68 / 307
戦いの顛末
しおりを挟む
ギュンターは四年猛者二人が交互に繰り出す早い拳を、紙一重で避け、交わしていた。
二年の猛者は案の定、スフォルツァの目前に飛び出し吠える。
「どいてそいつを渡せ!
俺の物だ!!」
スフォルツァが激しく睨め付け、どかないのを見、咄嗟にその顔面目がけて拳を振る。
スフォルツァは避けたつもりだったが、頬を掠る。
が腹立ち紛れに相手の腹を、一歩踏み込んで下から思い切り、がつん!と突き上げた。
が瞬時に今度はかなり深く、拳を頬に叩き込まれ、咄嗟背を後ろに泳がせ間を取ると、口の中から沸き上がる血を、ぺっ!と吐き出した。
直ぐ左横へと、豪腕の拳が降って来る。
が、スフォルツァはそれを避け、前へと身を進め、相手の懐へ入り込む。
再び腹へ、思い切り拳を振り込み、今度は一瞬で後ろに下がった。
さすがに今度は効いたのか、二年猛者は体を前に折り、腹を抑える。
スフォルツァは再び上る口の中の血溜まりを、ぺっ!と唾と共に吐き出し、猛者を睨み据えた。
三回目の拳を避けた所で右に寄る男目がけ、ギュンターは一瞬で身を屈め、右足を突き出した。
「おっ……と!
その手は喰わないぜ…。
お前とやった奴らに、ちゃんと聞いてるからな!!
手だけじゃなく、足も出る。と!」
左の男が振る拳を、咄嗟肘を曲げた腕を突き出してガードし、至近距離から蹴り上げる。
男は気づいて後ろに飛び退いたものの、股間にその足先が当たり、後ろに逃げて股間を押さえた。
「…えげつねぇな!面の割に!」
右横の男が、それを見て唸る。
ギュンターは怒って怒鳴り返す。
「避けなけりゃ、腿に当たってた!!!」
「…そりゃ無理だ。
普通は避けるもんだ」
そのとぼけた声に、喧嘩していた三人共が一斉に振り返る。
オーガスタスが赤毛を揺らし、笑っていた。
「どうする?今日も助っ人はいらないか?」
ギュンターは背後に顔を向け、つぶやく。
「奴には要る。あんたの加勢が」
ぎくっ!と身を屈め、腹を押さえていた二年の猛者が。
学校一喧嘩の強い、大柄なライオンに振り返る。
途端オーガスタスと、目が合う。
その鳶色の瞳は金に見え、ぎらりと鋭く輝くのに。
二年猛者は一瞬で、竦み上がった。
オーガスタスは直ぐ気づき、ぼやく。
「…相手にとっちゃ不足だが………」
ゆらり…と身を揺らし近寄るその大きな男を、二年の猛者は見つめたまま、怯えきって後ずさる。
スフォルツァは戦闘態勢に入る学校一喧嘩の強い男の、あまりの迫力に。
ごくり…!と唾を飲み込んだ。
が、オーガスタスがもう一歩前へと踏み出すと、猛者は震えながらまた一歩、後ろに下がる。
その様子にとうとう、オーガスタスは肩を竦めた。
「暴れたいか、ギュンター」
オーガスタスの助っ人を断る一学年下の、思い上がった編入生に。
目にもの見せようと四年猛者二人は、同時にギュンターに、襲いかかってる真っ最中で。
左右から交互に繰り出される鋭い拳を、背を反らして避け続けてるギュンターは、オーガスタスに怒鳴り返す。
「俺は今、忙しい!」
オーガスタスは二人の拳を、身を左右に俊敏に振って避け続けるギュンターを見つつ…肩を竦めた。
「物は相談だが、相手を交換しないか?
こいつ…俺を怖がってる」
スフォルツァが見てると、二年猛者は大きなその男が目前を塞ぐのに、怯えきって震ってた。
ギュンターがまた繰り出される拳を、顔を振って避けながら怒鳴る。
「ならさっさとそいつを沈め、加勢しろ!」
オーガスタスは肩を竦め、自分の相手を見つめる。
その金に光る鳶色の瞳が自分を見据えた途端、二年の猛者は足が竦み、必死で顔を横に、振った。
「…何だ?
何が言いたい?」
オーガスタスの問いに、猛者はそれでも首を横に振り続ける。
「声が…出ないのか?」
猛者はようやく、首を縦に振る。
その顔に気づくと、オーガスタスはぼそりとつぶやいた。
「何だ…見た顔だと思ったが…。
お前がまだやんちゃな一年坊主だった頃。
俺一回、お前を殴ったか?」
猛者は、うんうん。と首を縦に振る。
「そうか…。で、なんか歯を二本、折ったって?」
猛者は必死に、首を縦に振る。
スフォルツァは呆れた。
オーガスタスはすっかり戦意を解いていた。
なのに二年の猛者は、竦み上がったまま。
オーガスタスはとうとう両手を腰に当て、身を屈めて相手を覗き込む。
「どれ…。
ああ…そっちは抜けて…もう一本は、欠けてるな。
しみる?
そうだろう。
で?
