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勝敗を超えた勇者
しおりを挟む勝ち上がった三名はローランデを交え、四人となって一学年強豪の最終四名として、会場中の視線を浴びる。
ヤッケルは中央に残る四人が会場中の視線を集めるのを見て、横に座るシェイルに囁く。
「要はあそこに、残らないとダメだな」
シェイルは吐息吐く。
「…もっと練習しなきゃ」
ヤッケルは真顔で頷く。
「だな」
けどシェイルはそんなヤッケルの横顔を見て、またぷっ!と吹き出す。
「なんだよ!
『教練』の、歴史に残る負けっぷりだぜ?!」
その言葉を聞いて、後ろのヤッケルの仲間が声かける。
「ああ最高に、笑えた!」
「あれはマジで…間抜けだったよな」
「抱き止めた四年の、フクザツな顔」
「デカくてゴツいのに…自分のせいか?
俺が悪いのか?!
って、すんごく困った顔してたよな!」
「気の毒…」
そこで笑いこけるので、ヤッケルは横のシェイルか、背後の仲間か。
どっちを睨めば良いか、迷いまくった。
フィンスの相手はノーラッド。
そして…ローランデの相手が、ローだった。
最終二組が向かい合う。
ローは自分より僅かに背の低いローランデを見つめる。
向かい合った感じは、静か。
そして…やはり誰とも違う、気品を醸し出していて、貴公子としては申し分無い。
北領地の、王子とも言える大公子息。
が、もしローランデが通常の地方大公子息なら、うんと警戒した。
地方大公子息の大抵が、下品で野性味たっぷりの、ボス猿で俺様。
けど中央の大貴族と違い、その剣は正統派じゃないのに…恐ろしく強い。
だがローランデは、中央の大貴族もひれ伏す程の気品。
どうしても…剣豪には見えず、つい軽く横に、剣振った。
場内はやっと、一学年筆頭のマトモに戦う姿が見られる。
と、ローランデに視線を向ける。
明るいしなやかで艶やかな栗毛に、濃い栗毛の筋が、幾つも混じる独特の髪色。
青の瞳は湖水のように澄んでいる。
優しげで背も余り高くなて、均整の取れてすらりとした体格。
シェイルを見ていなければ、ゴツい男集う『教練』の中では、華奢にすら見える。
が、さすが北領地大公子息。
落ち着き払い、怖じける様子は微塵も無い。
一方、もう一組のフィンスは、目前に立つノーラッドを見つめる。
いつも闘志剥き出し。
勝ちにこだわり、いきり立つ姿ばかり見ていた。
が、この場に臨む彼は…自分に敬意すら、見せている。
フィンスは感じた。
ノーラッドは手を抜かず、奢らない…。
また、勝とうという焦りもない。
手に握る剣を軽く、振ってみる。
ぐら…と微かに揺れる。
マトモに戦えるのはほんの、数回。
いやむしろ。
ノーラッド相手ではたったの一回、剣を交えれば…負ける。
フィンスは柄を、ぐっ。
と握った。
勝敗よりも…!
「始め!」
講師の声が聞こえた途端、フィンスは剣を構え、切り込んで行った。
身を振りフェイントを入れて、剣を背後に隠して突っ込んで行く。
ノーラッドは逃げず、真っ直ぐ突っ込んで来るフィンスを迎え撃つ。
フィンスは背後から回し上げて上から、振り下ろす。
ノーラッドは直ぐ、下げた剣を上げて…交えようとした途端、フィンスの剣は合わさる前に横にぶれ、引かれてフィンスは横に滑る。
ノーラッドは直ぐフィンスに振り向くと、剣を下げてまた、斬り込んだ。
カン…カンカン…。
その時、突如折れた剣の、落ちて跳ねる音が響き渡った。
フィンスもノーラッドも、思わず振り向く。
ローが剣を持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
場内はざわめき渡る。
「どうなった?!お前、見たか?!」
「なんだ、どうして?!」
「あの赤毛が剣くるっと回して…で、振った?!」
ローは床に落ちる剣先と、折れた剣を交互に見る。
ローランデと向かい合い…ローランデが横に滑るからそこに、剣を振ってそして…。
折れて、飛んだ。
つい独り言のように、呆然としたままローは叫んだ。
「…………マジ?!
マジでこれで終わり?!!!!」
ざわざわざわ…。
フィンスとノーラッドですら…。
剣を下げて立つ、ローランデを見つめる。
剣を交えた様子など、無いような…自然な出で立ち。
ローは講師に、尚も叫ぶ。
「まさか本当に、これで俺の負け?!」
講師は慌てふためき喚き散らすローに、一つ咳払いして、頷く。
「落ちた剣先が、お前が負けと物語ってる」
「剣先がモノ言うか!」
「いいから黙れ!
まだもう一組、決着が付いてない!」
講師に怒鳴られ、ノーラッドとフィンスは我に返る。
がどちらも…あれだけヤッケルと戦ったローが…一瞬で負けるなんて信じられなくて…。
互いに集中出来ない。
が、先に我に返ったノーラッドが、フィンスの顔目がけて剣を振り込む。
シュッ!
早い剣で、フィンスは顔を横に振って避け、ノーラッドにお返しとばかり、腹へと剣を、突き刺した。
ノーラッドは気合いに押され、体を横向け避けて、思い出す。
フィンスの剣は、ぐらぐらだと。
が、そうだとしても、寸止めで突きつけられたらそれで負け。
ノーラッドの瞳が真剣味を帯びる。
フィンスは家の事情などかなぐり捨て、剣士へ戻る本気のノーラッドの、気迫に押されて剣の柄をきつく、握り込んだ。
しゅっ!
真横に向けた体から、大振りの剣が真上から振り下ろされ、フィンスは首を振って避ける。
だが剣の届く間合いから、引く様子が無い。
ノーラッドは今度一気に、突っ込んで行く。
フィンスは間合いを詰め、胸を突き刺す剣を、体を横向け避け、直ぐ向きを変えて再び腹を抉ろうとする剣を、とうとう上から短く剣を振って、叩き落とそうとした。
カンっ!
腹に突き刺さる、ギリギリでノーラッドの剣が、止まる。
フィンスの剣は、叩きつけた途端折れ…。
ノーラッドの剣の軌道を変えられぬまま、折れた剣は振り切られて下がる。
「それまで!」
フィンスは吐息を吐き出す。
ノーラッドは、身を起こしてフィンスを見る。
場内はざわざわとざわめき渡る…。
「折れなきゃ、続いていい勝負だったな」
オーガスタスが囁き、ローフィスも同意した。
「アイツ、大したタマだぜ」
リーラスが、背後からひょい、と顔を出してローフィスに尋ねる。
「どっちが大したタマだ?」
オーガスタスが目を見開く。
「当然、フィンスだろう?」
ローフィスは頷き、場内を顎で指す。
俯き、剣を下げて中央から去り始めるフィンス。
が、誰もが不利な剣で戦い抜いた戦士に、拍手を送る。
二年。
三年。
そして…四年達からも。
拍手は去るフィンスに、降り注がれた。
ヤッケルはもう、立ち上がってフィンスに拍手を送り、戻り微笑を見せるフィンスに、興奮して叫んだ。
「俺がオンナだったら、間違いなくあんたに惚れてる!
シビれる程、格好良かったぜ!!!
普段は体格と育ちの良い、ただの良い奴でサエないのに、戦うとあれだ!!!」
フィンスは、叫んでけたたましい拍手してるヤッケルを見下ろし、暫く沈黙した後、呟いた。
「…普段の私はサエないの?」
シェイルがそれを聞いて、ぷっ…と吹き出し、ヤッケルは思わず怒鳴った。
「そこじゃない!!!
それ言う前に、さんざ褒めたの、聞いてなかったか?!!!!」
「………………………………」
フィンスは
“褒めるなら、ケチつけずまるっと褒めて欲しい"
と思った。
が、会場中からの拍手は鳴り止まず、仕方無く、すとん。
と笑ってるシェイルの、横に腰かけた。
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