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真の実力者
しおりを挟む会場は向かい合う、ローランデとノーラッドの姿に次第に静まりかえる。
全く正体の分からないローランデの剣。
毎回ほぼ数秒で、相手の剣が折れて勝ってる。
まるで魔法のように。
次第にあちこちからひそひそ声。
「あいつ、『光の民』の血とか、引いてないか?」
「タマに能力ほぼ無い末裔が、ここに入学してるって…」
「能力、無いんだろ?
第一『光の民』の末裔ってさ。
西の聖地や東の聖地みたいな、光の結界内じゃないと能力使えないんだろ?」
「護符のペンダント経由で光得て、結界外でも多少は、使えるらしいぜ?」
「第一、末裔の中では能力無くても。
人間よりは能力あるんだぜ?」
ヤッケルはその声を耳にして、場内を見回す。
「…つまりローランデが、能力使って剣折ってるって…みんな、思ってるのか?」
フィンスもため息吐く。
「大体、『光の民』もその末裔も。
みんな、背が異常に高いのに」
シェイルは言われて、ここでは小柄にすら見える、ローランデを見る。
静かに剣を下げ、講師の合図を待っていた。
一方ノーラッドは、フィンスに最後、突きを防ぐ為に叩きつけられた剣の具合を、確かめている。
フィンスの思いっきりの剣を喰らい、僅かにぐらついて来てる。
が、しゅっ!と振ってみて…三振りは思いっきり振れそうだと、判断した。
ノーラッドが、顔を上げる。
それを合図に、講師が叫んだ。
「始め!」
ノーラッドは対戦相手の、ローランデを見る。
一見貴公子で優しげ。
が。
剣士として相対し始めると…。
澄みきった湖水のような、恐ろしい静けさに一瞬身が、ぞっ…と身震った。
「(…なん…だこれは…!)」
大自然の中で、人間はちっぽけ。
ローランデが大自然で…まるで自分が、人間………。
「(…“気”が…普通じゃ無い!)」
ノーラッドが青冷めて動かず、ローランデはすっ…と歩を横に滑らす。
その時始めて皆が、ローランデの所作を見た。
その滑りようは…音が無い。
しなやかとか…素早いとか…。
そういう次元じゃなかった。
一瞬、横に滑る優美なローランデの姿が視界に残り、次の瞬間、もう剣が下がり振り切っていた。
「いつ…いつ振り下ろした?!」
「見えたお前?!」
やはり…横に歩を移すローランデの、靴音は皆無。
けれどノーラッドは必死でローランデからの一撃を、体を横に倒して避けて、身が凍った。
「(…斬る気で、振ってる!)」
気品の塊…優しげ…。
違うこれは…ローランデの剣は!
「(…殺し合いの剣…。
つまり、生きるか死ぬか…)」
ノーラッドは背後に一瞬、剣の気配を感じ、その剣が、自分の身を斬り裂く恐怖に竦む身を、必死に奮い立たせる。
振り向いて襲い来る剣に剣をブツけようとして…。
横っとびに、飛んで逃げた。
皆、決死で避けるノーラッドが、訳が分からず見つめる。
「…あそこまで必死に、避ける剣か?!」
「確かにローランデは早いが…」
「剣持ち上げて、当てりゃいい事だろう?!
それをなんであんなに、必死に避ける?」
ざわざわは収まらず、ローランデがノーラッド目がけまた、滑る。
足音はやはり無音。
一瞬、剣を下げて止まる。
ふわり…とローランデの長い髪が肩に落ちるのがくっきりと見え…次の瞬間、ノーラッドが決死で剣を、振り切ってた。
カン…!
カンカンカン…!
ノーラッドの剣が、折れて飛ぶ。
「あ…当たったか?!
今?!」
ローランデってどう振った?!」
「止まったとこは、見えたぜ」
「振り上げた?!」
「振り下ろしたとこ、見たか?!」
「あの赤毛が振り切ったとこは、見えた」
「そんなん俺でも、見えたぜ!」
場内は…初めて見る剣の使い手、ローランデを、驚愕の表情で迎える。
ローランデは腰を下げ、剣を下げ、振り切った姿勢のまま、止まってる。
一方ノーラッドは、両足開き、やはり剣を振り切って下げ…。
けれど目を見開いて、静止していた。
折れた剣も、飛んだ剣先すら、見ていない…………。
ローランデが、すっ!と下げた腰を上げて、真っ直ぐ立つ。
「それまで!
