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帰還
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シェイルがディラフィス、ローフィスと共に『教練』の門を潜った時。
すっかり空は暮れていた。
シェイルは一年宿舎の前で、ローフィスの馬から下ろされた。
ディラフィスとローフィスが頷き、シェイルは一年宿舎の階段を上がる。
扉の前で振り向くと、ディラフィスとローフィスは横に並ぶ、ずっと向こうの三年宿舎の前まで馬で進み、ローフィスが降りると、ディラフィスが馬の手綱を預かった。
ディラフィスはローフィスを馬上から見つめ、頷くと、馬に乗ったままローフィスの馬を引き、駆け戻ってきた。
シェイルが扉の前で見つめていると、ディラフィスは止まらず、馬上から微笑を向け、そして駆け去った。
シェイルはため息と共に、扉を開ける。
その途端、広大な食堂の、一番手前の長椅子に腰掛けてたヤッケルが、顔を上げ…。
そして駆け寄り様、抱きついた。
「…ヤッケル…」
シェイルは、ぎゅっ!きつくと抱きしめるヤッケルに、言葉を失う。
ヤッケルのいたテーブルには、二階大貴族宿舎にいる筈の、ローランデとフィンスもいて、立ち上がって戸口のシェイルを見つめている。
「…ヤッケル…ヤッケルごめん。
心配…かけた?」
ヤッケルは返事をせず、尚一層きつく抱きついて来る。
「…僕…ローフィスとディアヴォロスが来てくれて…だから…」
ローランデが微笑みながら、寄って来て言う。
「オーガスタスから聞いた。
今日の早朝に。
わざわざ一年宿舎の前で、出てくるのを待っててくれて」
フィンスもローランデの背後に立つと、ほっとしたようにシェイルに笑顔を向ける。
「ヤッケルがその時も。
知らせてくれたオーガスタスに抱きついて」
ヤッケルはそれを聞いた途端、抱きつくシェイルから顔を上げて振り向く。
シェイルは気づいて尋ねる。
「それで…オーガスタスは?」
ローランデが微笑む。
「抱きつくヤッケルを、抱き返した」
フィンスもローランデの横で、頷いた。
「まるで、父か兄のように。
彼、とても温かい人柄だ」
シェイルはそれを聞いて、こくん。と頷く。
「…ローフィスはオーガスタスの事、大事な親友って思ってる」
ローランデもフィンスも、微笑んで頷く。
ローランデはシェイルの横に歩み寄ると、優しく囁きかけた。
「ヤッケルは君がさらわれた後、必死でローフィスに伝えた。
その後も追おうとしたけど…怪我をして」
シェイルはびっくりして、ヤッケルを自分から離し、体を見回す。
「どこ?!
今も痛い?!!!!」
悲鳴のようなシェイルの声を聞き、ヤッケルは目を見開く。
「…安心しろ。
一番下の弟に、階段の一番上から腹に落下された時の方が、よっぽど痛かったから」
シェイルはそれを聞いて、ほっとすると、今度は自分からヤッケルに、抱きついた。
きつく、きつく抱く。
「…あのな。
俺達の方がよっぽど、心配したんだぜ?!
酷い目に合ってないかとか。
もう国外に、売られてないかとか」
シェイルはきつくヤッケルにしがみついたまま、叫ぶ。
「ヤッケルがローフィスに知らせてくれたから!
ローフィスとディアヴォロスは直ぐ来てくれた!」
フィンスとローランデが顔を見合わせる。
「ディアヴォロスが居れば…無事でも納得だ」
フィンスが言うと、ローランデも頷いた。
「無事な姿が見られて、本当に良かった」
シェイルはローランデに優しく微笑まれ、思わず頬に涙を滴らせた。
けど泣いてるのが恥ずかしくて、咄嗟顔を下げ、頷く。
ローランデの手が、優しくシェイルの背に回る。
「夕食は?
良ければ浴室も使って?」
シェイルはローランデとフィンスに促されるまま、広い食堂横にある、大貴族用宿舎に続く、階段へと進む。
食堂には他の同級生らも居て、シェイルの様子を伺う。
一人が叫ぶ。
「グーデンは理事に呼び出され、素行の注意、受けてたぞ!」
「上級が言うには、もうローフィスの退校とか。
校内で拉致とか。
したら即、ここを出て特待生宿舎入りだそうだ!
だから…」
ローランデ、フィンス、ヤッケルに囲まれ、階段を登ろうとしたシェイルは、足を止めて振り向く。
みな、しん…と黙った後。
一人が叫んだ。
「辞めないな?ここ!」
皆、真剣な表情でシェイルを見る。
シェイルが、頷く。
するとみんな、嬉しそうに笑った。
シェイルは自分が残ることをこんなに大勢が喜んでくれる事が、意外で嬉しかった。
けど。
「ホラ!
寄越せよ!」
「ちぇっ」
そう言って数人が、硬貨を手渡す。
呆然とするシェイルの背を、ヤッケルが後ろから押して言う。
「奴ら、賭けてやがったんだ。
気にするな!」
けれどシェイルが階段を登り始めると、また叫ぶ声が飛ぶ。
「残ってくれて、嬉しかったのはホントだ!」
「ああ!
凄い目の保養だしな!」
「お前がいないと、ムサいムサい。
男だらけで、ここ」
「入学早々華が消えちゃ、がっかりだ!」
そしてみんな、笑う。
シェイルは今度、ムッとしてヤッケルに振り向く。
「僕、女の子の代わり?」
「いいから行け!」
シェイルはヤッケルに背を押され、ぷんぷん怒って二階大貴族宿舎へ、登って行った。
すっかり空は暮れていた。
シェイルは一年宿舎の前で、ローフィスの馬から下ろされた。
ディラフィスとローフィスが頷き、シェイルは一年宿舎の階段を上がる。
扉の前で振り向くと、ディラフィスとローフィスは横に並ぶ、ずっと向こうの三年宿舎の前まで馬で進み、ローフィスが降りると、ディラフィスが馬の手綱を預かった。
ディラフィスはローフィスを馬上から見つめ、頷くと、馬に乗ったままローフィスの馬を引き、駆け戻ってきた。
シェイルが扉の前で見つめていると、ディラフィスは止まらず、馬上から微笑を向け、そして駆け去った。
シェイルはため息と共に、扉を開ける。
その途端、広大な食堂の、一番手前の長椅子に腰掛けてたヤッケルが、顔を上げ…。
そして駆け寄り様、抱きついた。
「…ヤッケル…」
シェイルは、ぎゅっ!きつくと抱きしめるヤッケルに、言葉を失う。
ヤッケルのいたテーブルには、二階大貴族宿舎にいる筈の、ローランデとフィンスもいて、立ち上がって戸口のシェイルを見つめている。
「…ヤッケル…ヤッケルごめん。
心配…かけた?」
ヤッケルは返事をせず、尚一層きつく抱きついて来る。
「…僕…ローフィスとディアヴォロスが来てくれて…だから…」
ローランデが微笑みながら、寄って来て言う。
「オーガスタスから聞いた。
今日の早朝に。
わざわざ一年宿舎の前で、出てくるのを待っててくれて」
フィンスもローランデの背後に立つと、ほっとしたようにシェイルに笑顔を向ける。
「ヤッケルがその時も。
知らせてくれたオーガスタスに抱きついて」
ヤッケルはそれを聞いた途端、抱きつくシェイルから顔を上げて振り向く。
シェイルは気づいて尋ねる。
「それで…オーガスタスは?」
ローランデが微笑む。
「抱きつくヤッケルを、抱き返した」
フィンスもローランデの横で、頷いた。
「まるで、父か兄のように。
彼、とても温かい人柄だ」
シェイルはそれを聞いて、こくん。と頷く。
「…ローフィスはオーガスタスの事、大事な親友って思ってる」
ローランデもフィンスも、微笑んで頷く。
ローランデはシェイルの横に歩み寄ると、優しく囁きかけた。
「ヤッケルは君がさらわれた後、必死でローフィスに伝えた。
その後も追おうとしたけど…怪我をして」
シェイルはびっくりして、ヤッケルを自分から離し、体を見回す。
「どこ?!
今も痛い?!!!!」
悲鳴のようなシェイルの声を聞き、ヤッケルは目を見開く。
「…安心しろ。
一番下の弟に、階段の一番上から腹に落下された時の方が、よっぽど痛かったから」
シェイルはそれを聞いて、ほっとすると、今度は自分からヤッケルに、抱きついた。
きつく、きつく抱く。
「…あのな。
俺達の方がよっぽど、心配したんだぜ?!
酷い目に合ってないかとか。
もう国外に、売られてないかとか」
シェイルはきつくヤッケルにしがみついたまま、叫ぶ。
「ヤッケルがローフィスに知らせてくれたから!
ローフィスとディアヴォロスは直ぐ来てくれた!」
フィンスとローランデが顔を見合わせる。
「ディアヴォロスが居れば…無事でも納得だ」
フィンスが言うと、ローランデも頷いた。
「無事な姿が見られて、本当に良かった」
シェイルはローランデに優しく微笑まれ、思わず頬に涙を滴らせた。
けど泣いてるのが恥ずかしくて、咄嗟顔を下げ、頷く。
ローランデの手が、優しくシェイルの背に回る。
「夕食は?
良ければ浴室も使って?」
シェイルはローランデとフィンスに促されるまま、広い食堂横にある、大貴族用宿舎に続く、階段へと進む。
食堂には他の同級生らも居て、シェイルの様子を伺う。
一人が叫ぶ。
「グーデンは理事に呼び出され、素行の注意、受けてたぞ!」
「上級が言うには、もうローフィスの退校とか。
校内で拉致とか。
したら即、ここを出て特待生宿舎入りだそうだ!
だから…」
ローランデ、フィンス、ヤッケルに囲まれ、階段を登ろうとしたシェイルは、足を止めて振り向く。
みな、しん…と黙った後。
一人が叫んだ。
「辞めないな?ここ!」
皆、真剣な表情でシェイルを見る。
シェイルが、頷く。
するとみんな、嬉しそうに笑った。
シェイルは自分が残ることをこんなに大勢が喜んでくれる事が、意外で嬉しかった。
けど。
「ホラ!
寄越せよ!」
「ちぇっ」
そう言って数人が、硬貨を手渡す。
呆然とするシェイルの背を、ヤッケルが後ろから押して言う。
「奴ら、賭けてやがったんだ。
気にするな!」
けれどシェイルが階段を登り始めると、また叫ぶ声が飛ぶ。
「残ってくれて、嬉しかったのはホントだ!」
「ああ!
凄い目の保養だしな!」
「お前がいないと、ムサいムサい。
男だらけで、ここ」
「入学早々華が消えちゃ、がっかりだ!」
そしてみんな、笑う。
シェイルは今度、ムッとしてヤッケルに振り向く。
「僕、女の子の代わり?」
「いいから行け!」
シェイルはヤッケルに背を押され、ぷんぷん怒って二階大貴族宿舎へ、登って行った。
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