若き騎士達の危険な日常

あーす。

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祭りを阻害する者達

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 けれどその時。
人混みの中、人相の悪い一団が雪崩れ込んで来る。

そして食べ物を持ってた一年の子の手から、皿を強引に取り上げる。

「それ…!
僕…の!」
「ナニか文句、あるか?!」

凄まれて、その子は顔を下げる。

別の一人は、フィンスに群がる女の子達を乱暴に押し退け、止めようとしたフィンスの胸に手を当て、思いっきり突き飛ばして怒鳴った。

「いい気になるな!」

ローフィスがオーガスタスの腕を引き、オーガスタスは振り向いてフィンスがヨロめく姿を見る。

人混みを掻き分け、オーガスタスはごろつき達の目前に、立ち塞がった。

その騒ぎを目にした一・二年達は、迫力のオーガスタスの、頼もしい姿を見つめる。

ごろつきの一人が、シェイルの美貌に目を付け、寄って来る姿を目にしたローフィスは。
直ぐ飛んで来て、シェイルの横に付く。

ディングレーは護りに入るローフィスを見た。
けれどシェイルは。
横に付いてくれるローフィスの姿が嬉しくって、はしゃいでローフィスの腕に、腕を絡ませる。
「僕、危険結構好きかも」

ディングレーも。
ローフィスにも。
目を見開かれた後、睨まれたけど。

シェイルはにこにこ笑うのを、止められなかった。

誰よりも長身の、迫力あるオーガスタスの体躯を見、ごろつきらは一瞬、躊躇う。
が、散り始めていた全員が集まり、オーガスタスの前に徒党を組むと、睨み合う。

「いくらデカくても。
そっちは、一人だろう?!」
「こっちは10人以上いるぞ!」

にやにや笑うガラの悪い男らを、みんな息を飲んで見た。

リーラスが、かなり離れた場所から叫ぶ。
「一人じゃ無いぞ!」

別の場所からも
「俺が駆けつけるまで、待て!」
「てめぇら!
舐めんなよ!」

頼もしい加勢の声が、あちこちから飛ぶ。

が、オーガスタスは、手で制し叫ぶ。

「加勢は必要無い!
俺一人で、十分だ!」
「…てめぇ!ふざけやがって!」

面構えのいい男が、拳握ってオーガスタスに突進して行く。
直ぐ、横の男も
「うおおおっ!」
と叫んで、突っ込む。
背後の男達も、突っ込み始める。

オーガスタスは最初の男を、拳振りきって沈め、次の男を蹴り飛ばし、腰に抱きつこうとした男を避け様背の衣服を握り、その他向かって来るごろつき集団に向かって、ぶん投げた。

どんっ!
「ぅがっ!」

突っ込もうとしたごろつきらは、飛んで来た仲間を抱き止め、後ろに倒れかけて、歩を止める。

そこで、オーガスタスは吠えた。

「まだ、やるか?!!!!」

凄まじい咆吼で、その迫力にようやく、ごろつきらは目を見開き、殴られて歯の飛んだ仲間。
そして蹴られて起き上がらない仲間を、黙して見た。

オーガスタスは、動きを止めるごろつきらに向かって行くと、端の一人の、ごろつきの手から皿を取り上げ
「『教練キャゼ』の生徒に手出ししやがったら!
いつでも俺が相手になるから、そう思え!!!」

