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東の聖地
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シェイルは半刻も立たない内に東の聖地の丘陵地が見えて来て、目を見開いた。
一時は向かいから馬車が道一杯に塞いで向かって来るのを見て、ぎょっ!としたけど。
ディアヴォロスはあっという間に横の僅かな隙間を、速度も落とさぬまま触れるギリギリですり抜け、心臓が炙りまくった。
つい振り向くと。
ディラフィスも。
ローフィスもが、顔色も変えずやっぱりギリギリをすり抜けてる。
シェイルは見なきゃ良かった。
と後悔した。
すり抜けてる二人より、自分が一番、はらはらしたから。
なだらかな明るい緑色の草生える丘を駆け昇ると、一瞬ビリ…!
と空気が震えた。
東の聖地の結界内に入った事を意味する。
入る事を許されない狼藉者は、この見えない空気の膜に触れると、激しく身を痙攣させて落馬し、馬だけが中へ飛び込んだのを、一度見た。
けれど神聖騎士のペンダントのお陰か。
ディラフィスもローフィスも、難なく中へと飛び込み、ディアヴォロスの馬の後に続く。
なだらかな丘を登り、そして降りると…。
建物が見えて来る。
左の丘に上には白い立派な神殿が連なっていて、その丘の下に、住居の邸宅並ぶ、小さな街が見えて来た。
一番手前の、白い大きな建物の前でディアヴォロスは馬を止める。
すると空間から突如人が現れ、ディアヴォロスから手綱を受け取り
「そのままお進み下さい」
と告げる。
ディラフィスとローフィスの横にも、一人ずつ空間から人が現れると、それぞれ手綱を受け取っていた。
ディアヴォロスは馬から降り、シェイルも馬を降りた途端。
手綱を握る人と馬は、一気に消え去った。
シェイルは目を見開く。
ディアヴォロスはその長身を屈め、シェイルに囁く。
「かなり無理をさせたから。
彼らが馬の世話をしてくれる」
ディラフィスもローフィスも、馬と共に消え行く東の聖地の能力者を見、ため息を吐く。
「…流石ディアヴォロス?」
ローフィスが聞くと、ディラフィスは頷く。
「俺の時と、待遇がまるで違う。
幾度か叫び倒し、かなり待たないと来ないからな」
ローフィスは頷き倒し、ディラフィスと並んで先を歩くディアヴォロスに続く。
白石、幅広の階段を上がり、壁も床も天井も。
真っ白な広い玄関ホールを抜け、長い廊下を歩いてると、横にずらりと並ぶ扉の一つが開く。
ディアヴォロスがその部屋へと入っていくと、やはり真っ白な布のかかった天蓋付き寝台の横に神聖騎士がいて。
「早かったな」
とディアヴォロスに微笑んだ。
シェイルはディアヴォロスに振り向かれ、弾かれたように寝台へと、駆け寄った。
シェリアンは少し、弱々しい微笑を向ける。
「ちょっと、クラっとしただけだと言ったのに」
見ると、シェリアンの全身は、ほんのり白く光る光で包まれていた。
横に東の聖地の治癒能力者がいて。
口を開く。
「『闇の第二』の傷跡は、ほんっとに、厄介ですから。
甘く見ちゃ、ダメですよ」
そう告げた後、シェイルを見る。
「少し寝かせます。
ちょっとなら。
お喋りも許します」
シェイルが頷くのを見て、長く淡い金色のエンジェルヘアを肩と背に流し、茶の瞳の優しい感じの、とても綺麗な顔立ちをし、白いローブを纏った能力者は頷く。
「いい子ですね。
人間もみんなこんな子ばっかりなら。
私たちも、もっと歓迎しますが」
そう言って、すっ…と空間へと姿を消す。
ローフィスは…一度死にかけた時、一週間ほど滞在した記憶を呼び覚ます。
何度見ても。
空間に姿が突然消えるのは、見慣れなくて。
シェイルが、寝台の向かいに立つ神聖騎士に、こそっ…と尋ねた。
「…あの方…女性…?」
尋ねた途端、空間からさっきの能力者が頭だけ見せて、ちょっと怒って言った。
「“いい子"は、取り消します!」
シェイルが振り向くと、ディアヴォロスは笑っていて。
ディラフィスとローフィスは顔を下げ、ため息を吐いていた。
神聖騎士は眉下げてシェイルに囁く。
「彼は男性の尊厳を傷つけられたと、思ったようだ」
「(…彼…男性だったのか…)」
シェイルは俯く。
シェリアンは布団から腕を伸ばし、シェイルの手を握る。
「…元気になる。
約束する。
だから…『教練』で、お前も頑張れ」
シェイルは握られた手を、握り返すと、瞳を潤ませ、頷いた。
神聖騎士は寝台に背を向け、ディアヴォロスとディラフィス、ローフィスに微笑を送る。
「疲れたろう?
