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乗馬の授業のアスランの不出来具合
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初めの講義は、ここでの注意事項。
アイリスが当てられ…彼が椅子から立ち上がる。
階段状の講義室で…彼は窓辺に座っていたから…。
陽が、焦げ茶の艶やかな髪を照らし。
色白の、綺麗な鼻筋がくっきりと陽に浮かび上がって…。
見とれる程綺麗だった。
つい…隣のハウリィにささやく。
「彼…綺麗だよね?」
ハウリィは僕を見てくすり。と笑った。
「みんな…そう思ってる」
気づいて周囲を見ると…皆僕同様、彼に見惚れていた。
次の授業のため、厩に集まる。
アンネスが手配してくれた馬だけど、僕は殆ど乗れなかった。
皆、さっさと乗り込み、手綱を操る。
ハウリィでさえも。
彼は手こずる僕を、それでも厩の外で、待っていてくれた。
並んで、講師の元へ駆ける。
風を切って春の草原を、同学年の少年達と馬で駆ける爽快感は、初めてで…。
それでもアンネスの選んでくれた馬は、時折巧みな乗り手じゃない僕を、長細く大きな顔を後ろに振り向け、情けなげに見つめるから…。
僕は手綱を絡めないよう…必死だった。
気づくとアイリスが横に、並んでいる。
緑の木立の中。
アイリスは髪と同色の焦げ茶の、艶やかな馬に跨り、綺麗な焦げ茶の巻き毛を、なびかせていた。
アイリスの、色白の整った顔と、濃紺の瞳。
その姿の美しさと、優雅な乗馬姿に。
つい見惚れてると、彼は優しくささやく。
「そんなに滅茶苦茶、馬の腹を蹴っては、馬が混乱する。
手綱をもっと緩めて…そうして進む時、軽く蹴ってやるんだ。
合図を送るように」
僕は…頬が真っ赤になった。
けどアイリスが優しく見つめるから…それで言われた通り、握りしめていた手綱を緩めた。
アイリスは微笑む。
「初めは…馬に話しかけるといい。
どっちに行きたい。
止まって。
そんな風に」
僕はびっくりした。
「馬は、言葉が分かるの?」
その大きな声に、周囲の者が振り返り、くすくすと笑う。
アイリスの笑顔は、新緑の木のまばらな森の中、眩しい程だった。
「気配を、察するんだ。
その内言葉を使わなくても、意思疎通できるよ」
僕は…信じられなくて目を、見開いた。
「言葉を使わなくても?」
ただでさえ、相手は動物で…言葉だって当然通じない。
なのに…それすら使わず?
その僕の驚きを察し、アイリスはくすり。と笑う。
ゆったりとした騎乗姿は、余裕に溢れていた。
「動物と、過ごした事が無い?」
僕は首を横に振った。
「ぜんぜん」
「馬は気持ちを察し、私達を目的地に運んでくれる、優しい生き物だ」
アイリスにそう…言われ、僕は馬を見た。
クリーム色の毛色の…その大きな動物が、アイリスに言われた途端、特別な生き物のように思え…。
僕は心の中で、謝った。
『ごめん…。
君に気持ちがあるだなんて、少しも考えなかった』
けど馬は、初心者の僕に『気にするな』と言ってくれてるみたいで…。
僕はアイリスに振り向くと、彼はとても美しい微笑をその色白の顔の上に湛えていて…。
僕は彼の笑顔に、夢中になった。
「アイリス!」
誰かが彼の名を、その列の先頭近くから呼ぶ。
アイリスは前を見、拍車を掛ける。
駆け去る馬上のアイリスの背に、僕は叫んだ。
「ありがとう!」
アイリスは走る馬に揺れる髪を波打たせ、振り向き…微笑った。
…けど僕は皆から、うんと遅れた。
教練の門へと続く高台の校門へ、皆が次々に馬を進める様子を、平らな草原から見つめながら。
それでも必死に馬に前へ進むよう、腹を蹴る。
馬は右に行ったかと思うと左。
蛇行して、ちっとも進まない。
校門近くの高台にいた講師が、馬に跨って駆け下りて来る。
軽やかな感じのする、腰元と長い足。
…栗色の巻き毛に囲まれた、若々しく整った顔立ち。
ブラウンの瞳。
講師は僕の手綱さばきを見、吐息を吐く。
そして…じっ。と僕を見た。
「どっちに行きたい?」
僕は当然、皆の最後尾が消えて行く、校門を見つめた。
講師は吐息を吐き出す。
「なら、あそこに行きたい。
と気持ちを決め、馬に頼んで腹を蹴れ」
気持ちを、決める?
