若き騎士達の危険な日常

あーす。

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自制心

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 ディアヴォロスは深い快感に震え、そのまま気絶するシェイルの背を布団に沈め、身を起こす。

ため息が、漏れた。

けれど抱いていた時。
シェイルの心が断片的に浮かび上がり、見えた映像を整理しようと、グラスに果実酒を注ぎ、あおる。

幼いシェイルが椅子に縛り付けられ、伯父に強制的に見せられた、父を犯す伯父の姿。

シェイルの父は裸で…両手首を斜め上に、壁に打ち付けられた板に、括り付けられてる皮のベルトで、戒められていた。

良く鍛えられ、引き締まりきった父の裸体。
伯父は長い黒のローブを纏い、覆い被さり…顔を背ける父の、腿を持ち上げ…。

その部分は、よく見えなかったけど、被さった伯父が腰を、打ち付けるように振る度、父の苦悩の表情が目に映り、シェイルは声が出ない。

助けたくっても、自分も子供用の椅子に、革のベルトで括り付けられていたから。
胴回り。
そして手乗せに両手首を革のベルトで、しっかりと固定されていて…椅子から立ち上がることすら出来なかった。

伯父が腰を激しく父に押しつける。
父の仰け反る表情。

打ち付ける度。

けれど次第に…父の表情が変わる。

「あ…っんっ…!」

声が…変わる。

唇を噛みしめ、耐えようとしても…漏れる喘ぎ。

父の体が熱く…火照る感じがする。

けれどそうなる程、シェイルの心は凍り付く。

ぞっとする…黒い何か嫌な。
禍々しい物が触手を伸ばし、心に忍び込もうとする。

怖くて、たまらなかった。

父はそれに気づく度。
腰を激しく打ち付けてくる伯父のもたらす感覚から、自分の感覚を隔絶し、何か囁く。

父が囁く度、声は耳で無く頭の中に、響き渡る。

その声がすると。
ぞっとする何か…は、這い上がるのを止め…少しずつ後ずさりし始める…。

父は唇を激しく噛みしめてる。

シェイルは幼かったけど、分かった。

父は快感を感じてた。
そのままさらわれるのを拒絶し、自分を…。
戒められているのに、自分を守った。

それから何度、そんな事があっただろう?

それが行われた後、大抵人が訪れた。

ディラフィスの事を覚えている。
怯えたように竦む母に、囁いてた。

「シェリアンはまだ…?」
母は部屋の隅でこちらを見ず、けれど聞き耳立てる兄の姿に怯えながら、返事をしていた。

「ええとても…弱っていて。
ですからまた…会わせる訳には参りませんの。
でもお見舞い、感謝致します」

シェイルの母親、ライラアンは…幼いシェイルの小さな手を、ぎゅっ!と握って…そして、その言葉を言い切った。

ディラフィスは頷き、母の手にそっと…小さな紙を握らせ、そして帽子を持ち上げ
「また来ます」
そう言って被り、部屋を後にした。

シェイルはその時。
母がディラフィスの背に追いすがり、助けを求めようとする心を、渾身の気力で押し止めてるのを感じ、悲しげに心を震わせた…。

ディアヴォロスは情事の間、シェイルの愛らしさと色香に溺れ、断片的にしか理解出来なかったその映像とシェイルの心の囁きを、ゆっくりワーキュラスに見せて貰い、感謝した。

父の我慢。
母の我慢。

幼いシェイルは、二人の…自分の想うままに出来ない…その我慢をそのまま、受け止めてしまい、全てに我慢していた。

時に、息を吸うことすら。

ローフィスは必死に、シェイルにもう我慢しなくていいと根気よく教え続け、シェイルがそれを受け入れるまで。

シェイルは我慢し続けた。

食べる事。
生きる事。
楽しむ事。
笑うこと……………。

だから今、シェイルは我慢せずに快感にさらわれる。

自分が、“そうしていいんだ"
と無言でシェイルを促すから。

その時、シェイルの心の中で伯父に攻められ、快感にさらわれかける父は、幼いシェイルの危機に自分を戒めたりせず…。

そのまま我慢を止めて、快感にさらわれる。

それは例え憎むべき伯父に与えられる快感でも。

感じてる父の感覚は父だけのもの…。

シェイルはほっとする。
そして椅子に縛り付けられた自分に這い上る、あの嫌な物。
あれが消えて、母にも告げる。

笑顔で。

“僕もう、大丈夫!
あれは…消えた"

母親は…心配で胸が張り裂けそうで…。
夫を奪われ、幼く愛しい息子ですら。

いつ失うかと、常に恐怖に怯えて続けていたシェイルの母は。

やっと心の平安を得て、嬉し泣きに顔を崩す…。


ディアヴォロスはそれをワーキュラスに見せられ、つい…神の如くの、光竜にぼやいた。

“私がしたのは、自分の欲望を果たした。
ただ、それだけ。
それをそこまで大袈裟に、人助けに結びつけるのか?"

けれどワーキュラスは暖かく瞬く。

“君やローフィスがシェイルに激しい自制の利かぬ欲望を抱く原因は、これだから。
シェイルはずっと、『これを何とかして欲しい』と無言で訴え続け、君とローフィスは欲望を抱く事で、シェイルの無言の要請を、感じ取ってる”

“つまり私やローフィスがシェイルに抱く、衝動の原因が…これだと?”

ワーキュラスは光を瞬かせ、頷く。

“でも他の…下卑た男はその衝動を感じると、シェイルを酷く扱い、傷つける。
君とローフィスだけは…衝動に流されながらもシェイルを傷つけまいと。
必死に踏み止まる。
だからシェイルは、君とローフィスには安心して自身の欲望を解放し、身を預けられる”

ディアヴォロスはまた一つ、吐息を吐いた。

“でも君に、危機を教えて貰わなければ。
私でも、流されそうになったけどね”

ワーキュラスはまた、励ますように暖かく、二度。

ディアヴォロスの頭の中で、瞬いた。


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