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平穏な学校生活
しおりを挟むその夜、シェイルはローランデの私室で食事をご馳走され、そしてヤッケルと共に自分の部屋へ戻り、寝台に潜り込む。
ここに入学して以来、初めて自分の部屋で寛げて安眠出来、朝目覚めるとヤッケルと共に朝食のため、食堂に出かける。
食事をトレーに盛るため、あちこちの料理の前に行列が出来、食事を盛ったトレーを手に、テーブルへ急ぐ者らと。
ごった返す食堂で、けれど皆、シェイルに気づくと笑顔を送る。
シェイルはヤッケルと共に食事を皿に盛り、テーブルに着く。
目が合うと、大抵の同級生らは笑顔を向けてくれるのに気づいた。
「…みんな…笑う」
「ああ一件落着で、皆ほっとしてるんだ。
…けど、格好いいディングレーと、その取り巻き大貴族らの送り迎えが見られないのは、残念だってさ」
シェイルは赤くなって顔を下げる。
一人がヤッケルの背後を通り過ぎ様、声かける。
「今日の一限目の乗馬。
点数つくって聞いてたか?」
ヤッケルはフォークを持ち上げたまま、背後に振り向き尋ねる。
「…低いと?」
「居残りだろ?」
背後を通り過ぎるもう一人が、尋ねる。
「だっけ?」
「…ともかく、及第点取らないとヤバいらしいぜ!」
二人はそう言って、会話しながら空いたテーブルへ、トレーを持って歩き去る。
ヤッケルは横のシェイルに向き直って、聞く。
「乗馬なんて、楽勝だろう?」
「そこまでは言わないけど…。
合格点は貰えると思う」
向かいに座ってる子等も頷く。
「乗れてるから、心配要らないよ」
「俺は坂が苦手」
「振り落とされなきゃ、大丈夫さ!」
みな、笑顔で楽しそうに食べ、話してる。
「ほら。
直三年が監督生して、授業後の一・二年の講習受け持つだろう?」
その言葉にシェイルが喰い付く。
「ホント?!」
みな、頷く。
「そっか。
ローフィス、三年だもんな」
ヤッケルに言われ、シェイルが笑顔で頷く。
「そんなに兄貴のこと、好き?」
一人に聞かれて、シェイルが思いっきり頷く。
「俺なんて、兄貴が殴りたくてここに入学した」
「俺も。
隙あらば、殴ってやりたい」
シェイルは目を見開く。
「なんで?」
言ったみんなは顔を見合わす。
「威張ってるからさ!」
一人が言うと、もう一人は頷く。
「弟なんて、生意気だって理由で殴ってくる」
シェイルはヤッケルを見た。
「ヤッケルんとこも?」
「しょっ中。
俺の場合、上の兄貴は殴らないが、弟達は暇さえあれば俺にかかって来る。
男同士なんてそんなもんだ。
言葉で言い合うより、拳でモノを言う」
「ヤッケルが兄貴なら俺でも殴れる」
「だな!」
みんな笑うので、シェイルはまた目を見開く。
「…ヤッケルは身軽だから、大人しく殴られてないと思う」
そう言った途端、みんなの笑いはピタリ!と止まった。
シェイルはヤッケルと共に乗馬の講習に出、ローランデやフィンスと合流し、及第点を取り…。
何の心配も要らない時間を、思い切り楽しんだ。
昼食に、全校生徒集う大食堂に出かけると、ローフィスを見つけて駆け寄る。
どすんっ!
「…っ!」
ローフィスは後ろからシェイルに体当たり同然に抱きつかれ、身を揺らす。
振り向くローフィスに、シェイルは問うた。
「ローフィス、監督生?!」
ローフィスは頷く。
「ああだが…」
「じゃ、授業の後、ずっと一緒だね!」
シェイルに微笑まれ、ローフィスは頷きかけ…けれどシェイルは直ぐ、前を行くヤッケルに振り向かれ、ヤッケルの元に駆け込む。
振り向いてローフィスに笑顔を送りながら。
「…すっかり元気だな」
横にいたオーガスタスが笑う。
ヤッケルはローフィスの横に立つ、オーガスタスをチラ…と見、抱きついたことを思い出したのか、一瞬狼狽え…けれど軽く会釈して、やって来たシェイルと共に、ローランデらの食卓に付いた。
けれど大食堂に、グーデンとその一味らも姿を現す。
食堂内は一斉にひそひそ声。
グーデンはもう、威張る様子も無く、取り巻きの護衛らに道を空けられ、項垂れてテーブルに付く。
取り巻きの護衛らは相変わらず乱暴に、道を塞ぐ生徒らを、突き飛ばしてどかしていたけれど。
食事を出され、黙々と食し、シェイルの方に視線を投げない。
「…だが以前飼ってた愛玩。
全部、呼び戻したって」
「でもあれだろ?
以前みたいに、ずっと部屋に留めておけないそうだ」
「殆ど、監禁だもんな」
「護衛らに言うこと聞かせるため、愛玩好きに嬲らせてたんだろ?」
あちこちで、ひそひそ声は止まない。
「最近は金払って、娼館に行かせてるってさ!」
「…護衛の奴ら、グーデンから離れないはずだ」
「だな。
金貰って。
授業も試験も免除にされ、女も愛玩も、抱きたい放題なんだろ?」
「あ、もうグーデン以外の生徒の授業免除は、出来なくなったって聞いたぜ?」
「理事の監視がキツくて、グーデンの我が儘は今後いちいち、吟味されるそうだ」
ローフィスはチラ…と大人しくなるグーデンを見、次に反対側に顔を向けて、ローランデと笑うシェイルを見、ほっとして食べ物を口に運ぶ。
間もなく、大食堂内はざわつき、戸口にディアヴォロスが姿を現す。
四年、大貴族らが、がたがたっ!と席を立つと、揃ってディアヴォロスを出迎えに彼の前まで走り、テーブルへと案内する。
長身のディアヴォロスは微笑を浮かべ、出迎えに駆けつけた彼らに、礼を言ってた。
がたんっ!
シェイルが、突然席を立つ。
ヤッケルが気づき、顔を向けた時。
シェイルはもう、駆け出していた。
真っ直ぐ、ディアヴォロスに向かって。
ローフィスにしたように、ディアヴォロスにも突進するように駆け寄る。
ディアヴォロスが両手広げて迎えると、シェイルはディアヴォロスの胸に、飛び込んだ。
ディングレーは食事の席でそれを見て、目をまん丸に見開く。
ディアヴォロスがシェイルを抱き止めると、シェイルはディアヴォロスにきつく抱きつき、そして顔を上げる。
「もう…」
ディアヴォロスは微笑む。
「大丈夫だ。
週末、東の聖地に出かける時には。
私とローフィスが付き添うから」
シェイルは瞳を潤ませ、またしっかり、ディアヴォロスに抱きついた。
食堂内は、一斉にしーーーーーーーん。
と静まりかえり。
オーガスタス、だけが。
「昼食時には、過激なラブ・シーンだな」
と感想を述べた。
ローフィスはスプーンで皿の底をさらい、言い返す。
「別にキスとか、してないし。
そこまで過激か?」
オーガスタスは、本気か?
とローフィスを見、スプーンで熱烈な抱擁を全校生徒に見せつける、ディアヴォロスとシェイルを指して言った。
「もうとっくに寝てる。
って。
誰が見ても、一発で分かるぞ?」
ローフィスは項垂れて、下げた顔を揺らした。
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