若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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美少年を庇う二年の貴公子ローランデ

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 厩で待っていてくれたハウリィが、去って行く講師の背を見つめ、微笑んで教えてくれる。

「彼…ダンネストは、講師になってまだ一年だけど。
凄く面倒身が良くて、評判がいいって聞いた」

ハウリィのその意見に頷く。
「僕もそう、思う」

けど講義を終えた二年らしき、数人が。
うまやを出て直ぐ横にある井戸の、前に置かれた水でいっぱいの木桶に布を浸し、上半身を剥き出しにし、体を拭いていた。

目付きの悪い、体格のいい数人が僕らを見つけると、寄って来る。
体の大きな男、二人が並んだだけで、向こうの視界が全部ふさがれた。

その二人は、僕らを見下ろす。
途端ハウリィが怯えたように、僕から背をそむける。

後ろに駆け出そうとしけど、その前に別の一人が立ち塞がり…。
僕とハウリィは、互いに背を付け合い、反対方向を向いて、三人の体の大きな二年生に取り囲まれた。

「いやっ!嫌!」
ハウリィの叫びに振り向くと、彼は前を塞ぐ男に腕を掴まれ、必死で抗っていた。

僕の腕にも、手が伸びる。
びくっ!とした途端。
すっ…と男と僕の、あいだに入る人物の髪が視界を塞いだ。

明るい栗毛に濃い色の栗毛が幾筋も混じる、独特の髪色。
緩やかにウェーブがかかり、背を覆う程長い、艶やかないい香りのする髪。

その背は、僕よりは確実に高く、それでも囲む男達よりは低い。

目前に僕を庇い立つ、その彼の肩も背も。
どこか清々しく、凜とした雰囲気が漂ってた。

突然現れた彼は、自分より体の大きな二人を、敵に回しても少しも動じる様子がない。

「彼らにどんな用か、私が代わってうかがう!」

断固とした、有無を言わせぬ口調。
けれど、とても穏やかで響き渡るような…涼やかな声音。

頼もしい背。
彼は僕らを、庇ってくれてる!

どっ…!
背に当たる感触に振り向くと、ハウリィが腕を放され、僕と背を、合わせてた。

「邪魔する気か?ローランデ。
あんま、デカイ面すんなよ!」

僕は視線を、前に戻す。
ローランデ。
そう呼ばれたとても美しい、長い髪の彼は、僕に背を向けたまま。

相手は彼より、体格良く背も高い三人。

僕の…下げた手を、ぎゅっ!と後ろからハウリィが掴む。
僕もごくり。と唾を飲み込み、庇うローランデの背を見つめた。

が、途端ローランデと呼ばれた彼の“気”が、一瞬張り詰める。

「…それが用事か?」

静かな口調。
けど、それがまるで…威嚇のように放たれ…。
男達はちっ!と舌打ち、途端、肩を揺すって背を向け始める。

振り向くと、ハウリィの前にいた男までもが。
去って行く男達に合流しようと、その場を離れ行く。

ローランデは男達が去るまで、そのままの姿勢でいたけれど。
やっと振り向いて、彼の顔を見た途端、僕は思った。

『別格だ』

きっと、大貴族。
アイリスと、同じ人種。

そう思えるほどローランデは気品に満ち、隙無く完璧な、美しい貴公子に見えた。

色白の整った面。
さっきのやり取りを考えると、拍子抜けしそうなくらい…優しげな顔立ち。

けどその澄んだ青の瞳は、意志がみなぎり、真っ直ぐで強い。

「彼らがまた絡んで来て、始末が悪いようなら。
直ぐ、私の所に来なさい。
二年の、大貴族用宿舎にいる。
ローランデ。
そう言えば誰かが必ず、私に伝えるから」

背後でハウリィが、ぎゅっ!とまた、僕の腕を握った。
感激するような…そんな感じで。

ローランデが気づいたように、ハウリィに視線を送る。
気の毒そうな、表情を向けて。

「必ず、私が何とかする。
だから決して、奴らの言いなりになる必要は無い」

ハウリィは大きく…本当に大きく、首を縦に、振った。

ローランデは微笑んで、くるりと背を、向けた。

良い香りが、ふわっと…。
なびく長い髪から、漂った。

僕もハウリィも、暫く呆然とその貴公子の背を見送る。

彼の姿がすっかり消えて、ようやく。

僕もハウリィも、彼に礼を言うのを、忘れた事に気がついた。

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