若き騎士達の危険な日常

あーす。

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 ローフィスは暫く、呆然と空間にでる『闇の第二』を見つめ、頭を殴られたようなショックから、正気を取り戻そうとあがいた。

「(…『闇の第二』…っつったら、『影の民』の大物中の大物…。
ってか、一番力を持つ魔物じゃ無いか…)」

ローフィスは必死に父、ディラフィスから聞かされた、『影の民』の有名な名とその能力について、遠い記憶を呼び覚ます。

「(…確か…『闇の帝王』の第二王子。
長男、三男を押し退け、父である『闇の帝王』ですら退位させ、『影の民』で一番の勢力を誇る…めちゃくちゃ手強い…………)」

『人の心を瞬時に操り、光の結界内ですら、自身の心を正気に保ち奴に操られないようにするには、凄い努力が要るから、もし出会ったら即座に神聖騎士を呼ぶしか…逃れる方法は皆無』

そう告げた時の親父の見た事の無いほどの厳しい表情を思い出すと、握る拳が震える。

“だから…幼いシェイルは人形のように、固く心を閉ざすしか…自衛する、術が無かった!”

ローフィスの心の声は、神聖騎士にもワーキュラスを身に宿すディアヴォロスにすら、聞こえていた。

“長年…我の探索の手を逃れ…尽く邪魔していた小物は、お前か!”

その時…ローフィスは自分の、シェイルへの思いが。
小さくとも熱く、『闇の第二』とシェイルを隔てているのを、の当たりにした。

まるでオレンジ色の、大きな星のような光が…小さいながらも熱く、シェイルから『闇の第二』を隔ててる様が、空間にくっきりと浮かび上がる。

「…素晴らしい意思だ」
神聖騎士の、声がした。

けれど次に、光竜ワーキュラスが輝き出す。

“止めろ…!
止めろ!!!”
しゃがれた声は、割れ鐘のように空間に響き渡った。

ワーキュラスは神聖騎士に囁く。

“退路を…今暫く断って貰えるか?!
この者の力を著しくぎ取る”

ワーキュラスの声に、神聖騎士は必死に空間に両手を伸ばし、閉じていこうとする空間を押し開く。

“止めろ!!!
ええいその力を手放せ!!!”
『闇の第二』の声は大音量で、雷のようにその場にとどろいた。

けれど神聖騎士は、力比べのように、閉じ行こうとする空間を遮二無二、押し開く。

突如とつじょ、凄まじい風が沸き起こって、神聖騎士のマントが激しく音を立ててはためき、髪が巻き上がる。

がワーキュラスは輝き続け、風はうねるように咆吼を上げ、『闇の第二』は大渦巻おおうずまきとなって激しく抵抗し、ついには…神聖騎士の身に、黒い靄の触手を伝い這わせ、包み込む。

神聖騎士は幾度も光を発し、身を覆い尽くそうとする闇を跳ね退けようとし…。
けれど光竜ワーキュラスの光が神聖騎士を、助けるように包み込んだ、その時。

『闇の第二』のいた空間は、一気に消え去った。

ォォオオオォォォォォォン…。

微かな、唸り声を空間に残して。

崩れそうな身を…膝を折り、支える神聖騎士とディアヴォロスに、ワーキュラスはすまなそうに囁く。

“…無茶をした。
大丈夫だろうか…?
君たち、人間の体は小さくもろい事を、ときに私は忘れる…”

神聖騎士は俯いた、顔を上げ、まだ顔を上げないディアヴォロスを見つめ、囁き返す。

「…私は…大丈夫です。
けれど光を常に身にまとわぬ、人間の身である彼は…?」

ディアヴォロスはようやく、顔を上げる。

「……もう…少しであいつを…『影の民』の第一勢力から引きずり下ろせるほど、力を削げたのに…!!!」

悔しげに声を絞り出すディアヴォロスに…ワーキュラスは悲しげに囁く。

“それをしたら…そなたの身が保たぬ”

その…ワーキュラスの哀しそうな声は、ディアヴォロスを失う事を大変悲しんでいて…。

神聖騎士始め、ローフィスとシェイルですら、ワーキュラスに同情を覚えるほどだった。

神聖騎士は、慰めるようにディアヴォロスに声かける。

「けれど貴方の大切な方シェイルには…もう手出し出来ないほどのダメージを負わせた。
つまりシェイルの、人生を貴方は救ったのですから…」

ディアヴォロスはそう微笑んで告げる、神聖騎士を見つめ、そして…呆けて自分を見つめてる、シェイルに振り向く。

シェイルは…自分の心が、軽くなったのを痛感した。
いつも…恐怖を追い払うことが出来ず、自分と関わる人々を、自分が不幸にするのだと言うい目に、さいなまれていた心が…。

まるで暗雲が去ったみたいに晴れ晴れとし、嵐の後のように、清々しく明るく感じて…。
自分の心を呆けたように見回す。

そして、ローフィスに、振り向いた。

薄暗い闇が、常に背後に居たのに。
小さくても強い輝きで…精一杯の気力で。

ローフィスはいつも、守っていてくれた…。

シェイルは瞳が、濡れるのを感じた。
温かくて熱い涙が湧き上がり…。
顔を下げて俯くと、頬に涙を伝わせ…。
そしてディアヴォロスと、神聖騎士に。
心の中でそっと、ありったけの気持ちを込めて、感謝を告げた。

神聖騎士はまるでそれが聞こえたように頷き
「では、私はこれで…」
そう告げるなり、微笑を残して現れた空間の中へと。
瞬時に身を消した。

ディアヴォロスが、ふら…と身を揺らすのを見て、ローフィス慌ててが駆け寄り、支える。

ディアヴォロスは横で抱き寄せてくれる、自分からしたらかなり小柄なローフィスを見つめ…微笑む。

「…私が…恋敵の君を、斬り殺したいと言ったワーキュラスへの言葉を聞いたら…。
君は私に肩を貸したことを、絶対後悔する」

ローフィスはそう告げられ、チラ…と視線を、鋭く青く輝く瞳で自分を見つめてる、通った鼻筋の整いきったディアヴォロスの顔へと一瞬、向け。
それでもディアヴォロスが、ソファに崩れ落ちるように座るのを、手助けした。

ディアヴォロスは背もたれに背を倒し、目を閉じる。

ローフィスは呆然とそれを見つめ、囁いた。

「斬り殺したい?
俺はあんたにとって…そこまで、強敵か?」

ディアヴォロスはその言葉を聞いて、ぱちり。と瞳を開ける。

ローフィスを見ると…ローフィスは首を捻っていて…更に呟いてた。

「…あんたの視界に俺が映ってる、事すら不思議だ。
まだ…オーガスタスぐらい大物なら、納得行くけど」

それを聞いてディアヴォロスは、ほぐれるように微笑んだ。

「自分が、小物だと思い込んでるのは君ぐらい。
体の大きさより、心の大きさを見るワーキュラスの目から見たら…君はオーガスタスと並ぶ、大物だ」

ローフィスは、すとん。
とディアヴォロスの横に座り、また目を閉じる、ディアヴォロスを覗き込んで尋ねた。

「…嘘で、お世辞だろう?」

とうとうディアヴォロスは目を閉じたまま笑い出し、肩を揺すった途端、痛むのか。
突然、眉を寄せた。

シェイルはそんな、身を挺して自分を助けてくれたローフィスとディアヴォロスを、とても親密な、感謝の眼差しで包み込んだ。


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