頼む?
…けどじっと見つめる講師の、透けた茶色の瞳に気圧され、心の中でそのクリーム色の馬に頼む。
『あの、校門だ。
あそこに行きたいんだ』
そして腹を、蹴る。
馬は駆け出し、僕はがくん!と背を後ろに引きずられる。
「手綱を緩めろ!
絞ると止まるぞ!」
講師が横で一緒に駆け、叫ぶ。
僕は慌てて握りしめる手綱を、緩めた。
馬が前へ駆けるたび、体が跳ね上がる。
どすん!どすんとお尻を馬の背に打ち付け、痛くって手綱を握りしめる。
「…だから!
手綱は引くな!引くと止まる!」
「…でも!」
どすん!
顎が衝撃で、緩みそうだ。
あんまり上下に飛び跳ねて。
「いいから絞れ!」
僕が見ると、講師は叫ぶ。
「思い切り、引け!」
僕は言われた通り、引く。
馬は止まり…講師は横について、吐息を吐いた。
「問題は馬じゃなく、乗り手だ」
そして言った。
「降りろ!」
僕は手綱を、握ったまま降りる。
講師は馬上から僕に、来い!と顎をしゃくる。
近寄る僕に
「手綱を寄越せ」
と言い、差し出す僕の手から、手綱を受け取る。
そして見上げる僕に視線を戻し、告げる。
「後ろに乗れ」
僕は鞍にしがみつき…足を馬の背の向こうに放り投げ…跨った。
前に座る講師が、振り向く。
「俺の腰に腕を回せ。
しがみつけるか?」
僕は頷く。
そして彼は…手綱を持ち、僕の馬を引いて、自分の馬を走らせた。
固い…大人の男の、筋肉の感触。
広い背。
父以外の男性と、滅多に触れあった事が無かった僕は。
その…力強さと若々しさ。
そして頼もしさに、びっくりした。
が講師は振り向かず、怒鳴った。
「俺と一緒に体を動かせ!
乗ってる時どう体を使うかを覚えろ!」
僕は慌てて…彼の腰にもっと…しがみついた。
確かに彼の体は上下に跳ねない。
しがみつく僕は、跳ねてるのに。
むしろ講師の体は…前後に揺れてる………。
気づくと、校門を潜ってた。
講師は馬から飛び降り…馬上の、僕を見た。
「解ったか?!」
僕は…首を横に、振った。
途端栗毛の…若々しい講師は俯いて…吐息を、吐き出す。
馬から降りると、僕は彼に尋ねた。
「僕は…落第?」
講師は僕を、見る。
感じのいい…好青年に見える彼は…だが、つぶやく。
「当分は俺が面倒見るが…授業には、付いて来られないだろうな。
が………」
僕の不安を感じ取ったように、彼は言葉を続けた。
「直三年が、二年と一年を面倒見る。
受け持ち担当を決めてな!
いい担当に出会えたら…そいつが丁寧に、教えてくれる」
僕は彼を、見た。
彼は馬を引き…そして振り向く。
「それで、どうしても駄目なら俺と課外授業だ。
お前にヤル気が、あるならな!」
僕は、頷いた。
彼の遠ざかる背で解る。
僕は間違い無く…彼の授業の、お荷物だった。
アイリスが当てられ…彼が椅子から立ち上がる。
階段状の講義室で…彼は窓辺に座っていたから…。
陽が、焦げ茶の艶やかな髪を照らし。
色白の、綺麗な鼻筋がくっきりと陽に浮かび上がって…。
見とれる程綺麗だった。
つい…隣のハウリィにささやく。
「彼…綺麗だよね?」
ハウリィは僕を見てくすり。と笑った。
「みんな…そう思ってる」
気づいて周囲を見ると…皆僕同様、彼に見惚れていた。
次の授業のため、厩に集まる。
アンネスが手配してくれた馬だけど、僕は殆ど乗れなかった。
皆、さっさと乗り込み、手綱を操る。
ハウリィでさえも。
彼は手こずる僕を、それでも厩の外で、待っていてくれた。
並んで、講師の元へ駆ける。
風を切って春の草原を、同学年の少年達と馬で駆ける爽快感は、初めてで…。
それでもアンネスの選んでくれた馬は、時折巧みな乗り手じゃない僕を、長細く大きな顔を後ろに振り向け、情けなげに見つめるから…。
僕は手綱を絡めないよう…必死だった。
気づくとアイリスが横に、並んでいる。
緑の木立の中。
アイリスは髪と同色の焦げ茶の、艶やかな馬に跨り、綺麗な焦げ茶の巻き毛を、なびかせていた。
アイリスの、色白の整った顔と、濃紺の瞳。
その姿の美しさと、優雅な乗馬姿に。
つい見惚れてると、彼は優しくささやく。
「そんなに滅茶苦茶、馬の腹を蹴っては、馬が混乱する。
手綱をもっと緩めて…そうして進む時、軽く蹴ってやるんだ。
合図を送るように」
僕は…頬が真っ赤になった。
けどアイリスが優しく見つめるから…それで言われた通り、握りしめていた手綱を緩めた。
アイリスは微笑む。
「初めは…馬に話しかけるといい。
どっちに行きたい。
止まって。
そんな風に」
僕はびっくりした。
「馬は、言葉が分かるの?」
その大きな声に、周囲の者が振り返り、くすくすと笑う。
アイリスの笑顔は、新緑の木のまばらな森の中、眩しい程だった。
「気配を、察するんだ。
その内言葉を使わなくても、意思疎通できるよ」
僕は…信じられなくて目を、見開いた。
「言葉を使わなくても?」
ただでさえ、相手は動物で…言葉だって当然通じない。
なのに…それすら使わず?
その僕の驚きを察し、アイリスはくすり。と笑う。
ゆったりとした騎乗姿は、余裕に溢れていた。
「動物と、過ごした事が無い?」
僕は首を横に振った。
「ぜんぜん」
「馬は気持ちを察し、私達を目的地に運んでくれる、優しい生き物だ」
アイリスにそう…言われ、僕は馬を見た。
クリーム色の毛色の…その大きな動物が、アイリスに言われた途端、特別な生き物のように思え…。
僕は心の中で、謝った。
『ごめん…。
君に気持ちがあるだなんて、少しも考えなかった』
けど馬は、初心者の僕に『気にするな』と言ってくれてるみたいで…。
僕はアイリスに振り向くと、彼はとても美しい微笑をその色白の顔の上に湛えていて…。
僕は彼の笑顔に、夢中になった。
「アイリス!」
誰かが彼の名を、その列の先頭近くから呼ぶ。
アイリスは前を見、拍車を掛ける。
駆け去る馬上のアイリスの背に、僕は叫んだ。
「ありがとう!」
アイリスは走る馬に揺れる髪を波打たせ、振り向き…微笑った。
…けど僕は皆から、うんと遅れた。
教練の門へと続く高台の校門へ、皆が次々に馬を進める様子を、平らな草原から見つめながら。
それでも必死に馬に前へ進むよう、腹を蹴る。
馬は右に行ったかと思うと左。
蛇行して、ちっとも進まない。
校門近くの高台にいた講師が、馬に跨って駆け下りて来る。
軽やかな感じのする、腰元と長い足。
…栗色の巻き毛に囲まれた、若々しく整った顔立ち。
ブラウンの瞳。
講師は僕の手綱さばきを見、吐息を吐く。
そして…じっ。と僕を見た。
「どっちに行きたい?」
僕は当然、皆の最後尾が消えて行く、校門を見つめた。
講師は吐息を吐き出す。
「なら、あそこに行きたい。
と気持ちを決め、馬に頼んで腹を蹴れ」
気持ちを、決める?
