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東の聖地からの出立
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ディラフィスとローフィスが立ち上がり、ここを去ろうとする中。
シェイルはもう一度父と、そして…母に、会ってみたいと思った。
けれどその時、頭の中にイメージが送られて来る。
光の結界の中で、安らかに眠る父と、そして…。
別の場所…趣味の良い小さな家の、花が咲き乱れるこぢんまりした庭に佇み、笑う母の姿。
明るい栗毛の長い髪は風になびき、緑の瞳は明るく輝き、庭の花を摘む姿は、少女のように無邪気に見えた。
シェイルは一瞬、懐かしさで目頭が熱くなったし、母は元気そうだと思った。
が、横の背の高い東の聖地の女性が。
彼女の頭の中へ、自分の姿のイメージを送るのを見た。
母は突然、手に持っていた花を取り落とし、両手を頭に持って行くと叫んだ。
“この子を助けて!
誰か助けて!”
叫び、身を折る母に寄り添う東の聖地の女性は、イメージの中から悲しげに、シェイルを見る。
シェイルが頷くと、映像は頭の中から、消えて行った。
ディラフィスとローフィスが、動かない自分を不思議そうに見てるのに気づき、シェイルは尋ねた。
「今の…見た?」
ローフィスとディラフィスが揃って首を横に振るのを見て、シェイルは自分一人に見せてくれたのだと、納得した。
ローフィスが、横に来て囁く。
「週末まで四日程度だろう?
また、ここに来ればいい」
シェイルは、頷いた。
ナースタスの両手から、包み込むような光が発せられたと感じた途端。
ディラフィス、ローフィス、シェイルは、最初来た白い建物の前。
広々とした草地へと移動していて、そこにはディラフィスとローフィスの馬が、待っていた。
柔らかな光で包まれているせいか、緑の草は明るく見え、青い空も輝いて見える。
ローフィスが、自分の馬の鞍に手を付き、シェイルに振り向く。
ディラフィスはもう馬に跨がって、手綱を引きながらシェイルに言った。
「ローフィスの後ろに乗れ」
シェイルは頷く。
けど気づいて顔を上げ
「昔みたいだ」
と笑顔で告げた。
ディラフィスはその時、少し切なげに表情を崩す。
「ガーナデットのしつこい追っ手から逃げる旅は…結構大変だったが。
お前にはそれが、楽しかったんだな?」
シェイルはディラフィスを見る。
小さな子供に戻ったように。
「…僕…とローフィスで、いっつも…ディラフィスの帰りを待ってた。
食料や毛布…。
どんな辺境で、食べる物が何も無い時でも。
ディラフィスは必ず、必要な物を持って帰ってくれた。
時には数日姿が見えなくて、僕が
“もうディラフィスが戻らなかったら、どうしよう”
って言うとローフィスは必ず
“ディラフィスは絶対僕らを裏切らないから。
直あそこに姿を現す”
って。
洞穴だったり、おっきな木の洞だったり。
そこに来る入り口指して、そう言った。
そしてちゃんと…絶対。
ディラフィスはローフィスの言うとおり、そこに姿を現して…食べ物や必要な物を、持って帰るんだ。
僕、ディラフィスが居ないと不安だったけど。
いつも…いつも、ローフィスは帰って来るって。
そしてその通りになった。
僕はそれが…毎回、凄く嬉しかったんだ」
ローフィスはシェイルが、光が満ちてるせいか、本質に近い…小さな嬉しそうな子供に見えて、思わず見入った。
ディラフィスはけれど悲しそうに囁く。
「シェリアンがバルコニーから落ちて…二度と会えなかったから?
俺が戻ると、倍嬉しかったんだな?」
シェイルは俯く。
「それもだけど。
父様は突然、会えなくなった。
夕食の席で、食べてる途中に倒れて。
その後姿が消えて
“父様はどこ?どうして会えないの?”
そう言うと母様は泣きそうになって悲しそうだから…。
ずっと会えなくても、聞けなくなった。
次に会えた時…」
シェイルはそこで、身をがくがく揺する。
ローフィスは慌ててシェイルを支え、ディラフィスは吐息を吐く。
「…ガーナデットがお前を子供用に椅子に縛り付けて、シェリアンに何してたかは…ここのシェリアンを癒してた者に聞いた」
そして、顔を下げると囁く。
「が、お前とシェリアンを恐ろしい目に合わせたあいつは、既に廃人同様でここに囚われてる。
もう、安心だ。
だからシェイル。
次に戦う相手は、盗賊だとか上級生とか。
意地悪な同級生の類いだ。
分かるな?
シェリアンは捕らえられてる間ずっと、神聖呪文を唱え続けてお前を守った。
妻よりも幼いお前を。
だからお前は、ここの外で生活出来る」
シェイルはそう言った、馬に跨がる無頼風の、頼もしいディラフィスを見上げる。
「入学時は、めちゃくちゃ心配したが…ディアヴォロスが背後でお前を守るんなら。
『教練』でお前に害成す男はいないはず。
この先、どれだけローフィスとディアヴォロスに甘えてもいい。
『教練』を、卒業しろ」
シェイルはディラフィスを見、しっかりとこっくり、頷いた。
なのにローフィスの後ろにシェイルが乗り、二騎が東の聖地を出て、なだらかな丘をゆるやかな速度で降り始めた時。
ローフィスが突然、呟く。
「…どれだけ甘えてもいい…ってのは、ちょっと」
けどディラフィスが、馬の首を南に向けて言う。
「ちょい、寄る所がある」
ローフィスは南に道を外れ、先に行くディラフィスの背に、ぼやいた。
「俺への返事は?
無視か?!」
ディラフィスは馬を軽やかに駆けさせ、振り向くと言った。
「だってお前は人の忠告無視する、大馬鹿者だしな!」
「くそ!」
ローフィスも馬に拍車かけて、『教練』のある東じゃなく南に進む、ディラフィスの馬の後を追った。
シェイルはもう一度父と、そして…母に、会ってみたいと思った。
けれどその時、頭の中にイメージが送られて来る。
光の結界の中で、安らかに眠る父と、そして…。
別の場所…趣味の良い小さな家の、花が咲き乱れるこぢんまりした庭に佇み、笑う母の姿。
明るい栗毛の長い髪は風になびき、緑の瞳は明るく輝き、庭の花を摘む姿は、少女のように無邪気に見えた。
シェイルは一瞬、懐かしさで目頭が熱くなったし、母は元気そうだと思った。
が、横の背の高い東の聖地の女性が。
彼女の頭の中へ、自分の姿のイメージを送るのを見た。
母は突然、手に持っていた花を取り落とし、両手を頭に持って行くと叫んだ。
“この子を助けて!
誰か助けて!”
叫び、身を折る母に寄り添う東の聖地の女性は、イメージの中から悲しげに、シェイルを見る。
シェイルが頷くと、映像は頭の中から、消えて行った。
ディラフィスとローフィスが、動かない自分を不思議そうに見てるのに気づき、シェイルは尋ねた。
「今の…見た?」
ローフィスとディラフィスが揃って首を横に振るのを見て、シェイルは自分一人に見せてくれたのだと、納得した。
ローフィスが、横に来て囁く。
「週末まで四日程度だろう?