寛げる場所に案内する」
そして、目を閉じる父親の顔を見つめる、シェイルに振り向く。
「母上もこの地の…もっと南の建物に居る。
だがまだあまり…会える状態じゃ無いと。
君の母上付きの、癒す者が告げている。
過去ずっとディラフィスに…君と会えるか?
と尋ねられ、癒す者は返事をするため、試しに彼女に映像で、君の姿を見せるが…。
彼女は見た途端、取り乱し泣き出して涙が止まらなくなり…。
泣き通しでとても精神的に不安定で。
それで、会えないと毎度ディラフィスに回答していたそうだ」
シェイルは顔を下げる。
「記憶が少し戻り…以前のような、急激な感情変化は緩和されたが。
それでも…まだかなり取り乱すから。
と。
シェイル。
君の映像を見た途端、彼女は泣き叫ぶ。
“この子を助けて!
お願いこの子を助けて!"
そう、言い続けて」
シェイルは俯き、涙を頬に、伝わせた。
ローフィスはシェイルの横に来ると、手を握る。
シェイルはローフィスを見上げ、ローフィスが頷くのを見た。
ディアヴォロスが囁く。
「『闇の第二』が去ったから。
彼女は閉じ込められていた感情の檻から解放され始めてる。
直現実が、認識出来るようになる」
シェイルは悲しげな表情の、ディアヴォロスも見た。
そして、戸口で腕組みし、顔を背けてるディラフィスも。
「…いつも…ありがとう…」
ローフィスがディラフィスを見、ディラフィスは気づいてシェイルを見る。
「…今の、俺に、言ったのか?」
ディアヴォロスとローフィスに、同時に頷かれ、ディラフィスは棒読みで返した。
「どういたしまして」
ぷっ…。
吹き出したのは神聖騎士で、ディラフィスはふてくされて呟いた。
「…おかしいか?」
ディアヴォロスとローフィスにやっぱり、同時に頷かれ、ディラフィスはため息吐いて、手を持ち上げ、髪を掻いた。
一時は向かいから馬車が道一杯に塞いで向かって来るのを見て、ぎょっ!としたけど。
ディアヴォロスはあっという間に横の僅かな隙間を、速度も落とさぬまま触れるギリギリですり抜け、心臓が炙りまくった。
つい振り向くと。
ディラフィスも。
ローフィスもが、顔色も変えずやっぱりギリギリをすり抜けてる。
シェイルは見なきゃ良かった。
と後悔した。
すり抜けてる二人より、自分が一番、はらはらしたから。
なだらかな明るい緑色の草生える丘を駆け昇ると、一瞬ビリ…!
と空気が震えた。
東の聖地の結界内に入った事を意味する。
入る事を許されない狼藉者は、この見えない空気の膜に触れると、激しく身を痙攣させて落馬し、馬だけが中へ飛び込んだのを、一度見た。
けれど神聖騎士のペンダントのお陰か。
ディラフィスもローフィスも、難なく中へと飛び込み、ディアヴォロスの馬の後に続く。
なだらかな丘を登り、そして降りると…。
建物が見えて来る。
左の丘に上には白い立派な神殿が連なっていて、その丘の下に、住居の邸宅並ぶ、小さな街が見えて来た。
一番手前の、白い大きな建物の前でディアヴォロスは馬を止める。
すると空間から突如人が現れ、ディアヴォロスから手綱を受け取り
「そのままお進み下さい」
と告げる。
ディラフィスとローフィスの横にも、一人ずつ空間から人が現れると、それぞれ手綱を受け取っていた。
ディアヴォロスは馬から降り、シェイルも馬を降りた途端。
手綱を握る人と馬は、一気に消え去った。
シェイルは目を見開く。
ディアヴォロスはその長身を屈め、シェイルに囁く。
「かなり無理をさせたから。
彼らが馬の世話をしてくれる」
ディラフィスもローフィスも、馬と共に消え行く東の聖地の能力者を見、ため息を吐く。
「…流石ディアヴォロス?」
ローフィスが聞くと、ディラフィスは頷く。
「俺の時と、待遇がまるで違う。
幾度か叫び倒し、かなり待たないと来ないからな」
ローフィスは頷き倒し、ディラフィスと並んで先を歩くディアヴォロスに続く。
白石、幅広の階段を上がり、壁も床も天井も。
真っ白な広い玄関ホールを抜け、長い廊下を歩いてると、横にずらりと並ぶ扉の一つが開く。