凄まじい声で怒鳴り、取り上げた皿を、一年の生徒の方へと差し出す。

取られた子はおずおずと進み出て、オーガスタスの手から、皿を受け取った。

「行け!
ここの女性らに、迷惑かけるんじゃない!」

手を思いっきり振り払われ、促され…。
ごろつき達は怪我人を担ぐと、無言で背を向け始める。

女性ばかりの売り子達は、一斉に歓声を上げた。

「もう来るんじゃないよ!」
「ここの女達は、あんたらの相手は絶対しやしないからね!!!」
「売り物も勝手に、持って行かせやしないから!!!」

けれどその時。
一人の…頑健な体格の、髭にも髪にも白髪混じりの、酔っ払いが進み出る。

「…ちっ!
正義の英雄気取りか!
デカい体とデカい声だけで。
俺様まで、追い払えると思うなよ!!!」

場は一気に、しん…。
と静まりかえる。

「どうした!
俺みたいなのは、殴れないか!
だが俺は、お前なんて怖く無いぞ。、
ホラ、殴ってみろよ!
俺が貴様なんて、殴り倒してやる!」

けれど…少年が必死に、老人の横に付いて、腕を引く。
「やめろよ!
酔ってるんだよ!
突っかかるなよ!」

少年は必死なのに。
老人はとてもガタイが良くて…。
少年は引きずられても、まだ必死に止めようと、していた。

オーガスタスは自分に詰め寄る、老人を見る。
両腕、下げたまま。

老人は狂犬のような青い目を向け、長身のオーガスタスを見上げ、まだ挑発する。
「拳を上げろ!
俺と…どっちかが倒れるまで、殴り合いだ!」

そう怒鳴って、両拳持ち上げ、構える。

オーガスタスは、斜め後ろで泣きそうな少年を、見た。

そして言う。
「酒を抜け。
正気に戻ってもまだ、俺とやりたいなら。
その時、相手になる」

「ふざけんな!
おれぁ、酔ってなんかいないぞ!」

けれど構えた拳は小刻みに震い、足元もフラついて見える。

オーガスタスは静かな、けれど響く声で怒鳴った。

「何が辛くて、酒に溺れる!」

老人は、怒鳴られて目を見開く。
「てめ…てめぇなんかに、俺の辛さが分かるか!
俺はな…おーれーーーは!
大事な大事な、一人息子を亡くしたんだ!
女房が死んで…息子しかいない。
そのたっ…た一人の息子を…亡くしたんだ!
だからな。
どれだけ飲んだって、文句言うヤツはいないんだ!」

オーガスタスは背後の、少年を見て聞く。

「その子は?
心配してる」

が、老人は呻いた。
「…さぁな…。
どっかから来た…近所の親無し子だ…。
ちゃんと、面倒見てくれる家で養われてる…。
俺とは、無関係だ」

けれどオーガスタスに見つめられ、少年は叫んだ。
「剣を…剣を教えてくれるって、言った!
俺だっていつか、『教練キャゼ』に入りたい!
そしたら剣を教えてくれるって!
そう言ったじゃ無いか!!!」
「ぅるせぇ!!!
剣なんて覚えたってな!
死ぬだけだ!
俺の…息子みたいにな…」

そこでとうとう、酔っ払いの老人は泣き出し…祭りの皆は、付き合いきれないと、見物を止めて散って行く。

けれどオーガスタスは、老人に囁いた。
「俺は餓鬼の頃、両親を亡くした」

老人は、驚いて顔を上げる。

「あんたの気持ちは…分かる。
自暴自棄になるのも、分かる。
だが、望む人間が居る限り…あんたは価値のない人間じゃない」

老人は、泣きながら怒鳴った。
「ふざけんな!
息子は…息子はな!
俺より、いい人間だった!
俺なんかより、数倍いいヤツだったんだ!
そんな…ヤツが死んで、俺が生き残ってる…。
なんでだ?!
なあ、なんでだ!!!」

オーガスタスは老人に、しがみつかれてその背に手を添える。
「…あんたにはこの世でまだ、やる事があるからだろう?」

老人は背後の…剣を習いたいと、叫んだ少年を見た。
「あいつを…息子みたいに死なせるのか?
ダメだ!!!
それだけは…ダメだ!!!
息子にだって俺は剣を教え……あいつは覚えが早くて…。
俺…が褒めると…嬉しそうに…笑って…。
…けど俺が剣を教えたせいで、あいつは死んだ!
誰とも分からない素性の女を、暴漢から庇って!
斬り殺された!
俺が剣なんて…剣なんて教えて!
お前は筋が良いと…褒めたせい…で…死なせ…ちまったんだ!!!」

シェイルは…横のローフィスが、じっとオーガスタスを見続けている、その横顔を見た。

親友を見つめるローフィスの瞳は…他がみんな、祭りの楽しみに戻っても、見守るようにオーガスタスに注がれ続けていた。

オーガスタスが、囁く。
「じゃ…今度は死なないよう、しっかり鍛えてやれ」

老人は…それを聞いて肩を震わせ…オーガスタスの腹に顔を埋め、しがみついて泣いた。

シェイルはローフィスが、絡ませた腕を外し、オーガスタスに寄っていくのを見た。

ローフィスは懐から、油紙で包んだ…薬を差し出す。
オーガスタスは受け取り、油紙を持ち上げ、笑った。

ローフィスは頷くと、後は任せとけ。
と言うように、リーラスらに寄って行く。

「自分のグループの奴らに、目を配っとけ」

そしてディングレーに振り向く。

ディングレーは、ため息交じりに頷いた。
「シェイルの他にも、目を配っとく」

ローフィスは、しっかり頷く。

シェイルはローフィスを見た。
あちこちに散らばる、仲間を見、困ってる下級生の元へ、駆けつける…。

そして、背後のオーガスタスも、見た。
しがみついて泣く老人を…。
オーガスタスは優しいとび色の瞳で包み込み、泣き伏す老人に…付き合ってた。

そして…酒を抜く、薬だろう…。
ローフィスから受け取った油紙の包みを、背後の少年に差し出していた。

ディングレーが気づいて、シェイルに囁く。
「ごろつきは…容赦無く、殴るのにな」

シェイルはその言葉に、頷く。

殆どの者が、祭りの喧噪に戻って行くのに。
教練キャゼ』の生徒らだけは。

大きなオーガスタスが、酔っ払いの老人の背を、優しくさする姿を、見続けていた。

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