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祭りの狂瀾
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ローランデはリーラスが、ローズベルタのような問題児に二年大貴族を組ませるのを見て、ほっとした。
けれど…。
「…悪いな。あいつ、すっごく面倒くさいけど」
二年の、やたら愚痴っぽい、悪態つきまくりのガースを任され、ため息吐く。
ガースはジロジロとローランデを見る。
栗毛で背もそれなりに高い。
んだけど、顔はにきびだらけ。
そのせいか、コンプレックスが強いらしい。
見られて、ローランデは思わず顔を下げる。
「(虐められまいと…虚勢張ってるんだと思うんだけど…)」
なぜならグループの二年に
「お前みたいな凸凹顔に、売り子が付くか!」
「無理だろうな!」
「女に見向きもされない!」
と、からかわれてたから。
ガースは勿論、言い返しまくってたけど。
でも凄く不機嫌で、ローランデは困った。
「お前さ、学年筆頭とかで剣も凄いかもしんないけど。
俺のが先輩だから。
分かってる?その辺のとこ」
他の一年達は、ローランデを気の毒そうに見る。
一人に寄って来られて、こそっと小声で
「俺、代わってもいいけど…」
と言われ、ローランデは微笑んだ。
「大丈夫だから」
そう、言ったものの…。
屋台に近づくと、ガースはローランデの背を、どん。
と押して言う。
「お前が、食い物調達して来い!」
ローランデは戸惑い…けれど、屋台に向けて
「私も…その、お金が…」
そう言いかけると、売り子の女性達が一斉に振り向き、ぞろぞろ出てくる。
そして、凄く上品なローランデを取り囲み
「いかにもお金持ちに見えるわ?」
「似合わないんじゃ無い?」
「お金、無いなんて嘘でしょ?」
と、ニヤニヤ笑って言われる。
ローランデは困った様に俯くと、小さな声で囁く。
「…その…宿舎に戻れば…あるんだけど、今の持ち合わせが…」
「ナイのよね?
どう?
肉の煮込みよ!
一皿タダにするから!」
黒髪を後ろで束ね、質素な花柄のドレスを着た豊満な胸の、とても威勢の良い女性が他を押し退けやって来て、皿を見せ、顔を傾け、頬を差し出す。
「あの…」
ローランデが戸惑ってると
「ここに、キス!
唇でもいい?」
と聞く。
「頬に…キスすればいいんですか?」
ローランデはほっとしたようにそう言うと、売り子の女性の頬に、キスする。
女性はにっこり笑うと、皿を差し出した。
「ありがと!
あんたみたいな上品な貴公子にキスされる機会なんて、この先一生無さそうだから。
いい思い出になったわ!」
そう言って、屋台へ戻って行く。
ローランデは思わず、手渡された皿の中の、いい匂いの肉の煮込みを見つめた。
すると取り巻いてた女性らが、みんな慌てて屋台に戻り、それぞれ売り物を手に、叫ぶ。
「あたし!唇!」
「ダンス一曲でどう?!」
「私は頬にキスでもいいから!」
その後、ローランデはもみくちゃにされ、シェイルはドレス姿で呆然とその騒ぎを見、ディングレーも横に来ると
「あいつ、ヤるな…」
と呟いた。
近くにいる、先に来てた三年達も呻く。
「くっそ!」
「俺、頬にキスで食い物貰ったこと無いぞ?!」
ローランデは女性らから、幾つか皿を受け取り、ようやくガースの元に戻る。
ガースはずらりと並ぶ、皿を無言で見た後。
ローランデを、睨み付けた。
ローランデは睨まれて、囁く。
「良ければ…良い薬があります。
私も、肌が弱くて…」
ガースはそれを聞いて、最初はムッ!と怒った。
が、囁く。
「…それ…このニキビが引っ込む薬か?」
ローランデが、頷く。
「一通り、肌に効く薬草を取り揃えてありますから。
どれかは、効くんじゃ無いかと思うんです。
宿舎に来て頂ければ、試して頂けますから」
ガースは、年上だから。
と威張ってたけど、学年筆頭の、更にシェンダー・ラーデン大公子息に丁寧語で言われ…。
悪態付きそびれ、頷いた。
「効く、保証は無いんだな?」
「体質もありますから、暫く飲み続けなければ、改善されない場合もありますけど…」
ガースは頷き、ローランデがせしめた料理を、皿から取って食べ始めた。
「何してる。
お前も、食え!」
言われてローランデは、にっこり笑って横で食べ始めた。
フィンスとヤッケルは、それぞれ違う相手と組まされたけど。
みんなローランデの様子を近くで見て、無言。
ヤッケルだけが。
「ローランデって、人間デキてるな…」
と呟いた。
フィンスが気づいて、ヤッケルに囁く。
「君なら、喧嘩になってた?」
ヤッケルは頷く。
「あいつに、言い負けない自信がある!」
けれど側でまた、騒ぎが起こってた。
二年大貴族、長身で美男のデルアンダーを、若くて美人の三人の売り子達が、取り合いしてる。
「当然!
