若き騎士達の危険な日常

あーす。

文字の大きさ
上 下
100 / 171

ディングレーの家庭の事情

しおりを挟む
 ローフィスはディングレーが気を利かせてくれて、シェイルをグーデンから庇い、食堂から出て行く姿を、ほっとして見た。
オーガスタスがその様子を見て、声を落として囁く。
「で、シェイルとはあの後話したのか?」
ローフィスが、振り向く。
その真顔で、オーガスタスは察して呟く。
「…気まずい、まんまか」

ローフィスは顔を背け、独り言のように言った。
「…もうディングレーに世話になる必要も無いから…今夜俺だけ自室に戻っちゃ…マズいと思うか?」
オーガスタスは肩すくめて言った。
「シェイルに聞けば?」

ローフィスはそう言ったオーガスタスの顔をじっ、と見、その後大きなため息を吐き出した。

午後の三年の講義は乗馬で。
オーガスタスはローフィスに併走し、後ろをぶっちぎりがんがんぶっ飛ばすローフィスに付き合った。

講師すら置き去りにし、目的地の草地に着くと、ローフィスは馬から飛び降り…馬が水を飲める川縁に繋ぐと、そばの草むらに仰向けで倒れ込む。

オーガスタスも隣に横たわると、一緒に斜陽の…赤く染まる雲を眺めた。
「で、この先ディングレーにシェイルの護衛を一任する?」

ローフィスは大きなため息を吐いて、無言。
だからオーガスタスは代わりに言った。
「グーデンのヤツ、もっとゆっくりしてくりゃいいのに?」
ローフィスは、頷く。

オーガスタスは更に言った。
「あいつに渡すぐらいなら、先に俺が頂こう?」
ローフィスは即答する。
「それは無い」
「だがシェイルはそうすればうんと、安心する。
例えこの先また、グーデンに拉致らちられようが」
「それは阻止する」

オーガスタスは…頷いて問う。
「この先、ずっと?」
ローフィスはまた、ため息吐くと、気の進まない様子でうめく。
「ディアヴォロスに頼もうと思ったのに…そっちが姿をさっさと消して、グーデンの糞が姿を見せる」
「最悪だな?」
そう聞くと、ローフィスは大きく、頷いた。

 一年は歴史の講義で、教室内の殆どが上の空。
なので講師はため息と共に、『教練キャゼ』がいつ設立されたのか。
剣の練習試合はいつから開催されたのか。
を次々指しては生徒に答えさせていた。

「では下級ながら勝ち上がった例は、どれだけあるか?
シュルツ」
「…ええと…最初がギルムダーゼン東領地の大公子息で、二年ながら三年を下した。
それから…「左の王家」の伝説のデルドムンドが…一年ながら最上級生を打ち負かした。
デルドムンドはディアヴォロス同様、光竜をその身に降ろした者と言われている…。
ええと後は…シュテインザイン西領地の大公子息が三年で四年を下した。
ええと…」
「では近年では?」
シュルツはぱっ、と顔を上げて即答した。
「一年のディアヴォロスが最上級生「右の王家」アルファロイスを下した!」
けれどその時、他の生徒の声が飛ぶ。
「違うだろう?
シェンダー・ラーデン北領地大公子息ローランデが、二年、三年を下した!」

全員が、どっ!と湧く。

だが講師は、続けて尋ねる。
「勝者の特徴は?
フィンス」

がたん。
フィンスは立ち上がると、答え始める。
「「左の王家」の、光竜降ろす者か、「右の王家」の者。
最上級でディアヴォロスに負けたアルファロイスは、一年の時最上級生を下しています。
その後も勝ち続けてる。ディアヴォロスに負ける、までは。
…もしくは、地方大公子息。
「左の王家」の者は光竜降ろす者と、ほぼ限定されているけれど、「右の王家」の者と地方大公子息は、時に飛び抜けて強い者が存在する」

「模範解答だ。
飛び抜けて強い者は二通りある。
天性の才能があり、剣を握るために産まれて来た者。
これは主に、「右の王家」の者を指す。
時に地方大公子息にもあてはまる。
が、「左の王家」の光竜降ろす者、また地方大公子息は、必要によって普通の人間が、音を上げる程の鍛錬を行い、その絶対的な強さを不動の物とする。
だが両者に共通するのは、普通の騎士らとは、剣を握ってる時間が圧倒的に長い点だ。
…ただ握ってりゃいいって事じゃ無い。
その点は、分かってるな?
ウッテンベルク!」

