若き騎士達の危険な日常

あーす。

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待ちに待った週末

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 シェイルは厩に乗り入れ、馬から降りるなりローフィスがやって来て
「明日の朝、宿舎に迎えに行くから」
と言われ、舞い上がった。

待ちに待った週末。
東の聖地へ、ローフィスとそしてディアヴォロスと一緒に、父に…そして今回は、母にも会えるかもしれない…!

シェイルは浮かれてしまって、ヤッケルに幾度も怪訝けげんな顔をされた。

夕食の席ではみんな、オーガスタスが帰ったかどうか。
そればかりを、話題にしてた。

けれど外から駆け込んで来た一人が
「たった今!
オーガスタスが他の三年達と一緒に、戻って来た!」
と叫び、皆口々に
「戻ったんだ!」
「良かった」
「心配するなったって…」
「オーガスタスに何かあったら、やっぱ心配だよな?!」
と口々に叫んで、出口に殺到さっとうする。

扉を開け、一際背の高いオーガスタスのシルエットが、三年宿舎に向けて歩いて行く姿を見て、一人が叫ぶ。
「お帰り!オーガスタス!」

夜空を背景に、シルエットが振り向く。

「楽しんだか?!」

叫ばれて、扉に集う皆が
「おぅ!」
と笑顔で、叫び返した。

オーガスタスは手を振り、そのまま他の三年らと、三年宿舎の戸口の中へと消えた。

けどその直後。
オーガスタス達が来た方向から、今度は二年達が。

屋外銭湯から帰って来て、一年宿舎の前をぞろぞろ通り過ぎながら、叫ぶ。

「なにお前ら、オーガスタスがヤられるとか、本気で心配したの?」
「ばっかじゃねぇの?」
「オーガスタス心配するなんて、てめぇら完全、ガキでひよっこ!」

けど叫んだ者の、横の二年が。
こそっと呟く。
「じゃ、お前もひよっこ?」
「風呂の帰りにオーガスタスの姿見た途端、駆け寄って…」
「確か、『無事で良かった!』って叫んで…」
「…オーガスタスに、縋り付いてたよな…?」

言われた二年は、顔、真っ赤にして怒鳴る。
「う…うっせぇ!
オーガスタスに、万が一何かあったら!
すげぇ心配じゃ無いか!」

「…ひよっこだな」
「ひよっこ」
「ひよっこ過ぎて、何言ってんだか」

口々にそう言いながら、二年平貴族らはぞろぞろ、一年宿舎の前を通り過ぎて行き。
隣の宿舎に入って行く。

一年らは一応、二年が通り過ぎるまで我慢した。
が、最後の二年が宿舎に入り、扉が閉まった途端。

ぷっっっっ。
と、笑いの漏れる声。
そして
「俺らの事、ぜんっぜん、言えないよな?!」
と一人が叫ぶと、みんな一斉に、笑いこけた。

ひやっはっはっはっはっはっ!

シェイルも一緒に扉に詰めてたけど、横のヤッケルが思いっきり、笑っていて。
シェイルもつられて、微笑んだ。


夜はまたヤッケルとは別行動で、ローランデの所へお風呂を借りに行く。

ローランデは嬉しそうに出迎えてくれて、お風呂の後、祭りの時の事を、一緒にはしゃいで話し続けた。

けれどシェイルはふと、思った。
ローランデには、女性達が群がったのに。
自分群がるのは、青年ばかり…。

突然落ち込むシェイルに気づいたローランデは、微笑んで尋ねる。
「どうか、した?」

シェイルは向かいのソファに座る、ガウン姿のローランデを見る。
白地に銀の刺繍の入ったガウンを、とても品良く着こなしていて、とても素敵だと、シェイルですら思う。

「…僕…ドレス着ると女の子に見えた?」
尋ねられて、ローランデは苦笑する。
「とても綺麗で、可愛らしかったから。
きっとみんな、誤解してると思った」
「やっぱり?
でもディングレーに…。
もっと男に見えるよう、努力しろ。
って言われて。
でも…男っぽくなったら、ディアヴォロスもローフィスも僕の事、嫌いにならないかな?」

