3 / 3
3 念願の美女
しおりを挟む
人気の無い木立に囲まれた茂みの手前で、二人は立ち止まる。
ランプの灯は遠く、二人は暗い森の中、ほぼシルエットに見える。
が、ゼイブンは目前の美女に、顔、傾け、寄せようとするのを見。
ローフィスは、ぎょっ!とした。
『妖艶の王女ミラディス』だったとしたら…口づけなんてしたら、生気を吸い取られ『影』の配下に成り下がる。
が、顔寄せたゼイブンの口元が動いていて、呪文唱えてる様子で。
木の陰から伺ってたローフィスは、ほっと胸撫で下ろす。
「(魚の骨取って身を食べるように…『影』を払ってから美女を食う気だな…)」
が、呪文唱え出した途端、美女は突然炎を吹き出す。
ローフィスは咄嗟、茂みの後ろから駆け出し、手に持つペンダント握りしめ、呼び出す相手を思い巡らした。
『逃げろゼイブン!!!』
怒鳴りたかった。
が召喚呪文唱えてて、無理だった。
気づくと、あっ…と言う間に美女の足元から炎が広がり行く。
ゼイブンがすっ飛んで逃げ出した時、ローフィスの呪文に応え、神聖騎士ドロレスが、空間に突如その発光した眩い姿現し、笑う。
「炎の女王サランディラ」
炎に包まれた美女はそう自分の名を呼ぶ、空に浮かぶ神聖騎士の姿を見つけ、うそぶく。
「あら…!
ずいぶん厄介な相手を寄越してくれるじゃない?」
ゼイブンは地を這う炎から逃げてたが、美女の姿に目を戻し、ぎょっ!とした。
確かに胸はせり出し、盛り上がってた。
がその肌は真っ黒で黒い鱗に覆われ、髪は真っ赤に変わり炎の中うねり、更にその目は蜥蜴のような黄色…。
ローフィスは怒鳴り付けようか。とも思った。
が、地を這う炎の範囲から、ゼイブンはちゃんと距離を取って美女の変わり様を見ている。
「(流石に、生存本能は健在か)」
ほっ…として、召喚された神聖騎士の戦い様を見届けようと、横の木に手を付く。
正直、本来神聖神殿隊のペンダントで、格上の神聖騎士を呼び出すなんて無茶で無謀で。
一気に“気”を消耗し、フラついた。
が、くらくらする頭を振り、空(くう)に白の隊服はためかす、『光の王』の末裔で素晴らしい能力者の、神聖騎士を見つめる。
炎に包まれた美女…炎の女王サランディラの攻撃対象は。
一気に、ゼイブンから神聖騎士ドロレスに移る。
宙に浮く彼の足元に炎の溶岩が広がり行き、その場だけ別次元の場所のよう。
が、浮いたドロレスは、自分の足元だけその灼熱の溶岩を許すものの。
範囲が広がる事を、超常力で防ぐ。
サランディラとドロレスの、二人の居る辺りだけが。
ドロドロと溶ける溶岩と炎が吹き出し、別世界がそこには在って。
ローフィスはドロレスが、焼かれはしないか。
と凝視する。
『影』の中でも炎の女王サランディラは、大物中の大物。
確かに呼び出しはしんどかったが、本来彼らが呼び出せる神聖神殿隊騎士らの、戦える相手なんかじゃない。
神聖神殿隊騎士らは『光の国』より光臨する『光の王』従者の、末裔。
一方、神聖騎士らは『光の王』の末裔。
その能力も人格も、神聖騎士らが上回る。
ゼイブンは空(くう)飛び襲う炎が、すっかり消えて視線を上げる。
目前上空に白い隊服はためかせ立つ、神聖騎士。
がその敵、炎の女王サランディラの、不気味な微笑は消えない。
ゼイブンは心から神聖騎士を呼び出した同僚ローフィスが、頼もしくて。
感謝の視線を、投げようとした。
が木陰に居るのか、その姿は暗い木立の中に埋もれ、見つけられなかった。
ローフィスはじりじりと範囲を広げようとする溶岩を、ぐっ!と阻みさせない神聖騎士を見守る。
何と言っても人間の彼らは、炎の女王に迂闊に出会ったりすると。
一瞬であの灼熱の炎で焼かれ、激痛の内に炭と成り、魂は女王の下僕となって囚われる。
足元に口開ける灼熱の溶岩にも微笑を崩さぬ、頼もしい神聖騎士の姿に。
ローフィスはそれでも、手に汗握り決死で見つめた。
サランディラが今回なんでこんなややこしい手を使ったのか、とも思えた。
が、派手にやれば直ぐ神聖騎士らが駆けつけて、蓄えた力を放出し。
元居た場所へ追い返される。
『影』らの住む、封印された別次元へ。
「無駄だったな」
ドロレスに言われ、炎の女王サランディラは妖艶に嗤う。
「…神聖騎士と言っても、ひよっこね?
