若き騎士達の危険な日常

あーす。

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ディングレー到着

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「ローフィス!!!」
その凄まじい叫び声で、室内の皆は飛び起きる。

ディングレーが駆け込んで来て、寝台を覗き込む。

「…け…怪我ってどの程度なんだ?!
誰に殴られた?!
あんたがそう簡単に掴まって、殴られるはずが無い!!!
なんでだ?!
例えシェイルが掴まっていようが…あんたなら、手は幾らでもあるだろう?!
飛ばし針(睡眠薬を塗った針)は、その時持ってなかったのか?!」

フィンスもヤッケルも、身を起こして窓から差す陽にまぶしそうに目を擦り、オーガスタスはソファに座って暫く、眠気と戦っていたけど。

「どこをやられた?!
相手は何人だ?!
一斉にボコられたのか?!!!!」

尚も慌てふためきわめくディングレーの声に、無言で立ち上がる。
ディングレーの腕を引き、自分に振り向かせた後、両手をディングレーの両肩の上に
がっし!!!
と落とし、言った。

「落ち着け」

ディングレーは…2mを超す長身で体格のすごくいいオーガスタスに目の前に立たれ、思わず…迫力負けして、口を閉じた。

ローフィスが、もぞ…と身を起こす。

「…もう葬儀から、帰って来たのか?」

「ディアヴォロスが!!!
あんたが怪我したと…!!!
グーデンは葬儀に来てないから、戻って見たら、まだここにいる!!!」

ローフィスの横にいたシェイルが振り向く。

ディングレーはローフィスの入学後、剣を教えていたから見慣れたはずなのに。
いつもよりうんと、美しく見えて、う゛っ…と喉を詰まらせた。

周囲に光が零れてるみたいに、いつもより一段と綺麗。
更に…ローフィスにしなだれかかっていると…。

ディングレーは横のオーガスタスを見上げ、頬を染めて聞く。

「つまりローフィスは…二人はその、もう…?」

オーガスタスはディングレーの言いたい事が分かって、片手で髪を梳き挙げ、言った。

「俺とフィンス、それにヤッケルがいる、目の前でか?
第一ローフィスは、アバラに4カ所ヒビ。
それで相手に腰振り入れられたら、ヤツは鋼鉄の男だな」

「…違うのか…」

ディングレーのため息で、オーガスタスは上半身起こそうとしてるローフィスに、いまだ抱きつくシェイルを見る。

オーガスタスは声を潜めて囁く。

「シェイルが色っぽく見えるのは、お前の実の兄貴にいやらしいことされかけたせいだ」

ディングレーは一気に、かっ!と怒る。

「あいつ、何したって?」
「俺も詳しくは…。
小屋に入るなり、ローフィス掴んでたドナルド殴るのに、忙しかったからな」

「…なんで実の兄貴なのに。
あんたとあんなに違うの?」

唐突に割って入った声に、オーガスタスとディングレーが、揃って振り向く。
言葉を発したのはヤッケルで、横のフィンスが上級二人の会話に割り込むヤッケルを
『度胸ある』
と目を見開いて見ていた。

「…実家の力の大きい母が、俺と父は嫌うが、兄貴だけは溺愛してて。
「左の王家」では体は貧弱で顔しか取り柄の無い、兄貴みたいな男は軽蔑されるのに。
母はゴツくて逞しい男は嫌いで。
…それでグーデンに、俺や父みたいな男は野蛮で最低と教え込んだ。
グーデンみたいな…ひ弱で軟弱なのが…素晴らしいと。
それであいつ、いちじるしく勘違いしてる。
喧嘩なんて金のない野蛮人を雇って、代わりにやらせればいい。
なんて母が教えてるから、女の腐ったのより、タチが悪い」

「そうだったのか…」
ローフィスが言い、オーガスタスも頷く。
「分かりやすい説明だった」

ディングレーはローフィスに振り向く。
「………………………………思ったより…」
「俺が青くなってて瀕死ひんしなイメージしてたろう、お前」

ローフィスに見抜かれて、ディングレーは頬染めて顔を下げる。

けど横のオーガスタスを見上げて言う。
「俺の部屋に二人共引き取る。
二年大貴族宿舎は俺の取り巻きもいて、乱暴者が入って来ても皆戦うから。
安全だし、召使いがローフィスの怪我も看る」

「願ったりだ」

「…俺をディングレーに売るのか」
ローフィスのつぶやきを耳にし、ディングレーはローフィスに『拒否された?』と青くなってたけど。
オーガスタスは笑う。
「可愛げのカケラも無い厄介者を引き取ってくれて、心底助かるぜ」

ローフィスは横のシェイルに、“どいて”と手で合図し、寝台から降りようとして…痛みに思い切り、前に屈む。

ディングレーが慌てて駆け寄り、手を添えるけど。
ローフィスは腕を支えられてても、痛そう。

フィンスとヤッケルは
“やっぱここは、オーガスタスのお姫様抱っこ”
と見上げたけど、オーガスタスは腕組みして無言。

ディングレーはとうとう、真っ直ぐな黒髪を振ってオーガスタスに振り向き、困り顔で助けを頼んだ。

オーガスタスはため息交じりに、ローフィスに言う。
「お前運ぶ方法は、一つしか無い」
「それは死んでも嫌だ!!!」

ローフィスに即座に却下され、オーガスタスは成り行きを見ているフィンスとヤッケルに振り向く。
「そっちの奥に、板があるから」

言われてヤッケルとフィンスが、顔を見合わせる。
二人が板を持って来ると、オーガスタスは
「そこに置け」
と寝台横を指す。

結局ローフィスは何とか板の上に横たわり。
オーガスタスとディングレーが前後に分かれて持ち上げる。
ものの、ディングレーが呻く。

「…あんたデカ過ぎて。
そっちだけ上に持ち上がって、どうしても斜めになる」

オーガスタスはディングレーに振り向く。
「ナニか?
俺に背を、縮めろと?」

ディングレーは言葉に詰まり、フィンスが見かねてオーガスタスに駆け寄る。
「近い身長ですから、私が」

オーガスタスは二年並の身長のフィンスを見て、場を譲る。

板に乗せられ、運ばれていくローフィスを見送り、オーガスタスが聞く。

「お前、酒どこに隠してたっけ?」
「旧図書室の俺の隠れ部屋。
知ってるだろう?」
「あそこか」
「…の、床板剥がした、下にある」
「どこの床板だ」
「…シェイルを送ってくれたら、詳しい地図書いてやる」
「取引成立」

オーガスタスは言って、シェイルの背を促す。

戸口を出る時、板がつっかえ、ごんごんブツけ…。
その都度板から伝わる振動で、痛みに顔を歪めるローフィスを見、シェイルは手を口元に持って行き、はらはらしてる。
が、ヤッケルがガウンをシェイルの肩に乗せて言う。
「…ちゃんと前、閉じとけ。
お前が俺の妹なら
“そんな格好で外に出ると、飢えた男ども刺激しまくって貞操が危険だから、絶対出るな!”
と怒鳴る」

シェイルは頬を赤らめ、ガウンを着て、前を閉じた。



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