若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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ギュンターの暴れっぷりを偶然目にするオーガスタス

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だんっ!

微かに話し声がするな。
…と思ったら、派手な物音に俺は体を跳ね上げる。

見たらグーデンの配下の連中が、新入りの顔の綺麗な金髪の編入生を取り囲んでいた。
が、その編入生は先に、取り囲む一人を伸していた。

金の髪がなびき、直ぐ横の男がその綺麗な顔に拳を振る。
それを鮮やかに身を反らし避け、直ぐその右腕が。

唸るように拳を振った男の顎目がけ、めり込む。

どっ…!

新入りのその横顔はやっぱり整いきって綺麗だった。
が、その紫の瞳は…感情を抑える事無く、激しく敵を睨め付けていた。

“面白い奴を、見つけた”

俺はそう…感じた。
そんな風に…どこか鬱積うっせきした感情を、構うことなく拳に乗せるのは、俺だけ。

…そう思ってた。

一年の時の、俺がそうだった。
上級はこぞって腕試し。と称し俺にかかって来たし、俺は思う様暴れて来い。
とゼッデネスに言われ。

…解き放たれた、野獣のようだった。

こんな暴れ方をしたらいずれ退学だ。
皆は影でそうささやいたし、喧嘩相手にも言われた。

がいつも…大事に発展する前に現れたのは一学年上のカリスマ、ディアヴォロス。

上級達の下級に対する暴挙を、その最高に身分高く学校一の剣士であるディアヴォロスは見過ごさない。と奴らは知っていたから、誤魔化すようにつぶやく。

「単に…腕試しをしてただけだ」

ディアス(ディアヴォロスの愛称)は頷く。
そして俺の様子に
『大人しく、やられてないな』
と当たりを付けて言葉を残して行く。

「解っているだろうがオーガスタスは、どれだけ君達に傷を負わせても、処分を受けない」

つまり…ディアスは入学したての、俺を庇う。

そう皆に、言い放った。

以来先輩方は、加減を覚えた。
俺にどれだけひどい目に合わされても、俺が咎を負う事無く
『殴られ損』
だと、理解したので。

俺はその金髪の新入りに、視線を戻す。
相手は八人いた。
つい、腰が浮く。
が、その新入り…ギュンターは、向かいの男の腹を蹴り。
左横の男の腹に左肘を喰らわせ、一気に三人沈めた。

残り五人が、かかって来るかどうかをギュンターは、一瞬伺う。

相手の一人が拳を振って襲いかかって来ると、顔を振って避け。
横に詰め寄る男に、身を屈めてくるりと回りながら、回し蹴りを喰らわせて吹っ飛ばし、足を地に着け様、拳を振りきった男の懐に潜り込んで下から腹を、殴り上げた。

どすっ!

腹にめり込む奴の拳に、殴られた男は食い物が逆流し、口をきつく閉じて吐くのを我慢した。
だが奴は素早く拳を、引き抜く。

残り三人。

今度は奴から一人に飛びかかって行き、その拳を振り回す。

がっ!

敵は思い切り頬に喰らう。

俺は目を見開く。
避けたその先に、拳を振り入れる高等技術。

逃げ腰になる、残り二人の間に瞬速で詰めると、右の男に右拳をその腹に叩き込み、左の男に一瞬で体を倒して左肘を喰らわす。

俺はつい…。
静かに風に金髪を靡かせてただ一人残り立つ、その美貌の男を呆れて見つめた。

素晴らしくしなやかで、素早く強い。

間違い無く奴は、野生の豹のようだった。

つい…立ち上がる。
その美貌の奴の眉が、俺の体格を目に、寄る。

奴が口を開く前に、俺はしゃべった。
笑って、いたと思う。

「助っ人は、必要無かったな」

ああ。と奴は顔を周囲の…今だ倒れ伏して殴られた場所を腕で庇い、呻く八人の男を見回し、つぶやく。
「そうだな」
言って、顔を上げる。

長身だったが、俺は奴より更に背が高かったから。
奴は自分より背の高い男を、見慣れぬように俺を、見上げた。

で、自己紹介した。
「四年の、オーガスタス」

ギュンターの、眉が寄った。
「四年にゃあんたみたいな…大男がごろごろしてるのか?
ここは体格のいい、男だらけだろう?」

俺は肩を竦めた。
「俺は特別高い」
ギュンターは、頷く。

殊勝しゅしょうにしてると、その美貌が際だつ。
つい…笑って肩を揺すった。
「そのつらが、気に入らないって?
グーデンは自分が学校一顔のいい男だと、思い込んでるからお前が、目障めざわりなんだ」

「変える事の出来ない、面で文句つけられてもな!」
ギュンターが、吐き捨てるように言う。

「殴れば、変えられる」
ギュンターの、眉が思い切り寄る。
「そんな整形はごめんだ!
あんただったら、大人しくしてるのか?」

敵だと…疑う事も俺の事を出来たのに。
奴はもうすっかり、普通の奴に口をきくように、戦意を解いていた。
だから俺もつい…その面白い男に、応えてやる。

「…してると、思うか?」
ギュンターは俺を眺め、そうだな。と肩を、揺すった。
「してる訳、無いか………」
そのつぶやきに、奴が初対面なのに俺を…“同類”と認めた事を知った。

奴はその、美貌の顔を振り向ける。
優美な作りで、本当に綺麗だったが、奴の紫の瞳は俺の同類、豹のような鋭さを浮かび上がらせた。

まるで…俺の前じゃ自分を隠す必要が無い。と、言っているみたいに。

「いい酒場を、知らないか?
来たばかりで、不案内なんだ」

俺は肩を竦めた。
「入った途端、女に取り囲まれるな。その面じゃ」

ギュンターは俯いて唸った。
「俺は下級の、更に男を相手にする気が、無いからな。
聞いたら、それ以外は酒場で女を引っかけろ。と言われた」
「誰にだ?」
「ディングレー」

俺は笑い出したくなった。
あの男ディングレーがこいつを、気に入る理由が解りすぎて。

俺を伺う奴を、見た。
だが線が細く、少し…不慣れな場所で、不安げに見えた。

それで俺は思った。
ディングレーはこいつと連んで、面倒見るのは無理だろう。

そしてどうやらその役目は、俺のようだ。

「今夜がいいか?」
聞いてやると、奴は頷く。
「ここに来る前に支度や準備で三日、お見限りだ」

たったの三日?
呆れたが、確かに外でこの面じゃ、女達が放って置かないだろう。

頷くと、告げる。
「夕食後に校門だ。出られるか?」

ギュンターは、誰に言ってる?と睨んだ。
「当たり前だ」

俺はつい…奴の肩を掴んで大きく揺さぶり、笑った。
が、奴は男の付き合いに慣れてる様子で、俺の笑顔に少し、フテた顔を、見せただけだった。

笑っている俺に、唸る様に告げる。
「ディングレーは俺に迫る奴がいるだろうと言っていたが、顔を潰そうとする奴しか寄って来ないぞ?」

俺は真顔で尋ねた。
「口説かれたいのか?」

ギュンターは俺を見返す。
「…口説かれたいように、俺が見えるか?」

いや。と俺は、首を横に振った。

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