若き騎士達の危険な日常

あーす。

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奪還

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 その日の昼食後、ローフィスはようやく掃除から解放され、軽い筋肉痛を覚えて授業をサボり、昼寝を検討した。

けれど酷い、悪寒が走る。
経験で、知っていた。
その原因は、シェイルだと。

ローフィスは授業に向かう一年の列を掻き分け、シェイルを探す。
皆は突然乱入する三年に、何事かと振り向く。

「シ…いや、ヤッケルは?!」

「確か旧第一校舎の方へ…」
そちらに駆け出そうとした時。
背後からヤッケルの仲間の一人が叫ぶ。
「貴方が待ってるって!
シェイルは嬉しそうだった!」

ローフィスは一気に青ざめる。

そして既に廃屋で、今は用具入れになってる旧第一校舎へ走る。

ヤッケルが、向こうからヨロつく足取りで、坂になってる草地を登りながらも叫ぶ。
「グーデンの奴らじゃ無い!
大人だった!」

もうそれだけで…ローフィスにはその意味が、分かった。

背を向け、厩へと駆け出す。

「西へ行くと!
ただそれだけ聞こえ…」

そこでヤッケルは崩れ落ち、けれどローフィスは一瞬振り向くものの、構わず厩へ駆け込み、自分の馬へと寄ると手綱を外して一気に飛び乗り、猛速で駆け始めた。

カッカッカッ!

ローフィスは悪寒を強く感じる方向へと、カンを研ぎ澄まして馬の首を向ける。

『昔一度…。
いやもっと、あった。
目の届かぬ場所でシェイルはさらわれ…。
不安で泣き出しそうな気持ちで俺を呼んでいた』

ローフィスは心の中で叫ぶ。
“もっと…呼んでくれシェイル!!!
俺に居場所が、分かるように!”

二股を左へと、馬の首を向けて拍車をかけた、その時。
脇道から一騎。
猛速で駆けて来る黒馬。

長く縮れた黒髪が背にたなびく。

“ディアヴォロス!”

ローフィスは脇道からこちらの道へと入り、横に併走するディアヴォロスとまるで、速さを競うように馬を飛ばし続けた。

どちらも、言葉もかけず無言。
ひたすら速度を上げ、手綱を握る。

やがて三股に分かれた道。
ディアヴォロスはくい。
と馬を、一番右へと向け、ローフィスも無言で馬を右端の道へと向けた。

凄まじい速度で駆け続けるディアヴォロスに、ローフィスは半馬身遅れ、それでも付いて行く。

やがて人気のまるで無い森の小道へ入り、小川を抜けて草原へと出、そして茂みの奥の、細い道へと入ったのち…木々の生い茂る一軒の屋敷へと、辿り着いた。

ディアヴォロスが馬から駆け下り、塀沿いに中を伺う。
ローフィスは直ぐ背後に立つと、古びたレンガの塀に覆われ、蔦の張り付く古い屋敷を見上げる。

一階平屋。
屋根も黒く古い。

やがて木の枝が塀に届く場所を見つけると、ディアヴォロスは飛び上がり、木の枝を掴んで身を大きく前後に揺らし、塀を飛び越え中へと消えた。

ローフィスは身軽に木に飛び、蹴って踏み台代わりにし、高い木の枝に掴まると、ディアヴォロスがしたように思いっきり前後に身を揺すって反動付け、塀の中へとジャンプした。

すたっ!
着地するとディアヴォロスはもう、建物の陰に身を潜めている。

蔦の這うレンガの壁を、進む。
足元は、ぼうぼうと草が生え、殆ど手入れもされてない。

「いやっ!
嫌っっっ!」

叫ぶ声が足元から聞こえ、ディアヴォロスもローフィスも同時に屈み込む。

壁の下の方に、横に長い小窓。
地下室の、明かり取りだった。

覗くと暗い地下室で、シェイルが男二人に衣服を剥ぎ取られていた。

ディアヴォロスは一気に戻り、屈んで通り過ぎた、窓へと肘を思いっきり突き入れ、ガラスを割る。

ガシャン!

派手な音を立て、それでもディアヴォロスは割れたガラス窓から中へ、身を屈めマントで身を守り、窓枠の手前のレンガに足を乗せ、飛び込んで行く。

ローフィスはディアヴォロスが室内へと消えた後、下の突き出たガラスを足で蹴って払い、窓枠の手前のレンガに手を付いて中へと飛び込んだ。

正面扉から、男が何事かと室内に入って来る。

突然、扉の後ろに身を隠したディアヴォロスに襟元掴まれ、前に引き倒され…ディアヴォロスの手刀しゅとうで首の後ろを叩かれ、気絶して床に転がされた。

ローフィスは直ぐ、扉に駆けて身を隠す。

ディアヴォロスは反対に、扉から廊下へ駆け出ると、そのまま姿を消すから。
ローフィスも扉の陰から出て、ディアヴォロスの背を追った。

ディアヴォロスは邸内を、知ってるかのように先を駆ける。
一室の扉を開けると、地下へと続く階段が直ぐ見え、一気に駆け下りて行く。

階段の下は薄暗く細い廊下で、先に行くと左右に扉があり、左の扉から、シェイルの悲鳴が聞こえた。

「止めて!
放して…嫌っ!
嫌!!!」

ばんっ!

ディアヴォロスが扉を開け様、駆け込んでいくからローフィスも同様、突っ込んで行った。

シェイルに屈み込む二人の男の内、一人が素早く立ち上がり、けれど突進して来るディアヴォロスに拳で腹を突かれ、前に身を折る。

ローフィスはシェイルが起き上がらぬよう、押さえつけてた男が、刃物を出してシェイルの首に、突きつけようとする様が視界に映るなり、瞬時に短剣を投げた。

「う゛っ!」

男は手首に刺さる短剣の痛みで、刃物を手から滑り落とす。

「…………………っ!」

大きな濡れたグリンの瞳をローフィスに向けた途端。
シェイルは咄嗟身を起こし、そのままローフィスに駆け込んで、胸に突っ伏す。

ローフィスは飛び込むシェイルの重みでがくん!と後ろに身を揺らしながらも、シェイルの裸の背を抱き止めた。

ディアヴォロスは短剣を落とした男の胸ぐらを掴み、顎に一発拳を入れて沈め、腰を起こす。

素早くマントを脱ぐと、ローフィスの胸に顔を埋めるシェイルの背にそっとかけ、囁く。
「行くぞ」

ローフィスは胸にしがみつく、シェイルの耳元に顔を寄せて囁く。

「シェイル。
早く出ないと、敵が駆けつけて来る」

シェイルは顔を上げ、濡れたグリンの大きな瞳をそう告げるローフィスに向け、それでもしっかりした表情で、コクン…!と小さく、頷いた。

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