑むんだ」

シェイルは父を見つめた。
「母様の事は…思いだした?」

シェリアンは頷く。
「出会った頃だけど。
鮮明に思い出せる」
「僕の事は?」
「愛らしくて…天使のようで。
正直、女の子だと良かったなと。
…そう思ってた事を、はっきりと」

シェイルは少し、がっかりして顔を下げた。
「じゃ…今も女の子みたいなのに、実は男の子で。
かなり、がっかり?」

シェリアンは驚いて言った。
「『教練キャゼ』に入学許可されたんだろう?
姿が優しげでも、実力がちゃんとある。
誇らしいよ」

シェイルはそう言われ、頬染めて嬉しそうに、笑った。

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