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勝者と敗者
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開始の合図でディングレーは低く構える。
その、肩を落とし、腰を低く下げた姿を見ただけで、皆がディングレーに見惚れた。
「…なんであんなにキマるかな…」
「あれ見ると、今度俺構えてるとこ、鏡で見てみようとか思うぜ」
「お前構えただけで、あんだけの迫力出せるの?」
二年達は三年らがそう囁く声を聞き、自分たちの筆頭、ディングレーを改めて見つめる。
さりげなく肩を下げているというのに、いつでも襲いかからんばかりの気迫。
真っ直ぐの黒髪が肩を滑り背を流れ、濃い青の瞳は射るようにデルアンダーを捕らえ、まだ15才だなどと、誰も思えない程の鋭い“気”を発し、野性味は全開。
見ていると、ぞくっと身震いする程、男らしかった。
一年平貴族達は皆、王族のその迫力に飲まれる。
「向かい合ったただけで俺、ちびりそう…」
「お前それ、情けなさ過ぎ…」
「俺ならちびる前に、逃げ出すな」
「簡単に背中、斬られるんじゃね?」
シェイルはつい不安になって、ローランデに振り向く。
「あのデルアンダーでさえ…ディングレーが相手だと、少し怯えてるように見えるよ?」
けれどローランデは優しく微笑む。
「でも君は、彼に剣を教えて貰ってたんだよね?」
「僕の時は、あんな…凄い迫力無いし。
ぶっきらぼうだけど…割に優しかったから。
第一、僕やローフィスのいる場では、全然気品無いし、王族してないし」
ローランデはそれを聞いて目を見開き…後、微笑んだ。
ヤッケルはそれを見て、小声で囁く。
「…ローランデって、歴代地方大公子息の中で一番品があって優しげ。
って言われてるけどさ。
中身は歴代大公子息と、もしかして一緒?」
シュルツが目を見開いて尋ねる。
「…つまり…正統派の剣じゃないけど、肝が据わりまくって、べらぼうに強い?」
フィンスも頷く。
「もしかして、そうかも」
ヤッケルも頷いて…三人で、ローランデを盗み見た。
後ろから、ヤッケルの仲間の平貴族の子が、顔出して口挟む。
「地方大公って中央の王宮と違って、軟弱だと部下の貴族に叩かれたり、隙あらば力尽くで大公の地位、乗っ取られたりするから。
野獣の王様ぐらい、喧嘩腰か。
凄く剣が強く無いと、務まらないんだよな?確か」
その子も入れてシュルツ、ヤッケル、フィンスらは再びこっそりと。
落ち着き払ったローランデを、盗み見た。
シェイル相手に優しい微笑を見せ、動揺は微塵も見られない。
皆、自分らの学年筆頭の、その度胸に呆れた。
一方中央では。
ディングレーは下段で構え、デルアンダーは上段で構える。
が、デルアンダーはまるで斬り込む隙が見つからないように、ディングレーを睨み据えたまま、動かない。
ディングレーが、突っ込んで行く。
デルアンダーは剣を振り下ろす。
ディングレーは駆けながら横に身を傾け、一気に一歩、歩を踏み出して横になぎ払う。
デルアンダーはくるりと回転して避け様、ディングレーに剣を振ろうとし…。
もうその場にディングレーの姿が無く、ハッ!と気づいて一気に横に飛ぶ。
おおぉっ!
「良く間に合った!」
「ディングレーのヤツ、去年より早いぜ!」
ディングレーは直ぐ、間を詰める。
が、デルアンダーは柄を握り込んでディングレーの豪速の剣に、思い切り剣をブツけ、弾く。
ディングレーは軽く剣を返し、くるりと回すと腹へと突き刺す。
デルアンダーは血相変えて、飛びながら腹を抉る剣を、真上から叩いた。
カンっ!!!
「デルアンダーのヤツ、もう剣、庇う気無いぜ!!!」
が、ディングレーは叩かれる瞬間、力を抜いて剣を下げて引く。
一気に斜め上から、再びデルアンダー目がけ、豪速の剣が振り切られ、デルアンダーは歯を食い縛ってギリギリで身を横に傾け、避けた。
びっ!