まだ大して経験も無い。
そうでしょ?
そんな奴に私が、払えるのかしら?」
ドロレスは白金で覆われた、光の中で笑う。
「年齢を経てるのがご自慢のようだ。
だが…老齢で力在る若者の私に、勝てるのか?」
女王は侮辱されたように力任せに範囲を広げようと力み、ドロレスはさせまい。
と拳を握り、御してる。
まるで力比べをしてるように…彼らの足元の溶岩の範囲は…広がりかけては範囲を縮める。
を繰り返していた。
ドロレスは灼熱の炎の中に居て、その『光の王』の血を継ぐ端正な顔は厳しく引き締まり、汗を…かいてるように見えた。
無理も無い…。
あの中に人間が入ったら、一瞬で焼けて溶ける。
そんな中に居ながら…ドロレスは女王が更にその場を広げるのを、防いでるのだ。
「(神聖騎士で大正解だぜ…)」
ローフィスは思った。
が、ゼイブンも同様のようで、少し離れた位置で戦う二人を、見守ってる。
が、近い。
ゼイブンもそう、思ったらしく、もっと下がろう。
とし、後ろにずり下がろうとした、途端…。
後ろのけっこうデカい石に足をブツけ、つんのめり、バランスを崩し前へ…つまり…灼熱のその場へ、頭から突っ込む。
「!!!」
咄嗟、ドロレスが両手右脇に引き、押し出し。
途端、その手から一気に力を放出する。
出た物を見て、ローフィスはぎょっ!!!とした。
巨大な…小山程在る氷の塊が、女王の頭上から彼女に降り落ちる!!!
炎の女王サランディラは、咄嗟その場を引き別空間に、逃げようとした。
が、遅かった。
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
凄まじい悲鳴が空間に響き渡り、巨大な氷の塊に接触した彼女は、じゅうじゅうと白煙上げながら、白い氷が粉砕された飛沫の中、黒いシルエットとして浮かび上がり…。
そして…身を前屈みに俯くと、一瞬でその場から、消え去った。
ゼイブンは女王が引くと同時、炎の消え行く地面に転げ落ち。
だがどうやら焼かれる事は免れた様子で、ドロレスは浮かぶ空からゼイブンを見、ほっ…と吐息吐く。
ローフィスは木に手を付いて前へ進み出、呟く。
「…荒技だな?」
言うと神聖騎士ドロレスは少し、苦く笑った。
「彼が焼かれる前に。
と焦ったのでね。
悪いがこれで、失礼する。
力を一気に使いすぎて…多分、数分後に失神する」
ローフィスは、頷く。
「来てくれて、ありがとう」
が、ドロレスが空間に微笑を残し消えて行き、ローフィスがゼイブンに視線戻すと。
もうとっくに身を起こし、女王の消えた後に横たわる、憑かれた美女に駆け寄り、起こしていた。
「(あいつが転んだせいで神聖騎士は一気に力使ったってのに…懲りずにまた、美女か?!)」
ローフィスは呆れ、『影』も消え。
もう、ゼイブンを見捨てて帰ろう。
と思った。
自分だって神聖騎士なんて格上の騎士呼び出したせいで、フラフラだった。
が、背を向けた途端、醜いうめき声が聞こえる。
「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
咄嗟、振り向く。
「(まだ別の『影』も、憑いてたのか?!)」
が…………呻いてたのは、ゼイブン。
よく見ると、仰向けた美女…の筈だった女は、年増ででっぷり太って、あばただらけの凄いご面相に、変わっていた。
「(…炎の女王サランディラの、呪いか?)」
ローフィスが、呆然と歩を止めたまま見つめていると。
女は助け起こしたゼイブンに色目使い、言った。
「あら…こんな美人、見た事無いでしょう?」
が、ゼイブンの見開かれた瞳に気づき、自分の胴回りを見、がっかりしたように吐息吐く。
「…美女に変身させてくれる。って言ってた女は、どこに行っちゃったのかしら…。
私、元に戻っちゃった?
