24 / 307
アイリスとの会話
しおりを挟むスフォルツァはその後も延々、アイリスに心奪われ続けてた。
午後の授業は、講堂での説明。
焦げ茶の、古びた木造の構内。
講師の立つ壇から放射状に広がり、遠くに行くほど階段状に高くなる講堂。
生徒達からはどの椅子に座っても、講師の顔が伺えた。
講師はこれからの状況の説明を始める。
「乗馬。
そして剣の授業はやがて、落ちこぼれを拾うためと技能の向上のため、授業後に補習が行われる。
一二年が合同で補習を受けるが、その際三年で選抜された人員が、監督生として。
面倒見る事になっている」
講師はその後も延々と、これからの説明を並べ立てたけど、とっくに知っている事ばかり。
今度は大丈夫だろう。
と思い、講義そっちのけで、アイリスを盗み見る。
が突然。
当のアイリスが、席を立ってこちらに来る。
呆然と見つめていると、その姿はどんどん近づく。
アイリスは、呆けてる俺に告げた。
「聞いて、無かったのか?
ここに来て親しくなった者と組んで、お互いの問題点を語れ。
そう言われたろう?」
そしてばさっ!と羊皮紙とペン壺を置くと、つぶやく。
「君の問題点は間違い無く、その集中力の無さだ!」
さっ!と隣の椅子に滑り込み、顔を寄せてささやく。
「やせ我慢したんじゃなのか?
今朝…抜かなかったから、気もそぞろなんだろう?」
そう言って横から顔を、その綺麗な白面の真顔で見つめて来るから、つい…。
「そっちじゃない。
第一夕べは眠れなくて、君を思い描いて五回は抜いてるから……」
言った後『しまった』と思った。
アイリスがあんぐり口を開け、呆けていたから。
ついバツが悪くて俯くと、アイリスがつぶやく。
「私をオカズに、五回もマジで抜いたのか?」
呆れられてつい…言い訳る。
「…いつも大抵、相手の方に入れ込まれてて…。
こっちが誰かに夢中になって、目が離せなくなる。
なんて体験は殆ど無いから、どうしていいか正直解らない」
アイリスは耳を寄せてそれを聞き、頷く。
「…大貴族の身分の上、その容姿と男ぶりじゃ。
さぞかし、モテたんだろう?」
俺は、不安になって尋ねる。
「君だって………そうなんだろう?」
聞くと、アイリスは肩を竦めた。
「今の内に女の扱い方を覚えておけ。
とは、言われた。
年頃になったら、多分もっと、凄いから」
「誰に?」
「叔父に」
「大公に………?
その………。
君と大公は……そんな関係じゃ、無いんだよな?」
アイリスはその、端正な顔を上げる。
表情が引き締まると彼は、美しいだけで無く。
ひどく利発に見えた。
「君は兄と寝るか?」
俺は首を横に振る。
「兄がいないから解らない」
アイリスはやはり、とても引き締まった利口そうな顔でつぶやく。
「普通は兄とは寝ない。
エルベスは兄同然だ」
俺は、頷いてたと思う。
アイリスは、真顔でささやく。
「君は女より、実は男が好きなのか?」
不意打ちで、ついそう尋ねた、アイリスの顔をまじまじと見つめる。
が見つめた途端、どぎまぎして頭の中が真っ白になった。
…ものの何とか、問いの答えを口にする。
「初恋は少女だった。
………男の方が好きとかの、自覚は無い。
ただ…教練から近衛に上がると決まれば、男の“夜付き人"の世話になる。
近衛では男も扱えないといけない。
そう聞いて、それもここに来る鍛錬の一つかな。
と思い、寝てもいいと思える少年を、口説きはした。
…………男が好きか?