が、僅かに肩の衣服を掠る。
デルアンダーは肩を引いて一気にディングレー目がけ、大振りで剣を一気に振り下ろす。
「…俺あんだけ大振りだと…」
「ああ、相手に当たらなきゃ、逆に隙だらけになるよな」
が、デルアンダーの振りは早い。
気づくとディングレーは身を横に滑らせて避け、デルアンダーは振った剣を引いて戻し、互いに間を取って、睨み合った。
場内から、息継ぐ間もない攻防で詰めていた息を、吐き出す音があちこちから聞こえる。
ディングレーは迷いが一切無く、激しく突っ込み剣を振る。
デルアンダーはディングレーの気迫に押され、が、足と技を使ってディングレーを、揺さぶろうと試みる。
突っ込んで来るディングレーに、一度振った後、直ぐ剣を返して二度目を振り入れる。
ディングレーは一度目は軽く剣を当てて弾き、二度目の剣が届く、前に思いっきり滑り込んで腕を伸ばし、剣をデルアンダーの腹へ、突き入れた。
剣を振り切るデルアンダーは、突いて来る剣を防ぐのに間に合わず。
ディングレーは腹へと剣を寸止めで突き刺したまま、静止。
ぅおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
「ヤバいぜディングレーのヤツ!!!」
「なんであそこで、腹突ける?!
デルアンダーのがどう見ても…先に斬ってるはずだろう?!」
オーガスタスが、ローフィスに囁く。
「あいつデルアンダーの振った剣、身を屈めてくぐり抜けたな」
ローフィスは気が無いようにつぶやく。
「…だな」
「あれ、確かお前が良く、使う技だよな?
いかにも間に合わないように剣に身、さらしといて相手を油断させて。
ギリギリで避けて、腹に突っ込んで行くの」
ローフィスが、とぼける。
「そうだっけ?」
オーガスタスが、吐息混じりに告げる。
「お前な。
ただでさえ、正統派の腕の確かな豪剣なんだ。
あんなワザまで教えたら…凄く手強くなるじゃないか」
ローフィスはそう言う、オーガスタスを斜に見つめる。
「お前、ディングレーのもっと上行く詐欺師じゃないか。
あれっくらい教えとかないと。
ハンデ埋められないだろう?」
そう言われて、オーガスタスは思いっきり肩を竦めた。
「勝者、ディングレー!!!」
ぅおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!
二年だけで無く。
三年、四年も年若き王族の戦いっぷりに奮い立ち、歓声を上げた。
一年らはその凄い歓声に、目を見開く。
「…ローランデの時と、えらい違い…」
「だけどお前だって、きょとんってしてたろ?」
「そうだけどさ」
ヤッケルもため息吐きながら、腕組みする。
「あの勝ち方なら、俺だって大声で叫べる」
フィンスも、シュルツですら頷いた。
「分かりやすいな」(シュルツ)
「ど迫力な勝ち方だしね」(フィンス)
ディングレーが身を起こし、デルアンダーが暫く…麻痺したように動かず。
ディングレーはじっ…と、デルアンダーを見つめる。
デルアンダーはやっと、俯いて一つ吐息を吐く。
ディングレーは労るように、デルアンダーを見つめ続けた。
デルアンダーはやっと、顔を上げて視線を向けてる、ディングレーを見る。
ディングレーが、二年の席へと歩き出す。
するとデルアンダーも、横に並び…二人、肩を並べて二年席へと、互いに無言で、歩き出した。
両者の間には…互いの戦いを認める親密な空気があって。
けれど、どちらも無言のまま。
二年最前列へと戻って行った。
三年らはそれを見てまた、盛り上がる。
「年下ながら、渋すぎる…」
「どこまでも、男っぽくてシビれるぜ!!!」
「俺が女なら、惚れてるな」
「どっちに?」
「どっちにも」
四年らですら、馬鹿騒ぎする三年を睨むものの…。