でもほら…私をご所望なんでしょ?
色男さん」
ゼイブンは横たわる彼女に腰を掴まれ、引き寄せられ、必死でその腕外そうと抗ってた。
ローフィスは、もうそれ以上見る、勇気が無かったから背を向けた。
またあの醜い呻きが聞こえる。
そう思ったが、案の定。
「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そしてその後、引きつった叫びが聞こえる。
「助けろ!ローフィス!!!
頼む助けてくれ!!!」
ローフィスは足を止め、振り向かぬまま怒鳴った。
「もう『影』は払ったんだ!!!
相手はか弱い女だろう?!」
「か弱くなんか無いぞ!!!怪力だ!!!
頼むローフィス一生恩に着る!!!」
ローフィスは俯き、吐息吐き、そっ…と振り向くと…巨体でその腕の中にゼイブンを抱きしめ、こちらを見、にっ…と笑い、女は言った。
「あら。美男さん。
二人でしてくれても、いいのよ?」
ローフィスは月明かりの中、姿が半分影にはなっているものの。
黒いレースで飾り立てられた、ドレスの胴回りがはち切れて裂け。
ぶよ。と膨れた白い肉の覗く、赤ら顔であばただらけの怪物のような女の顔に、怖気が走り…。
気づいたら、脱兎の如く駆け出していた。
背後から巨大ヘビに絡め取られ食われようとしてるような、ゼイブンの怒鳴り声が聞こえた。
「見捨てるのかローフィス!!!
臓腑散乱してる中、死体食い千切ってる奴ら見たって、平気だったじゃないか!!!
なのにこの程度の女が怖いのか…?!
冗談だろう?
頼む戻って来てくれ…!!!」
声が遠ざかり、小さくなってるのに気づいた時。
ローフィスは恐怖のあまり、歩を止める事が出来なかった。
と、自分を慰めた。
一生に、そうそうあるはずの無い、恐怖だった。
だから…仕方の無い事だ。
と、言っても。
ゼイブンは絶対納得しやしないだろう。
でも、わざとじゃない。
人は真の恐怖にかられると、制御不能になるんだ。
そう言っても。
多分言い訳にも成らず、ゼイブンに喚かれ倒される事は、予想出来た。
ローフィスの足は、フェスティバルの賑わい…人の雑踏に紛れた時、ようやく止まった。
振り向く、根性は無かった。
ゼイブンの、冥福を祈るしか無い。
と言っても相手は『影』で無く人間だから、命に関わる問題は起きない筈だ。
最悪の、体験をするだけで。
願わくばゼイブンが、立ち直って女嫌いにならない事を、祈るばかりだ。
そこまで聞いて、私は目前の、ゼイブンに尋ねた。
「確かに怖い体験だ。
で、結局…?」
ゼイブンは不機嫌に、唸った。
「…二度、唇を汚されは、した。
が隙見て逃げ出したに、決まってるだろう?!」
そう言って、横のローフィスをきっ!と睨む。
が、同時にローフィスはさっ!とゼイブンから顔を背けた。
目を合わせぬローフィスに、ゼイブンは不機嫌極まりなく唸りまくった。
「ローフィスはその時、何て言ったと思う?!
『極限の中じゃ、人間って本来の能力超えた力発揮するんだな』
だとよ!!!
確かに俺も決死で逃げた!!!
だが、ふざけすぎてると思わないか?!
死体食ってる奴ら、平気で凝視できる男が!!!
確かに怪物に近かったが、れっきとした人間の女が、怖くて逃げ出すなんて!!!」
ローフィスはゼイブンより顔背けたまま、大きな溜息付いたし。
私は必死で彼らの恐怖体験に、爆笑するのをこらえた。
目前のゼイブンの怒り顔は迫力で、ここで笑ったりしたら間違いなく…血を見るかも。
そう思ったので。
けれどこらえきれる自信無く、ちょっと失礼。
とトイレに立つ振りをした。
が、限界で、扉に辿り着く前に。
私は爆笑してしまった。
背中にゼイブンの、氷のような視線を浴びたことは、言うまでも無い。
END
ランプの灯は遠く、二人は暗い森の中、ほぼシルエットに見える。
が、ゼイブンは目前の美女に、顔、傾け、寄せようとするのを見。
ローフィスは、ぎょっ!とした。
『妖艶の王女ミラディス』だったとしたら…口づけなんてしたら、生気を吸い取られ『影』の配下に成り下がる。
が、顔寄せたゼイブンの口元が動いていて、呪文唱えてる様子で。
木の陰から伺ってたローフィスは、ほっと胸撫で下ろす。
「(魚の骨取って身を食べるように…『影』を払ってから美女を食う気だな…)」
が、呪文唱え出した途端、美女は突然炎を吹き出す。
ローフィスは咄嗟、茂みの後ろから駆け出し、手に持つペンダント握りしめ、呼び出す相手を思い巡らした。
『逃げろゼイブン!!!』
怒鳴りたかった。
が召喚呪文唱えてて、無理だった。
気づくと、あっ…と言う間に美女の足元から炎が広がり行く。
ゼイブンがすっ飛んで逃げ出した時、ローフィスの呪文に応え、神聖騎士ドロレスが、空間に突如その発光した眩い姿現し、笑う。
「炎の女王サランディラ」
炎に包まれた美女はそう自分の名を呼ぶ、空に浮かぶ神聖騎士の姿を見つけ、うそぶく。
「あら…!
ずいぶん厄介な相手を寄越してくれるじゃない?」
ゼイブンは地を這う炎から逃げてたが、美女の姿に目を戻し、ぎょっ!とした。
確かに胸はせり出し、盛り上がってた。
がその肌は真っ黒で黒い鱗に覆われ、髪は真っ赤に変わり炎の中うねり、更にその目は蜥蜴のような黄色…。
ローフィスは怒鳴り付けようか。とも思った。
が、地を這う炎の範囲から、ゼイブンはちゃんと距離を取って美女の変わり様を見ている。
「(流石に、生存本能は健在か)」
ほっ…として、召喚された神聖騎士の戦い様を見届けようと、横の木に手を付く。
正直、本来神聖神殿隊のペンダントで、格上の神聖騎士を呼び出すなんて無茶で無謀で。
一気に“気”を消耗し、フラついた。
が、くらくらする頭を振り、空(くう)に白の隊服はためかす、『光の王』の末裔で素晴らしい能力者の、神聖騎士を見つめる。
炎に包まれた美女…炎の女王サランディラの攻撃対象は。
一気に、ゼイブンから神聖騎士ドロレスに移る。
宙に浮く彼の足元に炎の溶岩が広がり行き、その場だけ別次元の場所のよう。
が、浮いたドロレスは、自分の足元だけその灼熱の溶岩を許すものの。
範囲が広がる事を、超常力で防ぐ。
サランディラとドロレスの、二人の居る辺りだけが。
ドロドロと溶ける溶岩と炎が吹き出し、別世界がそこには在って。
ローフィスはドロレスが、焼かれはしないか。
と凝視する。
『影』の中でも炎の女王サランディラは、大物中の大物。
確かに呼び出しはしんどかったが、本来彼らが呼び出せる神聖神殿隊騎士らの、戦える相手なんかじゃない。
神聖神殿隊騎士らは『光の国』より光臨する『光の王』従者の、末裔。
一方、神聖騎士らは『光の王』の末裔。
その能力も人格も、神聖騎士らが上回る。
ゼイブンは空(くう)飛び襲う炎が、すっかり消えて視線を上げる。
目前上空に白い隊服はためかせ立つ、神聖騎士。
がその敵、炎の女王サランディラの、不気味な微笑は消えない。
ゼイブンは心から神聖騎士を呼び出した同僚ローフィスが、頼もしくて。
感謝の視線を、投げようとした。
が木陰に居るのか、その姿は暗い木立の中に埋もれ、見つけられなかった。
ローフィスはじりじりと範囲を広げようとする溶岩を、ぐっ!と阻みさせない神聖騎士を見守る。
何と言っても人間の彼らは、炎の女王に迂闊に出会ったりすると。
一瞬であの灼熱の炎で焼かれ、激痛の内に炭と成り、魂は女王の下僕となって囚われる。
足元に口開ける灼熱の溶岩にも微笑を崩さぬ、頼もしい神聖騎士の姿に。
ローフィスはそれでも、手に汗握り決死で見つめた。
サランディラが今回なんでこんなややこしい手を使ったのか、とも思えた。
が、派手にやれば直ぐ神聖騎士らが駆けつけて、蓄えた力を放出し。
元居た場所へ追い返される。
『影』らの住む、封印された別次元へ。
「無駄だったな」
ドロレスに言われ、炎の女王サランディラは妖艶に嗤う。
「…神聖騎士と言っても、ひよっこね?