勝者、ローランデ!!!」
ざわざわざわざわざわ…。
「異常だな」
「普通勝ったら歓声湧くよな?」
「みんな訳、分かんないんだぜ?」
「俺だって分かんない」
みんな、目前で起こったことがまだ理解出来ず、ざわめき渡る。
ノーラッドだけが…身を起こし一つ、吐息を吐き…そして、一年席へと戻り始める。
拍手も無く、今だざわめき渡る場内。
「…異様だな」
オーガスタスの意見に、ローフィスは頷く。
リーラスが後ろの席から顔を下げて、二人に聞く。
「お前ら、分かった?」
ローフィスが、頷く。
「…残像使ってる。
目の錯覚かな?
ゆっくりの時はとても、ゆっくり。
その次が一気に早いから…」
オーガスタスも頷く。
「ゆっくりの静止姿が目に残ってて、次の早さについていけない。
つまりそれ程、早い時がべらぼうに、早いんだ」
リーラスは暫く沈黙した後、オーガスタスに言った。
「番狂わせが無きゃ、今年もまたお前が学年一で、いずれあいつと対戦だぜ?
お前、見えたの?」
オーガスタスは腕組みしたまま、頷く。
「一応振り下ろす場面は」
ローフィスは横のオーガスタスを見上げる。
「それが見えても…あいつが途中で剣の軌道、変えたのは?
見えたのか?!
それが見えなきゃ、お前が斬られてるぜ?」
「マジな戦いなら、肉を斬らせて骨を断つ。
ぐらいの覚悟は要りそうだ」
リーラスがため息吐く。
「『教練』の試合じゃ…肉を斬らせた時点で、負けだぜ?」
リーラスはそう言った後、目を見開いた。
「…つまりそれを感じて…あの赤毛の坊ちゃん。
ふっ飛んで必死に、逃げたのか?」
ローフィスはため息交じりに囁く。
「よく逃げたよな」
「ああ。
逃げてなきゃ剣が、折れてたもんな」
リーラスはまた…考え込みながら、つぶやく。
「…つまり通常の剣筋じゃ無い?」
ローフィスが、頷いた。
「あの早さで、相手に反応して剣の軌道変えて来るんだぜ?
どんだけ早い、反射神経だって話だな」
「…やっぱ『光の民』の末裔の血とか引いてて、心を読むとか?」
オーガスタスとローフィスにため息吐かれ、リーラスは二人を不満そうに見る。
「なんだよ」
オーガスタスが、斜め横に顔出してるリーラスをジロリ、と見る。
「理解出来ない事はみんな、『光の民』のせいか?」
ローフィスは俯く。
「…むしろ、国境近くの秘境に居を構え、アースルーリンドに属さない『風の民』の、戦い様に近い」
リーラスはローフィスを見て、問う。
「…少数精鋭で女、子供までが戦士の…?」
ローフィスは俯いたまま、頷く。
「女、子供は体格のハンデ埋める為、めちゃくちゃ素早いからな」
オーガスタスも頷いた。
「戦った事無いが、噂だけは聞いてる。
国境付近は盗賊だらけで、『風の民』は自分らを守る為、子供ですら盗賊を遠慮無く、斬り殺すそうだ」
リーラスはちびっ子暗殺者を想像しながら、ぞっとして尋ねた。
「盗賊じゃ無きゃ、殺さないよな?な?」
ローフィスは頷く。
「小部族だが、国交は出来てるし…。
この国の王子はある年齢になると『風の民』に剣の指南を受けるため、暫く『風の民』の住居に滞在するんだろう?
案外あいつも、出かけて訓練、受けてたりして」
リーラスがローランデを見て、ため息吐いた。
「小柄だもんな。
『教練』では」
オーガスタスとローフィスが同時に、頷いた。
ヤッケルとフィンスは戻って来るローランデを…。
“強かった!”
とも“格好良かった!”
とも褒められず、無言で迎える中、シェイルだけが。
「ローランデって、凄い!!!」
と頬染めて、褒めまくった。
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