ローランデは目を、見開いた。
「逆に、安心するんじゃ無いかな?」

シェイルは、しゅん。とした。
「…やっぱりか弱そうで…危なっかしいから?」
ローランデは少し困った様に囁く。
「君、小食だし。
骨格からして、骨が細い。
だから…あまり頑健な体格には、成りようが無いと思うし」

シェイルはまた、俯いた。

「…昔…殆ど食べなくて、ローフィスにうんと、心配かけた」

ローランデは頷く。
「食べ物があまり無い境遇でここに来る者は、三年にも成ると凄く、逞しくなるって。
けど君の場合、小食が原因だから。
それが改善されない限り、体格はあんまり変わらないと思う」

シェイルはローランデを見た。
自分よりは背が高いけど…体格も自分と比べれば、いいけど…。

でも、ローランデもここでは小柄。

「…でもローランデは、凄く強い」

ローランデは突然シェイルにそう言われ、目を見開いた。

シェイルはローランデを見つめる。
ローフィスと同じ、青い瞳。

けれどローフィスが青空なら、ローランデは湖水のような青…。

「僕…も小柄なままでも、強くなれたら…」

ローランデは、にっこり微笑んだ。
「誰も君を、か弱いとは思わない」

シェイルは出口を見つけたように、にっこり笑い返して頷いた。

「うん!」


ローランデの部屋を出て、自室に戻るともうヤッケルは布団に突っ伏したまま、動かなくて。

どうしたのかな?
と横で伺うけど、ヤッケルは動かないまま、呟く。

「…眠くて死にそうだから、もうこのまま寝る」

シェイルはため息吐くと、ヤッケルを転がして仰向かせ、布団を下から引きずり出して、上からかけた。

「風邪引くから!」
「感謝」

ヤッケルは目を閉じたままそう言うと、暫くした後、寝息を立てていた。

シェイルも自分の寝台に横になる。

けれど明日を考えただけで、ちっとも眠くならない。

結局シェイルは、明け方近くにようやく眠りに就き、朝、ローフィスに肩を揺すって起こされた。

「出るぞ!」
「…ん………」

ローフィスはため息を吐く。
「ディアヴォロスは用があって、遅れて来るそうだ。
俺の後ろに跨がっていいから。
落ちずに寝ていけ」

シェイルは頷くものの、眠くて顔が、上げられない。

結果、ローフィスに引きずられるように厩に出向き、ローフィスの後ろに乗り込み、ローフィスの腰に抱きついて、うつらうつら…。

まだ、夢の中にいた。

けれど草原の爽やかな風が頬に当たると、次第に輝く太陽と、陽を弾く緑の草花が視界に入り、そして…。
抱きついてるローフィスの、腰の温もりがじんわりと暖かくって。

シェイルはより一層、ローフィスの背にくっつき、顔を寄せた。

ローフィスが振り向き、何か怒鳴ってる。

「…え?!」
「あんま、くっついてると!
派手に揺れると、顔をブツぞ!」

シェイルはそう怒鳴られてもローフィスの背に、顔を埋め続けた。

両腕を、しっかりとローフィスの腰に巻き付ける。
以前とは違い、甘酸っぱい気持ちがわき上がる。

“大好き…!
ローフィス、うんと好き。
めちゃめちゃ好き”

ローフィスは前を向いたまま、それが聞こえたように怒鳴る。

「これから、最高に好きな、親父さんに会うんだろう?!」

「うん!
最高に、嬉しい!
でもローフィスと一緒に居られて、それも最高に嬉しい!」

ローフィスは前を向いたまま、沈黙してて。
馬は相変わらず、かなりな速度で走ってる。

シェイルはつい、声を張り上げた。

「ローフィスは?!
僕の事、好き?!」

ローフィスは即座に怒鳴り返す。
「嫌いだったら今、後ろにお前乗せて東の聖地になんて、駆けてない!」

シェイルは笑った。
「それ、好きって事だよね?!」

ローフィスはまた、沈黙。

「なんで“うん”って言わないの?!」

ローフィスはとうとう、振り向く。
頬が少し赤くて、照れてるみたいな表情して。

「喋ってると、舌噛むぞ!」

馬が、結構大きな穴を飛び越え、がくん!と大きく揺れて舌を噛みそうになり、とうとうシェイルはローフィスに言われたとおり、口を閉じて黙った。


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