また、ここに来ればいい」
シェイルは、頷いた。
ナースタスの両手から、包み込むような光が発せられたと感じた途端。
ディラフィス、ローフィス、シェイルは、最初来た白い建物の前。
広々とした草地へと移動していて、そこにはディラフィスとローフィスの馬が、待っていた。
柔らかな光で包まれているせいか、緑の草は明るく見え、青い空も輝いて見える。
ローフィスが、自分の馬の鞍に手を付き、シェイルに振り向く。
ディラフィスはもう馬に跨がって、手綱を引きながらシェイルに言った。
「ローフィスの後ろに乗れ」
シェイルは頷く。
けど気づいて顔を上げ
「昔みたいだ」
と笑顔で告げた。
ディラフィスはその時、少し切なげに表情を崩す。
「ガーナデットのしつこい追っ手から逃げる旅は…結構大変だったが。
お前にはそれが、楽しかったんだな?」
シェイルはディラフィスを見る。
小さな子供に戻ったように。
「…僕…とローフィスで、いっつも…ディラフィスの帰りを待ってた。
食料や毛布…。
どんな辺境で、食べる物が何も無い時でも。
ディラフィスは必ず、必要な物を持って帰ってくれた。
時には数日姿が見えなくて、僕が
“もうディラフィスが戻らなかったら、どうしよう”
って言うとローフィスは必ず
“ディラフィスは絶対僕らを裏切らないから。
直あそこに姿を現す”
って。
洞穴だったり、おっきな木の洞だったり。
そこに来る入り口指して、そう言った。
そしてちゃんと…絶対。
ディラフィスはローフィスの言うとおり、そこに姿を現して…食べ物や必要な物を、持って帰るんだ。
僕、ディラフィスが居ないと不安だったけど。
いつも…いつも、ローフィスは帰って来るって。
そしてその通りになった。
僕はそれが…毎回、凄く嬉しかったんだ」
ローフィスはシェイルが、光が満ちてるせいか、本質に近い…小さな嬉しそうな子供に見えて、思わず見入った。
ディラフィスはけれど悲しそうに囁く。
「シェリアンがバルコニーから落ちて…二度と会えなかったから?
俺が戻ると、倍嬉しかったんだな?」
シェイルは俯く。
「それもだけど。
父様は突然、会えなくなった。
夕食の席で、食べてる途中に倒れて。
その後姿が消えて
“父様はどこ?どうして会えないの?”
そう言うと母様は泣きそうになって悲しそうだから…。
ずっと会えなくても、聞けなくなった。
次に会えた時…」
シェイルはそこで、身をがくがく揺する。
ローフィスは慌ててシェイルを支え、ディラフィスは吐息を吐く。
「…ガーナデットがお前を子供用に椅子に縛り付けて、シェリアンに何してたかは…ここのシェリアンを癒してた者に聞いた」
そして、顔を下げると囁く。
「が、お前とシェリアンを恐ろしい目に合わせたあいつは、既に廃人同様でここに囚われてる。
もう、安心だ。
だからシェイル。
次に戦う相手は、盗賊だとか上級生とか。
意地悪な同級生の類いだ。
分かるな?
シェリアンは捕らえられてる間ずっと、神聖呪文を唱え続けてお前を守った。
妻よりも幼いお前を。
だからお前は、ここの外で生活出来る」
シェイルはそう言った、馬に跨がる無頼風の、頼もしいディラフィスを見上げる。
「入学時は、めちゃくちゃ心配したが…ディアヴォロスが背後でお前を守るんなら。
『教練』でお前に害成す男はいないはず。
この先、どれだけローフィスとディアヴォロスに甘えてもいい。
『教練』を、卒業しろ」
シェイルはディラフィスを見、しっかりとこっくり、頷いた。
なのにローフィスの後ろにシェイルが乗り、二騎が東の聖地を出て、なだらかな丘をゆるやかな速度で降り始めた時。
ローフィスが突然、呟く。
「…どれだけ甘えてもいい…ってのは、ちょっと」
けどディラフィスが、馬の首を南に向けて言う。
「ちょい、寄る所がある」
ローフィスは南に道を外れ、先に行くディラフィスの背に、ぼやいた。
「俺への返事は?
無視か?!」
ディラフィスは馬を軽やかに駆けさせ、振り向くと言った。
「だってお前は人の忠告無視する、大馬鹿者だしな!」
「くそ!」
ローフィスも馬に拍車かけて、『教練』のある東じゃなく南に進む、ディラフィスの馬の後を追った。
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