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乗馬をサボったギュンターの勇姿

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 心地良い昼。
ギュンターは思いきり遠慮する事無く、たらふく食事を腹に詰め込んで、満足げに草の生い茂る葉陰に、横たわっていた。

育った領地はシュテインザイン西領地の、都から一番遠い辺境。
神聖騎士集う西の聖地とは、高い崖で隔てられていたから、守護もロクにない。

アースルーリンドの周囲を取り巻く巨大な崖の近くの土地はすべからく、盗賊の襲撃を激しく受ける…。
ギュンターの領地もひっきりなしに、盗賊に襲われていた。

領民全てで立ち向かうが…それでも死傷者は後を絶たず、女子供はさらわれ、食料は奪われる…。

そんな過酷な土地柄だったから、食べ盛りの男ばかり5人兄弟で、いつも熾烈しれつな食べ物の奪い合い。

13になった頃。
通例の進路を決めるための、成人の旅に出るのが領地の決まりで。
旅の付き添いは、父の弟、叔父がしてくれた。

が、この軟弱なツラゆえ、叔父と共に盗賊から逃げ回る毎日で、食糧確保はいつも困難。

旅先で、騎士に一度危機を救われ…。
格好いい、と思うよりも先に。

筋肉たっぷりのその体格の良さに目を見張り、自分もああなりたい。
と思い、この『教練キャゼ』に来て正解だと。
ギュンターは満腹の腹を見て、改めて思った。

一年からここにいる奴らはみんな、揃って体格が良い。

もっと食べて…体格が良くなれば、重い拳で敵をブチのめせる。

ギュンターはとりあえず、今日もたらふく食べたので、満足げに昼寝を決め込んだ。

風が頬を優しくなぜ、目を閉じた途端、眠りに誘われる。

午後は乗馬の授業だったが…。
ずっと旅で道無き道を、馬で駆け続けてたから。
楽勝で、今更授業をサボろうが、困る事も無かった。

が、足音が聞こえ、ざっ!と、誰かを放り投げる気配に、ギュンターはつい、目を開ける。

間もなく
「あ………」
泣き声混じりの喘ぎが聞こえ、幾度も…逃げようとする衣服の擦れる音と共に、荒い吐息。

引き戻し、性急に衣服を、掻き分ける音。

「放…し……お願い!」

悲鳴のような懇願の叫びを耳に、した途端。
ギュンターは身を、跳ね上げた。
一気に茂みから立ち上がる。

見ると、やはり茂みに覆われ、普段生徒が通る場所から隠れた木立の下で。
そのガタイのいい男が、嫌がる美少年を捕まえ…衣服を剥ぎ取ろうとしていた。

が、誰もいないと思っていた茂みの中に立つ、ギュンターの鮮やかな金髪と美貌。
その、ひょろりとした長身を見つめ、男は目を見開く。

腕を掴まれた美少年はギュンターの方へ、助けを求めるように顔を向け、駆け出そうとして腕を、乱暴に引き戻されていた。

腰を抱き寄せられ、背後からきつく抱き止められ、美少年は必死で、ギュンターに泣き出しそうな瞳を、向けている。

柔らかそうな栗色の巻き毛と、淡いブルーの瞳。
とても可愛らしい顔立ちの、とても小柄な…。

ギュンターは無表情で、後ろから捕まえ、犯そうとする奴を見た。
栗毛の短髪の巻き毛。
そばかすだらけの顔にグレーの瞳。
ガタイのいい…だがまだ、若く未熟な顔。

「…三年では見ない顔だな?」
聞くと、そいつは歪んだ笑みを、浮かべた。
「…俺は二年だ。
だが…グーデンの、配下だ!」

そいつはそう言って、勝ち誇った顔をした。
まるでそれが、切り札のように。

が、ギュンターの表情から何の反応も得られない。
そいつは苛立ち怒鳴る。
「…グーデンだ!
知ってるだろう?
学校一、身分の高い王族だ!」

ギュンターはようやく、頭を揺らす。
「王族なら同学年で一人、知ってるが…」
「そいつはディングレー!四年のグーデンの、弟だ!」

が、ギュンターはやはり無反応。
男はとうとう、叫んだ。
「ディングレーより兄のグーデンの方が、位が高い!」

「それが、その子と何の関係がある?」

二年の猛者は、とうとう頭が馬鹿な奴に苛立ち、説明を怒鳴った。
「お前が邪魔したら、俺だけで無く!
学校一のグーデンをも!
敵に、回す事になると!
俺はそう言ったんだ!」