まだ大して経験も無い。
そうでしょ?
そんな奴に私が、払えるのかしら?」
ドロレスは白金で覆われた、光の中で笑う。
「年齢を経てるのがご自慢のようだ。
だが…老齢で力在る若者の私に、勝てるのか?」
女王は侮辱されたように力任せに範囲を広げようと力み、ドロレスはさせまい。
と拳を握り、御してる。
まるで力比べをしてるように…彼らの足元の溶岩の範囲は…広がりかけては範囲を縮める。
を繰り返していた。
ドロレスは灼熱の炎の中に居て、その『光の王』の血を継ぐ端正な顔は厳しく引き締まり、汗を…かいてるように見えた。
無理も無い…。
あの中に人間が入ったら、一瞬で焼けて溶ける。
そんな中に居ながら…ドロレスは女王が更にその場を広げるのを、防いでるのだ。
「(神聖騎士で大正解だぜ…)」
ローフィスは思った。
が、ゼイブンも同様のようで、少し離れた位置で戦う二人を、見守ってる。
が、近い。
ゼイブンもそう、思ったらしく、もっと下がろう。
とし、後ろにずり下がろうとした、途端…。
後ろのけっこうデカい石に足をブツけ、つんのめり、バランスを崩し前へ…つまり…灼熱のその場へ、頭から突っ込む。
「!!!」
咄嗟、ドロレスが両手右脇に引き、押し出し。
途端、その手から一気に力を放出する。
出た物を見て、ローフィスはぎょっ!!!とした。
巨大な…小山程在る氷の塊が、女王の頭上から彼女に降り落ちる!!!
炎の女王サランディラは、咄嗟その場を引き別空間に、逃げようとした。
が、遅かった。
ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
凄まじい悲鳴が空間に響き渡り、巨大な氷の塊に接触した彼女は、じゅうじゅうと白煙上げながら、白い氷が粉砕された飛沫の中、黒いシルエットとして浮かび上がり…。
そして…身を前屈みに俯くと、一瞬でその場から、消え去った。
ゼイブンは女王が引くと同時、炎の消え行く地面に転げ落ち。
だがどうやら焼かれる事は免れた様子で、ドロレスは浮かぶ空からゼイブンを見、ほっ…と吐息吐く。
ローフィスは木に手を付いて前へ進み出、呟く。
「…荒技だな?」
言うと神聖騎士ドロレスは少し、苦く笑った。
「彼が焼かれる前に。
と焦ったのでね。
悪いがこれで、失礼する。
力を一気に使いすぎて…多分、数分後に失神する」
ローフィスは、頷く。
「来てくれて、ありがとう」
が、ドロレスが空間に微笑を残し消えて行き、ローフィスがゼイブンに視線戻すと。
もうとっくに身を起こし、女王の消えた後に横たわる、憑かれた美女に駆け寄り、起こしていた。
「(あいつが転んだせいで神聖騎士は一気に力使ったってのに…懲りずにまた、美女か?!)」
ローフィスは呆れ、『影』も消え。
もう、ゼイブンを見捨てて帰ろう。
と思った。
自分だって神聖騎士なんて格上の騎士呼び出したせいで、フラフラだった。
が、背を向けた途端、醜いうめき声が聞こえる。
「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
咄嗟、振り向く。
「(まだ別の『影』も、憑いてたのか?!)」
が…………呻いてたのは、ゼイブン。
よく見ると、仰向けた美女…の筈だった女は、年増ででっぷり太って、あばただらけの凄いご面相に、変わっていた。
「(…炎の女王サランディラの、呪いか?)」
ローフィスが、呆然と歩を止めたまま見つめていると。
女は助け起こしたゼイブンに色目使い、言った。
「あら…こんな美人、見た事無いでしょう?」
が、ゼイブンの見開かれた瞳に気づき、自分の胴回りを見、がっかりしたように吐息吐く。
「…美女に変身させてくれる。って言ってた女は、どこに行っちゃったのかしら…。
私、元に戻っちゃった?
でもほら…私をご所望なんでしょ?
