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危険なハプニング
しおりを挟むローフィスは目前に立つ、ランドルフを見た。
オーガスタスを取り巻く悪友の一人で、剣の腕は確か。
本来生真面目な性格だが割とやさぐれていて、かなり気が合う。
「…俺の時は、逃げ回るな」
ランドルフにそう言われ、ローフィスは肩すくめる。
「横に振られたら、逃げる」
「…それは俺に横に振るなと言う、牽制か?」
「別に。
“逃げるな"と注文つけなきゃ、横に振ってもいいぜ」
「…………………………」
とうとうランドルフは黙り込んだ。
リーラスは横のローフィスとランドルフを見て、ため息吐く。
さっきのダランドステに思いっきり剣を振ったので、もうぐらぐら。
ユネックは出来れば最後にオーガスタスと戦いたいので、自分の目前に居る。
チラ…と再度、ローフィスの剣を見る。
逃げ回りほぼ振ってないので、まだ十分戦える剣だった。
ローフィスが、気づいてリーラスを見る。
「剣、交換するか?」
リーラスはその提案に一応、頷く。
「それもいい案だが、この際お前が勝ち上がれ」
ローフィスはため息吐いた。
「…出来ればダランドステを沈めて、ここで負けたかった」
「ダランドステがお前とやったら、いかにも“弱い者虐め”に見える」
「…その“弱い者”が勝ったら、気分爽快じゃ無いか」
「あんだけ目立つ状態で、足かけ使えないのにお前、どうやって勝つつもりだったんだ?
沈めるなら、反則使うしかない。
だがそれしたら…負けて勝てないぞ?」
ローフィスはそこでようやく、自分の馬鹿さ加減に気づいた。
「…そうか。
“沈める”と“勝つ”は同義語じゃ無かったな…」
リーラスは頷く。
「間抜けめ」
リーラスとローフィスが喋り終えて顔上げると、講師やオーガスタス、その他全員に見つめられていた。
「もう始めて良いか?」
焼け糞気味の講師に嫌味混じりに言われ、ローフィスもリーラスも、顔下げて頷く。
場内はやっと、マトモな対戦が見られるかも。
と中央に視線を送る。
しかしヤッケルが四年の席を見ると、やっぱりみんな、腕組みして顔を下げてて、期待感はまるでナイ。
二年平貴族の席では、こっそり賭けが行われていた。
「俺、オーガスタス、ランドルフ、ユネックが勝ち残る方に5マール」
「俺も同じで1」
「俺もだな。3マール賭ける」
胴元が文句を言う。
「みんな同じに賭けて、どうして賭けが成立する?!」
すると最前列の、ディングレーが突如振り向くので、全員がギョッ!として、慌てて顔を下げた。
が、ディングレーは
「俺はオーガスタス、ユネック、ローフィス50マールに賭ける!
これで成立だな!」
と叫び、くるりと前を向く。
隣に座るデルアンダーが、目を見開いてディングレーを見つめたが、ディングレーは気にもせず、中央のローフィスに視線を注いだ。
二年平貴族達は
「…まさか、俺達に小遣い稼ぎさせる気なのかな?」
と顔を寄せ合い、囁き合った。
「開始!」
声と同時に、オーガスタスの対戦相手、悪友のドロッティが一言
「お手柔らかに」
と呟き、思いっきりオーガスタスに突っ込んで行って、飛んで剣を横から思いっきり、なぎ払った。
オーガスタスは右手で持つ剣を、肘を持ち上げ剣をくるりと横に回しながら背後に引き、素早く左手に持ち替えながらドロッティの剣が届く頃、背後からいきなり回し上げ、上から思いっきり叩き落とした。
カンッ!!!…カンカンカンッ…。
ドロッティは着地と同時にその音を聞く。
オーガスタスが振り終わって下げた剣は、どこも欠けてなかったから…。
落ちたのは当然…。
着地の姿勢のまま、ドロッティはつぶやく。
「………俺、お手柔らかにって、言わなかったっけ?」
オーガスタスは、ぽりぽりと頭を掻いて呻いた。
「…あんな勢いで来られて、どう加減出来る?」
「勝者、オーガスタス!」
叫ばれてオーガスタスは、少し離れた場所へと引っ張られる。
オーガスタスが振り向いた時。
ローフィスとランドルフは二人とも剣構えたまま、もう勝った、オーガスタスを見ていた。
それでオーガスタスは二人に忠言した。
「俺見てても、勝てないぞ!」
二人は、はっ!と我に返り、突如互いに剣を振り込み始める。
リーラスはユネックが足を使って左右に揺さぶって来るので、ぐらぐらの剣でどこに振れば良いのか分からず、怒り心頭。
「俺の剣はもう一振りが限界って分かってて、嬲る気か!!!