ギュンターは頭を、ゆらり…と揺らす。
「そこが…解らない。
四年の一番は、オーガスタスだろう?」

ようやく二年猛者の、瞳がきらりと光った。
「身分では劣る。
そしてそれは致命的だ。
オーガスタスはグーデンに、かなわない」

「拳では勝つだろう?」
「だがそれで即、退校処分だ!
オーガスタスが消えても、グーデンはここに残る!
どっちが本当に強い?!」

ギュンターが、顎を下げそう叫ぶ二年の猛者をその、宝石のようにキラリと輝く、透けた紫の瞳で見つめ返す。

「…決まってる。
嫌がる相手を無理強いするロクデナシを、殴り倒すオーガスタスが。
間違い無く強い」

二年の猛者の、顔が引きつった。
「お前…馬鹿か?!
奴と一緒に、退校になりたいのか?!」

ギュンターは吐息を吐き出し、目を閉じる。
「つまり、お前を殴ったらグーデンとかを敵に回し、俺はヘタしたら退校になるぞと、脅してんのか?」

「やっと…解ったようだな?」
言って腰を抱いている美少年を、尚一層自分に引き寄せ、笑う。

美少年は…助け船が無くなり、自分はこれからその男に犯されると分かって、俯き震えていた。

あんまり気の毒で、ギュンターはその美少年の為にも、はっきり言った。
「…それが、何だ?
言っとくが俺は、退校が怖くて殴りたいのを我慢する、根性無しじゃ無い」

途端、二年の猛者が目を、見開く。

ギュンターは抱きしめられて俯き、震える美少年を見つめ、その猛者に顎をしゃくる。
「お前を…怖がってる。
それで本気で…無理矢理犯す気か?」

猛者は一層その美少年を腕に抱き止め、叫ぶ。
「こいつは愛玩だ!
どう扱おうが、俺の勝手だ!」

ギュンターは頷く。
「いとこか何かか?
それとも家同志で、何か繋がりでもあるのか?」

猛者は笑った。
「ここに入って俺やグーデンに目を付けられた以上!
命令に逆らう事は許されない…。
大人しく、しろ!と命じられた事をするしか、こいつに道は無いんだ!」

そしてぐい!と乱暴に抱き、顎を掴み、上げさせる。
「んっ…ぐ!」
美少年は無理矢理顔を上げさせられ、目を閉じ呻く。

その両手で必死に、腰に回された猛者の腕を握る。
が、非力な彼にそれを引き剥がす事は、無理のようだった………。

ギュンターはすっ…と右手で茂みを、避けて進む。

何げ無く近づいて来る、三年の美貌の編入生に。
二年の猛者は何する気なのか。と目を見開いた。

ぐい!といきなり、美少年が必死に引き剥がそうと掴む、猛者の腕を掴み、一気に捻り上げる。

「…っ!」

あんまり何げ無い動作で素早く腕を捻られ、猛者は瞬間襲い来る激痛に顔をしかめ、美少年を手放した。

ギュンターは更に思いきり捻り上げ
「うがっ!」
と叫ぶ男の腕を放し様美少年を背後に回し、猛者を真正面で、睨め付けた。

「貴…様…!」

痛みと怒りで顔を歪めた猛者が振る拳を、軽く顔を背けうながし、がっ!と一気に奴の顔に拳を叩き込む。

どっ!
ばさっ!

後ろの茂みに吹っ飛び、猛者は何とか身を起こすと目を見開き、そのしなやかで早い拳を放つ、美貌の編入生を見つめた。

が、一味の仲間に、ギュンターの強さを聞かされていたのか。
二年の猛者は殴られた顎を、手の甲で庇い、ゆっくり…手を草の上に付き、腰を持ち上げ、敵を見つめた。

金の髪に覆われた、拍子抜けする程甘く、優美な美貌。
がその紫の瞳がきらり…!と光る。

何げ無く立ってるが、逆襲する、隙が見つからない。

猛者はもう一度、殴られて血の滲む頬を、手の甲で拭くと、吠えた。

「覚えてろ!」

ギュンターはくっ!と顔をしかめ笑う。

「…決まり、文句だな?」

真っ直ぐ見つめ返す紫の瞳が、わらっているのに猛者は気づく。

その時、初めて。
優美に見える、美貌の男の本性が。
ケダモノだと気づき、ぞっと身を、震わせた。

慌てて背を向け、逃げ始める。
途中一度振り返ったが、ギュンターの美貌に浮かぶ、ぞっとするほど鋭い表情の嗤いに怖じけ、背を向け必死に駆け去った。

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