若き騎士達の危険な日常

あーす。

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 日が暮れ始める。
監督生らが、グループ毎に集まる指示を出す。

ディングレーの元にはローフィスがやって来て
「オーガスタスの代わりに集めろ」
と言われ、シェイルの手を引いて、グループ生を探して回った。

シェイルは手を引かれ、足の速いディングレーに、小走りで付いて行く。
あちこちで…手を繋ぐディングレーと自分を見て、がっかりする売り子の女性や、青年らの顔を見かけた。

シェイルはまたグループの二人を見つけ、集まるよう告げてるディングレーを見上げる。

確かに…すっかり大人の迫力の、ディアヴォロスや…小粋なローフィスと違い、まだ若く少年っぽさも残しながらも、真っ直ぐの黒髪散らす男っぽいディングレーは、格好良く見えた。

「ディングレー、あのさ」
「ん?!」

次のグループ生を探し、ディングレーは首振りまくって、気のない返事を返す。
「あの…もしかして、カップルに見られてる?僕ら」

シェイルが尋ねると、ディングレーは目を見開いて、無言。

「…あの…さっきから、よく色んな人に見られてるから…」

ディングレーはあちこちの男女が、手を繋いでる自分らを見てるのに気づく。

「…そう…かもな」

そう言って、シェイルをじっ…と見る。

「お前、だけどディアヴォロスと、シたんだろう?」
「その言い方、ヤらしい」

ディングレーは顔を下げる。
「…ヤ…らしかろうが…意味は通じてるだろう?」
「…だってその…抱き合った…とか。
愛し合った…とか」
「(…そっちの方がヤらしく感じる俺が、不純なのか?)」

シェイルが赤くなって、もじもじしてるので。
ディングレーは呻く。

「つまりお前、なんか色っぽいし。
それでやたら男が、寄って来る。
一時的でも、俺が。
彼氏に思われてた方が、変な虫が付かない」

「変な感じ」
「なにが」
「ディングレーと付き合ってるとか、思われてるのって」

ディングレーは、チラ…とシェイルを見、ぼやいた。
「俺だってだ」

けれどそれを聞いた途端、シェイルはほっとして言った。
「なんだ、ディングレーも?
僕ちょっと、意識しちゃった」

ディングレーは銀髪ですごく綺麗で愛らしい、シェイルの笑顔を見て呻く。
「それより少しは、男に見られる努力しろ」

言って、ディングレーはグループ生探しに戻り、あちこちキョロついてると。
シェイルが俯く。
「男っぽくなっても…ディアヴォロスとローフィス。
僕の事、相手してくれるかな?」

ディングレーはつい、シェイルを見た。
「俺、今。
それどころじゃない」
シェイルはそれを聞くと、頬を染めて俯き、素直に謝った。
「ごめん」

教練キャゼ』の補習生は、巨大な焚き火に火が入り、かがり火の中、周囲でダンスをする人々から離れた草地で集う。

リーラスが、怒鳴る。
「最後に、踊りたいヤツ。
ここで踊っていけ!」

一・二年らは顔を見合わせる。
楽の音は遠く、ダンスする場所もかなり遠い。

けどリーラス始め、監督生二人の三人が。
突然中央へと進むと。
曲に合わせ、踊り出す。

その踊りと言うのが…男踊りで。
三人がびしっ!と振りが揃い、決まっていて。
躊躇してた一・二年らは顔を見合わせ、次々とリーラスらの後ろに付いて、見よう見まねで踊り始める。

ローフィスが叫ぶ。
「間違っても、気にするな!」

リーラスも腕を振り上げながら、怒鳴る。
「おぅよ!
俺らより、もっと格好いい振り付けで踊ってみろ!」

けれどハッスルした二年の子の踊りが。
凄く、変で。
みな、一斉に笑うけど、笑われた当人はお構いなし。

ノリノリで奇妙に手足を動かし、それがおかしくて、みんな笑いこける。

シェイルは横にローランデやヤッケル、フィンスがやって来て、誘うのを見る。
ディングレーに振り向くと、腕組みしたディングレーは
「踊ってこい」
と男らしく許可を出した。

