若き騎士達の危険な日常

あーす。

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憧れの人

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 シェイルが足の速いヤッケルの後を、小走りで付いて行き、先に着いたヤッケルにトレーを手渡され、列に並ぶ。

人気の料理テーブルの前は、いつも行列が出来て待たなくてはならなかった。
が、直ぐに数人が、既にトレーの皿に料理を乗せ、列に並ぶヤッケルに声かける。

「よっ!」
「今日の剣の講義、二年と合同だって!」
「二年は補習で一緒に成るから、四年としたいよな」
「ディアヴォロスの剣振る姿、もっと間近で見たい」

声かけてきた子達は、そこで一斉に頷き…ヤッケルの背後に顔を俯けたシェイルが目に入り、突然、黙り込む。

シェイルはまた“ディアヴォロス”の名で思い出したのか。
頬が真っ赤で、ヤッケルの仲間達が無言で凝視する。

シェイルは喋り声が止んで
『なんで?』
と顔を上げたら、みんなに目を見開いて見つめられ、思わず見つめ返す。

一人が、こほん。
と咳払って告げる。
「また、後でな!」
他も、ヤッケルに手上げて「じゃな!」と言い、背を向ける。

その後、こっそり
「ディアヴォロスが“愛の誓い”した相手が同級生って…」
「なんかすっごく、気恥ずかしいよな…」

そうして、全員がこっそりシェイルに振り向くんだけど。
シェイルはまだ彼らを見ていたから。
全員慌てて、何でも無いフリをして、去って行った。

シェイルがヤッケルを見る。
ヤッケルは肩竦めた。
「だから、自重しろって。
お前、ディアヴォロスの名が出るたんびに真っ赤に成ってたら」
そこで、うんと声を潜めて言う。
「夕べ、シました。
って告白してるも同然だぜ?」

シェイルはヤッケルを見た後。
そうか。
と顔を下げた。


 一時限目は乗馬で、フィンスやローランデと一緒に馬を駆けさせる。
ヤッケルはフィンスとローランデが居ると、シェイルの側から離れて、他の子達と雑談しながら馬を走らせてた。

ローランデはヤッケルと違って、彼の部屋からディアヴォロスに連れられて出て行ったというのに。
その後の事は、口にも出さない。

しなやかな手綱捌きの騎乗姿は、見とれるほど高貴で美しくて。
シェイルはローランデと一緒に馬で駆けてる間、ずっと微笑みをローランデに向けた。

フィンスは男らしくて格好良くて、騎士然としてるのに。
話し始めると、とても優しい。

けれどどうしても乗馬に不慣れな同級生はいるもので、他の子に
「置いてかれるぞ!」
だとか
「そんな手綱捌きだと、馬は言うこと聞かず好き勝手な方へ、行っちまうぞ!」
だとか声をかけてた。

その都度、補習で一緒のグループになった大貴族の子が、側について面倒見てる。

フィンスも、側から離れると、あさっての方向へ駆け出したグループの子を連れ戻すため、駆けて行く。

ローランデは横のシェイルに微笑む。
「私のグループの子は、乗馬は出来るけど、剣が凄く苦手な子が割といる」
シェイルは微笑まれて、頷いた。
「ローランデが教えたら、直ぐ上達するよ!」

ローランデは、とても綺麗で可愛らしいシェイルにそう褒められると。
本当に嬉しそうに、微笑み返した。

授業後の補習が始まってから、一学年生徒らの雰囲気は、確実に変わった。

二年。
そして監督生の三年らに刺激され、彼らとグループで、一緒に剣や乗馬をするから。

二限目、三限目の歴史や読み書きの講義の後。
昼食の大食堂に向かう道すがら、あちこちに噂話が花開く。

「リーラスってローランデに任せっきりだって?」
「気の良い兄貴風だけど、ガラ悪くて。
女の口説き方とかの、講義始めて。
剣の使い方は、ローランデが全部面倒見てる」
「…その方が、上達したりして」
「女の口説き方も、分かるしな!」

シェイルはそれを聞いて、横のローランデを見る。
「あれ、ホント?」
ローランデは少し、頬染めて頷く。
「私もリーラスの話を聞いていたいけど。
そういう訳にもいかなくて」
「(…そっち?)
でもリーラスが、監督生だよね?」
「彼、グループを束ねる役目だから。
みんなが仲良くなるようにしてる」
「…それで…ローランデが剣、教えるの?」
「言うこと聞かないやんちゃな子とかを、『殴るぞ』とか脅して、ちゃんと言う事聞かせてるし。
リーダーの役割は、してると思う。
私が剣を教えても『出過ぎたマネはするな』
みたいな注意はしないし。
むしろ『ローランデの言う事は、ちゃんと聞いとけ!』
そう言って、ウィンクしてくれる」

シェイルはローランデを、つい尊敬の眼差しで見た。
「…不満、無いんだ」
ローランデはシェイルを見て、笑う。
「君の所はオーガスタスとディングレーだよね?
二人がいれば、やんちゃな子も、凄く大人しいんじゃ無い?」

シェイルは無言で、頷いた。

そう言えば、小柄でひ弱そうな自分に、突っかかる子も、からかう子もいない…。

「僕、恵まれてる?」
ろそう聞くと、ローランデは困った様に首を傾げた。
「でもその前に。
嫌な目に、いっぱい合ってる」

シェイルは顔を下げた。
「…そうか」
「うんでも…君、その事で愚痴ったり。
やたら怒ったり被害者ぶったりも、しない」

シェイルは顔を上げて、ローランデを見る。
ローランデは柔らかな声音で、けど力のある口調で。
優しく言い切った。
「とても素直で性格もいいから。
みんな君の力になりたいんだと思う」

シェイルはもっと、ローランデを見た。

でも誰かが困った時、ローランデは直ぐ手を差し伸べる。
当然の事みたいに。
「(…そっちの方が凄いと思うのに…。
ローランデ、身分高いのに、凄く謙虚けんきょ…)」

姿が美しいだけじゃなく、性格も素晴らしくって。
ローランデはシェイルの、大好きな憧れの人になった。

けれど影でひそひそ声が聞こえる。
「ディアヴォロスの恋敵に、ローランデ?」
「ローランデにその気、ナイよな?」
「同じグループの二年に聞かれた。
練習試合の対戦って。
実はシェイルを取り合って、二人は火花散らしてたのか?って」

けど全員が。
揃って離れた、斜め横のローランデを見て
「ナイナイ!」
と口を揃えて言う。

「ローランデって…そっち方面の話、うといよな?」
「同感。
上品だし。
下ネタ出来ない」

そう言う子達を。
ローランデが見ているので、シェイルも見て…そして、尋ねた。
「下ネタ…って、知ってる?」
ローランデが、足元を見るので、シェイルは笑った。
「実は僕も!
ローフィスが下ネタ。
って言った時、下を見た!」

シェイルが可愛らしく笑うので、ローランデも思わず、笑い返した。

少し離れた背後に並んで歩く、ヤッケルとフィンスは。
二人の会話を聞くと、同時に顔を下げた。


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