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葬儀での陰謀
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豪華な「左の王家」慰霊館の、屋敷前広場は馬車で埋る。
一族の葬式を出すこの屋敷は、それでも貴族の邸宅程広くて豪華だった。
人でごった返す屋敷の大広間で、ディングレーは「左の王家」の、殆どの男が集まるこの場にグーデンの姿が無いのに気づき、不安を覚える。
いとこで、この葬儀の仕切り人。
亡くなった公爵の、孫の中でも一番頭の切れるアドラフレンの姿を見つけ、近寄る。
アドラフレンは別名『黒髪の一族』と呼ばれる「左の王家」の中でも、髪の色は数少ない茶色をしていた。
背だけは高かったけど、激しくいかつい男らだらけの中、唯一貴公子然として凄くちゃらけて見えた。
が、口達者で上品で…そして、喰わせ物。
子供の頃から直情型の自分をしょっ中上品に、嫌味に皮肉にからかい…やり返せない悔しさに、毎度歯がみしていた、タチの悪い年上の男。
が、構っていられなかった。
「…ディアヴォロスの所へ行くんだろう?」
廊下を歩くアドラフレンに追いすがり、頼み込む。
「ディアヴォロスと話をさせてくれ!」
アドラフレンは…優雅な整いきった顔を向け、ため息交じりに囁く。
「他言無用なら」
「俺はここでは、やたら無口だ!」
アドラフレンは納得して、頷く。
廊下の角を幾つも曲がり…。
短い階段を幾つも降りてやっと、御霊部屋(霊安室)へと辿り着く。
慣習ではここで暫く魂を鎮め…あの世への旅立ちを速やかに促す儀式が行われる、らしい…。
大抵は、決められた男がここに遺体と数日籠もるので、どんな儀式なのかは誰も定かでは無いそうだ。
扉を開けると優美な彫刻の彫られた、石作りの荘厳な小部屋にディアヴォロスが棺と共にいて…。
ディングレーは駆け寄ろうとしたけど、アドラフレンに先を越された。
「…やはりディノス大公が、祖父の後の実権を握りそうだ」
ディングレーは言いそびれ、アドラフレンの背後でつい黙り、年上二人の会話を聞く羽目になった。
「…けれど毒殺したのは、公爵家の小間使い。
そんな…小手先の実行犯を挙げて、『殺された』と糾弾しても…命じた大公は、しらばっくれるだろう?」
ディアヴォロスがアドラフレンにそう告げているのを聞いて、ディングレーは棺桶に眠る、公爵を目を見開いて見つめた…。
目を閉じ横たわる公爵は、いかつい長方形の、ゴツく男らしい、威厳溢れる顔立ち。
髭も髪も、黒髪に白髪は交じるものの、まだまだ頑健な体付きをしていた。
「暗殺…?!」
ついディングレーは叫んでしまい、アドラフレンに振り向かれ、人差し指を口に当て
「しーーーーーっ!」
と諭された。
ディングレーはつい事の重大さに、ディアヴォロスに振り向く。
ディアヴォロスは公爵を見た後だとまだ若く、面長の整いきった、美しい面差しに見えた。
鼻も頬も顎も、すんなりした綺麗なラインでゴツく無い。
ディアヴォロスの、口が開く。
「…君を排除したいんだ。
君に表に立たれると、自分らの不都合になるから」
ディアヴォロスに言われて、アドラフレンは頷く。
「お祖父様は影で国を動かしてると言われる程の、多大な影響力を持つ宮廷警護の長。
後継人に私は若すぎると…誰もが思ってるから、とても不利だ」
ディアヴォロスは即答した。
「けれど君しかいない。
彼の息子達は誰もが武人としては優れていても、策謀には向いてない。
唯一才能があるのは孫の君で、公爵は君を公式に指名してるんだろう?
第一君が成らなければ悪事を働く者らが全てしたい放題になって、良識ある人らが皆困る。
何より私も凄く困るから、出来る事は何でもする」
アドラフレンは、にっこり微笑った。
「力を貸して貰える?
その…光竜にも?」
ディアヴォロスは、頷いた。
「毒殺を小間使いに命じた者を見つけ出し、ディノス大公を後釜に据える陰謀のため、公爵は暗殺されたと証明しなくては」
ディングレーは…現政府が転覆し、悪玉が取って代わる国の一大事を聞かされ…顔を下げる。
自分の相談が、とっても…ちっぽけに思えたから。
けれどディアヴォロスはディングレーに振り向く。
「一族の者に、挨拶は済ませたな?
