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オーガスタスの気遣い
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デルアンダーとテスアッソンが、ディングレーにいとまを告げて自室へ戻り、その後ディングレーはローフィスが、腕組みしたまま戸口にもたれて俯く姿を心配げに見つめる。
オーガスタスはローランデとフィンスにも、自分らの宿舎に戻るよう言って、残ってるのはシェイルの体を拭き終えたヤッケルのみとなった。
オーガスタスはローフィスに寄って
「話がある」
と告げ…ディングレーはオーガスタスと部屋の隅で話すローフィスの姿を見て、ほっとして椅子にかけた。
オーガスタスとローフィスは壁にもたれかかって小声で話す。
「…どういうつもりでディアヴォロスはお前を癒したんだ?
まさかシェイルが襲われることを予知して?」
問われてローフィスは、憮然と告げる。
「違う。
俺にシェイルを抱けと言った」
「…そのタメに癒したのか?」
ローフィスは不機嫌に頷く。
オーガスタスは畳みかける。
「…抱くなら今がチャンスだぞ?
今のシェイルはお前が必要だ」
ローフィスはまた、茶化してるのかな?
と、うんと長身の、オーガスタスの顔を見上げた。
が、オーガスタスは真顔。
ローフィスは顔を下げてため息吐く。
が、声は潜めながらも言葉に怒りを滲ませ、告げた。
「…俺はずっと、シェイルが初めての相手は惚れた女の子と初体験して欲しくて、俺の邪悪な欲望を抑え込んできたんだ!」
オーガスタスは真面目に尋ねた。
「…グーデンが死ぬ程憎いか?」
「それは当然だが…シェイルはディアヴォロスと、もうとっくに…体験してたらしい」
「…………………………………………」
ローフィスはオーガスタスの沈黙が長いので、つい顔を上げる。
が、オーガスタスは無言でびっくりしてるのを見て、言葉を続けた。
「…それを聞こうと思ったらあいつ、風呂に行っちまって。
風呂場で拉致されたらしい」
ローフィスはまだ、オーガスタスの声が無く、顔を見上げると、ただ頷いていた。
なのでローフィスは説明を始めた。
「…つまり…グーデンらは、思い出すだけで腸が煮えかえるし、ディアヴォロスは…まあ彼としては…シェイルが凄く不安定で…だから人助けのつもりで抱いたと。
が、俺からしたら…その、助けたつもりだろうが、納得いかない」
「…ディアヴォロスが迫って?」
「…さあな。
が、ディアヴォロスがグーデンみたいに無理強いするか?」
「…しないな」
「…つまりシェイルも…納得ずくって事だ。
で、今あの状態のシェイルに、ディアヴォロスとどうしてそうなったとか、聞けると思うか?」
やっぱりオーガスタスの声は無く、ローフィスが顔を上げると、オーガスタスは首を横に振っていた。
ローフィスはまた、ため息交じりに顔を下げて言う。
「…しかもディアヴォロスは、グーデンを牽制するため、手を貸してもいいと申し出てくれたが…あっちもかなりシェイルに本気で、それするならシェイルに手を出すと。
言ってきてる」
「…つまりお前の頭の中は、今現在ぐちゃぐちゃで。
整理がついて無くて、シェイルと二人きりになるとどう爆発するか自分でも分からなくて。
シェイルを避けてるのか?」
ローフィスはやっと口をきくオーガスタスを見上げて言う。
「さすが親友。
俺の気持ち、ズバリ言い当てるな」
「…褒められても嬉しくないし、そんな事分かりたくなかった」
「…別に褒めてないが。
だが普通に考えても、今のシェイルの側を離れるのは…俺だってマズいと思う。
酷く嫌な思いしてるし。
けど俺としても…」
オーガスタスは即座に言った。
「この際、代わりにディングレー殴って、すっきりするか?」
二人揃って、テーブル前の椅子に座り寛ぐディングレーに、振り向く。
ディングレーは二人にじっ…と見られて…嫌な予感に包まれ、顔を下げた。
ローフィスが、顔を下げて小声で告げる。
「仮にも王族だ。
今顔腫らしたら…」
オーガスタスも、頷く。
「グーデンの護衛らに顔殴られたと、不名誉な勘違いされるな…」
オーガスタスが、聞く。
「…で、お前、グーデンに怒ってんの?