色男さん」
ゼイブンは横たわる彼女に腰を掴まれ、引き寄せられ、必死でその腕外そうと抗ってた。
ローフィスは、もうそれ以上見る、勇気が無かったから背を向けた。
またあの醜い呻きが聞こえる。
そう思ったが、案の定。
「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そしてその後、引きつった叫びが聞こえる。
「助けろ!ローフィス!!!
頼む助けてくれ!!!」
ローフィスは足を止め、振り向かぬまま怒鳴った。
「もう『影』は払ったんだ!!!
相手はか弱い女だろう?!」
「か弱くなんか無いぞ!!!怪力だ!!!
頼むローフィス一生恩に着る!!!」
ローフィスは俯き、吐息吐き、そっ…と振り向くと…巨体でその腕の中にゼイブンを抱きしめ、こちらを見、にっ…と笑い、女は言った。
「あら。美男さん。
二人でしてくれても、いいのよ?」
ローフィスは月明かりの中、姿が半分影にはなっているものの。
黒いレースで飾り立てられた、ドレスの胴回りがはち切れて裂け。
ぶよ。と膨れた白い肉の覗く、赤ら顔であばただらけの怪物のような女の顔に、怖気が走り…。
気づいたら、脱兎の如く駆け出していた。
背後から巨大ヘビに絡め取られ食われようとしてるような、ゼイブンの怒鳴り声が聞こえた。
「見捨てるのかローフィス!!!
臓腑散乱してる中、死体食い千切ってる奴ら見たって、平気だったじゃないか!!!
なのにこの程度の女が怖いのか…?!
冗談だろう?
頼む戻って来てくれ…!!!」
声が遠ざかり、小さくなってるのに気づいた時。
ローフィスは恐怖のあまり、歩を止める事が出来なかった。
と、自分を慰めた。
一生に、そうそうあるはずの無い、恐怖だった。
だから…仕方の無い事だ。
と、言っても。
ゼイブンは絶対納得しやしないだろう。
でも、わざとじゃない。
人は真の恐怖にかられると、制御不能になるんだ。
そう言っても。
多分言い訳にも成らず、ゼイブンに喚かれ倒される事は、予想出来た。
ローフィスの足は、フェスティバルの賑わい…人の雑踏に紛れた時、ようやく止まった。
振り向く、根性は無かった。
ゼイブンの、冥福を祈るしか無い。
と言っても相手は『影』で無く人間だから、命に関わる問題は起きない筈だ。
最悪の、体験をするだけで。
願わくばゼイブンが、立ち直って女嫌いにならない事を、祈るばかりだ。
そこまで聞いて、私は目前の、ゼイブンに尋ねた。
「確かに怖い体験だ。
で、結局…?」
ゼイブンは不機嫌に、唸った。
「…二度、唇を汚されは、した。
が隙見て逃げ出したに、決まってるだろう?!」
そう言って、横のローフィスをきっ!と睨む。
が、同時にローフィスはさっ!とゼイブンから顔を背けた。
目を合わせぬローフィスに、ゼイブンは不機嫌極まりなく唸りまくった。
「ローフィスはその時、何て言ったと思う?!
『極限の中じゃ、人間って本来の能力超えた力発揮するんだな』
だとよ!!!
確かに俺も決死で逃げた!!!
だが、ふざけすぎてると思わないか?!
死体食ってる奴ら、平気で凝視できる男が!!!
確かに怪物に近かったが、れっきとした人間の女が、怖くて逃げ出すなんて!!!」
ローフィスはゼイブンより顔背けたまま、大きな溜息付いたし。
私は必死で彼らの恐怖体験に、爆笑するのをこらえた。
目前のゼイブンの怒り顔は迫力で、ここで笑ったりしたら間違いなく…血を見るかも。
そう思ったので。
けれどこらえきれる自信無く、ちょっと失礼。
とトイレに立つ振りをした。
が、限界で、扉に辿り着く前に。
私は爆笑してしまった。
背中にゼイブンの、氷のような視線を浴びたことは、言うまでも無い。
END
0
お気に入りに追加
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
連続寸止めで、イキたくて泣かされちゃう女の子のお話
まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*)
「一日中、イかされちゃうのと、イケないままと、どっちが良い?」
久しぶりの恋人とのお休みに、食事中も映画を見ている時も、ずっと気持ち良くされちゃう女の子のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる