若き騎士達の危険な日常

あーす。

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裁定者の到着

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 一気にオーガスタスが、拳を横に引き上げる。
がその時。
厳しい声が大食堂に、響き渡った。

「ローフィスの処分判定は、私が引き受ける!!!」

一斉に食堂内の全員が。
声の主に振り向いた。

戸口に腕を付き、息を切らすディアヴォロスの姿が、四つある扉の一つに伺い見えた。

大食堂内の誰もが、ディアヴォロスの登場にぱっ!と顔を輝かせる。

その時、校長もが人混みを掻き分け、グーデンの元へと辿り着いていた。

ディアヴォロスは息を切らしながらも、食堂内へ入るとその長い足で一気に、騒ぎの中心へと駆けつける。
ディアヴォロスが通ると、生徒らは揃って道を空けた。

グーデンは苦手なディアヴォロスが、こちらにやって来る姿を見て慌てふためくが、背後に立つ校長に道を阻まれ、逃げられず唇を噛む。

アルシャノンはグーデンに振り向く。
グーデンは首を横に振って、“引け!"と合図を送るしか無かった。

オーガスタスはまだ、黄金きんの瞳を輝かせていたけれど、アルシャノンが一歩後ろに下がったので、荒い息を吐き出した後、拳を下げた。

間もなくディアヴォロスが、両者の中間に立つ。
冷たい外気を纏い、縮れた長い黒髪は乱れ、息を弾ませ…マントを羽織ったその姿は、馬を早駆けさせ駆けつけたのだと、一目で分かった。

ディアヴォロスはオーガスタスの横に立つ、ローフィスを見、その背後に縮こまる、銀の髪の華奢なシェイルに哀しげな視線を投げる。
そしてグーデンと背後に立つ、栗色巻き毛で青い瞳の威厳溢れる校長に、一つ頷いて声を発した。

「私に、任せて貰えますか?
糾弾者のグーデンは、私の同族の者ですから」

校長は、無言で頷く。
が、グーデンが逃げ出さぬよう、その場を動かなかった。

ディアヴォロスは校長の承諾を取った後、アルシャノンの背後に隠れるように立つ、グーデンに顔を向ける。

「ローフィスが武器を持って、召使い通用口から侵入したと。
それが彼の退校理由だそうだな?」

グーデンはそれを聞き、顔を上げる。
「その通りだ」
「ではローフィス。
君がそうした、理由を聞こう」
「聞く、必要があるか?!
どんな理由があろうと!
王族の私室に武器を携帯して入れば、退校で当たり前!」
グーデンは間髪入れず、高らかにそう叫んだ。

が、ディアヴォロスはぴしゃり!と言い返す。
「ああ確かに、狼藉者に限ってはそうだ。
ローフィスが狼藉者かどうかの判定は、まだこれからだ!
彼の、侵入理由を聞こう」

グーデンは明らかに、その場を逃げたしたがった。
もぞ…と居心地悪げに身もがき、背後に立つ障壁の校長に、苛立つ様子を見せたから。

見物人達は一斉に、不利に回るグーデンの姿を、ニヤついて見守った。

ディアヴォロスに見つめられ、ローフィスは声に怒りを滲ませながら言い放つ。
「俺の義弟、シェイルを強引に拉致監禁しやがったからだ!
しかも不埒な性的対象の、愛玩にしようとしやがった!
いいか!
俺はこの先どんな相手だろうが!
シェイルにそんなマネをしやがったら、短剣で殺しても後悔しない!」

きっぱり言い切るローフィスの言葉の直後、グーデンはわなわな震ってローフィスを指さし、わめき始めた。
「どう考えても、狼藉者だ!
私を、殺す気だったんだぞ?!
退学どころか極刑の、死刑だ!」

けれどディアヴォロスはジロリ。
と冷たい視線をグーデンに向け、問い正す。
「…彼の義弟、シェイルを本人の意に反し、拉致したのか?」
「意に反したことなどしていない!
シェイルは私の愛玩だ!」
「ふざけるな!!!」

ローフィスの怒号が響き渡る。

ディアヴォロスはローフィスの背後の、シェイルに視線を向けた。

一気に厳しさを取っ払い、優しい表情をたたえて尋ねる。

「君はグーデンに拉致されてどう感じた?」

シェイルは宝石のような美しいグリーンの瞳に涙を浮かべ、首を横に振った。
「凄く…嫌でした」

か細い…その声を聞いて、場の全員がシェイルに同情を寄せる。

「では、ローフィスが姿を現した時は?」

ディアヴォロスにそう問われた途端。
シェイルはぽろぽろと涙を頬に、伝わせた。
「うれし…かった…けど……。
僕のせいでローフィスが、怪我したり、酷い目に合うの…が心配…で………。
僕…いっつも、ローフィスに守って貰って…。
なん…に…も…。
何一つ、ローフィスにも返せないのに、いつもローフィスばっかり…僕のせいで…大変な思い…し………て………」
「だから、大変じゃ無い!!!
俺は兄貴だから当たり前の事をしてるだけだ!!!」

叫ぶローフィスに、みな一斉に心の中で拍手をした。
けどオーガスタスの悪友らは実際、拍手を始めた。

ぱちぱちぱちっ!
「エラいぞローフィス!!!」
「立派な兄貴だ!」
「俺なんて、生意気な弟殴る事ばっか考えてたぜ!」

オーガスタスはつい、はやし立てる悪友らに、眉下げて決まり悪げに振り向いた。

が、ディアヴォロスは微笑む。
「その通りだ。
君はちゃんと自分の家族を守るため、すべきことをした。
決して、狼藉者では無い」

そう告げてグーデンに振り向く。
「君は、はき違えている。
身分が低い者の身の処し方の決定権まで、自分にあると思うのは間違いだ。
ローフィスは家族を守ったに過ぎないし、シェイルは君の愛玩では無い」

グーデンはまだ。
言い返そうとディアヴォロスを見た。
が途端、ディアヴォロスの中で輝くワーキュラスに睨み据えられ、弱々しい表情で顔を下げる。

「二度と意に沿わぬ者を、強引に拉致などしてはならない。
もし次にすれば…君は君の身分に相応しい、特待宿舎に居を移すこととなる」

グーデンはきっ!
と、ディアヴォロスを睨んだ。

ディアヴォロスはグーデンを、冷たい瞳で見返す。
「剣の講義も乗馬の講義も免除を受けているのなら、特待生としての自覚を持つべきだ。
ここでは皆、近衛に上がったさい国を守る使命を果たそうと、真剣に剣の腕を磨いている。
それが出来なければ君の方が。
ここを去るべきだ」

おおおおおおおっ!!!

見物人らが声を上げた途端、グーデンは深く顔を下げ、後ろに振り向き校長を、押し退けようとした。

校長はグーデンの腕を掴み、囁く。
「残念ながら武器を携帯したローフィスは、校則違反の罰を受ける。
が、退学処分は決して無い。
承知されたか?」

グーデンは捕まれた腕を振りほどき、焼け糞で叫んだ。
「分かった!
それでいい!」
そして校長の横をすり抜け、見物人の人混みを押し退けて、大食堂の扉へと向かい始めた。

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