頼む?
…けどじっと見つめる講師の、透けた茶色の瞳に気圧され、心の中でそのクリーム色の馬に頼む。
『あの、校門だ。
あそこに行きたいんだ』
そして腹を、蹴る。
馬は駆け出し、僕はがくん!と背を後ろに引きずられる。
「手綱を緩めろ!
絞ると止まるぞ!」
講師が横で一緒に駆け、叫ぶ。
僕は慌てて握りしめる手綱を、緩めた。
馬が前へ駆けるたび、体が跳ね上がる。
どすん!どすんとお尻を馬の背に打ち付け、痛くって手綱を握りしめる。
「…だから!
手綱は引くな!引くと止まる!」
「…でも!」
どすん!
顎が衝撃で、緩みそうだ。
あんまり上下に飛び跳ねて。
「いいから絞れ!」
僕が見ると、講師は叫ぶ。
「思い切り、引け!」
僕は言われた通り、引く。
馬は止まり…講師は横について、吐息を吐いた。
「問題は馬じゃなく、乗り手だ」
そして言った。
「降りろ!」
僕は手綱を、握ったまま降りる。
講師は馬上から僕に、来い!と顎をしゃくる。
近寄る僕に
「手綱を寄越せ」
と言い、差し出す僕の手から、手綱を受け取る。
そして見上げる僕に視線を戻し、告げる。
「後ろに乗れ」
僕は鞍にしがみつき…足を馬の背の向こうに放り投げ…跨った。
前に座る講師が、振り向く。
「俺の腰に腕を回せ。
しがみつけるか?」
僕は頷く。
そして彼は…手綱を持ち、僕の馬を引いて、自分の馬を走らせた。
固い…大人の男の、筋肉の感触。
広い背。
父以外の男性と、滅多に触れあった事が無かった僕は。
その…力強さと若々しさ。
そして頼もしさに、びっくりした。
が講師は振り向かず、怒鳴った。
「俺と一緒に体を動かせ!
乗ってる時どう体を使うかを覚えろ!」
僕は慌てて…彼の腰にもっと…しがみついた。
確かに彼の体は上下に跳ねない。
しがみつく僕は、跳ねてるのに。
むしろ講師の体は…前後に揺れてる………。
気づくと、校門を潜ってた。
講師は馬から飛び降り…馬上の、僕を見た。
「解ったか?!」
僕は…首を横に、振った。
途端栗毛の…若々しい講師は俯いて…吐息を、吐き出す。
馬から降りると、僕は彼に尋ねた。
「僕は…落第?」
講師は僕を、見る。
感じのいい…好青年に見える彼は…だが、つぶやく。
「当分は俺が面倒見るが…授業には、付いて来られないだろうな。
が………」
僕の不安を感じ取ったように、彼は言葉を続けた。
「直三年が、二年と一年を面倒見る。
受け持ち担当を決めてな!
いい担当に出会えたら…そいつが丁寧に、教えてくれる」
僕は彼を、見た。
彼は馬を引き…そして振り向く。
「それで、どうしても駄目なら俺と課外授業だ。
お前にヤル気が、あるならな!」
僕は、頷いた。
彼の遠ざかる背で解る。
僕は間違い無く…彼の授業の、お荷物だった。
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