若き騎士達の危険な日常

あーす。

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咆吼する男たち

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 オーガスタスはユネックが、剣の具合を確かめてる間、じっと待ってる。
ユネックが顔を上げるから、オーガスタスは告げる。

「剣を、変えろ。
持ってるんだろう?換えの剣」
「……いや。
これで行く」

オーガスタスは俯く。
ユネックが、顔を上げる。
「やろう」

オーガスタスは“本当に?”と言う顔を見せる。
が、頷いてユネックの、前に立った。

「始め!」

講師の声が響く。

場内は改めてユネックの前に立つ、オーガスタスの迫力に飲まれた。

たぶん今現在、校内でも一・二の高さを誇る四年のドナルド、そしてディアヴォロスと並ぶ、2mを超す長身。
ユネックより頭一つ分は、ゆうに高かった。

何より、長い手足。広い肩幅。
立ってるだけで醸し出すど・迫力。

四年達ですら、オーガスタスの威風堂々とした立ち姿に、ため息すら漏らす。
誰が見ても文句のつけようのない、事実上三学年筆頭の勇姿。

けれど顔は小顔で、つるんとした卵形。
目鼻立ちの整った、なかなかの男前。

敵を相手に、怯む様子は微塵も無く、赤く奔放にくねる長髪が、オーガスタスが肩を揺らす度散る。

ユネックは目前に敵としてオーガスタスを迎え、低く腰を落とし剣を構える。
もう同学年として数度戦っていたから…分かっていた。

オーガスタスが怖いのは…この迫力ある体格じゃない。
第一喧嘩ならともかく、剣を交えての試合。

剣技が優れていなければ、どれだけ体格が良くても、剣の餌食。

逆に大柄な男は隙が出来やすい。
怯まなければ…隙を突いて勝てる。

だがこのオーガスタスは…。
手に持つ剣を、くるりと回し…そう、車輪のように変幻自在に回しながら相手に振り入れる。
しかも両手使い。
突く隙は、ほぼ無い。

剣を突きつけるには、間合いに入るしか無い。
が…その間合いに入る方法ですら、どれだけあるか。

オーガスタスは剣をくるくる回しながら左手に持ち替え、笑う。
まるで
“どっからかかってきても、いいぞ?”
そんなみ。

場内は…オーガスタスの印象的な笑顔に見惚れる。

いかにも大らかで…懐の深さが滲み出るような、太陽を思わせる笑顔。
実際オーガスタスの悪友らは、彼のその笑顔道理の、器の大きさに惚れ込んで友人やってる。

オーガスタスは手下を作らない。
ボスになるのを嫌い、寄って来る皆を“友人”として扱う…。

だから悪友達はいつもオーガスタスと悪態付きながら…けれどオーガスタスに何かあれば、直ぐ力を貸す。
オーガスタスがさり気なくいつも、助けてくれるから。

ユネックが、腰を落としたまま隙を伺い動かないのを見て、オーガスタスは軽く肩を竦める。
一気に詰め寄る。
真上から剣が振り下ろされる。

ガンっ!!!

その、早さ。
足が長いから間合いを取ってもたったの一歩で、詰められる。
そして振り下ろされた剣の速いこと!

皆、ごくり…。と唾を飲み込んだ。
もし自分が対戦相手なら…あんな男相手に一体どうやって、戦えば良いのだろう?

ユネックは剣を持ち上げ、決死でぶつけ止めた。
それでも、上から押され腕がどんどん下がる。

ユネックはこれ以上力比べしてたら、自分の剣が折れる…!と分かり、剣を下げて外し、横に身を滑らせた。
一気に飛び上がって剣を振り被り、横からオーガスタス目がけ襲いかかる。

オーガスタスは引かれた剣を軽く回して持ち手を変え、ユネックに振り向きもせず剣を横に一気に、腕を伸ばしてなぎ払う。

「っ!!!」

ユネックは宙で身を捻り、何とか突き出る剣を避け、そのまま着地する。
直ぐ顔を上げる。
が、真上から再びオーガスタスの豪速の剣を振られ…今度は床に転がって避け、間合いから抜け出た。

2m近く離れてようやく、身を起こす。

ローフィスの、気持ちが分かった。
転がる自分を突こうと、床を叩いてくれたら剣の消耗が誘える。
が、オーガスタスはムダに剣を振らず、起き上がるのを待って一気に突っ込んで来る。

ユネックは反射的に、逃げ出そうとする自分を叱咤する。
が、振られるオーガスタスの剣を、受けるのがやっと。
攻撃の隙を、どうやったら作れる?!

