若き騎士達の危険な日常

あーす。

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カリスマ不在の準決勝

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 二人が勝ち上がって、準々決勝の対戦が始まる。
内一人はディアヴォロスの取り巻き大貴族で、貫禄の正統派騎士ディアン。
体格も良く顔立ちも男らしい、栗毛で短髪(肩までの長さを言う)の騎士。

対戦相手は…凄い美男だけど態度の悪い大貴族、ディンダーデン。

「おい…今年はディンダーデンが勝ち上がってるぞ?!」
「あいつ…剣、庇ったこと無いのに!」

席に戻った四年らから、声が飛ぶ。

ディアンは明るめの栗毛で空色の瞳。
広い額をしていてエラが張った男らしい輪郭の顔立ちの、けれど好感度MAXの格好いい男だった。

一方、ディンダーデンは濃い栗毛を背まで伸ばし、青い瞳の流し目が印象的な、すっきりした顎と綺麗な形の鼻筋。
整いきった美男で、顔だけ見てても凄く、目立つ。
けれどその体格は。
ディアンよりも頭半分背が高く、何より肩がもの凄く盛り上がっていて、やたら広い。

その強そうな肩からは、豪速の剣が振り下ろされていた。

「…あいつ今年は、ほぼ剣突きつけて勝ってるから…」

始め、の声と同時に、ディアンが突っ込んで行く。

ディンダーデンはその剣を、肩をすかし避け、直ぐさま背後に回り込んで、剣を振り切る。
ディアンは体を捻り避け…が、背を深く掠り、衣服が長く裂けた。
ディアンは血相変えて、思わず大声で叫ぶ。
「貴様!
寸止めする気、無いのか?!」

がもう…ディンダーデンは速い剣を、振り下ろしてた。
ディアンは咄嗟、身を下に屈める。

ブン!!!

凄い音で空振り、あれが当たれば剣なんて、簡単に折れそうな感じがした。
けれど強肩のディンダーデンは、豪速で振った剣を、直ぐさま戻し突く。

「おい…おい!」
「止めてくれ…」

ディアンの腹を突き刺す、寸前。
ディンダーデンは何とか、剣を止めた。

「…振るより止める方が、疲れるぜ…」
そう、ぼやきながら。

「それまで!」

講師の声に、この一戦が思ったより早く決着付き、場内はため息で満たされた。

ついに準決勝。

場内の、誰もが叫んだ。

「カッツェ!
頼む!
ディアヴォロスが来るまで、保たせてくれ!」
「出来るだけ長く、戦ってくれぇぇぇっ!!!」

叫ぶ声は必死で、枯れて裏返ってた。

「カッツェ!」
「カッツェ!」
「カッツェェェェェッ!!!」

場内の、大声援を受けてカッツェがディンダーデンの、目前に立つ。

開始を叫ぶ講師ですら、扉に視線を向けてそれから。

向かい合う二人の剣士を見つめ、しばしの沈黙。

「…もうそのまま…ディアヴォロスが来るまで黙っててくれ…」
「始まらないでくれ…」

けれど目を瞑る講師は、ため息と共に目を開け、手を振り上げた。

「始め!」

ぅおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!

その声援は、全てカッツェに送られた。

「…つまりそれだけ…ディンダーデンって、強いって事?」
ヤッケルに聞かれ、フィンスもシュルツも答えられず。

拳握ってカッツェに声援を送る、四年席を見つめた。


ローフィスは、横で腕組んで俯き、深いため息を吐く、オーガスタスをチラ…と見る。
「…戦いたかったか?
ディアヴォロスと…」
「そりゃな…」
「カッツェかディンダーデンが勝てば…お前にも勝つチャンスがあるのに?」

ローフィスの問いに、オーガスタスは笑った。
「勝つ事より…あの男と、この全校生徒集うこの場で。
剣を交えられる事の方が、重要だ。
人生に早々訪れない…滅多に出会えない、奇跡のような対戦だからな」

ローフィスは去年…勝ち上がったオーガスタスが、ディアヴォロスと向かい合う瞬間を思い出す。

どんな敵相手にも、顔色も変えた事の無いオーガスタスが…唇を噛んでいた。
同時に、とても嬉しそうに…笑った。

前足を大きく振り上げて死闘に挑む獅子…。

そんな…風に見えた。

勝負はディアヴォロスが一振り。
そして見えない程の早さで二振り。
三振り…を目で追えないまま…オーガスタスは剣を、背に突きつけられて負けた………。

試合後、暫く動けないオーガスタスなんて…見た事が無かった。
ディアヴォロスがオーガスタスの肩を軽く叩き、そしてやっと、オーガスタスは身を起こした。

場内では、上級らの、声が飛んだ。

「良くやった!!!」
「負けても、恥じゃ無い!!!
ディアヴォロスは『教練キャゼ』最高の手練れ、「右の王家」のアルファロイスにすら、勝った男だからな!!!」
「頑張ったな!
二年坊!」

オーガスタスはその男達の温かい声援を受け…少し、微笑んでそして…決意した。
力任せの剣を、止めようと。

一年の間。
オーガスタスは技を、磨き続けた。

「授業がある」
慰めるように、ローフィスが言う。
オーガスタスは、無言で頷く。
だからローフィスは、更に言葉を足す。
「それにディアヴォロスは…頼むとちゃんと、剣の相手をしてくれるそうだ」
「…なかなか出向けないがな…。
敷居が高くて」
「…まあ…半端なく、高貴だしな」

オーガスタスは、ローフィスの言外の励ましに、黙して頷いた。


ディングレーは三年席最前列で、腕組みしながらディアヴォロスの中に居る光竜ワーキュラスに、頭の中で怒鳴り続けた。
“絶対、ディアヴォロスをここに寄越せ!
じゃなきゃ、どれだけ偉大な神だろうが、俺は許さないぞ!!!"

…ワーキュラスと、喋った事など無かった。
ディアヴォロスを介して、神がなんて言ってるのかを、聞いただけ。

“が、こっちには神の言葉は聞けず、気配すら分からなくとも!!!
あっちは「左の王家」と通じているから、俺が何を怒鳴ってるかは、聞こえてるはず!!!"

ディングレーはそう信じて、頭の中で怒鳴り続けた。

カンッ!!!

ディンダーデンの凄まじい豪剣を、カッツェは弾く。

ディンダーデンより頭一つ、低い背。
力強さでは、三年オーガスタスの方が上。

肩を覆う栗色の真っ直ぐな髪で、ディアヴォロス取り巻き大貴族らの中では、小柄な方。
細身でスレンダーな体。
細面ほそおもてで、切れ長のブラウンの瞳。
どちらかと言えば女顔だが、にこりともせず睨みを利かす。
そして。
機転が利き、だれよりも素早い。

剣を逆手で構え、ディンダーデンの豪速の、突拍子も無い剣に当てて弾く。

「ディンダーデン相手じゃ、半端に当てると折れるぞっ!!!」
「馬鹿。
誰に言ってる」
「カッツェだぞ?
そんなん、知り尽くしてる」
「大丈夫だ。
保たせてくれる!」

会場中が。
祈るようにカッツェを見る。

ディンダーデンはとうとう、ひょい。
と剣を担ぐと、言った。

「…アウェー感が、半端ないな」
カッツェは静かに呟く。
「声援が欲しいのか?」
「まあ、少しは」

言ってディンダーデンは、剣を持ち上げさま一気に詰め寄り、びっ!と豪速の剣を振り切る。
カッツェは跳ねて避けながら…振り切って速度の落ちたディンダーデンの剣に、剣を当てる。

カンっ!!!

「狙ってる!」
「折って勝つ気だ!」

が、そんな小賢しさなど、吹っ飛ばしそうな豪快なディンダーデンの剣。
振って直ぐに引き戻すのも早いが、そこから振り下ろすのも早い。

びゅっ!
びゅっ!!!
と、空気を斬り裂く激しい音。
どんどん間合いを詰め、豪速の剣を振り続けるディンダーデンから、首を振り、背を傾け、紙一重で避け続けるカッツェ。

押されているのは明らかに、カッツェ。
間合いから、どれだけ避けて引いても。
たちどころにディンダーデンは、間合いを詰めて剣を振り切る。

避ける度、カッツェの肩や腕の衣服が、掠り破ける。

「ヤバい!!!
ディンダーデンのヤツ、ノりまくってる!」
「ディアヴォロス!頼む来てくれ!」

カッツェの、空気を斬り裂く豪剣をけ続ける、足元がよろめく。

ぉお!!!

ディンダーデンの、剣を振る手がほんの僅か、止まる。
その一瞬の隙を突き、一気に身を翻して懐に潜り込み、ディンダーデンの腹を掠るカッツェの鋭い刃!!!

…しかしディンダーデンは全く焦りも見せず、剣を戻し激しく弾く!!!

誰もが…カン!!!と、剣の折れる音が鳴ると思った。

が、どちらの剣も折れない。
カッツェがディンダーデンの背後に回る。
申し合わせたように背後に濃く長い栗毛を振って、振り向くディンダーデン。
直ぐ速い剣が、カッツェを襲う。
身をぎりぎり横に避け、刃の数センチ間近ながらも、避けきるカッツェ。

その時、場内の雰囲気が変わった。

誰とも無く、振り向く。

光が零れるような…爽やかな……………。

ぅ…ぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!

熱狂的な、声が場内を揺るがす。

扉を開けて、ディアヴォロスが。

息を切らし、姿を現した。



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