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学年無差別剣の練習試合
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三時限目の鐘の音が鳴り響き、大練習場に全校生徒が詰めかける。
ざわざわと移動し、ごったがえす生徒らは、広い練習場の周囲の、後ろになるにつれて高くなる、階段状の長椅子に次々と腰掛ける。
広く空いた試合場の中央を、取り囲む四方に生徒らは学年別に腰掛けながら、漂う緊張の中、副校長が中央に姿を見せて、叫ぶ。
「校長は現在、不在!
が、試合を始める!
異例ではあるが、例が無い訳じゃ無い!
一年、中央へ!」
副校長に叫ばれ、一年は皆、きょとん。
とし、そのまま長椅子にかけてる者、中央に進み出る者…。
ざわざわと困惑する中、副校長が再度叫ぶ。
「全員だ!!!」
まだ座ってた生徒が、慌てて中央へ駆け出す。
上級らは笑い合う。
「今年は副校長だから、挨拶もおざなりで、戸惑いまくってるな、一年」
「もちっとマシな、開会の挨拶すりゃ良いのに」
ヤッケルとフィンスが、シェイルの両横に守るように付き、その前をローランデが歩く。
「二列に整列!」
次第に列が二列になり、ローランデを先頭に、フィンス、シェイル、ヤッケルと並ぶ。
「向かい合え!」
声と共に、二列は向かい合う。
横の一列先頭はローズベルタ。
こちらの列の先頭は、ローランデだった。
ざわざわと声がする。
「あいつ…馬鹿?!」
「最初に学年筆頭の前に立つなんて、アタマおかしいぜ」
「初戦で負けたいなんて、体格と偉そうな態度の割に、情けないヤツだな」
上級の声を聞いた途端、ローズベルタはすっ…と、先頭から外れてかなり後ろに場所を移した。
逃げるローズベルタにローランデは一つ、吐息を吐く。
「剣を構え!
向かいの相手と、戦え!」
声と共に、向かい合う二列は対戦相手に剣を振り始めた。
上級生らは一年の戦い振りを目にとめる。
ディングレーは二学年最前列でシェイルを見た。
シェイルの相手は大柄だった。
けど…動きは鈍い。
が、真っ先に講師が叫ぶ。
「勝者、ローランデ!」
ローランデは、対戦相手に突きつけた剣を下ろす。
場内はざわめき渡った。
「筆頭が勝つのは当然だが…」
「早すぎるぜ。
戦ってるとこ、見たか?!」
「筆頭相手に負けたアイツが剣振って…突然止まったとこしか、見てない」
「どんな剣振ったんだ?!
あの小柄な筆頭?!」
フィンスは横のローランデが早々と勝ちを決めたのを横目に、焦る気持ちを抑え込んだけど。
対戦相手は違った。
勝とうと焦って、大ぶりな剣をめちゃくちゃに振り込んで来る。
フィンスはそれを、軽く弾き、直ぐ折れる剣を庇って避け続けた。
二度。三度。
がちん!
とうとう…力を込めすぎた相手の剣が折れて、宙を飛び…。
フィンスは講師に、勝ち組の列の方に肩を引かれた。
先頭二人が試合を終え、皆シェイルの戦う姿がはっきり見えて、目を見開く。
大柄な力の強い対戦相手を、足を使って華麗に避け、ムダに剣を振らず、牽制で剣を軽く振って相手をその場から引かせ、場を移してまた翻弄し…決して強くは剣を、当てない。
結局、ひらりひらりと場を移すシェイルをたどたどしく追いかけた結果、対戦相手は足がもつれて転びかけ、その隙にシェイルは剣を、相手の喉元に真っ直ぐ突きつけた。
シェイルは講師に、肩を勝ち組の列へと押される。
「…おいあの、とびっきりの可愛い子ちゃん…勝ったぞ?!」
「俺てっきりディングレーかディアヴォロスの愛玩で、試験免除の特待入学かと思ったぜ…」
「真っ当に剣、振ってなかったか?!」
「試験受けて受かってたの?!
あの可愛い子ちゃん…」
ざわめき渡る場内。
ヤッケルはシェイルが勝って直ぐ、勝ちを決めた。
相手はシェイルが勝ったのに驚き、横を向いた、その隙に。
剣を突きつけての勝利。
勝ち組に並ぶフィンスはまだ、肩を波打たせ息切れしていた。
横のシェイルの元に、ヤッケルが飛び込んで並ぶ。
「どうだった?」
ヤッケルがシェイル、フィンス、ローランデに向かってそう尋ねた。
ローランデは微笑む。
「君は?」
ヤッケルは聞かれて、肩を竦める。
「最低!
勝つ気満々で、ちっとも剣当ててこなくて逃げまくりやがって。
人の隙を伺っては近づく度
『チビ』
だとか
『貧弱で貧乏くさいな』
とか
『お前絶対勝てない』
だとか。
悪口で勝つ気だったんだぜ?」
言ってからローランデが微笑うのを見て、ヤッケルははっ!とする。
フィンスがやっと息切れが止まって、ヤッケルに言った。
「ほら。
大丈夫だろ?」
ヤッケルはむくれて顔下げる。
「今のはさほど、下品な言動じゃ無かった」
けれどシェイルは目を見開いてつぶやく。
「…下品じゃ無いとヤッケルらしくなくて…そんなの、つまんないよ?」
ヤッケルはぶすっ垂れて即答した。
「シェイル、お前それ、褒めてない」
フィンスとローランデはそれを聞いて笑い、シェイルは一生懸命、言った。
「褒めてるよ!
そう聞こえなくても少なくとも僕は、褒めて言ってるから」
「ああもう、分かったよ!」
そのふてくされながらも、面倒くさそうにたしなめるヤッケルの言い方を聞いてまた、フィンスとローランデは笑った。
が、講師が振り向く。
勝ち上がった者らはまた二列に並ぶと、向かい合う。
「始め!」
その声でまた、剣を振り始める一年。
今度、上級らは学年筆頭、ローランデに注目する。
がやはり…ロクに剣も当てず、気づくと相手は止まり…ローランデは対戦相手に剣を突きつけ、勝っていた。
場内はざわめき渡った。
「…どうなったんだ?」
「お前、分かった?!」
「いやなんか…相手が剣振って筆頭が避けた、部分しか分からない」
皆、勝ち列に早々に並ぶローランデの動向をうかがう。
が、優しげで気品溢れる貴公子にしか見えず、どう見ても…“剛の者”に見えなくて、皆、首を捻りまくった。
ざわざわと移動し、ごったがえす生徒らは、広い練習場の周囲の、後ろになるにつれて高くなる、階段状の長椅子に次々と腰掛ける。
広く空いた試合場の中央を、取り囲む四方に生徒らは学年別に腰掛けながら、漂う緊張の中、副校長が中央に姿を見せて、叫ぶ。
「校長は現在、不在!
が、試合を始める!
異例ではあるが、例が無い訳じゃ無い!
一年、中央へ!」
副校長に叫ばれ、一年は皆、きょとん。
とし、そのまま長椅子にかけてる者、中央に進み出る者…。
ざわざわと困惑する中、副校長が再度叫ぶ。
「全員だ!!!」
まだ座ってた生徒が、慌てて中央へ駆け出す。
上級らは笑い合う。
「今年は副校長だから、挨拶もおざなりで、戸惑いまくってるな、一年」
「もちっとマシな、開会の挨拶すりゃ良いのに」
ヤッケルとフィンスが、シェイルの両横に守るように付き、その前をローランデが歩く。
「二列に整列!」
次第に列が二列になり、ローランデを先頭に、フィンス、シェイル、ヤッケルと並ぶ。
「向かい合え!」
声と共に、二列は向かい合う。
横の一列先頭はローズベルタ。
こちらの列の先頭は、ローランデだった。
ざわざわと声がする。
「あいつ…馬鹿?!」
「最初に学年筆頭の前に立つなんて、アタマおかしいぜ」
「初戦で負けたいなんて、体格と偉そうな態度の割に、情けないヤツだな」
上級の声を聞いた途端、ローズベルタはすっ…と、先頭から外れてかなり後ろに場所を移した。
逃げるローズベルタにローランデは一つ、吐息を吐く。
「剣を構え!
向かいの相手と、戦え!」
声と共に、向かい合う二列は対戦相手に剣を振り始めた。
上級生らは一年の戦い振りを目にとめる。
ディングレーは二学年最前列でシェイルを見た。
シェイルの相手は大柄だった。
けど…動きは鈍い。
が、真っ先に講師が叫ぶ。
「勝者、ローランデ!」
ローランデは、対戦相手に突きつけた剣を下ろす。
場内はざわめき渡った。
「筆頭が勝つのは当然だが…」
「早すぎるぜ。
戦ってるとこ、見たか?!」
「筆頭相手に負けたアイツが剣振って…突然止まったとこしか、見てない」
「どんな剣振ったんだ?!
あの小柄な筆頭?!」
フィンスは横のローランデが早々と勝ちを決めたのを横目に、焦る気持ちを抑え込んだけど。
対戦相手は違った。
勝とうと焦って、大ぶりな剣をめちゃくちゃに振り込んで来る。
フィンスはそれを、軽く弾き、直ぐ折れる剣を庇って避け続けた。
二度。三度。
がちん!
とうとう…力を込めすぎた相手の剣が折れて、宙を飛び…。
フィンスは講師に、勝ち組の列の方に肩を引かれた。
先頭二人が試合を終え、皆シェイルの戦う姿がはっきり見えて、目を見開く。
大柄な力の強い対戦相手を、足を使って華麗に避け、ムダに剣を振らず、牽制で剣を軽く振って相手をその場から引かせ、場を移してまた翻弄し…決して強くは剣を、当てない。
結局、ひらりひらりと場を移すシェイルをたどたどしく追いかけた結果、対戦相手は足がもつれて転びかけ、その隙にシェイルは剣を、相手の喉元に真っ直ぐ突きつけた。
シェイルは講師に、肩を勝ち組の列へと押される。
「…おいあの、とびっきりの可愛い子ちゃん…勝ったぞ?!」
「俺てっきりディングレーかディアヴォロスの愛玩で、試験免除の特待入学かと思ったぜ…」
「真っ当に剣、振ってなかったか?!」
「試験受けて受かってたの?!
あの可愛い子ちゃん…」
ざわめき渡る場内。
ヤッケルはシェイルが勝って直ぐ、勝ちを決めた。
相手はシェイルが勝ったのに驚き、横を向いた、その隙に。
剣を突きつけての勝利。
勝ち組に並ぶフィンスはまだ、肩を波打たせ息切れしていた。
横のシェイルの元に、ヤッケルが飛び込んで並ぶ。
「どうだった?」
ヤッケルがシェイル、フィンス、ローランデに向かってそう尋ねた。
ローランデは微笑む。
「君は?」
ヤッケルは聞かれて、肩を竦める。
「最低!
勝つ気満々で、ちっとも剣当ててこなくて逃げまくりやがって。
人の隙を伺っては近づく度
『チビ』
だとか
『貧弱で貧乏くさいな』
とか
『お前絶対勝てない』
だとか。
悪口で勝つ気だったんだぜ?」
言ってからローランデが微笑うのを見て、ヤッケルははっ!とする。
フィンスがやっと息切れが止まって、ヤッケルに言った。
「ほら。
大丈夫だろ?」
ヤッケルはむくれて顔下げる。
「今のはさほど、下品な言動じゃ無かった」
けれどシェイルは目を見開いてつぶやく。
「…下品じゃ無いとヤッケルらしくなくて…そんなの、つまんないよ?」
ヤッケルはぶすっ垂れて即答した。
「シェイル、お前それ、褒めてない」
フィンスとローランデはそれを聞いて笑い、シェイルは一生懸命、言った。
「褒めてるよ!
そう聞こえなくても少なくとも僕は、褒めて言ってるから」
「ああもう、分かったよ!」
そのふてくされながらも、面倒くさそうにたしなめるヤッケルの言い方を聞いてまた、フィンスとローランデは笑った。
が、講師が振り向く。
勝ち上がった者らはまた二列に並ぶと、向かい合う。
「始め!」
その声でまた、剣を振り始める一年。
今度、上級らは学年筆頭、ローランデに注目する。
がやはり…ロクに剣も当てず、気づくと相手は止まり…ローランデは対戦相手に剣を突きつけ、勝っていた。
場内はざわめき渡った。
「…どうなったんだ?」
「お前、分かった?!」
「いやなんか…相手が剣振って筆頭が避けた、部分しか分からない」
皆、勝ち列に早々に並ぶローランデの動向をうかがう。
が、優しげで気品溢れる貴公子にしか見えず、どう見ても…“剛の者”に見えなくて、皆、首を捻りまくった。
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