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マレーの祈り
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召使い用出口から抜け出したマレーは、必死で…まだ人気の少ない校庭を見回す。
茂みや木立に覆われた道の先に、人の姿を見付け、駆け寄る。
出た先の広い場所で、二年の群れに行き当たる。
皆、剣の講義なのか。
講堂に揃って、足を運んでいた。
内の一人にしがみつく。
「三年は…?!
三年は、どこ…?!」
しがみつかれた二年は、びっくりして振り向く。
背が高く…二年ながら武人の風情あり、一目で大貴族だと解る、気品ある美男。
彼は必死の形相のマレーを見つめ、その高い背を、小柄なマレーに傾け、尋ねる。
「どうした…?」
「ディングレーは、どこ…?!」
直ぐ後ろから、明るい…濃い栗毛と淡い栗毛の混じった…貴公子、ローランデが姿を見せた。
マレーはその端正で優しげな…けれど凜とした輝きを宿す、素晴らしい貴公子を見つめ…。
が、目を見開く。
彼でも、駄目だ…!
王族の、私室だ!
「ディングレーじゃないと…!」
ローランデは、マレーのその言葉で直ぐ察し、頷く。
「現場は、四年宿舎の王族私室?」
マレーが頷くと、ローランデは直ぐ背を向け、三年宿舎に向かって駆け出して行った。
「フィンス!どうした?」
フィンスと呼ばれた、二年の背後から。
小柄な…金髪に近い、もしゃもしゃの栗毛の、肩まである短髪の青年が姿を見せる。
二人は並んで、マレーを見つめた。
小柄な、親しみやすい茶の瞳をした青年、ヤッケルが。
柔らかな声で尋ねる。
「…君は…?
逃げ出して来たの?」
聞かれた途端、マレーは抜け出して来たことが、ドラーケンにもうバレる…!
と気づき、慌てて告げる。
「僕…もう、戻らないと…」
が、フィンスと呼ばれた気品溢れる美男は、マレーの腕を引く。
「…戻った所で…ひどい目に合うぞ?」
マレーは叫んでいた。
「戻った方がマシだ!
逃げ場なんて、どのみち無いんだから!
逃げ出して、ディングレーを呼んだと解ったら…!
犯されるじゃ済まない!
半殺しにされる!!!
でも、どうしても……どうしても…………!!!」
フィンスは、ヤッケルを見た。
ヤッケルは解った。
と頷き、尋ねる。
「どっちを呼ぶ?
アイリスか?
それともナンバー2か?」
「学年無差別、剣の練習試合は明日だ。
そしたらどっちがボスか…多分、判明する」
ヤッケルはそのぼやけた回答に、イラ立って叫ぶ。
「だから、今日はどっちを呼ぶ?」
ヤッケルに凄まれ、フィンスは曖昧に首を振った。
ヤッケルは、どっちか判断出来ないフィンスに、ぼやく。
「俺の勝手にしろ!か。
そうするよ!」
「俺も行く」
背後から顔を出すシェイルに、ヤッケルは怒鳴った。
「お前まで来たら!
俺の代返は、誰がする!!!」
怒鳴りながらも、直ぐ駆け出すヤッケルの背を見送り、フィンスはシェイルにぼやいた。
「どっちみち、あいつの代返なんてバレバレだ。
彼を頼む。
私は、経験がないから。
どうも、慰めるのは苦手で………」
シェイルは困ってるフィンスを見、苦笑すると、マレーの腕をそっと取った。
マレーは顔を上げ、その人が噂の…。
学校一の美少年、シェイルだと解って、あまりの美貌にびっくりした。
そっと近寄られても、彼が人間に見えない。
隙無く整い、その雰囲気はまるで、妖精のよう。
銀の、淡い色の髪。
大きな美しい、エメラルド色の瞳。
赤く、小さな唇。
「…医療室に行こう…」
シェイルにそう言われたけど、マレーは首を横に振る。
シェイルはそんなマレーの様子を見て、心配げに眉を寄せ、ささやいた。
「…どこか…痛めてない?」
聞かれて、マレーは俯く。
躊躇った後、マレーがやっと顔を上げた時。
三年宿舎から、ディングレーが走り出して来るのが見え…。
マレーは思わず、学校一の美貌の少年を振り切って、ディングレーの後を付いて行った。
ローランデが直ぐ横に並び、叫ぶ。
「君は、戻ってろ!」
マレーは首を、横に振る。
が、四年宿舎の前まで来ると、ディングレーがローランデに振り返る。
「その子を頼む!」
マレーは、はっ!として、ローランデを見る。
言われたローランデは、ディングレーに一つ、頷くと、マレーの腕を掴み、駆け込むディングレーの背を見送った。
マレーは、たった一人で立ち向かうディングレーに…。
今度は、馬鹿だなんて思わず、祈るような気持ちで両手を握り合わせる。
横で…二年の貴公子、ローランデが肩を抱いてくれた。
いい…臭いがし…。
見上げたローランデは、どぎまぎするほど気品があった。
これが、別の時ならきっと。
彼に、見惚れていただろう…。
けれど…!
けれど、今はただ。
ディングレーとアスランの、無事を祈るのみ………。
シェイルが追いついて、横に来てくれる。
マレーは優しい二人に両横に並ばれ、泣き出しそうな気持ちを必死にこらえて、ディングレーに望みを託した。
茂みや木立に覆われた道の先に、人の姿を見付け、駆け寄る。
出た先の広い場所で、二年の群れに行き当たる。
皆、剣の講義なのか。
講堂に揃って、足を運んでいた。
内の一人にしがみつく。
「三年は…?!
三年は、どこ…?!」
しがみつかれた二年は、びっくりして振り向く。
背が高く…二年ながら武人の風情あり、一目で大貴族だと解る、気品ある美男。
彼は必死の形相のマレーを見つめ、その高い背を、小柄なマレーに傾け、尋ねる。
「どうした…?」
「ディングレーは、どこ…?!」
直ぐ後ろから、明るい…濃い栗毛と淡い栗毛の混じった…貴公子、ローランデが姿を見せた。
マレーはその端正で優しげな…けれど凜とした輝きを宿す、素晴らしい貴公子を見つめ…。
が、目を見開く。
彼でも、駄目だ…!
王族の、私室だ!
「ディングレーじゃないと…!」
ローランデは、マレーのその言葉で直ぐ察し、頷く。
「現場は、四年宿舎の王族私室?」
マレーが頷くと、ローランデは直ぐ背を向け、三年宿舎に向かって駆け出して行った。
「フィンス!どうした?」
フィンスと呼ばれた、二年の背後から。
小柄な…金髪に近い、もしゃもしゃの栗毛の、肩まである短髪の青年が姿を見せる。
二人は並んで、マレーを見つめた。
小柄な、親しみやすい茶の瞳をした青年、ヤッケルが。
柔らかな声で尋ねる。
「…君は…?
逃げ出して来たの?」
聞かれた途端、マレーは抜け出して来たことが、ドラーケンにもうバレる…!
と気づき、慌てて告げる。
「僕…もう、戻らないと…」
が、フィンスと呼ばれた気品溢れる美男は、マレーの腕を引く。
「…戻った所で…ひどい目に合うぞ?」
マレーは叫んでいた。
「戻った方がマシだ!
逃げ場なんて、どのみち無いんだから!
逃げ出して、ディングレーを呼んだと解ったら…!
犯されるじゃ済まない!
半殺しにされる!!!
でも、どうしても……どうしても…………!!!」
フィンスは、ヤッケルを見た。
ヤッケルは解った。
と頷き、尋ねる。
「どっちを呼ぶ?
アイリスか?
それともナンバー2か?」
「学年無差別、剣の練習試合は明日だ。
そしたらどっちがボスか…多分、判明する」
ヤッケルはそのぼやけた回答に、イラ立って叫ぶ。
「だから、今日はどっちを呼ぶ?」
ヤッケルに凄まれ、フィンスは曖昧に首を振った。
ヤッケルは、どっちか判断出来ないフィンスに、ぼやく。
「俺の勝手にしろ!か。
そうするよ!」
「俺も行く」
背後から顔を出すシェイルに、ヤッケルは怒鳴った。
「お前まで来たら!
俺の代返は、誰がする!!!」
怒鳴りながらも、直ぐ駆け出すヤッケルの背を見送り、フィンスはシェイルにぼやいた。
「どっちみち、あいつの代返なんてバレバレだ。
彼を頼む。
私は、経験がないから。
どうも、慰めるのは苦手で………」
シェイルは困ってるフィンスを見、苦笑すると、マレーの腕をそっと取った。
マレーは顔を上げ、その人が噂の…。
学校一の美少年、シェイルだと解って、あまりの美貌にびっくりした。
そっと近寄られても、彼が人間に見えない。
隙無く整い、その雰囲気はまるで、妖精のよう。
銀の、淡い色の髪。
大きな美しい、エメラルド色の瞳。
赤く、小さな唇。
「…医療室に行こう…」
シェイルにそう言われたけど、マレーは首を横に振る。
シェイルはそんなマレーの様子を見て、心配げに眉を寄せ、ささやいた。
「…どこか…痛めてない?」
聞かれて、マレーは俯く。
躊躇った後、マレーがやっと顔を上げた時。
三年宿舎から、ディングレーが走り出して来るのが見え…。
マレーは思わず、学校一の美貌の少年を振り切って、ディングレーの後を付いて行った。
ローランデが直ぐ横に並び、叫ぶ。
「君は、戻ってろ!」
マレーは首を、横に振る。
が、四年宿舎の前まで来ると、ディングレーがローランデに振り返る。
「その子を頼む!」
マレーは、はっ!として、ローランデを見る。
言われたローランデは、ディングレーに一つ、頷くと、マレーの腕を掴み、駆け込むディングレーの背を見送った。
マレーは、たった一人で立ち向かうディングレーに…。
今度は、馬鹿だなんて思わず、祈るような気持ちで両手を握り合わせる。
横で…二年の貴公子、ローランデが肩を抱いてくれた。
いい…臭いがし…。
見上げたローランデは、どぎまぎするほど気品があった。
これが、別の時ならきっと。
彼に、見惚れていただろう…。
けれど…!
けれど、今はただ。
ディングレーとアスランの、無事を祈るのみ………。
シェイルが追いついて、横に来てくれる。
マレーは優しい二人に両横に並ばれ、泣き出しそうな気持ちを必死にこらえて、ディングレーに望みを託した。
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