若き騎士達の危険な日常

あーす。

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光竜身に降ろすディアヴォロス

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 歴史の講義室でも、両横にローランデとフィンスが座ってくれて…シェイルは二人に心の中で感謝し続けた。

遅れてローズベルタが入って来る。
一瞬、目が合ったけれど…シェイルは慌てて俯いた。

間もなく講師が入って来たが、講堂内はさっき見たディアヴォロスの素晴らしさに皆興奮しきって彼の噂で盛り上がり、少しも静まること無く騒がしい。

講師は一つ、ため息を吐くと教科書を閉じた。

「今日はアースルーリンドの先史をやろうと思ったが…。
そんなに気になるなら、ディアヴォロスに関係ある歴史を話そう」

皆、お喋りを止めて、一気に講師の言葉に聞き耳立てる。

講師はまた一つ、ため息を吐くと、語り始めた。

「ディアヴォロスは王族だが…「左の王家」の成り立ちを知ってる者は?」

新入生の半数が、手を上げる。

シェイルは両横の、フィンスとローランデが手を上げてるのを見て、顔を下げた。

講師は頷いて、言葉を続ける。
「昔、やっと先史の人々が地下道から地上へときょを移した頃。
アースルーリンドには黒髪の一族と金髪の一族の、二大勢力が勢いを増していた。
その他にも数多く勢力はあったが、二大勢力には遙か劣る。
数多あまたある弱小勢力の内、一人の領主は圧倒的な力を欲し、当時まだ数の少なかった『影の民』と手を組んだ。

『影の民』は『光の国』に住む、『光の民』の罪人の事だ。
『光の民』はこのアースルーリンドでは光が無いので、持ってる光を使い果たすと力が使えない。
最初の頃の『影の民』はアースルーリンドに落とされた後…光が尽きて力が使えず、乞食のような酷い暮らしをしていた。
が、ある者が光からではなく、人を苦しめて力を得る方法を発見し…魔と化した。
魔は弱小領主と手を組み、次第にその数を増し、他勢力は皆、魔物を相手に戦わなくてはならなかった」

そこまで言って、講師は皆を見回す。

「人間が魔相手に、勝てる筈が無い。
やがて二大勢力の黒髪の一族と金髪の一族は、手を組んで戦ったが…。
どちらも大勢おおぜい、魔の餌食となって仲間を失い、アースルーリンドは魔物で満ちて魔の国となる所だった。
黒髪の一族の族長の娘は、金髪の一族の若きおさと恋仲だった。
最後の決戦に旅立つ金髪の長の命が、このいくさで失われると確信した乙女は気も狂わんばかり。
『光の国』の、神に祈った。
光竜に。
光竜は時空を超えて届く乙女の深い嘆きを哀れと思い、乙女と通じ、乙女の体に降りて…その万能の能力ちからを使い、魔を一掃した。

けれど脆い人間の身で神の能力ちからを使った乙女は、愛しい金髪の若き長の腕の中で息絶え…。
耐える前に神に感謝の印として、一族の幼子おさなごを捧げる約束をした。
約束は受け継がれ、黒髪の一族の…現「左の王家」の事だが…幼子に光竜は語りかける。
その声に応えた者と共に、光竜はこの世界に存在し…。
数は激減したが生き延びた魔から、アースルーリンドを護る為。
そして…愛する金髪の一族を助けるため、代々光竜降ろす黒髪の一族の者は、魔と戦い続けた。

光竜降ろす者は神の能力ちからを使う為、厳しい鍛錬を積み体を鍛え、精神をも鍛えなければならない。
並大抵の苦労では無い。

だがその後、魔が野心ある領主と結託し、勢力を増し再び未曾有みぞうの危機が訪れた時。
『光の民』が…僅かな光纏いながらもアースルーリンドに降り立ち、光を使い果たしては『光の国』へと取って戻り、再び光り纏って魔と戦い…。
とうとう『光の民』随一の能力者が、光竜身に降ろす黒髪の一族の者の力を借り、『影の民』を異次元に封印する事に成功した。

今でも封印を破ろうと、魔は影を飛ばし人の心を狂わせ、凶行へと掻き立てる悪さはするが…魔とじかに出会う恐怖は激減した。

故にここ数年、光竜を身に降ろす「左の王家」の者は現れなかった。

ディアヴォロスは近年きんねんただ一人、厳しい鍛錬でその身を鍛え、光竜を降ろす事の出来る聖なる人物だ。

だから諸君らが彼に魅入られても、無理も無い。
彼は我々講師らですら…この世に存在する事を感謝する程の、若くとも偉大な人物だ。

が、彼とて人間。

ただの人間が大変な苦労をして、神である光竜と繋がっている。

つまり君らは彼を、聖なる者と自分と切り離すのでは無く。
人は努力をすれば、神とでも繋がれると言う事を心に留め置いて。
彼を目標に精進し、きっちり歴史の試験で、及第点を取ってくれ!」

講師の最後の言葉で、講堂内はどっ!と笑い声が満ちた。

シェイルは…そんな聖なる人と…自分は抱き合ったのだと思うと、また頬が赤らんだ。

彼とは行きずりで…大好きなローフィスが、その時泊まっていた宿屋の女将と大木の下で抱き合ってる姿を見た後で…。
自分から離れ、どんどん大人になって行くローフィスに、置き去りにされる絶望が、どうしてだかディアヴォロスには分かって。
抱き止めてくれたのだと言う事だけは、感じてた。

言葉は無く、手を差し伸べられてその手に応えた。
だから…互いの名すら、知らなかった。

二度目、彼の別荘に訪れた時…。
別れの言葉も言わなかった。

彼の別荘の…垣根の前で、ポーチにいる彼を見つめただけ。

それだけで、ディアヴォロスには別れを告げている事が分かってると、シェイルは勝手に思って背を向け、去った。

…まさかこの『教練キャゼ』で、再会するなんて。
あの時少しも思わなかった。

幻のような体験だったけれど、再会した彼を意識した途端、昨日のことのように突然思い出されて、シェイルはまた自分が赤くなって人に怪訝けげんに思われないか。

心配になって、記憶を意識の向こうに、必死に押しやった。
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