…今度は、何本折ってもらいたい?」
そう尋ねた大きなライオンは、ニヤリと笑ったもんだから。
その猛者はとうとう脱兎の如く、背を向け駆け出した。
スフォルツァの目前でオーガスタスは、やれやれ。と片手で髪を梳き上げ、逃げ出す男の遠ざかる背を見つめた。
そしてギュンターへと視線を振る。
忙しく拳を避けてるギュンターの背後に立つと、告げる。
「…楽しそうだな。
俺も混ぜてくれ」
言った途端、左の男が繰り出そうとした拳を途中で止め、殴ろうとした相手の背後の、オーガスタスを目を見開き、見つめた。
左の男が動きを止めた途端、ギュンターは右の男の拳を避けて右肩を入れ込み、繰り出された拳のその腕を左手で握り引くと、バランスを崩す相手の顔面に、右拳を叩き込んだ。
四年の喧嘩自慢は、流石に背後に身を反らす。
が、頬を掠る。
握られた腕を振り払い、咄嗟に一歩下がって、切れた口から滴る血を、手の甲で拭う。
がその背後に立つ、オーガスタスの瞳が黄金にぎらりと光るのを目に、怒鳴る。
「てめぇ…!
ディアヴォロスがいた頃とは、訳が違うんだぞ!
今はグーデンの天下だと、解らぬ位馬鹿か!
俺を殴ったら、グーデンは黙って無い!!!」
ギュンターが背後に振り向くと、オーガスタスは笑った。
「試すか?」
ギュンターが視線を前に戻すと、四年の猛者二人は動揺しきった。
互いに顔を、見合わせる。
そして…戦意を解くとオーガスタスを睨み据え…背を向け去り始める。
内の一人は、振り向きギュンターに言った。
「お前との決着は、いずれ付ける」
ギュンターがその様子に呆れ、ぼそりとつぶやく。
「…今付けられない程、オーガスタスが怖いのか?」
二人同時に振り向くと、ぎっ!とそう言うギュンターを睨んだ。
が戻って来る気配無く、二人は背を向け去って行く。
ギュンターはつい、背後に立つオーガスタスに振り向く。
「…どれだけ思い知らせたんだ?
戦ってもないのに相手が逃げ出すなんて、そりゃよっぽど酷く殴ったんだろう?」
オーガスタスは振り向くギュンターに肩を竦めた。
「奴らはさほど、殴って無い。
今はとっくに卒業した、上級生らは思い切り殴ったが」
ギュンターが顔を揺らす。
「そいつらを、血祭りにでも上げたのか?」
オーガスタスは朗らかに笑った。
「まあ…たくさん血は、出てたな」
二年の猛者は案の定、スフォルツァの目前に飛び出し吠える。
「どいてそいつを渡せ!
俺の物だ!!」
スフォルツァが激しく睨め付け、どかないのを見、咄嗟にその顔面目がけて拳を振る。
スフォルツァは避けたつもりだったが、頬を掠る。
が腹立ち紛れに相手の腹を、一歩踏み込んで下から思い切り、がつん!と突き上げた。
が瞬時に今度はかなり深く、拳を頬に叩き込まれ、咄嗟背を後ろに泳がせ間を取ると、口の中から沸き上がる血を、ぺっ!と吐き出した。
直ぐ左横へと、豪腕の拳が降って来る。
が、スフォルツァはそれを避け、前へと身を進め、相手の懐へ入り込む。
再び腹へ、思い切り拳を振り込み、今度は一瞬で後ろに下がった。
さすがに今度は効いたのか、二年猛者は体を前に折り、腹を抑える。
スフォルツァは再び上る口の中の血溜まりを、ぺっ!と唾と共に吐き出し、猛者を睨み据えた。
三回目の拳を避けた所で右に寄る男目がけ、ギュンターは一瞬で身を屈め、右足を突き出した。
「おっ……と!
その手は喰わないぜ…。
お前とやった奴らに、ちゃんと聞いてるからな!!
手だけじゃなく、足も出る。と!」
左の男が振る拳を、咄嗟肘を曲げた腕を突き出してガードし、至近距離から蹴り上げる。
男は気づいて後ろに飛び退いたものの、股間にその足先が当たり、後ろに逃げて股間を押さえた。
「…えげつねぇな!面の割に!」
右横の男が、それを見て唸る。
ギュンターは怒って怒鳴り返す。
「避けなけりゃ、腿に当たってた!!!」
「…そりゃ無理だ。
普通は避けるもんだ」
そのとぼけた声に、喧嘩していた三人共が一斉に振り返る。
オーガスタスが赤毛を揺らし、笑っていた。
「どうする?今日も助っ人はいらないか?」
ギュンターは背後に顔を向け、つぶやく。
「奴には要る。あんたの加勢が」
ぎくっ!と身を屈め、腹を押さえていた二年の猛者が。
学校一喧嘩の強い、大柄なライオンに振り返る。
途端オーガスタスと、目が合う。
その鳶色の瞳は金に見え、ぎらりと鋭く輝くのに。
二年猛者は一瞬で、竦み上がった。
オーガスタスは直ぐ気づき、ぼやく。
「…相手にとっちゃ不足だが………」
ゆらり…と身を揺らし近寄るその大きな男を、二年の猛者は見つめたまま、怯えきって後ずさる。
スフォルツァは戦闘態勢に入る学校一喧嘩の強い男の、あまりの迫力に。
ごくり…!と唾を飲み込んだ。
が、オーガスタスがもう一歩前へと踏み出すと、猛者は震えながらまた一歩、後ろに下がる。
その様子にとうとう、オーガスタスは肩を竦めた。
「暴れたいか、ギュンター」
オーガスタスの助っ人を断る一学年下の、思い上がった編入生に。
目にもの見せようと四年猛者二人は、同時にギュンターに、襲いかかってる真っ最中で。
左右から交互に繰り出される鋭い拳を、背を反らして避け続けてるギュンターは、オーガスタスに怒鳴り返す。
「俺は今、忙しい!」
オーガスタスは二人の拳を、身を左右に俊敏に振って避け続けるギュンターを見つつ…肩を竦めた。
「物は相談だが、相手を交換しないか?
こいつ…俺を怖がってる」
スフォルツァが見てると、二年猛者は大きなその男が目前を塞ぐのに、怯えきって震ってた。
ギュンターがまた繰り出される拳を、顔を振って避けながら怒鳴る。
「ならさっさとそいつを沈め、加勢しろ!」
オーガスタスは肩を竦め、自分の相手を見つめる。
その金に光る鳶色の瞳が自分を見据えた途端、二年の猛者は足が竦み、必死で顔を横に、振った。
「…何だ?
何が言いたい?」
オーガスタスの問いに、猛者はそれでも首を横に振り続ける。
「声が…出ないのか?」
猛者はようやく、首を縦に振る。
その顔に気づくと、オーガスタスはぼそりとつぶやいた。
「何だ…見た顔だと思ったが…。
お前がまだやんちゃな一年坊主だった頃。
俺一回、お前を殴ったか?」
猛者は、うんうん。と首を縦に振る。
「そうか…。で、なんか歯を二本、折ったって?」
猛者は必死に、首を縦に振る。
スフォルツァは呆れた。
オーガスタスはすっかり戦意を解いていた。
なのに二年の猛者は、竦み上がったまま。
オーガスタスはとうとう両手を腰に当て、身を屈めて相手を覗き込む。
「どれ…。
ああ…そっちは抜けて…もう一本は、欠けてるな。
しみる?
そうだろう。
で?
…今度は、何本折ってもらいたい?」
そう尋ねた大きなライオンは、ニヤリと笑ったもんだから。
その猛者はとうとう脱兎の如く、背を向け駆け出した。
スフォルツァの目前でオーガスタスは、やれやれ。と片手で髪を梳き上げ、逃げ出す男の遠ざかる背を見つめた。
そしてギュンターへと視線を振る。
忙しく拳を避けてるギュンターの背後に立つと、告げる。
「…楽しそうだな。
俺も混ぜてくれ」
言った途端、左の男が繰り出そうとした拳を途中で止め、殴ろうとした相手の背後の、オーガスタスを目を見開き、見つめた。
左の男が動きを止めた途端、ギュンターは右の男の拳を避けて右肩を入れ込み、繰り出された拳のその腕を左手で握り引くと、バランスを崩す相手の顔面に、右拳を叩き込んだ。
四年の喧嘩自慢は、流石に背後に身を反らす。
が、頬を掠る。
握られた腕を振り払い、咄嗟に一歩下がって、切れた口から滴る血を、手の甲で拭う。
がその背後に立つ、オーガスタスの瞳が黄金にぎらりと光るのを目に、怒鳴る。
「てめぇ…!
ディアヴォロスがいた頃とは、訳が違うんだぞ!
今はグーデンの天下だと、解らぬ位馬鹿か!
俺を殴ったら、グーデンは黙って無い!!!」
ギュンターが背後に振り向くと、オーガスタスは笑った。
「試すか?」
ギュンターが視線を前に戻すと、四年の猛者二人は動揺しきった。
互いに顔を、見合わせる。
そして…戦意を解くとオーガスタスを睨み据え…背を向け去り始める。
内の一人は、振り向きギュンターに言った。
「お前との決着は、いずれ付ける」
ギュンターがその様子に呆れ、ぼそりとつぶやく。
「…今付けられない程、オーガスタスが怖いのか?」
二人同時に振り向くと、ぎっ!とそう言うギュンターを睨んだ。
が戻って来る気配無く、二人は背を向け去って行く。
ギュンターはつい、背後に立つオーガスタスに振り向く。
「…どれだけ思い知らせたんだ?
戦ってもないのに相手が逃げ出すなんて、そりゃよっぽど酷く殴ったんだろう?」
オーガスタスは振り向くギュンターに肩を竦めた。
「奴らはさほど、殴って無い。
今はとっくに卒業した、上級生らは思い切り殴ったが」
ギュンターが顔を揺らす。
「そいつらを、血祭りにでも上げたのか?」
オーガスタスは朗らかに笑った。
「まあ…たくさん血は、出てたな」
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる