若き騎士達の危険な日常

あーす。

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大番狂わせ

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 勝ち列が出来て、また二列に別れる。

講師も気もそぞろに、扉を見つめながら叫ぶ。

「始め!」

剣の、かち合う音。
しかし戦う四年らですら、ディアヴォロスの不在をひしひしと、感じていた。

「おい!レナーテが負けたぞ!」
「去年三位の、大貴族だろう?!」

剣を突きつけていたのは、先ほどすっぽ抜けた剣先を叩き落とした、ディンダーデン。
堂とした体格。
濃い跳ねた長髪栗毛で青い流し目の、凄い美男。

俯くレナーテに、ディンダーデンは剣を担いで言い捨てる。
「試合中に、よそ見してるからだ」

ディアヴォロスにかしずく大貴族の筆頭、カッツェは同じ仲間で頼りになるレナーテが負け、やはり同じ大貴族ながら、はぐれ者でディアヴォロスを避けてるディンダーデンが勝ったのを、チラと見。
…そして扉に、心配げに視線を向ける。

場内はざわめきまくる。
大番狂わせはまだ他にもあって、大貴族が平貴族に負け、意外な人物らが勝ち列に並んでいた。

「カッツェが残ってる」
「…良かった…。
ディアヴォロスが居なくて、彼を取り巻く不動の大貴族らまで負けたら…」
「だよな。
見応え無くなるよな」

けれど今度は9名ずつが向かい合う。

「…次、奇数か?」
「外れてたのはいつも、ディアヴォロスだったな…」
「決勝までは待つと、講師は言ってるから…別の誰かを外すだろう?」

フィンスは上級らの囁きを耳にし、周囲を見回してるヤッケルに告げる。
「なんか…凄い騒ぎだね?」
返事をしたのはシュルツ。
「そりゃ…誰でもディアヴォロスが見たいさ。
俺だって…ディアヴォロスの最後の年に入学出来るなんて、お前ラッキーだぞ。
って親戚中に言われた」

「やっぱり?」
その声は、シェイルの向こうからした。
ローランデが、がっかりしたように俯いてる。

フィンスもヤッケルもローランデを見た。
が、今度はシェイルが一生懸命、落ち込むローランデを励ます。

「間に合うよ。
きっと間に合う」

ローランデが、それでも寂しそうに口元に微笑を浮かべ、シェイルを見る。
「…そうだね」
シェイルは必死にローランデに囁く。
「うん。
絶対間に合って、ディアヴォロスの戦い、きっと見られるから!」

シェイルにあんまり一生懸命そう言われて、ローランデは思わず微笑んで告げた。
「…ありがとう」

その時、シュルツもフィンスもヤッケルも。
シェイルを見て、目をまん丸にした。

ローランデに“ありがとう”と言われたシェイルは、頬が真っ赤で、凄く恥ずかしそう。

「…お前それ、照れすぎ」
ヤッケルが言うと、シュルツが叫んだ。
「え?照れてたの?」
そしてフィンスに聞く。
「照れて見えた?」

フィンスは自分に振るシュルツを、困惑しながらも睨む。
声をうんとひそめた、ひそひそ声で囁き返す。
「言えるか?
“憧れの王子様に告白された、女の子みたい”だなんて?」

ヤッケルがフィンスを、はすに見つめて言った。
「…言ってるし」

けどシェイルは、怒るどころか頬に両手当て、もっと恥ずかしげに俯いたりするから…。
みんな、ますます目を見開いて、シェイルを凝視した。
ローランデは…あんまりシェイルが恥ずかしそうで、声をかけたくても言葉の出ない様子。

シュルツがそっぽ向いて囁く。
「俺もシェイルぐらい綺麗なコに、一度で良いからあんな顔されてみたい」
フィンスはシュルツに振り向く。
「…そうは思っても…シェイルは男の子なんだから」

ヤッケルが、フィンスを見る。
「…そうだよな。
あんたら二人、どう見ても、恋愛対象女のコだよな」

二人はびっくりして、ヤッケルに振り向く。
「お前、違うの?!」
シュルツが聞き、フィンスは目を、まん丸に見開く。

「いやそういう意味じゃなくて。
俺はシェイルがどれだけ綺麗で可愛いかろうが。
妹か弟にしか見えない。
けどあんたらは、恋愛対象だったら。
って一応、仮定して考えてんだろう?
俺、仮定でも無理。
けどさ」
シェイルはヤッケルに
「なんで妹まで入れるの?!
弟でしょ!」
っと突っかかったけど無視され、ヤッケルは言葉を続けた。

「あんたらシェイルを女のコとして見てる。
でも実際は男。
凄く不毛で、気の毒すぎ」

そう言われたシュルツとフィンスは思わず、顔を見合わす。

「…だって…跡継ぎとして、ちゃんと真っ当な相手と結婚して、子供をしっかり育てあげないと」
フィンスが言うと、シュルツも頷く。
「そう。特に、跡継ぎの男の子だろ?
家を立派に継げるような。
俺も両親にそれ、しつこく言われてる」

ヤッケルは二人を惚けて見た。
「家名背負ってると、色々大変だよな。
自由恋愛とか、気楽に出来ないんだろ?」

二人は黙して、頷いた。

シェイルは落ち込むフィンスとシュルツを目にして突っかかり損ね、ローランデにくすくす笑われた。

けれど喋っていると、また勝者の列が出来ていて、今度は9名。
カッツェが出され、8名で戦う。

けれどもう、場内は完全に落ち着きを無くす。

「まだ…来てない?!」
「ディアヴォロスはどこだ?」
「来ないなんて…ナイよな?!な?!」

「始め!」

四組の対戦が行われる。

けれど場内の誰もが中央の試合に集中出来ず、広い練習場の、三カ所ある出入り口の扉にチラチラ視線を送り、そわそわと落ち着かない。

見応えある対戦が繰り広げられ、体格いい剣士らが剣を交える姿は、一年からしたら別次元。

「後三年も過ごしたら…ああなれるのかな」
フィンスの呟きに、ヤッケルは請け負う。
「あんたやシュルツは絶対背ももっと伸びて、格好いい騎士になってるよ」
「でも一番格好いい、騎士の姿が見えないって…残念だな…」
シュルツの呟きにも、ヤッケルは言って退ける。
「けどここで見られなくても。
授業で四年とだって当たるし。
機会はまだあるさ」

それでも…場内の落胆は相当なもので、激戦なのに盛り上がる様子を見せない。

激闘の末、勝者四人が勝ち列に並ぶ。
誰もが…剣の具合を確かめ、眉間を寄せていた。

「…四年ともなると、剣をブツけ合っただけで、消耗しょうもう激しそうだな…」
シュルツの囁きに、ヤッケルもつぶやく。
「半端に剣当てると、こっちの剣が簡単に折られるぐらい、激しい振りだもんな…」
「あれで十分、格好いいのに…ディアヴォロスって、どんなんだ?」
シュルツの独り言のような言葉に、ローランデが顔を向けて言った。

「噂でしか聞いたこと無いけど…決勝ですら、大して剣を振らず勝ってるそうだ」
「……………………………」

フィンスとシュルツが同時に、黙り込む。
ヤッケルが、言った。
「分かる。
想像、付かないよな」

フィンスとシュルツは同時に、頷いた。

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