ため息交じりに、男同士の無言の友情の格好良さに、心の中では三年達に同意した。
その、肩を落とし、腰を低く下げた姿を見ただけで、皆がディングレーに見惚れた。
「…なんであんなにキマるかな…」
「あれ見ると、今度俺構えてるとこ、鏡で見てみようとか思うぜ」
「お前構えただけで、あんだけの迫力出せるの?」
二年達は三年らがそう囁く声を聞き、自分たちの筆頭、ディングレーを改めて見つめる。
さりげなく肩を下げているというのに、いつでも襲いかからんばかりの気迫。
真っ直ぐの黒髪が肩を滑り背を流れ、濃い青の瞳は射るようにデルアンダーを捕らえ、まだ15才だなどと、誰も思えない程の鋭い“気”を発し、野性味は全開。
見ていると、ぞくっと身震いする程、男らしかった。
一年平貴族達は皆、王族のその迫力に飲まれる。
「向かい合ったただけで俺、ちびりそう…」
「お前それ、情けなさ過ぎ…」
「俺ならちびる前に、逃げ出すな」
「簡単に背中、斬られるんじゃね?」
シェイルはつい不安になって、ローランデに振り向く。
「あのデルアンダーでさえ…ディングレーが相手だと、少し怯えてるように見えるよ?」
けれどローランデは優しく微笑む。
「でも君は、彼に剣を教えて貰ってたんだよね?」
「僕の時は、あんな…凄い迫力無いし。
ぶっきらぼうだけど…割に優しかったから。
第一、僕やローフィスのいる場では、全然気品無いし、王族してないし」
ローランデはそれを聞いて目を見開き…後、微笑んだ。
ヤッケルはそれを見て、小声で囁く。
「…ローランデって、歴代地方大公子息の中で一番品があって優しげ。
って言われてるけどさ。
中身は歴代大公子息と、もしかして一緒?」
シュルツが目を見開いて尋ねる。
「…つまり…正統派の剣じゃないけど、肝が据わりまくって、べらぼうに強い?」
フィンスも頷く。
「もしかして、そうかも」
ヤッケルも頷いて…三人で、ローランデを盗み見た。
後ろから、ヤッケルの仲間の平貴族の子が、顔出して口挟む。
「地方大公って中央の王宮と違って、軟弱だと部下の貴族に叩かれたり、隙あらば力尽くで大公の地位、乗っ取られたりするから。
野獣の王様ぐらい、喧嘩腰か。
凄く剣が強く無いと、務まらないんだよな?確か」
その子も入れてシュルツ、ヤッケル、フィンスらは再びこっそりと。
落ち着き払ったローランデを、盗み見た。
シェイル相手に優しい微笑を見せ、動揺は微塵も見られない。
皆、自分らの学年筆頭の、その度胸に呆れた。
一方中央では。
ディングレーは下段で構え、デルアンダーは上段で構える。
が、デルアンダーはまるで斬り込む隙が見つからないように、ディングレーを睨み据えたまま、動かない。
ディングレーが、突っ込んで行く。
デルアンダーは剣を振り下ろす。
ディングレーは駆けながら横に身を傾け、一気に一歩、歩を踏み出して横になぎ払う。
デルアンダーはくるりと回転して避け様、ディングレーに剣を振ろうとし…。
もうその場にディングレーの姿が無く、ハッ!と気づいて一気に横に飛ぶ。
おおぉっ!
「良く間に合った!」
「ディングレーのヤツ、去年より早いぜ!」
ディングレーは直ぐ、間を詰める。
が、デルアンダーは柄を握り込んでディングレーの豪速の剣に、思い切り剣をブツけ、弾く。
ディングレーは軽く剣を返し、くるりと回すと腹へと突き刺す。
デルアンダーは血相変えて、飛びながら腹を抉る剣を、真上から叩いた。
カンっ!!!
「デルアンダーのヤツ、もう剣、庇う気無いぜ!!!」
が、ディングレーは叩かれる瞬間、力を抜いて剣を下げて引く。
一気に斜め上から、再びデルアンダー目がけ、豪速の剣が振り切られ、デルアンダーは歯を食い縛ってギリギリで身を横に傾け、避けた。
びっ!
