若き騎士達の危険な日常

あーす。

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アッシャーの祭り

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  シェイルは午後の授業の間も、補習が待ち遠しくて仕方無い。
だって、探せばローフィスの姿が見つけられて、グループにはディングレーがいる。

嫌な目付きをする二年、三年らから、オーガスタスがいつも睨みを利かせて守ってくれる。

だから思いっきり、剣を振ったり。
馬を飛ばして楽しめた。

待ちに待った補習だったけど。
その日オーガスタス始め三年監督生らは皆遅れて、まだ姿を見せない。

乗馬だったから、みんなどうすればいいのか困ってたけど。
ディングレーが叫ぶ。

「全員、騎乗しろ!」

その声で、各グループに散っていた二年大貴族らが、次々に叫ぶ。
「騎乗だ!」
「従え!」

一年達は、二年大貴族らの迫力に押されて、慌てて馬に乗る。

全員が騎乗した後、ディングレーが吠える。

「三年監督生らと、町の手前の“アッシュの大木”の下で待ち合わせてる!
各自グループの者が付いて来てるか確かめ、遅れた者には誰かが付いて、指導するように!」

皆が頷く中、ディングレーは叫んだ。

「進め!」

二年大貴族らが、各グループの面倒を見る形で、一年大貴族らも二年大貴族らを手伝いながら、最後尾で遅れる者を見張っていた。

シェイルは直ぐ、ディングレーに追随する、貫禄の二年大貴族ら。
そして自然なことのように、最後尾を受け持つ一年大貴族らを見回し、感心した。

ローランデも、フィンスも。
最後尾で遅れる同級生らに寄り添い、走ってる。

見回していて、少し遅れると。
先頭のディングレーが、きっ!と振り向くから。
シェイルはディングレーの斜め後ろに、慌てて馬を進めた。

監督生がいないせいか。
なんかいつもより、ドキドキしたけど…。
三年監督生らが待つという、アッシュの大木。
は、直ぐ見えて来た。

大木は小高い丘の上。
けれど丘を登り切る前に。
三年監督生らは馬で、駆け降りて来る。

各自が自分のグループに合流すると、直ぐ丘の下の道へと走り出す。

ディングレーはオーガスタスの大きな馬が、横に駆け込むのを見る。

赤い髪を散らすオーガスタスの騎乗ぶりは、迫力そのもの。
馬の首を街道へと向け、拍車をかける。

併走するオーガスタスに、ディングレーが怒鳴った。
「どこへ、行くんだ?!」
オーガスタスは、快活に笑う。
「今日は街で、祭りがある!」

ディングレーは目を見開く。
「…だから?!」
「三年は皆、乗馬の授業後、祭りに出る許可を貰った!」

ディングレーは暫く沈黙した後、怒鳴った。
「自分達もその祭りに出たいから!
補習生も連れて行く気か?!」
「ご名答!」

リーラスが
「“アッシャーの祭り”だ!」
とグループの先頭で叫ぶ。

他の監督生らも一斉に
「“アッシャーの祭り“だぞ!」
「二年は一年の面倒見ろよ!」
「祭りではぐれるな!」
そう口々に叫んでる。

ローランデとフィンスは、ほぼ並んでグループの最後尾にいたけど。
監督生の浮かれ具合に、顔を見合わせあった。

オーガスタスは、斜め後ろに続くディングレーに叫ぶ。
「ディングレー!
何が何でもシェイルの側を、離れるな!」
「くそ!」

ディングレーは一声吠えて、シェイルに振り向く。
シェイルは黒髪散らすディングレーの青い瞳が、凄い迫力で。
黙して頷くしか無かった。

けれど斜め後ろにグループを率いる、ローフィスの姿も見える。
ローフィスの斜め後ろに、ヤッケルがぴったり、馬を付けてる姿が見えて、羨ましげにヤッケルを見た。

ローフィスは気づき、前を向け!
とシェイルに顔を振って合図し、シェイルが前を見ると…ディングレーとオーガスタスはかっ飛んでいて。
うんと前にいて置いて行かれそうになり、シェイルは慌てて拍車をかけて、馬を飛ばした。

間もなく、町が見えて来る。

手前でオーガスタスが手を上げ、馬を止めるので、後ろに続く全員が、馬を止めた。

オーガスタスが、叫ぶ。
「この祭りのいいとこは!
飲み食いするのに、金が要らないことだ!
売り子の気に入れば、タダで食わせてくれる!」

その声に、三年監督生らが一斉に、吠える。

おおおおおっ!

