85 / 171
咆吼する男たち
しおりを挟むオーガスタスはユネックが、剣の具合を確かめてる間、じっと待ってる。
ユネックが顔を上げるから、オーガスタスは告げる。
「剣を、変えろ。
持ってるんだろう?換えの剣」
「……いや。
これで行く」
オーガスタスは俯く。
ユネックが、顔を上げる。
「やろう」
オーガスタスは“本当に?”と言う顔を見せる。
が、頷いてユネックの、前に立った。
「始め!」
講師の声が響く。
場内は改めてユネックの前に立つ、オーガスタスの迫力に飲まれた。
たぶん今現在、校内でも一・二の高さを誇る四年のドナルド、そしてディアヴォロスと並ぶ、2mを超す長身。
ユネックより頭一つ分は、ゆうに高かった。
何より、長い手足。広い肩幅。
立ってるだけで醸し出すど・迫力。
四年達ですら、オーガスタスの威風堂々とした立ち姿に、ため息すら漏らす。
誰が見ても文句のつけようのない、事実上三学年筆頭の勇姿。
けれど顔は小顔で、つるんとした卵形。
目鼻立ちの整った、なかなかの男前。
敵を相手に、怯む様子は微塵も無く、赤く奔放にくねる長髪が、オーガスタスが肩を揺らす度散る。
ユネックは目前に敵としてオーガスタスを迎え、低く腰を落とし剣を構える。
もう同学年として数度戦っていたから…分かっていた。
オーガスタスが怖いのは…この迫力ある体格じゃない。
第一喧嘩ならともかく、剣を交えての試合。
剣技が優れていなければ、どれだけ体格が良くても、剣の餌食。
逆に大柄な男は隙が出来やすい。
怯まなければ…隙を突いて勝てる。
だがこのオーガスタスは…。
手に持つ剣を、くるりと回し…そう、車輪のように変幻自在に回しながら相手に振り入れる。
しかも両手使い。
突く隙は、ほぼ無い。
剣を突きつけるには、間合いに入るしか無い。
が…その間合いに入る方法ですら、どれだけあるか。
オーガスタスは剣をくるくる回しながら左手に持ち替え、笑う。
まるで
“どっからかかってきても、いいぞ?”
そんな笑み。
場内は…オーガスタスの印象的な笑顔に見惚れる。
いかにも大らかで…懐の深さが滲み出るような、太陽を思わせる笑顔。
実際オーガスタスの悪友らは、彼のその笑顔道理の、器の大きさに惚れ込んで友人やってる。
オーガスタスは手下を作らない。
ボスになるのを嫌い、寄って来る皆を“友人”として扱う…。
だから悪友達はいつもオーガスタスと悪態付きながら…けれどオーガスタスに何かあれば、直ぐ力を貸す。
オーガスタスがさり気なくいつも、助けてくれるから。
ユネックが、腰を落としたまま隙を伺い動かないのを見て、オーガスタスは軽く肩を竦める。
一気に詰め寄る。
真上から剣が振り下ろされる。
ガンっ!!!
その、早さ。
足が長いから間合いを取ってもたったの一歩で、詰められる。
そして振り下ろされた剣の速いこと!
皆、ごくり…。と唾を飲み込んだ。
もし自分が対戦相手なら…あんな男相手に一体どうやって、戦えば良いのだろう?
ユネックは剣を持ち上げ、決死でぶつけ止めた。
それでも、上から押され腕がどんどん下がる。
ユネックはこれ以上力比べしてたら、自分の剣が折れる…!と分かり、剣を下げて外し、横に身を滑らせた。
一気に飛び上がって剣を振り被り、横からオーガスタス目がけ襲いかかる。
オーガスタスは引かれた剣を軽く回して持ち手を変え、ユネックに振り向きもせず剣を横に一気に、腕を伸ばしてなぎ払う。
「っ!!!」
ユネックは宙で身を捻り、何とか突き出る剣を避け、そのまま着地する。
直ぐ顔を上げる。
が、真上から再びオーガスタスの豪速の剣を振られ…今度は床に転がって避け、間合いから抜け出た。
2m近く離れてようやく、身を起こす。
ローフィスの、気持ちが分かった。
転がる自分を突こうと、床を叩いてくれたら剣の消耗が誘える。
が、オーガスタスはムダに剣を振らず、起き上がるのを待って一気に突っ込んで来る。
ユネックは反射的に、逃げ出そうとする自分を叱咤する。
が、振られるオーガスタスの剣を、受けるのがやっと。
攻撃の隙を、どうやったら作れる?!
