若き騎士達の危険な日常

あーす。

文字の大きさ
上 下
135 / 171

東の聖地

しおりを挟む
 シェイルは半刻も立たない内に東の聖地の丘陵地が見えて来て、目を見開いた。

一時は向かいから馬車が道一杯に塞いで向かって来るのを見て、ぎょっ!としたけど。
ディアヴォロスはあっという間に横の僅かな隙間を、速度も落とさぬまま触れるギリギリですり抜け、心臓が炙りまくった。

つい振り向くと。
ディラフィスも。
ローフィスもが、顔色も変えずやっぱりギリギリをすり抜けてる。

シェイルは見なきゃ良かった。
と後悔した。

すり抜けてる二人より、自分が一番、はらはらしたから。

なだらかな明るい緑色の草える丘を駆け昇ると、一瞬ビリ…!
と空気が震えた。

東の聖地の結界内に入った事を意味する。

入る事を許されない狼藉者は、この見えない空気の膜に触れると、激しく身を痙攣させて落馬し、馬だけが中へ飛び込んだのを、一度見た。

けれど神聖騎士のペンダントのお陰か。
ディラフィスもローフィスも、難なく中へと飛び込み、ディアヴォロスの馬の後に続く。

なだらかな丘を登り、そして降りると…。
建物が見えて来る。

左の丘に上には白い立派な神殿が連なっていて、その丘の下に、住居の邸宅並ぶ、小さな街が見えて来た。

一番手前の、白い大きな建物の前でディアヴォロスは馬を止める。

すると空間から突如人が現れ、ディアヴォロスから手綱を受け取り
「そのままお進み下さい」
と告げる。

ディラフィスとローフィスの横にも、一人ずつ空間から人が現れると、それぞれ手綱を受け取っていた。

ディアヴォロスは馬から降り、シェイルも馬を降りた途端。
手綱を握る人と馬は、一気に消え去った。

シェイルは目を見開く。
ディアヴォロスはその長身を屈め、シェイルに囁く。
「かなり無理をさせたから。
彼らが馬の世話をしてくれる」

ディラフィスもローフィスも、馬と共に消え行く東の聖地の能力者を見、ため息を吐く。

「…流石ディアヴォロス?」

ローフィスが聞くと、ディラフィスは頷く。
「俺の時と、待遇がまるで違う。
幾度か叫び倒し、かなり待たないと来ないからな」

ローフィスは頷き倒し、ディラフィスと並んで先を歩くディアヴォロスに続く。

白石、幅広の階段を上がり、壁も床も天井も。
真っ白な広い玄関ホールを抜け、長い廊下を歩いてると、横にずらりと並ぶ扉の一つが開く。

ディアヴォロスがその部屋へと入っていくと、やはり真っ白な布のかかった天蓋付き寝台の横に神聖騎士がいて。
「早かったな」
とディアヴォロスに微笑んだ。

シェイルはディアヴォロスに振り向かれ、弾かれたように寝台へと、駆け寄った。

シェリアンは少し、弱々しい微笑を向ける。
「ちょっと、クラっとしただけだと言ったのに」

見ると、シェリアンの全身は、ほんのり白く光る光で包まれていた。

横に東の聖地の治癒能力者がいて。
口を開く。
「『闇の第二』の傷跡は、ほんっとに、厄介ですから。
甘く見ちゃ、ダメですよ」

そう告げた後、シェイルを見る。
「少し寝かせます。
ちょっとなら。
お喋りも許します」

シェイルが頷くのを見て、長く淡い金色のエンジェルヘアを肩と背に流し、茶の瞳の優しい感じの、とても綺麗な顔立ちをし、白いローブを纏った能力者は頷く。
「いい子ですね。
人間もみんなこんな子ばっかりなら。
私たちも、もっと歓迎しますが」

そう言って、すっ…と空間へと姿を消す。

ローフィスは…一度死にかけた時、一週間ほど滞在した記憶を呼び覚ます。
何度見ても。
空間に姿が突然消えるのは、見慣れなくて。

シェイルが、寝台の向かいに立つ神聖騎士に、こそっ…と尋ねた。
「…あの方…女性…?」

尋ねた途端、空間からさっきの能力者が頭だけ見せて、ちょっと怒って言った。

「“いい子"は、取り消します!」

シェイルが振り向くと、ディアヴォロスは笑っていて。
ディラフィスとローフィスは顔を下げ、ため息を吐いていた。

神聖騎士は眉下げてシェイルに囁く。
「彼は男性の尊厳を傷つけられたと、思ったようだ」

「(…彼…男性だったのか…)」

シェイルは俯く。

シェリアンは布団から腕を伸ばし、シェイルの手を握る。
「…元気になる。
約束する。
だから…『教練キャゼ』で、お前も頑張れ」

シェイルは握られた手を、握り返すと、瞳を潤ませ、頷いた。

神聖騎士は寝台に背を向け、ディアヴォロスとディラフィス、ローフィスに微笑を送る。
「疲れたろう?
寛げる場所に案内する」

そして、目を閉じる父親の顔を見つめる、シェイルに振り向く。

「母上もこの地の…もっと南の建物に居る。
だがまだあまり…会える状態じゃ無いと。
君の母上付きの、癒す者が告げている。

過去ずっとディラフィスに…君と会えるか?
と尋ねられ、癒す者は返事をするため、試しに彼女に映像で、君の姿を見せるが…。
彼女は見た途端、取り乱し泣き出して涙が止まらなくなり…。
泣き通しでとても精神的に不安定で。
それで、会えないと毎度ディラフィスに回答していたそうだ」

シェイルは顔を下げる。

「記憶が少し戻り…以前のような、急激な感情変化は緩和されたが。
それでも…まだかなり取り乱すから。
と。
シェイル。
君の映像を見た途端、彼女は泣き叫ぶ。
“この子を助けて!
お願いこの子を助けて!"
そう、言い続けて」

シェイルは俯き、涙を頬に、伝わせた。

ローフィスはシェイルの横に来ると、手を握る。
シェイルはローフィスを見上げ、ローフィスが頷くのを見た。

ディアヴォロスが囁く。
「『闇の第二』が去ったから。
彼女は閉じ込められていた感情の檻から解放され始めてる。
じき現実が、認識出来るようになる」

シェイルは悲しげな表情の、ディアヴォロスも見た。

そして、戸口で腕組みし、顔を背けてるディラフィスも。

「…いつも…ありがとう…」

ローフィスがディラフィスを見、ディラフィスは気づいてシェイルを見る。

「…今の、俺に、言ったのか?」

ディアヴォロスとローフィスに、同時に頷かれ、ディラフィスは棒読みで返した。
「どういたしまして」

ぷっ…。
吹き出したのは神聖騎士で、ディラフィスはふてくされて呟いた。

「…おかしいか?」

ディアヴォロスとローフィスにやっぱり、同時に頷かれ、ディラフィスはため息吐いて、手を持ち上げ、髪を掻いた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

兄のやり方には思うところがある!

野犬 猫兄
BL
完結しました。お読みくださりありがとうございます! 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 第10回BL小説大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、そしてお読みくださった皆様、どうもありがとうございました!m(__)m ■■■ 特訓と称して理不尽な行いをする兄に翻弄されながらも兄と向き合い仲良くなっていく話。 無関心ロボからの執着溺愛兄×無自覚人たらしな弟 コメディーです。

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...