ドロッティくらい潔く、かかって来れないのか?!」
ドロッティは三年席に戻りながら振り向く。
「いや俺は。
一撃で負ける気、全然無かったから」
ユネックは思わず、リーラスに怒鳴り返す。
「お前みたいに油断成らない相手に、無謀にも真っ直ぐ突っ込んで行けるか!!!」
ドロッティはピタ。と歩を止めて振り向く。
「俺が無謀だってのか?!!!!」
その時、ユネックは斜め横から剣を振り込み、リーラスは反対側から剣を振って迎え撃ちながら、二人同時に叫んだ。
「無謀だろう?!」(リーラス)
「無謀以外、何物でも無い!!!」(ユネック)
四年達はすっかり平貴族に染まる、唯一の大貴族の体たらくに額に手を当て、顔を下げてる。
カンっ!!!
剣のかち合う音。
リーラスの剣先はまだ飛ばず
「らっきー♡」
と叫んで、次を振る。
カンっ!!!
ユネックに弾かれ、それでもまだ、振る。
カンっ!!!
「行ける!!!」
リーラスは叫ぶと、また思いっきり剣を振り下ろす。
けど今度は、ぶんっ!!!
と不吉な音。
リーラスは剣を見たが、すっぽり先は無い。
「四年席に直撃だぞ!!!」
誰かが叫び、場内の全員が真っ青になった。
一直線に刃だけが。
階段状の四年席の真ん中辺りに、飛んで行く。
「怪我人出るぞ!」
「死人じゃ無いのか?!!!!」
三年も二年もが口々に叫び、刃の行き先を見守る。
四年席の者は真っ直ぐ一直線に襲い来る刃から、蜘蛛の子散らすように逃げ出す。
が、唯一逃げずに座っていた、栗毛の凄い美男がむすっとした表情で立ち上がると、思いっきり
カンッ!
と、飛んで来る剣を、手持ちの剣で弾いた。
けれど。
弾かれた刃は逃げ出した不運な四年の平貴族の腕を掠り、その横で身を屈めてた男の、腰の衣服を掠り、更にその横の男の、ブーツを掠り。
カン…カンカンカン…。
そこでようやく、床に転がる…。
「ディンダーデン!
貴様、自分だけ助かれば良いのか?!!!!」
「弾く先を考えてくれ!」
逃げた者らに一斉に怒鳴りつけられ…けど濃い栗毛の凄い美男は、憮然と椅子に座って怒鳴り返した。
「飛んで来た剣に、背を向けるヤツが馬鹿なんだ」
四年達はその返答にいきり立つ。
が、大貴族で態度は偉そう。
体格は良い。
しかも喧嘩はいつでも買う、大の喧嘩大好き。
…のディンダーデンに、皆内心不満たらたらだったが、言ってもムダと口を噤む。
怪我人達は講師に手招きされ、養護室へと。
ぞろぞろと出て行く四年の怪我人達を、場内の皆が無言で見送る。
その後場内の視線は一斉に、刃を飛ばした張本人、リーラスに注がれた。
場内の無言の責めの視線を感じたリーラスは、思わず焦って怒鳴る。
「俺のせいか?!」
「当然、お前のせいだ!」
講師が即座に怒鳴り、三年席を指し示す。
リーラスは…柄だけになった剣を掴んだまま、顔を下げて髪で隠し、靴音を殺して三年席へと戻って行った。
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