結果、ユネックはまた転がり避けて、詰めてくるオーガスタスの間合いから引いた。
場内はため息で漏れる。
二年達は口々に囁き合う。
「無理無い。
四年ですら、あいつとやるのはみんな、嫌だ」
「…ってか四年ですら、あいつ相手だと怯むよな…?」
そう言うと一斉に、後に学年トップ同士の戦いで、間違いなくオーガスタスと戦う、ディングレーを盗み見る。
四年も呟く。
「野生の狼と赤い獅子との対戦か…」
「獅子は勝ち上がるだろうが…去年同様、カリスマのディアヴォロスに負ける」
皆、“ディアヴォロス”の名を出すと、黙り込む。
次元が、違う。
圧倒的な強さを誇るディアヴォロスの、少しでも長く戦う姿を見たかった。
「…だがあの“獅子”ですら、三振り保てば良い方」
「…だな」
自分たちはほぼ一振りで斬られてるから、オーガスタスにその望みを託す。
「あいつ、二年の時と比べると迫力の増し方、半端ないな」
「ああ…元々強かったが…技使うより、力で押して勝つタイプだったのに」
ユネックが、果敢に横から突っ込んで剣を振り切る。
オーガスタスは肩を下げてすかし、咄嗟に剣を飛ばして左で柄を掴むと、斜め横からなぎ払う。
その、凄まじい早さの豪剣に、ユネックはまた身を屈め、転がり逃げるのが精一杯。
「良く、頑張ってるぜ…」
「ああ、三年にしちゃ、やるな」
四年達がユネックを褒めるのを聞き、一年らは手に汗握って対戦を見守る。
「…戦い様を見ると言うより…」
フィンスが呟くのを聞き、シュルツも頷いた。
「オーガスタスの凄さを見せつけられてる感じだな」
ヤッケルはごくり。と唾を飲み込む。
あの体格であの拳で殴られるのも怖い。
けど剣を持たせると、もっと怖いんだと思い知らされるような対戦。
ユネックは一矢報いようと歩を横に滑らし、隙を伺う。
けれどオーガスタスは滑った横に、振り向き様剣を振り入れた。
「っ!!!」
ユネックは避けるか受けるか迷い…。
結果その早さに慌てて剣を持ち上げ、がっ!!!と当てて防いだ。
からん…。
音がして、見るとオーガスタスの剣はそれ以上押されず制止。
頭上で受けた剣は、半分折れて無くなっていた。
オーガスタスは振った姿勢から、身を起こす。
ユネックは暫く、剣を持ち上げたままの姿勢で、動かなかった。
「それまで!!!
勝者、オーガスタス!!!」
ぅうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっ!!!
津波のような歓声が沸き起こる。
ヤッケルですら、つい手を握り込んで叫んでいた。
シェイルは身震いするような興奮に包まれる場内を見回す。
誰もが…オーガスタスのその強さに、歓声を上げていた。
ぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっっっっっ!!!
フィンスは四年らですら、声を上げているのを見る。
剣を下げて立つ、赤毛のオーガスタスは歓声の中、まるで風に吹かれているように平静。
声援に応えるより対戦相手のユネックが、まだ身を起こさないのを、少し心配そうに見つめていた。
「…大丈夫か?」
歓声の中、低く響くオーガスタスの声が聞こえてようやく、ユネックは身を起こす。
動けなかった。
あの迫力ある豪剣を受け、体が痺れたように固まって。
柄を握る、手を見る。
両手とも…小刻みに震っていた。
オーガスタスが、横から顔を伺うから、ユネックはやっと声を出す。
「お前、試合だといつもより迫力増す?」
聞かれてオーガスタスは、肩を竦める。
「場内の奴らも俺を怖がってたみたいだったから。
それがお前に、伝わったんじゃ無いのか?」
ユネックは横で、とぼけたようにそう言う、オーガスタスを見上げる。
「もういいから!!!
歓声に応えろよ!
収まらないじゃ無いか!」
ユネックに怒鳴られ、オーガスタスはユネックの、顔を見たまま拳をさっ!と上に、突き上げた。
おおおおおおおおおおおおーーーーーーーーっっっっっ!!!
場内の男達が一際大きな声で吠え、オーガスタスの拳が、下がると同時に静かに、引いていった。
「…凄い…」
シェイルが呟く。
ヤッケルも場内の男らと一緒に吠え終わって、頷いてつい、呟き返した。
「ローフィスの時と、全然違う…」
言って横を見ると、シェイルは思いっきり項垂れ、横のローランデが
「ローフィスと、比べなくても…」
と眉を寄せて言うので、ヤッケルは慌ててシェイルに振り向き、謝った。
「ごめん」
0
お気に入りに追加
117
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
家族連れ、犯された父親 第二巻「男の性活」 ~40代ガチムチお父さんが、様々な男と交わり本当の自分に目覚めていく物語~
くまみ
BL
ジャンヌ ゲイ小説 ガチムチ 太め 親父系
家族連れ、犯された父親 「交差する野郎たち」の続編、3年後が舞台
<あらすじ>
相模和也は3年前に大学時代の先輩で二つ歳上の槙田准一と20年振りの偶然の再会を果たした。大学時代の和也と准一は性処理と言う名目の性的関係を持っていた!時を経て再開をし、性的関係は恋愛関係へと発展した。高校教師をしていた、准一の教え子たち。鴨居茂、中山智成を交えて、男(ゲイ)の付き合いに目覚めていく和也だった。
あれから3年が経ち、和也も周囲の状況には新たなる男たちが登場。更なる男の深みにはまりゲイであることを自覚していく和也であった。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
エレベーターで一緒になった男の子がやけにモジモジしているので
こじらせた処女
BL
大学生になり、一人暮らしを始めた荒井は、今日も今日とて買い物を済ませて、下宿先のエレベーターを待っていた。そこに偶然居合わせた中学生になりたての男の子。やけにソワソワしていて、我慢しているというのは明白だった。
とてつもなく短いエレベーターの移動時間に繰り広げられる、激しいおしっこダンス。果たして彼は間に合うのだろうか…
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる