若き騎士達の危険な日常

あーす。

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予想外

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 ディングレーは先に待つ、ローランデの目前に立つ。
相手を見つめる、ものの、その心は…。

今だディアヴォロスの振った剣が視界に残り、離れない。

ディアヴォロスに頼み込んで、彼が修行に出かける山への同行を許された。
けれど
“決して助けない。
自分一人で乗り切る事"
を条件として出され、その過酷さを思い知った。

食料は持たない。
欲しければ自分で捕る。

自然の中で、動き回る鳥や兎や鹿など、そう簡単に捕らえられない。
ましてや…ディアヴォロスは大抵、狼からその獲物を横取りして食していたから…。
つまり腹を空かした狼らと、戦って奪い取らねばならない。

最小限の食事。
大狼の食事時に、群れに斬り込んでいく。
狂気の沙汰だと思った。

一瞬油断しただけで怪我を負い、動きが鈍れば自分が大狼の餌…。
茂みの中から彼の戦いを見ているだけで…恐怖で竦んで、出て行けなかった。

だから…彼が狼から奪い取った鹿の足を手づかみで戻り、どさっ!と草地に落とし、火を起こし始め。
焚き火で炙り食べている間も空腹で…。

お情けで僅かな肉を、分けて貰う惨めさも味わった。

それで終わりじゃ無く森を更に進み、人が足を踏み入れる事の出来ない、険しい尾根へと登っていく。
そして…以前アースルーリンド中を縄張りにしていた凶悪な獣らの地に足を踏み入れ…その恐ろしい敵と戦い、獲物を奪う…。

その時、一度だけ…。
いや、その後も二度。三度と、彼に助けられた。
自分は足手まといで、助けてたりしてたら自分が危ない。
そんな危険を冒してまでも…ディアヴォロスは助けてくれた。

そして尾根を降りた時、言われた。
「二度と、連れて来ない」

一言ひとことも…言葉を返せなかった。
だってディアスは…自分を助けたため、あちこちに怪我を負っていたから。

血の匂いは、獣たちを引きつける。
下山する間、幾度も幾度も…狼や時に数少ない、虎にすら襲われた。

ディアスは怪我をしていながらも全て殺し、無事生還した。

それだけの恐ろしい場所へ、たまにふらりと出かけては…帰ってくる。
誰もが彼が、そんな…命を簡単に無くす場所へと、出かけてるだなんて思ってない。

優雅な宮廷舞踏会で、ゆったり微笑む彼を皆が頬染めて迎える。
男らしい美しさ。
長身で優雅で高貴な…彼の姿に皆、見惚れる。

だが誰も、知りはしない。
極限の地で、ぞっとする程野性味を帯びた、彼の鋭い眼光を。

ディングレーはつい…自分が戦う相手はオーガスタスだと。
唐突に思い出す。
オーガスタスを倒せば自分が。
この場でディアスと対戦出来るのだと。

「始め!」

講師の声と共に、ディングレーは今だディアヴォロスと戦う自分の姿を脳裏に思い描いたまま…剣を、振り上げた。

相手は小柄な一年。
多分、体格のハンデを素早さで埋めてくる。

だからディングレーは、剣を持ち上げたまま相手の出方を待った。

けれどディアヴォロスと戦う幻は、ディングレーの中から去って行かない。

野生の大狼や獣と戦い、生き残るディアヴォロスからしたら。
人間の動きなど、遅すぎて全て見えてしまう。

一瞬、四年席のローフィスの姿が視界に映る。
彼が注意を促してると分かった途端、はっ!と気づく。
対戦相手は、ローランデ。

がっっっ!

ローランデに鋭く剣を振り込まれ、咄嗟ディングレーはその剣を叩き落とす。

まずい!
慌てて振りきった剣を引き戻す。

がっっっ!

場内はディングレー同様、今だディアヴォロスの圧倒的強さに心奪われていた。

だがローランデは小柄ながら、物音一つしない足運びでディングレーの周囲を駆ける。

そして突然。
剣を振り下ろす。

普通なら、斬られてしまう程唐突で、予想外な場所から。

ディングレーは受け身一方。
崩れた体制で振った剣引き戻し、間に合わなければ身を横に倒し避ける。

がそれすらも、ローランデの攻撃材料。
あっという間に間を詰め、崩れた体制のディングレーに斬りかかる。

“速い…!”

場内の、誰もが声になら無い声で、心の中で叫んだ。

ディングレーは一気に“気”を研ぎ澄ます。

敵はオーガスタスでディアヴォロス!

かっ!と怒ると咄嗟身を翻す、ローランデへと激しい剣を振り下ろす。
が下ろした時もうローランデはそこに居ず、ディングレーは瞬時に振り向き、襲い来る剣に剣を合わせた。

がっっっっ!!!

からん…。

場内は誰もが…目を耳を、疑った。

ディングレーの剣先半分が…床に落ちて音を立てる。

かん…かんかん…かんっ…。

時が止まったように。
場内は静まり返る。

ディングレーはまだ…信じられず、床に落ちた自分の剣先に、視線を向けなかった。

ローランデはディングレーと剣を合わせたまま、その姿勢に暫く付き合っていた。
がゆっくり、剣を引く。

そして…固まるディングレーに視線を向ける。
少し、すまなそうに。

ディングレーはまだ…実感が、湧かなかった。
宙に浮いてるように、感覚の無いままゆっくり身を起こし、剣を下げる。

「勝者、ローランデ!!!」

パチパチパチ…!!!
真っ先に、立ち上がって拍手したのはシェイル。
ヤッケルが気づいて立ち上がり、シェイルに習って拍手を始め、フィンスとシュルツも慌てて立ち上がり、拍手に加わる。

一年らは座ったまま拍手し、けれど場内は、ざわめき渡った。

「…嘘だろう?」
「ディングレーの剣、どっか亀裂入ってたんじゃ無いのか?」
「おそらく、デルアンダーとやった時だろうな…」
「点検不足か?」

次第に、そこらからまばらな拍手は湧くものの、上級らは負けたディングレーに同情的だった。

「確かに、速いが…」
「どう考えても、ラッキーだな」
「ディングレーはちゃんと対応してたしな。
劣勢は確かだったが…」
「ちゃんと、持ち直せた。
剣が折れなきゃ」

ヤッケルもフィンスもシュルツも…周囲からのその声を聞き、立ち上がって拍手してるものの、居心地悪かった。

シェイルだけが。
周囲の思惑など知らないように頬染めて微笑み、ローランデに心からの、拍手を送っていた。
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