それともお前の苦労を無にした、ディアヴォロス?」
ローフィスは、聞かれて動揺で顔を揺らし、ため息交じりに囁く。
「グーデンには怒り狂ってる。
が…正直、本当に脅威なのはディアヴォロスだ…。
あの、整いきった顔な上、あの体で!
しかも…」
オーガスタスは言いたい事が分かって、頷く。
「俺だって、例えどれだけ惚れてても、ディアヴォロスに夢中な女だけは、絶対口説かない」
「…それ…恋愛では絶対ディアヴォロスだけは恋敵にしたくないって言う、敗北宣言?」
オーガスタスは腕組みし、俯いて頷く。
「ディアヴォロス相手に。
誰が勝てる?
どの社交の場でもどうせ、モテモテなんだろう?」
「…ディングレーは、そう言ってるな」
そこでまた、二人にディングレーは揃って見つめられ…座っているものの、居心地が最悪になった。
が、二人はまた視線を背けて話し出す。
「(…一体ナニ、話してるんだ?)」
ディングレーは内心冷や汗で、こっそり二人を伺った。
オーガスタスはディングレーの心配を無視し、ローフィスに囁く。
「…だが早々、ヤッケルに押しつけてもいられない。
シェイルは…お前無くして、安心出来ないだろう?」
ローフィスは俯き…苦しげな表情をする。
だからオーガスタスは言った。
「推測するに、お前シェイルの前とかで、女と楽しげに話したり…まあそれ以上のこととか、しなかったか?」
「…したかもな。
女に惚れるのが、健全な青少年の姿だと。
教えるつもりで…」
「だとしても、シェイル見てると…。
お前が女と楽しそうに交際してたら、もの凄い打撃受けそうだ。
正直、女のコじゃないのが不思議なくらいで…。
シェイルはどう見ても、俺と同性だと思えない」
ローフィスは顔を揺らし、そして上げてオーガスタスを見る。
「…やっぱり?」
オーガスタスは頷いた。
「思うに、ヤッケルみたいな環境に居れば嫌でも男らしくなりそうだが…。
お前ずっとシェイルの事、お姫様扱いしてなかった?」
ローフィスはオーガスタスにそう言われて…顔を下げたまま目を見開く。
オーガスタスはローフィスを見つめるが、ローフィスは…自分の接し方を改めて思い返し、検証してる様子で…言葉が出てこない。
オーガスタスはため息吐いた。
「ずっと一緒にいたんだろう?
どうして、お前みたいにクチと態度の悪いヤツと居て、あんだけ純粋で人間離れした可愛い子ちゃんのままで居られるんだ?
俺はそこが、不思議だ。
どう考えてもお前とお前の親父とで。
シェイルをお姫様扱いしたとしか、思えない」
「………………………………………」
ローフィスの沈黙が長く、ついオーガスタスは促す。
「反論、してみろよ」
「…ちょっと、待て」
「待ったら反論聞けるのか?
ムダなあがきはよせ」
「…お前、非情だな!
ちょっとは時間、与えてくれ」
「…与えても反論出来ないなら、時間の無駄だ」
「……………………………あいつ、最初、人間で無く人形してた」
「意味不明だ」
「だから…つまり、親父さんが亡くなって。
母親の兄貴に、一家全員監禁されてて。
いや逆だ。
監禁されて、その後父親が自殺した」
「…大切な妻と幼い息子、監禁するような男の側に残して?」
「…………………だな。
確かに、変だ。
だが自分からバルコニーから飛び降りたと…。
自殺って事にされてる」
「…事故かもな?」
「…言われてみれば…」
「お前くらい利口なヤツが。
今まで一度も疑ったこと無かったのか?」
「その話するとシェイルの笑顔が消える」
「で、一度も話さなかったのか?」
「お前、分かってないけど。
メシ食うのすら、やっとのシェイルだったんだ!
笑うなんて…奇跡が起こったくらいの出来事だったんだぞ?」
「それで笑顔を消さないために、自殺した親父の話は封印したのか?」
「まあ、そうだ」
オーガスタスはそこで、ローフィスをじっ…と見る。
ローフィスはふと、思い当たる。
「…つまりその事かな?
