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最上級生になったオーガスタスの回想
しおりを挟むその日オーガスタスは授業をサボって、校舎の外れで昼寝していた。
草の上にごろん。と転がり、頭の後ろで腕組み…つい、考え巡らす。
ディアヴォロスが卒業して、確実に何かが、変わった。
グーデンは自分の手前一応、大人しくはしている。
が、仲間と見せる笑みには解放感が浮かび楽しそう。
見ている自分に、にやり…!と、意味ありげな視線を、くべて寄越す。
オーガスタスはそれを思い出すと、吐息が漏れる。
あれは
『お前が幾ら立ち塞がったとしても、身分で劣る。
私の壁に成れる器じゃない。退学になるのはお前の方だ。
覚悟するんだな』
そう告げているのは、言わずもがなだ。
ディアヴォロスは卒業式の後、真っ直ぐ俺を見てこう言った。
「いつでも、力になる」
ロクに話もしなかった男がいきなり。
周囲は学校を治める立場を彼が俺に、譲った。と解釈した。
なぜならその後、皆がディアスの言葉を受ける、俺の肩やら頭を叩き、大騒ぎして祝福してくれたから。
無論…暴挙は見逃すつもりは無い。
…と言うか、奴隷上がり。と言う育ちのせいで、威張って暴力振るう奴見ると、むかっ腹立って行動に移してる。
処罰喰らう奴隷宿舎ですら、監視に刃向かった俺だ。
こんな甘っちろい場所で、我慢等出来る筈も無い。
グーデンの笑みを受けた時…俺は正直言って、いかにもお上品な下衆な面を思い切り。
…やっと思い切り、拳で殴り付けられる悦びで震えた。
が良く、考えればそれをしたら確実に退学になる。
俺はその時微塵も、それが浮かばなかった。
…マズイな…。
ずっと南領地ノンアクタルの、見せ物戦士として鍛えられた。
半端じゃない乱暴な方法で。
奴隷じゃない今の俺は、重い鎖から解き放たれた野獣と変わらない。
奴隷商人から俺を買い取り養子にしてくれた、ゼッデネスとの約束。
…教練を卒業し、近衛で名を上げて家の格を上げる…。
の約束を、きっちり忘れたのは確かだ。
オーガスタスはもう一度、吐息を吐く。
戦闘で片足痛め、今でも杖を付き引きずるゼッデネス。
正直彼は、その養父が好きだった。
生意気な口を聞いても、気にもしない。
どころか
「餓鬼はそれ位、生意気で無いとな」
と言い…。
「だが世間はそうはいかない。
最低のマナーはそいつに教えてもらえ」
そう言って、教師を付けた。
聞けば自分はマナーなんて大嫌いで、絶対俺に教えるのは不可能だと…。
ぶっきら棒で孤独で……。
そして素っ気ない態度の中に、溢れる程の情愛を、隠し持った男で………。
オーガスタスが買い取られる時、たった一人、気にかかる奴がいた。
まだ小さく、弱く。
…見目が良く………。
間違い無く身分の高い男…もしくは女の、愛玩にされる運命の………。
けど彼は敬虔に神を信じる、心の綺麗な子供だった。
弱くていつも、強い奴に食料を取られてた…。
痩せた体が更にがりがりになり…。
俺がそっと食事を分けると、他の者もそれに習い…。
やがて奴から、食事を取り上げる者はいなくなった。
礼代わりに嬉しそうに俺に、訓辞を垂れる。
「神様は、偽りの表面なんか、見ちゃいない。
ちゃんと真心を、見て下さる。
だから…幾ら辛くてもそれを無くさなきゃ、必ず救って下さる」
俺は憮然と告げた。
「死んだ、後でもか」
奴は微笑んで、頷いた。
「…だから…食べ物が無くても、誰も恨まず死んだら、神様は天国の門を、僕のために開けて下さる」
俺は奴の、脳天気具合に呆れた。
が………。
奴が信頼した養父にこっぴどく、裏切られ騙されてここに来たのだと、小耳に挟む。
「養父が、いたのか?」
奴は途端、嬉しそうに顔を、上げる。
「ジェネッタは凄く、優しかった。
母さんは娼婦で汚い。って。
親戚の誰も、相手にしてくれず、葬式も出して貰えなかったのに…。
でも、出してくれた。
お腹を空かせた僕に、食事もくれた」
「かびた、パンだろう?」
奴はそれでも、笑った。
「僕には、ご馳走だ」
俺はつい…ムキになった。
「だがお前をここに、売った」
奴は途端、沈んだ表情で俯く。
が顔を上げ…笑顔を無理に作ってささやく。
「きっとお金が、必要だったんだ」
俺は………言いたかった。
『お前をはした金で引き取ったのは、もっと大金をせしめるためだ。疑う余地もなく』
……だがそれを、口に出来やしない。
奴は養父を…恨むまい。と固く決めていた。
養父がした事は、奴に取って問題じゃない。
養父を…恨まない事。
自分にそれが出来るかどうか。
それが奴にとっての…問題だった………。
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