指されたウッテンベルクは項垂れる。
「俺今夜から、剣握って寝ようとか、思ってた」
どっ!
一斉に、笑いが湧いた。

鐘が鳴ると、講師は宿題を出し、皆本を持って講堂の席を立つ。

入り口にディングレーが姿を現し、シェイルは俯く。
また…グーデン一味に狙われる身となった事を、痛感して。

ディングレーは項垂れて目前にやって来る、シェイルを見て尋ねる。
「…講師に指されてなんか、とんまな返事して、みんなに笑われたのか?」

一緒に来たローランデとヤッケルが、そう問うディングレーを呆れて見上げる。

結局ヤッケルが、王族相手にも怖じずに、言って退けた。
「当然グーデンの生っ白いニヤケ顔見て、気分を害してる。
俺の兄貴があいつみたいなコトしたら、俺だったら殴りかかるけど」

ディングレーはそれを聞いて、苦しげに顔を歪めた。
そして囁く。
「…父と母はどっちも王族だが…母の実家の方が格上で、グーデンは母のお気に入りだ」
「…だから…殴れない?」
ディングレーは、頷いた。

一行はディングレーの私室に向かう。
歩きながらもヤッケルは、尚も聞く。
「…で、お父上はよく、ロクデナシを可愛がる奥さんと離婚しないんだな?」

フィンスとローランデは、まだそう家庭環境を尋ねるヤッケルに、ハラハラしながら後ろを歩き、見守っていた。

が、ディングレーは俯いたまま小声で答える。
「とっくに別居してるから。
離婚も同然だ。
母は、父や俺のようなゴツい男は苦手で、グーデンのような優男が好みだから」
「…それでなんで、結婚したの?」
「だよな。
俺も親父にそう聞いた。
威厳の塊で凄く近寄り難いし話しかけにくいが。
どーしても知りたくて、餓鬼の頃」
「…ディングレーは、お父さん似なんだな?」
「そうか?
俺は話しやすいし近寄り難くないぞ?」

背後でローランデとフィンスは顔を下げ、こっそり囁いた。
「ディングレーって…」
ローランデが言うと、フィンスも頷く。
「…自分のこと、分かってませんよね」

「それで?
お父さん…なんて言ったの?」
シェイルが我慢出来ずに話を促す。
「政略結婚で、親父はそれでもお袋が、自分に惚れるとうぬぼれてた自分が馬鹿だったと。
それで俺に…例え政略結婚だろうが、相手が自分に惚れてた場合だけ、結婚しろと」

「……………………………………」
シェイル、フィンス、ローランデ。
更にさっきまで喋ってた、ヤッケルまで黙り込むので、ディングレーはつい四人を、凝視した。

「…親父なりの、精一杯の忠告だと思うが?」
「親父さんってディングレーと顔とか、そっくり?」
シェイルに聞かれて、ディングレーは頷く。
「親戚の婆さんはそう言うな。
俺、将来あんなゴツくなるのかな?」
聞かれても、ディングレーの父親を見た事無い皆は、頷くことも否定も出来ない。

「…お父さんとは…あんまり一緒じゃ無いの?」
シェイルに問われ、ディングレーは頷く。
「高等法院にいるから。
仕事で出ずっぱり。
一度俺、親父の妹に当たる叔母さんから…そこら中の親戚に、聞いて回った。
お袋が嫌で帰って来ないんじゃ無いのか?って」
「…そしたら?」
シェイルに聞かれ、ディングレーは肩すくめる。
「違うらしい。
法院内でも激務の部署で、東の聖地の監督官もしてるから。
東の聖地って西の聖地と違って、光の王の従者の末裔が住んでるだろう?
聖地の結界内だと能力使いたい放題な上、荒っぽい能力者ばっかで、しょっ中能力使っての喧嘩が絶えないから、毎度大騒ぎ起こして大変なんだそうだ。
空間から火出して、喧嘩相手は氷出して。
そこらが凍り付いたり、大火事になったりするらしい…。
将来俺は絶対そんな奴らを監督する仕事は嫌だ」

「…ここの、三年みたい?」
ぼそっ…とシェイルが尋ねると、ディングレーは声も無く笑った。
「かもな!」

フィンスとローランデは顔を見合わせ合い、ヤッケルも振り向いて二人に加わり、三人一緒に呆れ果てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

処理中です...