若き騎士達の危険な日常

あーす。

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走るローフィス

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 ローフィスは、ガウンを脱いで衣服を身につけてみる…。
オーガスタスが持ってきてくれて、ディングレーに手渡され、見ているだけのそれ…。
シャツにベストにズボンにブーツ。

ベストの裏ポケットには、強力睡眠薬の入った小針が数本入ってる、小さな皮袋。
ズボンの裏ポケットとブーツの裾には、手の平に収まるくらいの短剣が、やはり数本。

旅の時の習慣で、いつも身につけていた…。

短剣は小さいながら、近距離なら、かなりの傷を負わせられる。
が大抵は距離のある敵に投げる。

投げられた者は意表を突かれ、しかも傷ついて、動きを縛れた。
更に酒場なんかの人混みだと、投げた者すら特定出来ない。

正体を明かさず、こっそり敵を撃退するのに役立つ。
大抵は狼藉者にオーガスタスが立ち向かう時。
多勢に無勢だと、この短剣と小針を使い、人知れず助っ人するのに役だってた。

が、校内では、投げたのが自分とバレる可能性が高くて、使えない。
生徒同士で刃物で傷つけ合うのは、厳しく禁止されていたし、処分対象になったから。

ローフィスは軽く短剣を手の上で放り投げながら、一瞬で手首を使い、壁に投げてみる。

がっ!
壁にめり込む。
が、小さな傷しかつかないから…目立たないしヘタしたら気づかれない。

…投げても痛まなくて、ほっ…と吐息を吐いた。

正直、落ち着かなかった。

「(ディアヴォロスと…もう?
いつの事だ?
シェイルは…変わった様子は…無かったはずだ…)」

シェイルにどうしても、初めての時はシェイルが惚れた女の子と…。
そう思い、自分を抑え、必死に耐えてきたのに…!

裏切られたと言うより、嫉妬で気が狂いそうで…ローフィスは自制を保つため、また短剣を壁に向かって投げた。

三本目を投げようとした時。
シェイルの帰りが遅いと、ふと気づく。

ディングレーの風呂は緊急時、良く借りていたから場所も分かってた。
正直今、裸のシェイルを見るには…かなりマズいかな?
とも思ったけど…シェイルは良く、お風呂に浸かりすぎて、のぼせた事があったから…。

つい気になって、こっそり部屋を出、風呂を覗く。
「…シェイル…?
浸かりすぎるとまた…」
戸を開けて見るが…湯気の立つバスタブに、シェイルの姿が見えず…ローフィスは
「(まさか沈んでる?!)」
そう思い、血相変えてバスタブに駆け寄り、中を覗く。

乳白色に濁る湯に手を突っ込もうとして…ふと、足元に落ちてる布に気づく。

ローフィスは自分も…敵を倒す手段として、タマに使っていたから…その小さな四角の布が、相手を眠らせるために使われたと気づく。

召使い専用の戸を開き、その後ろの湯を沸かす暖炉の部屋を見る。
「(誰も…いない?!)」

ローフィスはその奥の扉を開け、一階にあるディングレーの召使い部屋へと続く、石むき出しの質素な階段を駆け下りた。

階段を降りて、直ぐは広い厨房。
石作りの部屋の中央に大きなテーブルがあり、調理用具と野菜がそこら中に散らばっていた。
壁際の棚には食器がびっしりと詰め込まれ、その下は所狭しと、小麦袋やら大きな瓶が並ぶ。
…その影に、動く何か。

ローフィスは駆け寄り…そこにディングレーの召使い四人が、縛られ猿ぐつわをはめられ、呻いてる姿を見つけ、愕然とした。

咄嗟、駆け寄って猿ぐつわを解き、胴にぐるぐると巻かれた縄を、まだ手に持ってた小さな短剣で裂いて問う。
「…どうした?」
「学生です!でっかい…」
「シェイルを?!」
「担いで…召使い用出入り口から、出て行きました!」

叫ばれてローフィスは尚も問う。
「どこへ連れ込むか…言ってたか?!」
一番手前のローフィスが縄を解いた召使いは、首を横に振る。
けれどその二人向こうの召使いが、口に猿ぐつわを噛まされたまま、うんうん。
と首を縦に振りまくって、唸ってる。

ローフィスは駆け寄り、猿ぐつわを外す。
外された途端、その召使いは叫んだ。

「お兄君の私室です!
最初、ディングレー様の居所を聞かれ…そして次にシェイル様の居所を…!」

もう、ローフィスは召使いに背を向け、駆け出していた。

ローフィスにただ一人縄を解かれた召使いは、テーブルの上の包丁を手に、仲間の召使いらの縄を解き始める。

「…ディングレー様にお知らせを…!」
一番年若い召使いが頷き、駆け出す。

ローフィスはもう、三年宿舎へかっ飛んで行った。

本当は、正面入り口から入り、平貴族の大食堂を通って…運良くオーガスタスが居れば、助っ人を頼みたかった。
が、グーデン召使い専用入り口の方が、圧倒的に近道。

ローフィスは迷い、けれど『ままよ!』
と、王族私室に続く、召使い専用扉を開けて、駆け込んだ。

入るなり振り向くコックら三名に、立て続けに小針を飛ばして眠らせる。
三年護衛一人もいて、侵入者ローフィスに目を見開き、咄嗟に殴ろうと拳引くから、小針を飛ばした。

針を喰らって拳を振る間無く、倒れる三年護衛を跨ぎ超え、ローフィスは内心呟く。

「(…ありがたい…)」

ローフィスは二階グーデン私室に続く暗い階段を駆け昇りながら、ディアヴォロスに心の中で、礼を言った。

“どれだけ感謝しても足りない!
これだけ駆けても、痛まない…!”

ローフィスは階段を登り切り、開いた扉の小部屋の中、突然の侵入者に振り向く一年ローズベルタにも、駆けながら小針を飛ばす。

針が首筋に突き刺さった途端。
ローズベルタは首を押さえ、崩れ落ちた。

が…。
針はそこで、尽きた。

残るは小さな、短剣数本…。

四年護衛らはバケモノのような耐久力。

こんな小さな短剣で刺した程度で、果たして動きがどれだけ縛れるだろう…?!

それでもローフィスは、質素な召使い用通路の廊下を抜けて、扉を開けて部屋へ、飛び込んだ。
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