シェイルはローフィスまで…吠えてるから、つい振り返ってチラ見した。

リーラスも、吠える。
「しかも売り子は、全員女性だ!」

今度は二年らまで、一斉に吠えた。

おおおおおおおおおおおおおおっ!


「行くぞ!
一食も食べさせて貰えない、無様ぶざまさらすな!」

オーガスタスの号令で、一斉に馬は駆け出した。

シェイルが戸惑ってると。
ディングレーは馬の向きを変えて横に付くと、シェイルの馬のくつわを掴み、馬を促す。

シェイルは慌てて拍車をかけ、ディングレーと並んで町へと、乗り入れた。

手前の広場で、全員馬を繋ぐ。
繋ぐ場所に馬用の水桶もちゃんと用意されていたから、皆安心して馬を下りた。

監督生は、グループの者を二人一組で指定し、相手とはぐれないよう、厳重注意をしていた。

オーガスタスはディングレーを見る。
ディングレーはもう分かってる。
と、シェイルの横に立った。

シェイルはディングレーに手を引かれ、皆と祭りの広場へ歩くけど…次第に人混みに紛れ込み、他の『教練キャゼ』の生徒らも、どんどん人混みに飲まれていった。

とても広い広場の両横に、ずらりと屋台が並んでいて、確かにどの屋台の売り子も女性。

まるで手本を示すとばかり、リーラスが真っ先に一番手前の屋台の前で
「俺は金が無い!」
と叫ぶ。

すると売り子が数人、屋台から食べ物を持って、出て来た。

「ドーナッツ三個!」
一人の女性が叫ぶと、別の女性が。
「串焼き二本でどう?!」
「私は葡萄のタルトよ?!」

リーラスは
「串焼き頂き!」
と叫び、その後串焼きの屋台の女性に手を引かれ、屋台の後ろへ入って行き、食材の入った重い木箱を運ばされていた。

オーガスタスはディングレーに振り向く。
「お前、行け。
シェイルとセットで」

ディングレーは目を、見開く。
が、シェイルの手を握って叫ぶ。
「俺とコイツも、金が無い!」

すると。
売り子達は目を見開く。

「二人なの?!」
「ヤだ、若いのに凄くいい男…!」
「可愛い…ドレス着て、売り子させたいわ?!」

シェイルはディングレーと一緒に女性に取り巻かれ、困惑してディングレーに身を寄せ、囁く。
「なんか…勝手に遊ばれそう?!」
ディングレーは焼け糞で言葉を返す。
「かもな!」

けれど売り子の女性達が一斉に、上に高く上げる各屋台の食べ物を見て、シェイルに尋ねる。
「どれにする?」
「…アップルパイ!」

シェイルに叫ばれて、掲げてる売り子を見る。
背の低いおばあさんで、ディングレーは思わず、顔を下げた。

シェイルはおばあさんなら、無体な命令はしない。
そう、思った。
が、甘かった。

ドレスを渡され
「それ着て、パイを売っておくれ」
と言われ、ディングレーに
「呼び子を頼もうかねぇ…」
と言う。

結局、シェイルはかなりサイズの大きなドレスを、今着てる衣服の上から被り、売り子をさせられ。
ディングレーは屋台の横で
「アップルパイが、最高に美味いぞ!」
と叫ばされた。

けれどディングレーの格好良さに、少女達が押しかけ、シェイルの美しさに青年らが殺到し、横の椅子に座るおばあさんは
「これだから、祭りは止められないねぇ」
と、にこにこ笑った。

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