ディアヴォロスはシェイルが心に闇を抱えてるから…女と恋愛するどころか自殺しかねないと…。
仄めかした」
オーガスタスは、ため息交じりに囁いた。
「親父が目の前で自分からバルコニーに飛び降りるの見てたら…ヤバいかもな。
だがそんなヤツなのか?シェイルの親父さん」
「俺の親父の親友だから…自殺はあり得ないと思う」
「つまり…本意じゃ無く、飛び降りなきゃ成らない理由が、あったんだ」
ローフィスは目を見開いて、顔を上げた。
「…だな…。
多分…そうだ」
「それがあるから、シェイルは女と恋愛とかの、人生に前向きになれないと。
ディアヴォロスは見抜いてたんじゃ無いのか?」
「…つまり俺が、おめでたい馬鹿だと」
「…まあそこまで言う気は無いが。
傍目からはそう見えるかもな。
あんな…一途にお前を思って求め続けるシェイルが、女と恋愛なんてあり得ないと。
今日ここに居た全員が、思ってたぜ」
「…………………自虐的に言ったんだ」
「分かってる。
シェイルを傷つけないよう、お前なりに気遣って結果、見誤ったんだもんな」
「お前言葉に容赦無いな」
「お前といつも喋ってると、そうなる」
「……………俺の、せいか?」
「…だって“所詮、嘘ついたっていつかは真実に向き合うしかない。
なら嘘ついて誤魔化してるのは、時間のムダ"
確かそう言ったの、俺の記憶ではお前の筈だ」
ローフィスは焼け糞気味に、顔を下げたまま頷いた。
「…つまり、俺のせいか」
オーガスタスは一応気遣いを見せながら、ぼそり。と言った。
「そうなるな」
ローフィスが大きなため息を吐き、オーガスタスは尋ねる。
「気持ちの整理、ついたか?」
「まぁな」
「じゃ、腹括れ。
で、ヤッケルはセーフティネットとして、待機させるか?」
「………………………………」
ローフィスはそこで…もしディアヴォロスに促されたように、シェイルを押し倒してしまったら。
…がっついてシェイルを喘がせまくり、そんな声でもヤッケルに聞かせよう物なら。
流石のヤッケルも、気まずくなるかも。
と心臓をばくばくさせる。
オーガスタスはそれを見て、ぼそりと付け足した。
「…離れた部屋で俺と、ヤッケルは待機する」
ローフィスはそれを聞いて、ようやく頷いた。
「話は決まった。
ディングレー、ここの寝室の、声が届かない部屋に俺とヤッケルを招待してくれ」
ディングレーは顔を上げて、聞いた。
「招待?
今更?」
ローフィスが、ため息交じりにつぶやく。
「重要なのはそこじゃない」
ディングレーは暫く呆け…言った。
「…ああ!“声が届かない”とこか!」
ローフィスが頷き、その間にオーガスタスはもう背を向けて、開いた扉から寝台の上でシェイルと話すヤッケルに、声かける。
「キリのいい所で、こっちに来てくれ」
ヤッケルは頷き…話の続きをした。
「…で、姉貴はほぼ、強姦された状態で。
俺達兄弟全員で、報復計画立てたんだが。
姉貴は言うんだ。
“必要無い”」
シェイルは、心配そうに尋ねる。
「…なんで?」
「…犯された後、ぐったりしたふりして持ってた薬、相手の男の…性器に塗りまくったそうだ」
「…どんな、薬?」
「おしっこすると、凄く痛くなる薬。
しかも的確な処置しないと…次第に役に立たなくなるそうだ」
「……………………………………………」
「俺ン家のお袋、娘には全員持たせてるし、避妊薬も飲ませてる。
結構美人揃いだから。
だから今度グーデンに拉致されても困らないよう、薬、お袋から分けて貰ってもいいぜ」
「…………でも、あいつらの○○○になんて、触りたくない…………」
「復讐したくないの?
姉貴、あの後犯した男が隠れて木陰でしっこする時、痛そうにしてるの見て、家で大声で
『やったっ!!!』ってはしゃぎまくって、報告して。
その晩ウチは大ご馳走で、一家を挙げての大宴会だったぜ」
「…………………ヤッケルの家って、なんか凄い」
「だろ?