ディアヴォロスがその部屋へと入っていくと、やはり真っ白な布のかかった天蓋付き寝台の横に神聖騎士がいて。
「早かったな」
とディアヴォロスに微笑んだ。
シェイルはディアヴォロスに振り向かれ、弾かれたように寝台へと、駆け寄った。
シェリアンは少し、弱々しい微笑を向ける。
「ちょっと、クラっとしただけだと言ったのに」
見ると、シェリアンの全身は、ほんのり白く光る光で包まれていた。
横に東の聖地の治癒能力者がいて。
口を開く。
「『闇の第二』の傷跡は、ほんっとに、厄介ですから。
甘く見ちゃ、ダメですよ」
そう告げた後、シェイルを見る。
「少し寝かせます。
ちょっとなら。
お喋りも許します」
シェイルが頷くのを見て、長く淡い金色のエンジェルヘアを肩と背に流し、茶の瞳の優しい感じの、とても綺麗な顔立ちをし、白いローブを纏った能力者は頷く。
「いい子ですね。
人間もみんなこんな子ばっかりなら。
私たちも、もっと歓迎しますが」
そう言って、すっ…と空間へと姿を消す。
ローフィスは…一度死にかけた時、一週間ほど滞在した記憶を呼び覚ます。
何度見ても。
空間に姿が突然消えるのは、見慣れなくて。
シェイルが、寝台の向かいに立つ神聖騎士に、こそっ…と尋ねた。
「…あの方…女性…?」
尋ねた途端、空間からさっきの能力者が頭だけ見せて、ちょっと怒って言った。
「“いい子"は、取り消します!」
シェイルが振り向くと、ディアヴォロスは笑っていて。
ディラフィスとローフィスは顔を下げ、ため息を吐いていた。
神聖騎士は眉下げてシェイルに囁く。
「彼は男性の尊厳を傷つけられたと、思ったようだ」
「(…彼…男性だったのか…)」
シェイルは俯く。
シェリアンは布団から腕を伸ばし、シェイルの手を握る。
「…元気になる。
約束する。
だから…『教練』で、お前も頑張れ」
シェイルは握られた手を、握り返すと、瞳を潤ませ、頷いた。
神聖騎士は寝台に背を向け、ディアヴォロスとディラフィス、ローフィスに微笑を送る。
「疲れたろう?
寛げる場所に案内する」
そして、目を閉じる父親の顔を見つめる、シェイルに振り向く。
「母上もこの地の…もっと南の建物に居る。
だがまだあまり…会える状態じゃ無いと。
君の母上付きの、癒す者が告げている。
過去ずっとディラフィスに…君と会えるか?
と尋ねられ、癒す者は返事をするため、試しに彼女に映像で、君の姿を見せるが…。
彼女は見た途端、取り乱し泣き出して涙が止まらなくなり…。
泣き通しでとても精神的に不安定で。
それで、会えないと毎度ディラフィスに回答していたそうだ」
シェイルは顔を下げる。
「記憶が少し戻り…以前のような、急激な感情変化は緩和されたが。
それでも…まだかなり取り乱すから。
と。
シェイル。
君の映像を見た途端、彼女は泣き叫ぶ。
“この子を助けて!
お願いこの子を助けて!"
そう、言い続けて」
シェイルは俯き、涙を頬に、伝わせた。
ローフィスはシェイルの横に来ると、手を握る。
シェイルはローフィスを見上げ、ローフィスが頷くのを見た。
ディアヴォロスが囁く。
「『闇の第二』が去ったから。
彼女は閉じ込められていた感情の檻から解放され始めてる。
直現実が、認識出来るようになる」
シェイルは悲しげな表情の、ディアヴォロスも見た。
そして、戸口で腕組みし、顔を背けてるディラフィスも。
「…いつも…ありがとう…」
ローフィスがディラフィスを見、ディラフィスは気づいてシェイルを見る。
「…今の、俺に、言ったのか?」
ディアヴォロスとローフィスに、同時に頷かれ、ディラフィスは棒読みで返した。
「どういたしまして」
ぷっ…。
吹き出したのは神聖騎士で、ディラフィスはふてくされて呟いた。
「…おかしいか?」
ディアヴォロスとローフィスにやっぱり、同時に頷かれ、ディラフィスはため息吐いて、手を持ち上げ、髪を掻いた。
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