結果、ユネックはまた転がり避けて、詰めてくるオーガスタスの間合いから引いた。

場内はため息で漏れる。
二年達は口々に囁き合う。
「無理無い。
四年ですら、あいつとやるのはみんな、嫌だ」
「…ってか四年ですら、あいつ相手だと怯むよな…?」
そう言うと一斉に、後に学年トップ同士の戦いで、間違いなくオーガスタスと戦う、ディングレーを盗み見る。

四年も呟く。
野生の狼ディングレー赤い獅子オーガスタスとの対戦か…」
「獅子は勝ち上がるだろうが…去年同様、カリスマのディアヴォロスに負ける」

皆、“ディアヴォロス”の名を出すと、黙り込む。
次元が、違う。
圧倒的な強さを誇るディアヴォロスの、少しでも長く戦う姿を見たかった。

「…だがあの“獅子”ですら、三振り保てば良い方」
「…だな」
自分たちはほぼ一振りで斬られてるから、オーガスタスにその望みを託す。

「あいつ、二年の時と比べると迫力の増し方、半端ないな」
「ああ…元々強かったが…技使うより、力で押して勝つタイプだったのに」

ユネックが、果敢に横から突っ込んで剣を振り切る。
オーガスタスは肩を下げてすかし、咄嗟に剣を飛ばして左で柄を掴むと、斜め横からなぎ払う。

その、凄まじい早さの豪剣に、ユネックはまた身を屈め、転がり逃げるのが精一杯。

「良く、頑張ってるぜ…」
「ああ、三年にしちゃ、やるな」

四年達がユネックを褒めるのを聞き、一年らは手に汗握って対戦を見守る。

「…戦い様を見ると言うより…」
フィンスが呟くのを聞き、シュルツも頷いた。
「オーガスタスの凄さを見せつけられてる感じだな」

ヤッケルはごくり。と唾を飲み込む。
あの体格であの拳で殴られるのも怖い。
けど剣を持たせると、もっと怖いんだと思い知らされるような対戦。

ユネックは一矢報いようと歩を横に滑らし、隙を伺う。

けれどオーガスタスは滑った横に、振り向きざま剣を振り入れた。

「っ!!!」

ユネックは避けるか受けるか迷い…。
結果その早さに慌てて剣を持ち上げ、がっ!!!と当てて防いだ。

からん…。

音がして、見るとオーガスタスの剣はそれ以上押されず制止。
頭上で受けた剣は、半分折れて無くなっていた。

オーガスタスは振った姿勢から、身を起こす。
ユネックは暫く、剣を持ち上げたままの姿勢で、動かなかった。

「それまで!!!
勝者、オーガスタス!!!」

ぅうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!

津波のような歓声が沸き起こる。

ヤッケルですら、つい手を握り込んで叫んでいた。

シェイルは身震いするような興奮に包まれる場内を見回す。
誰もが…オーガスタスのその強さに、歓声を上げていた。

ぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!

フィンスは四年らですら、声を上げているのを見る。

剣を下げて立つ、赤毛のオーガスタスは歓声の中、まるで風に吹かれているように平静。
声援に応えるより対戦相手のユネックが、まだ身を起こさないのを、少し心配そうに見つめていた。

「…大丈夫か?」

歓声の中、低く響くオーガスタスの声が聞こえてようやく、ユネックは身を起こす。
動けなかった。
あの迫力ある豪剣を受け、体が痺れたように固まって。

柄を握る、手を見る。
両手とも…小刻みに震っていた。

オーガスタスが、横から顔を伺うから、ユネックはやっと声を出す。

「お前、試合だといつもより迫力増す?」
聞かれてオーガスタスは、肩を竦める。
「場内の奴らも俺を怖がってたみたいだったから。
それがお前に、伝わったんじゃ無いのか?」

ユネックは横で、とぼけたようにそう言う、オーガスタスを見上げる。
「もういいから!!!
歓声に応えろよ!
収まらないじゃ無いか!」

ユネックに怒鳴られ、オーガスタスはユネックの、顔を見たまま拳をさっ!と上に、突き上げた。

おおおおおおおおおおおおーーーーーーーーっっっっっ!!!

場内の男達が一際大きな声で吠え、オーガスタスの拳が、下がると同時に静かに、引いていった。

「…凄い…」
シェイルが呟く。
ヤッケルも場内の男らと一緒に吠え終わって、頷いてつい、呟き返した。
「ローフィスの時と、全然違う…」

言って横を見ると、シェイルは思いっきり項垂れ、横のローランデが
「ローフィスと、比べなくても…」
と眉を寄せて言うので、ヤッケルは慌ててシェイルに振り向き、謝った。

「ごめん」






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