凹んだら負け。
がウチの家訓」
シェイルはじっ…とヤッケルを見、そして頷いてた。
オーガスタスはローランデとフィンスにも、自分らの宿舎に戻るよう言って、残ってるのはシェイルの体を拭き終えたヤッケルのみとなった。
オーガスタスはローフィスに寄って
「話がある」
と告げ…ディングレーはオーガスタスと部屋の隅で話すローフィスの姿を見て、ほっとして椅子にかけた。
オーガスタスとローフィスは壁にもたれかかって小声で話す。
「…どういうつもりでディアヴォロスはお前を癒したんだ?
まさかシェイルが襲われることを予知して?」
問われてローフィスは、憮然と告げる。
「違う。
俺にシェイルを抱けと言った」
「…そのタメに癒したのか?」
ローフィスは不機嫌に頷く。
オーガスタスは畳みかける。
「…抱くなら今がチャンスだぞ?
今のシェイルはお前が必要だ」
ローフィスはまた、茶化してるのかな?
と、うんと長身の、オーガスタスの顔を見上げた。
が、オーガスタスは真顔。
ローフィスは顔を下げてため息吐く。
が、声は潜めながらも言葉に怒りを滲ませ、告げた。
「…俺はずっと、シェイルが初めての相手は惚れた女の子と初体験して欲しくて、俺の邪悪な欲望を抑え込んできたんだ!」
オーガスタスは真面目に尋ねた。
「…グーデンが死ぬ程憎いか?」
「それは当然だが…シェイルはディアヴォロスと、もうとっくに…体験してたらしい」
「…………………………………………」
ローフィスはオーガスタスの沈黙が長いので、つい顔を上げる。
が、オーガスタスは無言でびっくりしてるのを見て、言葉を続けた。
「…それを聞こうと思ったらあいつ、風呂に行っちまって。
風呂場で拉致されたらしい」
ローフィスはまだ、オーガスタスの声が無く、顔を見上げると、ただ頷いていた。
なのでローフィスは説明を始めた。
「…つまり…グーデンらは、思い出すだけで腸が煮えかえるし、ディアヴォロスは…まあ彼としては…シェイルが凄く不安定で…だから人助けのつもりで抱いたと。
が、俺からしたら…その、助けたつもりだろうが、納得いかない」
「…ディアヴォロスが迫って?」
「…さあな。
が、ディアヴォロスがグーデンみたいに無理強いするか?」
「…しないな」
「…つまりシェイルも…納得ずくって事だ。
で、今あの状態のシェイルに、ディアヴォロスとどうしてそうなったとか、聞けると思うか?」
やっぱりオーガスタスの声は無く、ローフィスが顔を上げると、オーガスタスは首を横に振っていた。
ローフィスはまた、ため息交じりに顔を下げて言う。
「…しかもディアヴォロスは、グーデンを牽制するため、手を貸してもいいと申し出てくれたが…あっちもかなりシェイルに本気で、それするならシェイルに手を出すと。
言ってきてる」
「…つまりお前の頭の中は、今現在ぐちゃぐちゃで。
整理がついて無くて、シェイルと二人きりになるとどう爆発するか自分でも分からなくて。
シェイルを避けてるのか?」
ローフィスはやっと口をきくオーガスタスを見上げて言う。
「さすが親友。
俺の気持ち、ズバリ言い当てるな」
「…褒められても嬉しくないし、そんな事分かりたくなかった」
「…別に褒めてないが。
だが普通に考えても、今のシェイルの側を離れるのは…俺だってマズいと思う。
酷く嫌な思いしてるし。
けど俺としても…」
オーガスタスは即座に言った。
「この際、代わりにディングレー殴って、すっきりするか?」
二人揃って、テーブル前の椅子に座り寛ぐディングレーに、振り向く。
ディングレーは二人にじっ…と見られて…嫌な予感に包まれ、顔を下げた。
ローフィスが、顔を下げて小声で告げる。
「仮にも王族だ。
今顔腫らしたら…」
オーガスタスも、頷く。
「グーデンの護衛らに顔殴られたと、不名誉な勘違いされるな…」
オーガスタスが、聞く。
「…で、お前、グーデンに怒ってんの?
それともお前の苦労を無にした、ディアヴォロス?」
ローフィスは、聞かれて動揺で顔を揺らし、ため息交じりに囁く。
「グーデンには怒り狂ってる。
が…正直、本当に脅威なのはディアヴォロスだ…。
あの、整いきった顔な上、あの体で!
しかも…」
オーガスタスは言いたい事が分かって、頷く。
「俺だって、例えどれだけ惚れてても、ディアヴォロスに夢中な女だけは、絶対口説かない」
「…それ…恋愛では絶対ディアヴォロスだけは恋敵にしたくないって言う、敗北宣言?」
オーガスタスは腕組みし、俯いて頷く。
「ディアヴォロス相手に。
誰が勝てる?
どの社交の場でもどうせ、モテモテなんだろう?」
「…ディングレーは、そう言ってるな」
そこでまた、二人にディングレーは揃って見つめられ…座っているものの、居心地が最悪になった。
が、二人はまた視線を背けて話し出す。
「(…一体ナニ、話してるんだ?)」
ディングレーは内心冷や汗で、こっそり二人を伺った。
オーガスタスはディングレーの心配を無視し、ローフィスに囁く。
「…だが早々、ヤッケルに押しつけてもいられない。
シェイルは…お前無くして、安心出来ないだろう?」
ローフィスは俯き…苦しげな表情をする。
だからオーガスタスは言った。
「推測するに、お前シェイルの前とかで、女と楽しげに話したり…まあそれ以上のこととか、しなかったか?」
「…したかもな。
女に惚れるのが、健全な青少年の姿だと。
教えるつもりで…」
「だとしても、シェイル見てると…。
お前が女と楽しそうに交際してたら、もの凄い打撃受けそうだ。
正直、女のコじゃないのが不思議なくらいで…。
シェイルはどう見ても、俺と同性だと思えない」
ローフィスは顔を揺らし、そして上げてオーガスタスを見る。
「…やっぱり?」
オーガスタスは頷いた。
「思うに、ヤッケルみたいな環境に居れば嫌でも男らしくなりそうだが…。
お前ずっとシェイルの事、お姫様扱いしてなかった?」
ローフィスはオーガスタスにそう言われて…顔を下げたまま目を見開く。
オーガスタスはローフィスを見つめるが、ローフィスは…自分の接し方を改めて思い返し、検証してる様子で…言葉が出てこない。
オーガスタスはため息吐いた。
「ずっと一緒にいたんだろう?
どうして、お前みたいにクチと態度の悪いヤツと居て、あんだけ純粋で人間離れした可愛い子ちゃんのままで居られるんだ?
俺はそこが、不思議だ。
どう考えてもお前とお前の親父とで。
シェイルをお姫様扱いしたとしか、思えない」
「………………………………………」
ローフィスの沈黙が長く、ついオーガスタスは促す。
「反論、してみろよ」
「…ちょっと、待て」
「待ったら反論聞けるのか?
ムダなあがきはよせ」
「…お前、非情だな!
ちょっとは時間、与えてくれ」
「…与えても反論出来ないなら、時間の無駄だ」
「……………………………あいつ、最初、人間で無く人形してた」
「意味不明だ」
「だから…つまり、親父さんが亡くなって。
母親の兄貴に、一家全員監禁されてて。
いや逆だ。
監禁されて、その後父親が自殺した」
「…大切な妻と幼い息子、監禁するような男の側に残して?」
「…………………だな。
確かに、変だ。
だが自分からバルコニーから飛び降りたと…。
自殺って事にされてる」
「…事故かもな?」
「…言われてみれば…」
「お前くらい利口なヤツが。
今まで一度も疑ったこと無かったのか?」
「その話するとシェイルの笑顔が消える」
「で、一度も話さなかったのか?」
「お前、分かってないけど。
メシ食うのすら、やっとのシェイルだったんだ!
笑うなんて…奇跡が起こったくらいの出来事だったんだぞ?」
「それで笑顔を消さないために、自殺した親父の話は封印したのか?」
「まあ、そうだ」
オーガスタスはそこで、ローフィスをじっ…と見る。
ローフィスはふと、思い当たる。
「…つまりその事かな?