が、僅かに肩の衣服を掠る。
デルアンダーは肩を引いて一気にディングレー目がけ、大振りで剣を一気に振り下ろす。
「…俺あんだけ大振りだと…」
「ああ、相手に当たらなきゃ、逆に隙だらけになるよな」
が、デルアンダーの振りは早い。
気づくとディングレーは身を横に滑らせて避け、デルアンダーは振った剣を引いて戻し、互いに間を取って、睨み合った。
場内から、息継ぐ間もない攻防で詰めていた息を、吐き出す音があちこちから聞こえる。
ディングレーは迷いが一切無く、激しく突っ込み剣を振る。
デルアンダーはディングレーの気迫に押され、が、足と技を使ってディングレーを、揺さぶろうと試みる。
突っ込んで来るディングレーに、一度振った後、直ぐ剣を返して二度目を振り入れる。
ディングレーは一度目は軽く剣を当てて弾き、二度目の剣が届く、前に思いっきり滑り込んで腕を伸ばし、剣をデルアンダーの腹へ、突き入れた。
剣を振り切るデルアンダーは、突いて来る剣を防ぐのに間に合わず。
ディングレーは腹へと剣を寸止めで突き刺したまま、静止。
ぅおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
「ヤバいぜディングレーのヤツ!!!」
「なんであそこで、腹突ける?!
デルアンダーのがどう見ても…先に斬ってるはずだろう?!」
オーガスタスが、ローフィスに囁く。
「あいつデルアンダーの振った剣、身を屈めてくぐり抜けたな」
ローフィスは気が無いようにつぶやく。
「…だな」
「あれ、確かお前が良く、使う技だよな?
いかにも間に合わないように剣に身、さらしといて相手を油断させて。
ギリギリで避けて、腹に突っ込んで行くの」
ローフィスが、とぼける。
「そうだっけ?」
オーガスタスが、吐息混じりに告げる。
「お前な。
ただでさえ、正統派の腕の確かな豪剣なんだ。
あんなワザまで教えたら…凄く手強くなるじゃないか」
ローフィスはそう言う、オーガスタスを斜に見つめる。
「お前、ディングレーのもっと上行く詐欺師じゃないか。
あれっくらい教えとかないと。
ハンデ埋められないだろう?」
そう言われて、オーガスタスは思いっきり肩を竦めた。
「勝者、ディングレー!!!」
ぅおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!!
二年だけで無く。
三年、四年も年若き王族の戦いっぷりに奮い立ち、歓声を上げた。
一年らはその凄い歓声に、目を見開く。
「…ローランデの時と、えらい違い…」
「だけどお前だって、きょとんってしてたろ?」
「そうだけどさ」
ヤッケルもため息吐きながら、腕組みする。
「あの勝ち方なら、俺だって大声で叫べる」
フィンスも、シュルツですら頷いた。
「分かりやすいな」(シュルツ)
「ど迫力な勝ち方だしね」(フィンス)
ディングレーが身を起こし、デルアンダーが暫く…麻痺したように動かず。
ディングレーはじっ…と、デルアンダーを見つめる。
デルアンダーはやっと、俯いて一つ吐息を吐く。
ディングレーは労るように、デルアンダーを見つめ続けた。
デルアンダーはやっと、顔を上げて視線を向けてる、ディングレーを見る。
ディングレーが、二年の席へと歩き出す。
するとデルアンダーも、横に並び…二人、肩を並べて二年席へと、互いに無言で、歩き出した。
両者の間には…互いの戦いを認める親密な空気があって。
けれど、どちらも無言のまま。
二年最前列へと戻って行った。
三年らはそれを見てまた、盛り上がる。
「年下ながら、渋すぎる…」
「どこまでも、男っぽくてシビれるぜ!!!」
「俺が女なら、惚れてるな」
「どっちに?」
「どっちにも」
四年らですら、馬鹿騒ぎする三年を睨むものの…。
ため息交じりに、男同士の無言の友情の格好良さに、心の中では三年達に同意した。
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