りんごの煮物がいいわよね?
ハチミツがけだから、凄く甘くて美味しいのよ?!」
「桃の果実酒がいいに、決まってるわ!」
「鳥のクリーム煮は、食べるとほっぺか落ちるわよ?!」
ディングレーとシェイルはやっと売り子から解放され、アップルパイを手に、うろついてた時、それを見た。
三人がデルアンダーに詰め寄り、デルアンダーの手に競って皿を押しつけようとし、ダンスをねだり。
デルアンダーは凄く、困ってた。
その向こうでは、テスアッソンも二人の売り子に迫られていて、とうとうフィンスの元にも。
かしましい少女の売り子達に詰め寄られ、食べ物と引き換えに、ダンスをねだられ、困惑しきっていた。
そしてディングレーの腕を引く、売り子の女性までも。
「肉と野菜の炒め物でどう?!」
詰め寄られて、ディングレーは思わず引き気味に尋ねる。
「ど…どう?!」
「ダンスよ!
一曲でいいわ!」
「どいて。
あたしもずっと、狙ってたんだから!」
シェイルの前にも
「ドレス、脱いじゃったの?」
「男姿も素敵だ。ぜひ一曲」
と、青年が殺到する。
それを見たディングレーは女性らに背を向け、青年達の前に立ち塞がると、怒鳴る。
「俺の前で口説くな!
売約済みだ!」
凄い迫力で怒鳴り、寄って来た青年達や売り子の女性らを、がっかりさせた。
けれど…。
「…悪いな。あいつ、すっごく面倒くさいけど」
二年の、やたら愚痴っぽい、悪態つきまくりのガースを任され、ため息吐く。
ガースはジロジロとローランデを見る。
栗毛で背もそれなりに高い。
んだけど、顔はにきびだらけ。
そのせいか、コンプレックスが強いらしい。
見られて、ローランデは思わず顔を下げる。
「(虐められまいと…虚勢張ってるんだと思うんだけど…)」
なぜならグループの二年に
「お前みたいな凸凹顔に、売り子が付くか!」
「無理だろうな!」
「女に見向きもされない!」
と、からかわれてたから。
ガースは勿論、言い返しまくってたけど。
でも凄く不機嫌で、ローランデは困った。
「お前さ、学年筆頭とかで剣も凄いかもしんないけど。
俺のが先輩だから。
分かってる?その辺のとこ」
他の一年達は、ローランデを気の毒そうに見る。
一人に寄って来られて、こそっと小声で
「俺、代わってもいいけど…」
と言われ、ローランデは微笑んだ。
「大丈夫だから」
そう、言ったものの…。
屋台に近づくと、ガースはローランデの背を、どん。
と押して言う。
「お前が、食い物調達して来い!」
ローランデは戸惑い…けれど、屋台に向けて
「私も…その、お金が…」
そう言いかけると、売り子の女性達が一斉に振り向き、ぞろぞろ出てくる。
そして、凄く上品なローランデを取り囲み
「いかにもお金持ちに見えるわ?」
「似合わないんじゃ無い?」
「お金、無いなんて嘘でしょ?」
と、ニヤニヤ笑って言われる。
ローランデは困った様に俯くと、小さな声で囁く。
「…その…宿舎に戻れば…あるんだけど、今の持ち合わせが…」
「ナイのよね?
どう?
肉の煮込みよ!
一皿タダにするから!」
黒髪を後ろで束ね、質素な花柄のドレスを着た豊満な胸の、とても威勢の良い女性が他を押し退けやって来て、皿を見せ、顔を傾け、頬を差し出す。
「あの…」
ローランデが戸惑ってると
「ここに、キス!
唇でもいい?」
と聞く。
「頬に…キスすればいいんですか?」
ローランデはほっとしたようにそう言うと、売り子の女性の頬に、キスする。
女性はにっこり笑うと、皿を差し出した。
「ありがと!
あんたみたいな上品な貴公子にキスされる機会なんて、この先一生無さそうだから。
いい思い出になったわ!」
そう言って、屋台へ戻って行く。
ローランデは思わず、手渡された皿の中の、いい匂いの肉の煮込みを見つめた。
すると取り巻いてた女性らが、みんな慌てて屋台に戻り、それぞれ売り物を手に、叫ぶ。
「あたし!唇!」
「ダンス一曲でどう?!」
「私は頬にキスでもいいから!」
その後、ローランデはもみくちゃにされ、シェイルはドレス姿で呆然とその騒ぎを見、ディングレーも横に来ると
「あいつ、ヤるな…」
と呟いた。
近くにいる、先に来てた三年達も呻く。
「くっそ!」
「俺、頬にキスで食い物貰ったこと無いぞ?!」
ローランデは女性らから、幾つか皿を受け取り、ようやくガースの元に戻る。
ガースはずらりと並ぶ、皿を無言で見た後。
ローランデを、睨み付けた。
ローランデは睨まれて、囁く。
「良ければ…良い薬があります。
私も、肌が弱くて…」
ガースはそれを聞いて、最初はムッ!と怒った。
が、囁く。
「…それ…このニキビが引っ込む薬か?」
ローランデが、頷く。
「一通り、肌に効く薬草を取り揃えてありますから。
どれかは、効くんじゃ無いかと思うんです。
宿舎に来て頂ければ、試して頂けますから」
ガースは、年上だから。
と威張ってたけど、学年筆頭の、更にシェンダー・ラーデン大公子息に丁寧語で言われ…。
悪態付きそびれ、頷いた。
「効く、保証は無いんだな?」
「体質もありますから、暫く飲み続けなければ、改善されない場合もありますけど…」
ガースは頷き、ローランデがせしめた料理を、皿から取って食べ始めた。
「何してる。
お前も、食え!」
言われてローランデは、にっこり笑って横で食べ始めた。
フィンスとヤッケルは、それぞれ違う相手と組まされたけど。
みんなローランデの様子を近くで見て、無言。
ヤッケルだけが。
「ローランデって、人間デキてるな…」
と呟いた。
フィンスが気づいて、ヤッケルに囁く。
「君なら、喧嘩になってた?」
ヤッケルは頷く。
「あいつに、言い負けない自信がある!」
けれど側でまた、騒ぎが起こってた。
二年大貴族、長身で美男のデルアンダーを、若くて美人の三人の売り子達が、取り合いしてる。
「当然!
りんごの煮物がいいわよね?
ハチミツがけだから、凄く甘くて美味しいのよ?!」
「桃の果実酒がいいに、決まってるわ!」
「鳥のクリーム煮は、食べるとほっぺか落ちるわよ?!」
ディングレーとシェイルはやっと売り子から解放され、アップルパイを手に、うろついてた時、それを見た。
三人がデルアンダーに詰め寄り、デルアンダーの手に競って皿を押しつけようとし、ダンスをねだり。
デルアンダーは凄く、困ってた。
その向こうでは、テスアッソンも二人の売り子に迫られていて、とうとうフィンスの元にも。
かしましい少女の売り子達に詰め寄られ、食べ物と引き換えに、ダンスをねだられ、困惑しきっていた。
そしてディングレーの腕を引く、売り子の女性までも。
「肉と野菜の炒め物でどう?!」
詰め寄られて、ディングレーは思わず引き気味に尋ねる。
「ど…どう?!」
「ダンスよ!
一曲でいいわ!」
「どいて。
あたしもずっと、狙ってたんだから!」
シェイルの前にも
「ドレス、脱いじゃったの?」
「男姿も素敵だ。ぜひ一曲」
と、青年が殺到する。
それを見たディングレーは女性らに背を向け、青年達の前に立ち塞がると、怒鳴る。
「俺の前で口説くな!
売約済みだ!」
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