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教練三年宿舎の歓喜
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ローフィスは馬車の中で、ほぅっとため息を吐く。
一度頭の中を整理したかったから…ありがたい時間と、言えるかもしれなかった。
ディアヴォロスの別宅を離れ始めると、ローフィスは…熱に浮かされ、まるで自制出来なかった自分を少し…落ち着いて眺められた。
あの…感覚。
あれは西の聖地の結界内に居る感覚に近いと、やっと思い出す。
「(結界内では光が満ちている。
そして光の中では…自分は偽れない…)」
体の心の、傷が浮かび上がって来る。
“ここは安全だ”と言う感覚の元で。
言えなかった事が言えたり、心の奥底に隠し、誰にも言えない感情が迸ったり。
一度瀕死で、西の聖地に辿り着いた時。
光に包まれた中で傷は癒え、自分の命を救おうと必死にこの聖地に運んでくれた親父の事が、泣きたいほど好きだと感じ、シェイルは天使に見えた。
か弱い…飛ぶ翼を折られた、それでも天使で…。
地上の欲から切り離され、愛だけを心の中で育んだ。
そう…あの光の結界内で、人は本質を、出さずにいられない。
ローフィスは顔を揺らす。
平常では…決してシェイルを抱く事なんて出来なかった。
あそこでそれをしてしまったのは…光の結界のせいか…。
ディアヴォロスとその周囲は、ワーキュラスの御得で光に包まれる…。
癒やす事を望む者にそれは恵みだが…望まない者には、呪い。
ローフィスはけれど…頬に熱い涙が伝うのを感じ、両手を膝の上に組んだ。
問うまでも無く自分は、癒されたい者。
心の奥底にずっと閉じ込めていた思いを吐き出せて…どれ程心が軽くなったかを、思い知っていた。
自分がこれほど…シェイルへの思いを閉じ込め、苦しかったか。
それは自分自身でも意外なほどだった。
今、心は軽く、とても…とてもほっとしていた。
例えシェイルと抱き合った至上の幸福の後、二人は別個の人間なのだと…別離をどれ程辛く感じようが…。
あの幸福を、感じられて良かったと。
素直に思えたから。
そして自分の心を吐露できた感謝は…ディアヴォロスへの嫉妬を軽減させる。
彼は必要だ。
自分にとってもシェイルにとっても。
けれどそこまで思った時。
自分同様、ディアヴォロスが必要だと感じている、大勢の人々の存在を感じた。
たくさんの…たくさんの人が、ディアヴォロスに心の、体の傷を癒され、感謝してる。
彼が必要だと、それこそ本当にたくさんの人が、自分同様思ってる…。
ローフィスは馬車の背にもたれながら…それを決して忘れまい。
そう…固く心に誓った。
ディアヴォロスの為に。
彼という存在を守る為に。
大勢の人間が、命すら捨てて守ろうと思ってるのを感じる。
恩を返そうだとか…そんな建前すら無く、ごく自然に。
彼と彼の中に居るワーキュラスが偉大だと。
感じているから、当たり前のように。
彼とワーキュラスを守る為に、彼らが困っていたら駆けつけようと。
役に立とうと。
ごく自然な事のように。
思ってる。
自分ですら。
ローフィスはもう一筋、涙を頬に伝わせた。
馬車は教練の門を潜り抜けた。
三年宿舎の前で、ローフィスは下ろされた。
扉を開けると、広大な食堂には、殆どの三年生徒が集ってた。
ぎょっ!としてる間もなく、リーラスが叫ぶ。
「可愛い子ちゃんは無事だって?!」
ローフィスが、頷く。
「ディアヴォロスが…駆けつけてくれた」
わっ!!!
全員が、歓声を上げる。
ローフィスが、どうなったんだ?!
と目を見開いてると、オーガスタスが横にやって来る。
「グーデンが、理事に呼ばれた。
宿舎を引き払って特別宿舎に移るかどうかの、検討中らしい。
余程大人しくしてないと、あいつここに居られない」
笑顔で言われ、ローフィスはまだ、オーガスタスを見上げる。
オーガスタスは理解出来てないローフィスに、言い聞かせる。
「…つまりあいつはもう。
お前に今後、いちゃもん付けられない。
しつこく隙狙って、シェイルに手出ししたりお前を退校にしようと図る事も…早々出来ない…って事で、みんな喜んでるんだが…………」
ローフィスは、オーガスタスの説明と自分の顔をじっと見てる皆を、目を見開いて見つめ返す。
「…俺が追い詰められないから…?
喜んでる…のか?」
全員が、あーあ!と顔を背を、背ける。
リーラスが代表で言った。
「お前の筈、ナイだろう?!