ディアヴォロスはシェイルが心に闇を抱えてるから…女と恋愛するどころか自殺しかねないと…。
仄めかした」
オーガスタスは、ため息交じりに囁いた。
「親父が目の前で自分からバルコニーに飛び降りるの見てたら…ヤバいかもな。
だがそんなヤツなのか?シェイルの親父さん」
「俺の親父の親友だから…自殺はあり得ないと思う」
「つまり…本意じゃ無く、飛び降りなきゃ成らない理由が、あったんだ」
ローフィスは目を見開いて、顔を上げた。
「…だな…。
多分…そうだ」
「それがあるから、シェイルは女と恋愛とかの、人生に前向きになれないと。
ディアヴォロスは見抜いてたんじゃ無いのか?」
「…つまり俺が、おめでたい馬鹿だと」
「…まあそこまで言う気は無いが。
傍目からはそう見えるかもな。
あんな…一途にお前を思って求め続けるシェイルが、女と恋愛なんてあり得ないと。
今日ここに居た全員が、思ってたぜ」
「…………………自虐的に言ったんだ」
「分かってる。
シェイルを傷つけないよう、お前なりに気遣って結果、見誤ったんだもんな」
「お前言葉に容赦無いな」
「お前といつも喋ってると、そうなる」
「……………俺の、せいか?」
「…だって“所詮、嘘ついたっていつかは真実に向き合うしかない。
なら嘘ついて誤魔化してるのは、時間のムダ"
確かそう言ったの、俺の記憶ではお前の筈だ」
ローフィスは焼け糞気味に、顔を下げたまま頷いた。
「…つまり、俺のせいか」
オーガスタスは一応気遣いを見せながら、ぼそり。と言った。
「そうなるな」
ローフィスが大きなため息を吐き、オーガスタスは尋ねる。
「気持ちの整理、ついたか?」
「まぁな」
「じゃ、腹括れ。
で、ヤッケルはセーフティネットとして、待機させるか?」
「………………………………」
ローフィスはそこで…もしディアヴォロスに促されたように、シェイルを押し倒してしまったら。
…がっついてシェイルを喘がせまくり、そんな声でもヤッケルに聞かせよう物なら。
流石のヤッケルも、気まずくなるかも。
と心臓をばくばくさせる。
オーガスタスはそれを見て、ぼそりと付け足した。
「…離れた部屋で俺と、ヤッケルは待機する」
ローフィスはそれを聞いて、ようやく頷いた。
「話は決まった。
ディングレー、ここの寝室の、声が届かない部屋に俺とヤッケルを招待してくれ」
ディングレーは顔を上げて、聞いた。
「招待?
今更?」
ローフィスが、ため息交じりにつぶやく。
「重要なのはそこじゃない」
ディングレーは暫く呆け…言った。
「…ああ!“声が届かない”とこか!」
ローフィスが頷き、その間にオーガスタスはもう背を向けて、開いた扉から寝台の上でシェイルと話すヤッケルに、声かける。
「キリのいい所で、こっちに来てくれ」
ヤッケルは頷き…話の続きをした。
「…で、姉貴はほぼ、強姦された状態で。
俺達兄弟全員で、報復計画立てたんだが。
姉貴は言うんだ。
“必要無い”」
シェイルは、心配そうに尋ねる。
「…なんで?」
「…犯された後、ぐったりしたふりして持ってた薬、相手の男の…性器に塗りまくったそうだ」
「…どんな、薬?」
「おしっこすると、凄く痛くなる薬。
しかも的確な処置しないと…次第に役に立たなくなるそうだ」
「……………………………………………」
「俺ン家のお袋、娘には全員持たせてるし、避妊薬も飲ませてる。
結構美人揃いだから。
だから今度グーデンに拉致されても困らないよう、薬、お袋から分けて貰ってもいいぜ」
「…………でも、あいつらの○○○になんて、触りたくない…………」
「復讐したくないの?
姉貴、あの後犯した男が隠れて木陰でしっこする時、痛そうにしてるの見て、家で大声で
『やったっ!!!』ってはしゃぎまくって、報告して。
その晩ウチは大ご馳走で、一家を挙げての大宴会だったぜ」
「…………………ヤッケルの家って、なんか凄い」
「だろ?
凹んだら負け。
がウチの家訓」
シェイルはじっ…とヤッケルを見、そして頷いてた。
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