シェイルはローランデやフィンス、ヤッケルらと一緒に、踊る皆の中へ進むと、楽しそうに飛び跳ねる。

ディングレーは踊りの輪の外に、ローフィスがいるのを見つけ、近寄った。
「踊りの名手のくせに、見学か?」
ローフィスは視線を、踊る皆に向けたまま、言葉を返す。
「冷静なヤツが、一人は居ないと」

ディングレーは、ローフィスの顔を見る。
シェイルは本当に楽しそうに、銀の髪を散らし、おどけたヤッケル。
少しぎこちないフィンス。
流れるような動作のローランデと、笑いながらしなやかに跳ね回る。

笑顔が笑顔を呼び、みんな笑って楽しそうに踊りまくってた。

「…俺が見てるから。
お前は、踊って良いんだぞ?」

ローフィスにそう言われ、ディングレーは兄貴のようなローフィスの横で、ぼそり。
と呟く。
「冷静なヤツが、もう一人ぐらいいた方が、良くないか?」
「踊るのが、恥ずかしいとか?」
「ほっとしてるあんたの側に居るの、久しぶりだし」

ローフィスは、思わず顔を下げた。
「俺、そんなに別人格だった?」
ディングレーは無言で頷く。
「で。
落ち着きそうか?」

ローフィスは聞かれて、笑った。
「シェイルも、笑ってるしな」

ディングレーはローフィスが、元の冷静で頼りになる兄貴に戻って、心から嬉しそうに、ローフィスに笑いかけた。

教会の鐘の音が六点鐘を鳴らすのを聞くと、ローフィスが怒鳴る。
「お開きだ!
騎乗しろ!」

踊ってた皆が、気づいて一人、また一人と、直ぐ近くの馬を繋いだ広場へ、歩き出す。
監督生らはグループ生を確認しながら、最後尾を歩く。

シェイルはまた、ディングレーに手を引かれ、連行されてる気分で、ぼやく。
「僕、囚人みたい」
ディングレーはオーガスタスに代わってグループ生の顔を確認するのに忙しく
「かもな」
と適当に返事した。

全員が騎乗し、オーガスタスに代わるボスの役割のリーラスの様子を、皆伺う。

リーラスは、じっ…と、祭り広場の方向を見つめる。

だから全員が、視線を送る。

ディングレーはローフィスもが。
リーラス同様、誰かを待つように、祭り広場を伺ってるのに気づいた。

一人が、ぼそり…と言った。

「オーガスタスは?」

他の一人も呟く。
「オーガスタスが、まだだ」

リーラスはまだ、誰かやって来ないか、見つめていたけど。
その後、ローフィスを見る。
ローフィスが頷くと、リーラスは手を上げ、怒鳴った。
「帰るぞ!」

けど一人が異論を唱える。
「オーガスタスを、待たないんですか?」
「そうだ!
待たないと!」
「さっきの…あのごろつきに、また襲われたら…」
「うん…。
心配だよな」

他の監督生が、それを聞いてぼやく。
「誰が?
相手のゴロツキがか?
俺はそれより、万一闇討ちとかされて、オーガスタスが殺さないか心配だ」
「だよな。
そっちだよな」

リーラスが、一二年に怒鳴る。
「手練れの暗殺団とかに囲まれない限り。
オーガスタスの心配はするな!
そんな、ヤワな男じゃないから」

ローフィスが、とうとう仲間の説得のマズさに、吐息吐いて声を張り上げる。

「他の三年らがまだ、祭りに残ってるから、大丈夫だ!
行くぞ!!!」

リーラスが、頷いて馬の首を『教練キャゼ』に向ける。
少しずつ…皆が馬を駆けさせ始める。

けれど誰もが。
皆、後ろを振り返り…オーガスタスが駆け込んで来ないか。
気にしていつまでもチラチラと、背後に振り向いた。
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