…実は陰謀には君の母上も関わってるとの、情報が入ってる」
ディングレーは、顔を上げる。
実母だったけれど…父親似の自分を厭い、父を嫌い別居して、湖畔の美しい白城に住み、そして小柄で軟弱な兄、グーデンだけを溺愛する母…。
アドラフレンは囁く。
「君と君の父上に、決して害が及ばないようにするから」
ディングレーは頷く。
「気遣い、感謝する。
俺がここに来たのは…」
言いかけて、ディアヴォロスが即座に遮った。
「父君に言って、直ぐ『教練』に戻れ。
君の母君は…グーデンを剣の試合に出したくなくて、この機会を狙って毒殺を指示したと思われる。
それが…証明出来るかは…」
アドラフレンも頷く。
「…ディノス大公一派なのは間違いないけど。
まだ陰謀に関わる全員を見つけ出せなくてね…」
「ワーキュラスが見つけ出すから、何とか証拠を探し、宮廷警護の長に、ディノス大公が就任するのを防がないと」
ディングレーはまた、顔を下げる。
大事過ぎて。
宮廷警護の長は、国の要。
一見、国王の住む宮廷のみの警護と思われがちだが、それは別の部署の役目。
警護とはつまり…国を守る役目で、国中にスパイを配する、スパイの大元締め。
だから誰のどんな情報にも通じていて…いざとなればその情報を駆使し、国王に楯突く一派を断罪し、反乱を防ぐ。
「(…つまり余程…狡猾で策謀に長けて、アタマの回転が速くないと務まらない…)」
ディングレーはそこまで思って、アドラフレンをチラ…と見た。
「(…似合いすぎ)」
確かに公爵から比べれば、うんと若い。
が、一見チャラけて見えても度胸は据わってるし、何と言っても昔から、勢力争いで負けたことが無い程、頭の回転は速い…………。
ディアヴォロスは、沈黙するディングレーに微笑んで告げる。
「ローフィスが大怪我してるらしいから…君は戻って、グーデンからシェイルを守ってやれ」
ディングレーは咄嗟、目を見開いて顔を上げる。
「大怪我?!
どの程度…?!
…まさかシェイルの身が危険で…奴らにボコられたのか?!」
ディアヴォロスは静かに言った。
「命の危険は無い。
が、怪我はその後の養生が肝心。
無茶すると…治る物も治らない」
ディングレーは頷く。
「…ここでの話は他言無用。
直ぐ発て」
ディングレーは頷き…弾かれたように部屋から駆け出した。
一族の葬式を出すこの屋敷は、それでも貴族の邸宅程広くて豪華だった。
人でごった返す屋敷の大広間で、ディングレーは「左の王家」の、殆どの男が集まるこの場にグーデンの姿が無いのに気づき、不安を覚える。
いとこで、この葬儀の仕切り人。
亡くなった公爵の、孫の中でも一番頭の切れるアドラフレンの姿を見つけ、近寄る。
アドラフレンは別名『黒髪の一族』と呼ばれる「左の王家」の中でも、髪の色は数少ない茶色をしていた。
背だけは高かったけど、激しくいかつい男らだらけの中、唯一貴公子然として凄くちゃらけて見えた。
が、口達者で上品で…そして、喰わせ物。
子供の頃から直情型の自分をしょっ中上品に、嫌味に皮肉にからかい…やり返せない悔しさに、毎度歯がみしていた、タチの悪い年上の男。
が、構っていられなかった。
「…ディアヴォロスの所へ行くんだろう?」
廊下を歩くアドラフレンに追いすがり、頼み込む。
「ディアヴォロスと話をさせてくれ!」
アドラフレンは…優雅な整いきった顔を向け、ため息交じりに囁く。
「他言無用なら」
「俺はここでは、やたら無口だ!」
アドラフレンは納得して、頷く。
廊下の角を幾つも曲がり…。
短い階段を幾つも降りてやっと、御霊部屋(霊安室)へと辿り着く。
慣習ではここで暫く魂を鎮め…あの世への旅立ちを速やかに促す儀式が行われる、らしい…。
大抵は、決められた男がここに遺体と数日籠もるので、どんな儀式なのかは誰も定かでは無いそうだ。
扉を開けると優美な彫刻の彫られた、石作りの荘厳な小部屋にディアヴォロスが棺と共にいて…。
ディングレーは駆け寄ろうとしたけど、アドラフレンに先を越された。
「…やはりディノス大公が、祖父の後の実権を握りそうだ」
ディングレーは言いそびれ、アドラフレンの背後でつい黙り、年上二人の会話を聞く羽目になった。
「…けれど毒殺したのは、公爵家の小間使い。
そんな…小手先の実行犯を挙げて、『殺された』と糾弾しても…命じた大公は、しらばっくれるだろう?」