と聞かれたら、大して。
とは…思うが…………」
「…が?」
言ってしまおうか、迷ったものの、口に出して言いきった。
「取り巻きの中の、一番毛並みのいい美少女と。
真剣に、交際してる。
けどあっちの家柄もちゃんとしてるし、俺の家柄でそんな子に、手出しして妊娠でもさせたら…」
アイリスは、吐息を吐き出した。
「家名にドロを塗る気か?と。
…それなりに厳しい親なら、言うだろうな」
俺は頷く。
「だが…。
多分、彼女と結婚するだろうな。
利口だしうるさく無くて、良く、物事を心得てる」
「それに美人?」
アイリスに言われ、俺は笑った。
「君程じゃないが、気品があって。
育ちの良い、雰囲気のいい子だ」
アイリスは、また吐息を吐いた。
そして手の上に顎を乗せ、尋ねる。
「要するに…男。と言うより、品のいいのが好きなのか?」
そう言う彼はどの仕草も、とても優雅で育ちが良さそうで。
更に気品が、溢れ返っていたりしたから…。
つい、また見とれる。
「そうかも」
がアイリスは顔を背けてもう一度、吐息を吐く。
それで…俺は言った。
「君のような気品ある美少年が。
俺の腕の中であられも無く乱れると思うと…凄く興奮するんだ」
アイリスはじっ。と俺の顔を見る。
「将来嫁になる彼女は?」
彼にこんな間近で真顔で見つめられると、心臓がばくついた。
綺麗な鼻筋。
色白の、ほんのりピンクの肌。
長い睫に囲まれた、夜空のような濃紺の美しい瞳。
艶やかな濃い栗色の巻き毛に包まれた、品と育ちの良さそうな端正な顔立ち。
が返答を待たれ、つい舌をもつれさせながら答える。
「近くにいるとたまにヤバいけど…。
抱かなくてもとっくに、彼女は俺のものだから………」
「待てる?抱ける時が来るまで」
俺は肩を竦めた。
「彼女とは、いずれそうなるって。
互いが解ってる」
アイリスは、手の上に顎を乗せ、吐息を吐く。
「つまり私が君に惚れてて、君のものだったら。
ここまでに、ならないって事か」
言われた途端。
心臓が更にばくばくしたから。
俺はこれは本当に、重傷だと感じた。
アイリスに、惚れられたら…。
そう仮定しただけで、足が宙を彷徨う。
つい…アイリスの綺麗な横顔を見つめながら、掠れた声でささやく。
「寝室を共にするような恋人同士の付き合いを、した事が無いんだ。
付き合う相手とは寝られず、寝られる相手は一時の愉しみ。
…しか無かったから」
アイリスがふい…とその綺麗な顔を振り向かせる。
「だって…少年とも過ごしたんだろう?」
俺は金髪の、可愛いアシュアークを思い浮かべた。
「…だが性格に問題がある。
恋人付き合いしたら途端、別に目移りするだろうな」
アイリスの、綺麗な眉が寄った。
「…ずっと自分に、惚れさせて置けないのか?」
俺は肩を竦める。
「俺の他とも付き合いがあって…。
つまり、平気で二人同時に付き合えるヤツだ。
可愛くて…手に入れたくて癪だったから。
わざと冷たく扱ったら、ようやく俺に惚れて。
もう一人を振った」
「…ならもう、恋人になれるんじゃないのか?」
「幼すぎて、まだ恋が良く分かって無くて。
別の相手に入れ込んでる振りでもしなきゃ、俺をマトモに見ない奴なのに?
凄く可愛くて綺麗だったから…。
子供の頃に悪戯されて、以来体だけが先行し、心が付いて来ない。
俺が抱かなきゃ、世話役の同い年の少年に
『抱いてくれ』
とせがんで、世話役を困らせてる。
世話役の少年は俺と会うと、女をどうすれば喜ばせるかの話題で、毎度盛り上がる程の女好きなのに」
アイリスの表情が、気の毒そうに曇った。
「誰も彼を…助けてやらないのか?
何も知らないのに体をいいように嬲られ、反応して困ってるんだろう?」
俺はつい…首を竦めた。
アイリスの、いい所だ。
弱い者を助け…庇おうとする。
第一俺に対してもちゃんと真面目に向き合い、謝罪し俺の要望に、応えてくれた。
それが…好意から出た事なら心底、嬉しかったけど。
「両親を早くに亡くし、育ててくれた祖母も他界して独りぼっちで寂しいから。
大事にしてくれる人の温もりを、求めてる。
けど、俺だってそこまで人間が出来ちゃいないから………。
身内のように接し、けど情事までするのは無理だ。
抱く以上は、ソノ気をそそられる相手って事だろう?
兄の気持ちじゃ…とても、抱けない」
アイリスはまた、吐息を吐いた。
「それは……そうだろうけど………。
やっぱり友達とか兄弟には、さすがの君も勃たないのか?」
「当然だろう?
君は?兄弟は?」
「妹が二人」
「勃つか?」
アイリスは俯いて首を横に、振った。
そして…顔を上げて俺を見る。
「私を見ると勃つのか?」
ふい討ちで、俺は一瞬、かっ!と体が火照る。
「意識すると直ぐ」
アイリスはまた、吐息混じりに俯いた。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

例え何度戻ろうとも僕は悪役だ…
東間
BL
ゲームの世界に転生した留木原 夜は悪役の役目を全うした…愛した者の手によって殺害される事で……
だが、次目が覚めて鏡を見るとそこには悪役の幼い姿が…?!
ゲームの世界で再び悪役を演じる夜は最後に何を手に?
攻略者したいNO1の悪魔系王子と無自覚天使系悪役公爵のすれ違い小説!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる