若き騎士達の危険な日常

あーす。

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愛の誓い

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 皆はグーデンに道を空けなかったから、グーデンは乱暴に前を塞ぐ、自分より大きな男らを押し退ける。

ディアヴォロスは振り向くと、大声で叫んだ。

「グーデン!
まだもう一つ」

グーデンはその声を聞いた途端、弾かれたように身を揺らし、足を止めて振り向く。

ディアヴォロスは視線を落とすと、ローフィスの背後のシェイルを見つめて手を差し伸べ、差し出されたシェイルの手を優しく握って、自分の目前もくぜんへと引き寄せる。

そして…前に立たせると、ゆっくり膝を折ってひざまずいた。

見物人ら全員が、シェイルの前で跪くヴォロスを見て、ぎょっとした。

けれどディアヴォロスはシェイルの手をそっと握ったまま、こうべを垂れて礼をし、そしておもてを上げ、高らかに声を発した。
大食堂内に響き渡る、低音の美声で。

「私は、この者へと。
『愛の誓い』を、騎士の名のもと誓う。
誓い道理、例えこの者から愛を返して貰えなくとも。
私は生涯この者を愛し、護り、この身を全て捧ぐとかたく誓う。
ここに集う全ての証人の御前みまえで。
私は彼…シェイルに、『愛の誓い』を、たった今立てる。
…私のこの誓いに、嘘偽うそいつわりは決して無い」

長く背を覆う黒く艶やかな縮れ毛。
膝を折るディアヴォロスの纏う、床に垂れる金刺繍入りの黒の豪奢ごうしゃなマント。
整いきって美しく、そしてとても男らしくも高貴な面立ち。
浮かぶような…グレーを帯びたグリンの瞳に真っ直ぐ見つめられ、そう告げられて、シェイルはびっくりし、目を見開いてディアヴォロスを見つめ返した。

片膝を床に付いてそう誓う、王族であり騎士として最も高貴な男が、自分のような…ひ弱な男に膝を折り、そして…。
彼の身を捧げる決意を、衆人環視の前で誓うだなんて!
けれど心が震える程、真摯しんしな真心が伝わってきて…。
ディアヴォロスに握られた手は、微かに震っていた。

ディアヴォロスを見つめ返すシェイルは…戸惑うような表情を見せていた。
銀のふわっとした髪を肩に流し、あどけなく見える程愛らしくも綺麗な色白の顔で、大きく美しいグリンの瞳をずっと、誓いを立てるディアヴォロスに向けている。

横に立つローフィスの心の奥底に、チリ…と嫉妬の炎が微かに燃えた。

完璧な、絵のように見えた。
この世に存在していることがまれな二人の、現実離れした、とても美しい絵画。

周囲はしん…と静まりかえり、誰一人言葉が出ない。

…なぜなら『愛の誓い』とは、騎士の誓いの中でも最も重い誓い。
心から愛する相手に捧ぐ誓いで、生涯を通して、愛する者に自分の心を捧げると言う真剣な思い。
もし破れば…騎士として最も恥ずべき者と、最低の汚名を被るから、よっぽど愛してる者に対してでないと、おいそれと口に出来ない“誓い"だった。

しかもこの誓いは、相手に同様の愛を返して貰えなくとも…。
つまり誓いを立てた者の、一方的な思いだとしても。
それでも愛し続けると言う、見返りを求めぬ騎士の、ストイックな誓い。

誰もが、恋をした女性に誓いをねだられても、例え恋にのぼせ上がってる真っ最中だろうが、騎士であれば口にするのを躊躇ためらう程、真剣な誓い。
だからこんな大勢の前で誓うなど、よっぽどの覚悟が無ければ、出来はしない。

誓いを耳にした相手が一人なら、のちに誤魔化しも出来よう。
けれどディアヴォロスは、嘘も誤魔化しもしない決意だからこそ、この全校生徒がつどう場で、シェイルの目前に跪いてる。

皆、ディアヴォロスが本気なのか?!
と内心自問自答し続け、思わず彼を凝視した。

静まり返るその場で、ディアヴォロスはシェイルの華奢な白い手を取ったまま、ゆっくりと立ち上がる。
その時、彼が真剣なのだと示すように、浮かぶような淡い瞳は、青くキラリと光った。

立ち上がるディアヴォロスはそっ…と手を取ったシェイルの、華奢な白い手の甲に口づけ、その自分のめていた指輪を外し、シェイルの手に握らせる。

「これは誓いの指輪。
万が一私がこの誓いを破った時。
君はその指輪を私に突きつけ、誓いを破った者と私をののしり、騎士としての最低の汚名を着せることが出来る」
「そんなこと…しません!」
咄嗟、シェイルは叫んだけど、ディアヴォロスはほぐれるように、美しく微笑んだ。

シェイルは…高貴で崇高で、男らしい美しさをたたえたディアヴォロスのその微笑を見て…恐れ多くて泣き出しそうになった。

けれどディアヴォロスは
“大丈夫だから”
そう言うように優しく…そして明るい透明な“気”でシェイルを包み込んで、微笑む。

次に顔を、人混みを抜けた場で“信じられない”と言う顔をして立ち尽くす、グーデンへ向け、叫んだ。

「シェイルの意思に反し、彼に無断で触れようものなら!
君は間違いなく、私の敵に回る!」

食堂内の、誰もがそれを聞き…内心ディアヴォロスに覚悟に恐れ入った。
ディアヴォロスはシェイルをグーデンから守るため。
自ら重い、騎士としての愛の誓いを立ててまでも、グーデンを牽制したのだと分かって。

グーデンはその時。
誰が見ても真っ青に見えた。

がたがたと大きく震え出す。

オーガスタスは目前で呆然と立つ、アルシャノンとドナルドに小声で呟く。
「お前ら、行かなくていいのか?」
そう言ってグーデンを指さすと、二人は突然はっ!と気づき、慌てて見物人を押し退け、グーデンの元へ駆けつけた。

アルシャノンとドナルドに両側から支えられるように食堂から連れ出されるグーデンを眺め、ディアヴォロスは声を張る。

「ローフィスへの罰は?!」

その問いに、校長は笑顔を取り戻し、返答した。
「二年宿舎の掃除を、三日間!」

見物人らはどっ!と笑いこけ、オーガスタスの友人らはローフィスを取り巻き、ローフィスの肩や背を叩いて祝った。

ディアヴォロスは周囲を見回し、叫ぶ。

「楽の音が途切れたようだ。
再開して、皆で踊ってくれ!
残念だが私はまだ、用がある。
ゆっくりと君たちと祝いたいところだが…」

校長は、察して頷く。
「まさか…この為、だけに。
国王主催の舞踏会を、抜け出していらした?!」

ディアヴォロスは微笑む。
「私にとっては、大事な事なので。
けれどそろそろ戻らねば、不在がバレる。
時間を取らせて、悪かった!
大いに楽しんでくれ!
私の分までも!」

ディアヴォロスがそう叫ぶと、全校生徒が一斉に、わっ!と湧く。

途端、活きの良い楽の音が鳴り響き、皆一斉に空いた場所でステップを踏み始めた。

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