ディアヴォロスがアドラフレンにそう告げているのを聞いて、ディングレーは棺桶に眠る、公爵を目を見開いて見つめた…。
目を閉じ横たわる公爵は、いかつい長方形の、ゴツく男らしい、威厳溢れる顔立ち。
髭も髪も、黒髪に白髪は交じるものの、まだまだ頑健な体付きをしていた。
「暗殺…?!」
ついディングレーは叫んでしまい、アドラフレンに振り向かれ、人差し指を口に当て
「しーーーーーっ!」
と諭された。
ディングレーはつい事の重大さに、ディアヴォロスに振り向く。
ディアヴォロスは公爵を見た後だとまだ若く、面長の整いきった、美しい面差しに見えた。
鼻も頬も顎も、すんなりした綺麗なラインでゴツく無い。
ディアヴォロスの、口が開く。
「…君を排除したいんだ。
君に表に立たれると、自分らの不都合になるから」
ディアヴォロスに言われて、アドラフレンは頷く。
「お祖父様は影で国を動かしてると言われる程の、多大な影響力を持つ宮廷警護の長。
後継人に私は若すぎると…誰もが思ってるから、とても不利だ」
ディアヴォロスは即答した。
「けれど君しかいない。
彼の息子達は誰もが武人としては優れていても、策謀には向いてない。
唯一才能があるのは孫の君で、公爵は君を公式に指名してるんだろう?
第一君が成らなければ悪事を働く者らが全てしたい放題になって、良識ある人らが皆困る。
何より私も凄く困るから、出来る事は何でもする」
アドラフレンは、にっこり微笑った。
「力を貸して貰える?
その…光竜にも?」
ディアヴォロスは、頷いた。
「毒殺を小間使いに命じた者を見つけ出し、ディノス大公を後釜に据える陰謀のため、公爵は暗殺されたと証明しなくては」
ディングレーは…現政府が転覆し、悪玉が取って代わる国の一大事を聞かされ…顔を下げる。
自分の相談が、とっても…ちっぽけに思えたから。
けれどディアヴォロスはディングレーに振り向く。
「一族の者に、挨拶は済ませたな?
…実は陰謀には君の母上も関わってるとの、情報が入ってる」
ディングレーは、顔を上げる。
実母だったけれど…父親似の自分を厭い、父を嫌い別居して、湖畔の美しい白城に住み、そして小柄で軟弱な兄、グーデンだけを溺愛する母…。
アドラフレンは囁く。
「君と君の父上に、決して害が及ばないようにするから」
ディングレーは頷く。
「気遣い、感謝する。
俺がここに来たのは…」
言いかけて、ディアヴォロスが即座に遮った。
「父君に言って、直ぐ『教練』に戻れ。
君の母君は…グーデンを剣の試合に出したくなくて、この機会を狙って毒殺を指示したと思われる。
それが…証明出来るかは…」
アドラフレンも頷く。
「…ディノス大公一派なのは間違いないけど。
まだ陰謀に関わる全員を見つけ出せなくてね…」
「ワーキュラスが見つけ出すから、何とか証拠を探し、宮廷警護の長に、ディノス大公が就任するのを防がないと」
ディングレーはまた、顔を下げる。
大事過ぎて。
宮廷警護の長は、国の要。
一見、国王の住む宮廷のみの警護と思われがちだが、それは別の部署の役目。
警護とはつまり…国を守る役目で、国中にスパイを配する、スパイの大元締め。
だから誰のどんな情報にも通じていて…いざとなればその情報を駆使し、国王に楯突く一派を断罪し、反乱を防ぐ。
「(…つまり余程…狡猾で策謀に長けて、アタマの回転が速くないと務まらない…)」
ディングレーはそこまで思って、アドラフレンをチラ…と見た。
「(…似合いすぎ)」
確かに公爵から比べれば、うんと若い。
が、一見チャラけて見えても度胸は据わってるし、何と言っても昔から、勢力争いで負けたことが無い程、頭の回転は速い…………。
ディアヴォロスは、沈黙するディングレーに微笑んで告げる。
「ローフィスが大怪我してるらしいから…君は戻って、グーデンからシェイルを守ってやれ」
ディングレーは咄嗟、目を見開いて顔を上げる。
「大怪我?!
どの程度…?!
…まさかシェイルの身が危険で…奴らにボコられたのか?!」
ディアヴォロスは静かに言った。
「命の危険は無い。
が、怪我はその後の養生が肝心。
無茶すると…治る物も治らない」
ディングレーは頷く。
「…ここでの話は他言無用。
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