若き騎士達の危険な日常

あーす。

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シェイルの願い

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 フィンスは何かいいかけ…けれど迷って言葉を喉の奥に引っ込め、黙り込み。
ヤッケルはまた、ため息を吐いた。

けれど突然、扉が音立てて開き、ローフィスが血相変えて入って来る。
来るなり…つかつかと寝台に早足で近寄り、シェイルの腕を掴んで引っ張る。

ローランデもびっくりしたけど、フィンスもヤッケルも、ローフィスが華奢なシェイルの腕を掴み、無理矢理引きずるのを、目を見開き言葉も無く見つめる。

戸口へ、ローフィスはシェイルを引きずるけど、シェイルは引きずられながらも叫ぶ。
「…帰らないから!」
「お前は帰らなくていい!
俺が帰すから!!!」

叫び返すローフィスは尚も引っ張り、シェイルは必死で足を踏ん張り、踏み留まろうとする。

けれど再び扉が開くと、学校一長身の、オーガスタスが姿を現した。

「ローフィスお前、言葉が変になってるぞ?」
「構ってられるか!!!」
「…嫌がってるし」
「だから何だ!!!」
「…例え帰してもこっそり抜け出して戻って来られたら、護衛居なくて隙だらけ。
奴らに見つかりでもしたらよけい、危ないぞ?」

オーガスタスのその言葉で、ローフィスの足がピタ、と止まる。

オーガスタスは尚も畳みかける。

「戻って来ないよう説得出来ないんなら、無茶はするな」

皆、そう言われたローフィスを一斉に見た。

が、ローフィスは固まったまま、ぴくりとも動かない。

シェイルが腕を掴まれたまま、とうとう叫ぶ。
「どうして帰すの!!!
どうして側に居ちゃダメなの?!!!!」

ローフィスが振り返って怒鳴りつける。
「お前の身が危険だからに、決まってるだろう?!
ガキの頃とは違うんだ!
俺とお前は宿舎は別で!
ロクでも無いヤツらがそこら中ウロついてんだぞ?!
いつか絶対!
…いやかなり近い内に、酷い目に合うと誰でも簡単に、予想が付く!
頼むから安全な、親父の側に居てくれ!!!」
「ローフィスが居ないのに?!
僕もう…耐えられない!!!
どこ探してもローフィスの姿、見えないの…もう、嫌だ!!!」

シェイルの瞳が涙で溢れ…皆、ぎょっ!!!としたけど、ローフィスは…それを見て、泣き出しそうな表情かおをした。

シェイルは尚も、ローフィスを見つめ叫ぶ。
「危険な目に、遭ったっていい!!!
ローフィスの姿が…探せば見つかるんなら!!!」
「…だから…!!!
それは俺が…耐えられない」

悲しげな表情でローフィスは、必死にシェイルに、語りかける。
「頼むから…。
ここはお前にとって、危険すぎる…。
奴らにとってお前はとびきり美味しい獲物で…どんな恥ずかしいことだって平気でされるんだぞ?!
俺は考えただけで、気が狂いそうだ!!!」
「なら僕を、ローフィスのものにして!!!
ローフィスだけの…ものに!!!」

全員がシェイルのその発言に、びっくりした。

けれどローフィスは、苦しそうに囁く。
「…だから…!
それは出来ない」
「どうして!
本当の、兄弟じゃないのに!」
「俺にとっては…!
俺にとってはお前は大切な弟で…いつか好きなと結婚し、子供と嫁さんと一緒に、幸せに暮らして欲しいんだ!」
「僕には無理だ!
分かってる癖に。
ずっと…狙われてきた。
ローフィスがどんなに守ってくれても。
いつか…どこかで必ず掴まる!
僕は弱い!
でもいつか引き裂かれるんなら…僕はローフィスがいい!」
「俺がお前を引き裂けるか!
出来る筈が無い!!!」

オーガスタスは心臓が、炙った。
そう叫んだローフィスが…泣いていたから。

泣くローフィスなんて見た事無くて、表情は固まったまま。
内心焦りまくった。

けれどシェイルも泣いて…俯いて…震えながら言葉を絞り出す。
「僕…じゃダメだから…?
抱く気にもなれない程…ダメ…なの?」
「そう…じゃない…。
男なんて…お前は知らなくていい。
いつか好きな娘を見つけて…」
「ローフィスが一番好きなのに!!!
好きななんて、出来る筈無い!!!」

シェイルは全身で絶叫し…とうとうローフィスは顔を下げて俯き…言葉が出なくて…。
シェイルは震えながらそれでも言葉を、絞り出す。
「だって…一番好きな人とするのが…一番いいんでしょう…?
なら僕は、ローフィスがいい…。
ローフィス以外、考えられない!
それがダメなら…誰にどんな酷いコトされても…そんなこと、もうどうだっていい…………」

フィンスもヤッケルも、ローランデですら…魂の叫びを上げて欲する、シェイルにローフィスが応えるのを待った。

けれどローフィスは、俯いたまま。

「…俺は…出来ない…」

シェイルはその返答に、首を横に振って…涙を頬に、ポロポロと伝わせて壮絶に泣いて…。
一年達は内心、心引き千裂かれて泣くシェイルに、一斉に同情した。

が、オーガスタスがやっと、口を挟む。
「…いいから、来い。
もう戻れ。
守り切れないかどうかは…してみなきゃ分からんだろう?」

ローフィスは、項垂れたまま。
シェイルが泣いてると分かって…シェイルを見ないまま、顔を下げているからとうとうオーガスタスは室内に入ると、強引にローフィスの肩を抱いて、促す。

ローフィスはまるで魂が抜けたように…頼りなくオーガスタスに室内から、連れ出された。

立ちすくんで涙の止まらないシェイルの横に、そっとローランデとフィンスが寄り添って慰める。

ヤッケルだけが…乞われて苦しげな表情を見せた、ローフィスの顔を思い浮かべて…。
彼の姿の消えた扉を、遠く眺めるように見つめ続けた。




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