お前の義弟、『教練』最高の可愛い子ちゃんが、ここ止めないで居続けられるって事が、嬉しいに決まってる!」
ローフィスが、ほっとしたように
「…だよな」
と告げた途端。
また顔を背を、戻してローフィスを伺ってたみんなが。
顔と背を一斉に背ける。
オーガスタスは呆れてとうとう呟いた。
「…ここにいる全員、お前がこの先退校の危機迎えなくて、安心してるに決まってるだろう?!
お前がいつの間にか消えた後、授業後グーデンがここに降りて来て、みんなの前で
『ローフィスはいずれ絶対ここを追い出す』
なんて偉そうに宣うもんだから」
リーラスも横に来る。
「オーガスタスなんて、肩迫り出してぶん殴りそうだったんだぜ?!」
別の悪友も言う。
「お前なら、オーガスタス退校にしたくなくて絶対止める。
って分かってたから。
俺ら全員でオーガスタスを止めた」
悪友らは、口々にぼやく。
「…ったく。
お前居ないと苦労するぜ」
「だよな」
「全くだ」
ローフィスはまた、全員を見た。
「つまり揉め事収めと、成績維持のために俺が必要なんだな?!」
オーガスタスは、素直に喜べ。
と笑ってローフィスの背を叩く。
「そっちは付随のオマケに決まってるだろう?!」
「お前居ないとつまらんからな」
「『教練』生活の、楽しみが半減する」
「小粒で強烈なキャラだしな」
ローフィスはまた、ふてながらそうほざいてるみんなを、見た。
どう言い返せばいいか分からずに居ると、オーガスタスが叫んだ。
「人が良さげで感じのいい外観の割に、中身はヒネてて世間ズレし、物事を素直に受け止められないローフィスは健在だ!」
おおっ!!!
全員は大いに吠えて、グラスを回し始める。
そのグラスに注がれる酒を見て、ローフィスは目を見開いた。
「…それ…俺の緊急時の、隠し酒………」
リーラスはローフィスの背を、バン!!!と叩く。
「後でカンパ募って、補充しといてやるから」
オーガスタスも笑ってグラスを差し出す。
「今は黙っとけ」
ローフィスは無言でグラスを手に取る。
「糞口の悪く、外見の割に可愛げの無い、だが最高に役に立って愉快なローフィスに!!!」
オーガスタスの咆吼に応え
「チェーーーーーーーース!!!」
全員叫ぶと、カチンカチン、近くの者とグラスを合わせ鳴らし、グラスの中のローフィスの隠し酒を、一気に飲み干した。
一度頭の中を整理したかったから…ありがたい時間と、言えるかもしれなかった。
ディアヴォロスの別宅を離れ始めると、ローフィスは…熱に浮かされ、まるで自制出来なかった自分を少し…落ち着いて眺められた。
あの…感覚。
あれは西の聖地の結界内に居る感覚に近いと、やっと思い出す。
「(結界内では光が満ちている。
そして光の中では…自分は偽れない…)」
体の心の、傷が浮かび上がって来る。
“ここは安全だ”と言う感覚の元で。
言えなかった事が言えたり、心の奥底に隠し、誰にも言えない感情が迸ったり。
一度瀕死で、西の聖地に辿り着いた時。
光に包まれた中で傷は癒え、自分の命を救おうと必死にこの聖地に運んでくれた親父の事が、泣きたいほど好きだと感じ、シェイルは天使に見えた。
か弱い…飛ぶ翼を折られた、それでも天使で…。
地上の欲から切り離され、愛だけを心の中で育んだ。
そう…あの光の結界内で、人は本質を、出さずにいられない。
ローフィスは顔を揺らす。
平常では…決してシェイルを抱く事なんて出来なかった。
あそこでそれをしてしまったのは…光の結界のせいか…。
ディアヴォロスとその周囲は、ワーキュラスの御得で光に包まれる…。
癒やす事を望む者にそれは恵みだが…望まない者には、呪い。
ローフィスはけれど…頬に熱い涙が伝うのを感じ、両手を膝の上に組んだ。
問うまでも無く自分は、癒されたい者。
心の奥底にずっと閉じ込めていた思いを吐き出せて…どれ程心が軽くなったかを、思い知っていた。
自分がこれほど…シェイルへの思いを閉じ込め、苦しかったか。
それは自分自身でも意外なほどだった。
今、心は軽く、とても…とてもほっとしていた。
例えシェイルと抱き合った至上の幸福の後、二人は別個の人間なのだと…別離をどれ程辛く感じようが…。
あの幸福を、感じられて良かったと。
素直に思えたから。
そして自分の心を吐露できた感謝は…ディアヴォロスへの嫉妬を軽減させる。
彼は必要だ。
自分にとってもシェイルにとっても。
けれどそこまで思った時。
自分同様、ディアヴォロスが必要だと感じている、大勢の人々の存在を感じた。
たくさんの…たくさんの人が、ディアヴォロスに心の、体の傷を癒され、感謝してる。
彼が必要だと、それこそ本当にたくさんの人が、自分同様思ってる…。
ローフィスは馬車の背にもたれながら…それを決して忘れまい。
そう…固く心に誓った。
ディアヴォロスの為に。
彼という存在を守る為に。
大勢の人間が、命すら捨てて守ろうと思ってるのを感じる。
恩を返そうだとか…そんな建前すら無く、ごく自然に。
彼と彼の中に居るワーキュラスが偉大だと。
感じているから、当たり前のように。
彼とワーキュラスを守る為に、彼らが困っていたら駆けつけようと。
役に立とうと。
ごく自然な事のように。
思ってる。
自分ですら。
ローフィスはもう一筋、涙を頬に伝わせた。
馬車は教練の門を潜り抜けた。
三年宿舎の前で、ローフィスは下ろされた。
扉を開けると、広大な食堂には、殆どの三年生徒が集ってた。
ぎょっ!としてる間もなく、リーラスが叫ぶ。
「可愛い子ちゃんは無事だって?!」
ローフィスが、頷く。
「ディアヴォロスが…駆けつけてくれた」
わっ!!!
