若き騎士達の危険な日常

あーす。

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どこまでも挑みかかる青い瞳

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 ディアヴォロスが剣を下げ、ローランデの前に立つ。
その姿を目にし、場内は次第に静まり返る。

ディアヴォロスは遠目で見ると、ほぼ黒の衣服。
襟や胸合わせに茶の飾り刺繍の付いた、黒シャツとズボン、そして黒のブーツ。
一方ローランデは、白に控えめな金刺繍が縫い込まれたシャツと白のズボン。
グレーのブーツを付けていた。

中央に立つ二人はくっきりと、黒と白に分かれて見える。

ディアヴォロスの、正面に立つローランデはカッツェの時と違い、体から力の抜けた自然体。
緊張する様子も、固くなるさまも見られない。

一方向かいに立つディアヴォロスは、ローランデより頭三つほど高い背。
肩幅もあり胸幅も広く、腕も足も長い。
うわつく様子は微塵も無く、落ち着き払って静かに向かい立つ、ローランデを見つめてる。

場内は固唾を飲んで、ディアヴォロスの瞬殺を待つ。

「始め!」

講師の声が飛ぶとほぼ同時。
ローランデが剣を下げたまま、ふわ…と揺れたかと思うと、ディアヴォロスへ向かい、突っ込んで行く。

どっっ!
場内は一気にざわつく。
「マジか?!」
「あいつ、無謀すぎ!!!」
「正気か?!」

上級らが驚愕に思わず腰を浮かす中、ローランデはディアヴォロス目がけ剣を振り下ろす!
ディアヴォロスは見えない程の速さで肩を後ろに引いてけ、肘を上げて剣を持ち上げるさまが見え、もう次の瞬間、振り切っていた。

ディアヴォロスの瞬速の剣を、ローランデは上体を傾け、ぎりぎりで避ける。
直ぐ腰を落として駆け、更に間合いを詰める。
その動きも素早すぎて目で追えない中。
ローランデの淡い栗毛と濃い栗毛が交互に混ざる、真っ直ぐに近い髪が流麗になびくさまが、残像として皆の目に映る。

「…避けた!」
「紙一重で避けやがったぞあの一年!!!」

咄嗟ローランデは、ディアヴォロスに剣を突き刺す。
がローランデの剣は、ディアヴォロスの突き出す剣に合わさる前、後ろに引かれた。
しゅっ!!!
ディアヴォロスの剣が先にローランデに届く。
ローランデの、髪が散る。
ディアヴォロスの剣は、首を傾け避けたローランデの、顔ギリギリをすり抜けた。

どっっ!!!
「また…避けたぞあの一年!!!」
「どっちだ?!奴の実力か?!ディアヴォロスの手加減か?!」
「馬鹿!
加減して顔に、振るか?!」
「顔に振ったから…むしろディアスは、当てなかったんじゃ無いのか?!」

が外野の思惑など聞こえてないかのようにローランデはもう、身を下に沈め、更に間合いを詰めようとする。
ディアヴォロスは、何気に剣を振り下げる。

再びディアヴォロスの剣が、下から潜り来るローランデに届く、前に。
ローランデは床を転がり避けた。
おおっ!!!
「剣を下げた、だけに見えたのに!」
「見えた?!横に振ったの?!」
「なんで見えないのに避けれる!!!」

場内は騒然。
見ている全員が、浮き足立つ。

「待てよ、ディアスはどれだけ剣振った?!」
「まだ負けてない…!あの…一年!!!」
「あいつ立て続けに、避け続けてる!」

皆、ごくり。と唾飲み込み、中央を見入る。

オーガスタスはため息吐いた。
「…だから言ったのに?」
ローフィスに尋ねられ、オーガスタスは頷いた。
「大層な、手練れだ。
それにあの優しげな姿とは裏腹に、実戦で幾人も斬り殺してる」

ローランデが間合いから横にずれて転がり起きる先、ディアヴォロスの豪速の剣が振り下ろされる。
剣を持ち上げ、そして下げきったやいばが、銀に光って見えるだけ。
その間は速すぎて、剣の軌道は目で追えない。

皆、ローランデが床に手を突いたまま、剣を突きつけられ固まる姿を想像した。
がローランデはもう手を付いて更に身を床に着く程屈め、ディアヴォロスの剣を避けきったたのち、身を低くしたまま起き上がり、横に滑り出す。

おおおおおっ!!!

「また…避けた?!」

場内の皆は目を見開き、まだ止めを刺されず髪をなびかせ駆けるローランデの姿を、信じられないものを見るように見つめる。

素早く身を返し、ディアヴォロスの背後に回る。
一瞬剣を突き出し、ディアヴォロスが振り向くと直ぐに引いて斜め後ろに歩を移し、今度は思い切り、振り下ろす!
ディアヴォロスは身を斜め後ろに傾け、がっ!!!
と、ローランデの剣を、持ち上げた剣で叩き払った。

黒く長い縮れ毛が、ばっ!と散る。
射抜く程鋭い、グレーの瞳。
敵を見据える激しい野性味。
ぞくっと鳥肌立つほど男らしい、ディアヴォロスの初めて見せる表情に、皆言葉も無く見惚れる。

ローランデは弾かれた剣を直ぐ手元に戻し、下に沈む。
ディアヴォロスの剣が瞬時に、お返しとばかり振り下ろされていた。

今度こそ、斬られる!!!

皆ため息交じりに、椅子に浮かした腰を落とそうとした。

が、ローランデは身を斬る剣を避け、床に真っ平らに突っ伏した。

おおおおおおおっ!!!

両足真横に広げ、上体をも床に着け。
文字道理、床と一体になって避けきる。

どぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
「嘘だろう?!」
「もう決まったと思ったのに!!!」
「避けた?!
あれを?!」
「あり得ない!!!」
上級らは信じられない程体の柔らかい、ローランデの避け技に驚愕の声を上げ続ける。

が、それだけ床にぺったり身を付けてるのも、ほんの僅か。
もう身を起こし、立ち上がってその場から歩を移す。
ディアヴォロスは更に剣を振ろうとし、ぐっ!と力入れ振る剣を止め、相手の移動先を見据えていた。

ローランデはディアヴォロスの周囲を、足を横に滑らせ移動する。
隙を狙いながら間合いを少しずつ詰め、一時も止まらずに。

ローランデの青い瞳が、くっきりと見てる者全ての視界に浮かび上がる。
怯む様は微塵も無く、ディアヴォロスを見据え挑みかかる青い、青い瞳。

シェイルは思わず…ローランデの果敢な勇姿に感激が込み上がり、両拳を口元に持って行く。
ヤッケルが気づいて、掠れた声で囁いた。
「…凄いな」
けど頷いたのは、中央で一歩も引かず『今世紀最強の剣士』と呼ばれるディアヴォロス相手に果敢に挑み続けるローランデを、見つめたままのフィンスとシュルツ。

ディアヴォロスが、剣を振り上げる様を今度は誰もが、はっきりと見た。
斜め上に肘を上げ、そこから一気にローランデの進む軌道めがけ、振り下ろす。

ローランデは歩を止めぬまま背を後ろに反らし、ギリギリで避ける。

おおおおおおおっ!!!

白いシャツに銀の刃が掠るほど近く、ぎらりと光る様を誰もが驚愕の内に目にし…。
それでもまだ、ディアヴォロスとの間合いを詰めようと、周囲を移動しながら隙を狙うローランデを、最早もはや奇跡のように見つめる。

「………おい…!
おい、あいつ本物だ!」
「今まで誰があれ程、ディアスと戦えた?!」
「あの一年、見かけより恐ろしく度胸据わってるぞ!!!」

おおおおおっ!!!

ディングレーは気づくと、立ち上がってた。
間合いに斬り込んでいっては、引かされる。
がどれもギリギリで避けながら…ローランデのどこまでも澄みきった青い瞳は、挑む事を止めない…!

「い…行け!
頑張れ!」

一人が、思わず叫ぶ。

ローランデの、流麗な髪が横になびく。
滑るように歩を横に移しながら、また瞬時にディアヴォロスへと、果敢に斬り込んで行く。

おおおっ!!!

今や場内の男達は、興奮で熱狂していた。

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