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怒鳴るヤッケル
しおりを挟むヤッケルは風呂にシェイルを導く。
事情は何も知らなかった。
ただ…食堂にいたら、ローフィスが凄い勢いで二年、王族召使い用扉から出て、三年王族の召使い専用扉へ突っ込んで行ったと。
見た一人が、駆け込んで叫ぶ。
ローズベルタは良く姿を消していたし、ローズベルタがいない間はグーデンが狙うシェイルの話題で持ちきり。
グーデンは執拗で、ディングレーはシェイルを守り切れるのか?
の王族兄弟バトル話があちこちで囁かれていただけに。
シェイルの義兄、ローフィスが血相変えて走って行く姿は、目撃者の目を引いた。
ヤッケルはそれを聞いた途端、二階大貴族宿舎に駆け込んだ。
階段上は短い廊下でその先に、広い食堂があった。
けど一階大食堂と違い、テーブルは一つで椅子も家具も洒落ていて…。
食堂を囲んで扉が多数あり、各自の部屋に続いてるらしかった。
ヤッケルはどの扉にフィンスとローランデがいるのか。
首を振って探す。
「…探してるのは、ローランデ?フィンス?」
感じ良く聞かれて、ヤッケルはその落ち着き払った大貴族の割に素朴な感じの…同学年に振り向く。
“確か…シュルツ…だっけ?”
「フィンスは?」
ヤッケルが尋ねると、シュルツは微笑んで背後の緑の扉に振り向いた。
ヤッケルは直ぐ扉に飛びつき、ノックしまくる。
扉を開けたのはフィンスの召使い。
ヤッケルは…一般宿舎とはまるで違う、大貴族宿舎の敷居の高さを思い知らされた気がした。
が、フィンスの召使いだけあり、どう見ても平貴族の服装の自分に、態度を変えずにっこり優しく微笑む。
「ご主人様にご用ですか?
お名前を伺っても?」
「ヤッケル!」
彼は頷いて、扉を少し開けたまま、背後に下がりすぐフィンスが姿を現す。
覗き見た室内は深緑色を基調にした、落ち着いた部屋だったけれど、家具類はどう見ても高価で使い込んだ歴史を感じさせる。
ヤッケルはごくり。
と唾を飲み込む。が、出て来たフィンスはいつも出会う、優しげな笑顔と控えめな態度。
頼もしさを醸し出す、身分の差を見せつけないいいヤツだった。
「シェイル?」
そう聞かれて
「多分。
ローフィスがグーデンの部屋の召使い用扉へ突っ込んで行ったって」
「…王族私室は…特にグーデンの部屋はヤバくない?」
ヤッケルは目を見開いた。
「俺相手だから砕けてる?
口調」
フィンスは笑う。
「そうかもね。
ともかくディングレーの部屋に様子を伺いに行く?」
ヤッケルは頷き、フィンスはその後部屋を出て、ローランデ私室の扉をノックする。
やっぱり召使いが扉を開けてる。
チラと見えた室内は、銀が基調の淡い優しい色彩で、とても美しい部屋で…。
その趣味の良さにヤッケルはまた、ごくりと唾を、飲み込んだ。
「(…部屋からこうだから…タメ口聞けないはずだ…)」
ヤッケルは、ほんっとに貴族の端くれで。
屋敷は一応はデカいけど、農家みたいな茅葺き屋根で。
ボロで子だくさんの子供が、いつもそこら中を走り回り、どこかで誰かが泣いては、喧嘩しまくる騒がしい自宅を思い浮かべる。
兄や姉らが手に負えない妹や弟らの世話をし、いつも誰かが喋ってて、静けさとは無縁。
勿論、家具は傷だらけで、必ずどこかが壊れてた…。
ローランデが間もなく姿を現す。
慌てた様子で、乱れ髪で。
「ごめん。
シェイル、どうかした?!」
フィンスとヤッケルは部屋を出るローランデと一緒に。
とりあえず二年王族の私室へと出向く。
けど大貴族用の食堂には誰も居なくて。
ディングレーの私室をノックしそびれていた時。
みんなが厳しい顔で戻って来て。
一番迫力ある大貴族青年の腕の中に、シェイルがいて…。
泣いて…顔を伏せて…。
ローランデは顔を曇らせ、フィンスと一緒にヤッケルは思った。
「(…グーデンの王族私室から、奪還したんだ!!!)」
平貴族のヤッケルですら、その重大さは分かったし、フィンスの表情はいっぺんに、厳しくなった…。
王族私室は、迂闊に立ち入る事の出来ない…禁止区域。
ヘタをすれば処分で退校…。
だからグーデンは今度こそと。
私室にシェイルを閉じ込めたんだろう。
ちゃぽ…。
シェイルはまだ、ガウンを脱がない。
指先をお湯に浸けて、ぼんやり湯面を見つめてる。
ヤッケルはため息吐いた。
「俺の前で、脱ぐのが恥ずかしいとか言うなよ!!!
さっさと入らないと、俺の弟にいつもするように、ひん剥いて突っ込むぞ!!!」
シェイルはエメラルド色の大きな目を見開く。
「最も弟は、走り回るし捕まえようとすると、喜んで逃げまくるから。
ひっ捕まえて、強引に湯船に叩き込むが!!!」
シェイルは呆けた顔をした後、おずおずとガウンを脱ぐ。
その…恥ずかしげに脱ぐ様子が…初々しい色香に溢れてて…ヤッケルはまた、ため息吐いた。
「そんな風に、なよなよ脱ぐから!!!
グーデンは喜ぶんだ!!!
俺を見習え!!!
俺っくらい下品だったら、間違いなくグーデンに部屋から放り出された!!!」
シェイルはまたびっくりして、ヤッケルを見る。
そして…思わず頷いた。
「さっさと浸かれ!!!
風邪引くぞ!!!」
シェイルはやっぱり呆けた表情で。
それでもおずおずと、バスタブに浸かった。
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