全員が、歓声を上げる。
ローフィスが、どうなったんだ?!
と目を見開いてると、オーガスタスが横にやって来る。
「グーデンが、理事に呼ばれた。
宿舎を引き払って特別宿舎に移るかどうかの、検討中らしい。
余程大人しくしてないと、あいつここに居られない」
笑顔で言われ、ローフィスはまだ、オーガスタスを見上げる。
オーガスタスは理解出来てないローフィスに、言い聞かせる。
「…つまりあいつはもう。
お前に今後、いちゃもん付けられない。
しつこく隙狙って、シェイルに手出ししたりお前を退校にしようと図る事も…早々出来ない…って事で、みんな喜んでるんだが…………」
ローフィスは、オーガスタスの説明と自分の顔をじっと見てる皆を、目を見開いて見つめ返す。
「…俺が追い詰められないから…?
喜んでる…のか?」
全員が、あーあ!と顔を背を、背ける。
リーラスが代表で言った。
「お前の筈、ナイだろう?!
お前の義弟、『教練』最高の可愛い子ちゃんが、ここ止めないで居続けられるって事が、嬉しいに決まってる!」
ローフィスが、ほっとしたように
「…だよな」
と告げた途端。
また顔を背を、戻してローフィスを伺ってたみんなが。
顔と背を一斉に背ける。
オーガスタスは呆れてとうとう呟いた。
「…ここにいる全員、お前がこの先退校の危機迎えなくて、安心してるに決まってるだろう?!
お前がいつの間にか消えた後、授業後グーデンがここに降りて来て、みんなの前で
『ローフィスはいずれ絶対ここを追い出す』
なんて偉そうに宣うもんだから」
リーラスも横に来る。
「オーガスタスなんて、肩迫り出してぶん殴りそうだったんだぜ?!」
別の悪友も言う。
「お前なら、オーガスタス退校にしたくなくて絶対止める。
って分かってたから。
俺ら全員でオーガスタスを止めた」
悪友らは、口々にぼやく。
「…ったく。
お前居ないと苦労するぜ」
「だよな」
「全くだ」
ローフィスはまた、全員を見た。
「つまり揉め事収めと、成績維持のために俺が必要なんだな?!」
オーガスタスは、素直に喜べ。
と笑ってローフィスの背を叩く。
「そっちは付随のオマケに決まってるだろう?!」
「お前居ないとつまらんからな」
「『教練』生活の、楽しみが半減する」
「小粒で強烈なキャラだしな」
ローフィスはまた、ふてながらそうほざいてるみんなを、見た。
どう言い返せばいいか分からずに居ると、オーガスタスが叫んだ。
「人が良さげで感じのいい外観の割に、中身はヒネてて世間ズレし、物事を素直に受け止められないローフィスは健在だ!」
おおっ!!!
全員は大いに吠えて、グラスを回し始める。
そのグラスに注がれる酒を見て、ローフィスは目を見開いた。
「…それ…俺の緊急時の、隠し酒………」
リーラスはローフィスの背を、バン!!!と叩く。
「後でカンパ募って、補充しといてやるから」
オーガスタスも笑ってグラスを差し出す。
「今は黙っとけ」
ローフィスは無言でグラスを手に取る。
「糞口の悪く、外見の割に可愛げの無い、だが最高に役に立って愉快なローフィスに!!!」
オーガスタスの咆吼に応え
「チェーーーーーーーース!!!」
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