若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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三年編入生、ギュンター

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 ヤッケルがつぶやく。
「丸で去年のシェイル並の注目度だな」

シェイルの顔が曇る。
「彼は僕より背があるし、ガタイもいい」

三人が揃ってシェイルに振り向き、ヤッケルが代表して言った。
「お前…ひがんでる?」

シェイルは頬を染めて俯く。
「別に…」

が、校門近くで新入生の名を確認していた講師が顔を上げ、合図を送ると。
鐘を持っていた講師がそれを振り、音色を轟かせた。

カーーン!カーーーン!カーーーーーン!!!

校庭広場にいた皆は、一斉に足早に。
所定の位置に駆け始める。

シェイルが一瞬、動きかねてどちらに行けばいいのか、顔を振る。
途端、フィンスが腕を掴み引いた。
「こっち!」

校庭の真ん中に、新入生らが並び、右横に二年。
左横に三年。
背後に四年が並ぶ。

正面の壇上に校長が立つと、全員が居住まいを正す。
だがその目立つ金髪の美貌の少年は、新入生の列に並ばず、校長の横の壇の下に立っていた。

「新しい講師?」
「あの若さでか?」
「どう見たってまだ十代だよな?」

ひそひそ声が飛び交う。
皆がその、金髪の青年に視線を注ぎ、校長の言葉を聞く者は誰一人いない。

背に届く程の金の長髪。
綺羅綺羅しい顔立ちは整いきって美しく、その紫の瞳はあまりに印象的で、つい視線が吸い付いて離れない。

珍しい紫の瞳は、彼が首を振る度きらり。と輝き、目にした誰もが、どきっ。と鼓動を跳ね上げた。

切れ長の瞳。
綺麗にすっと伸びた鼻筋。
形の良い唇。

だが背が高く、良く締まった体付きをしていて、俊敏そうに見えた。

校長がこほん。と咳払いする。
そして、壇下の注目される美貌の青年を壇上に迎えた。

「皆、気もそぞろで紹介が待ちきれない様子だ。
三年に編入の決まった、ギュンター」

ざわっ!

校庭が、一気にどよめいた。

編入。
まして三年とも成ると、余程の腕の者じゃないと試験には受からない。

つまり彼は、ああ見えても猛者もさ
…と言う事になる。

つい学校中の生徒は
『三年』と言う言葉に反応し、ディングレーに一斉注目する。

ディングレーは視線を感じ、不快そうに眉を寄せた。



学年一の実力者が、編入者と対決の様子を見せないので、皆の視線は徐々に引いては行ったが。

その注目株、編入生ギュンターは、講師に伴われ三学年の列に足を運ぶ。

校長は全校生徒の視線が全て、移動するギュンターと講師に付いて行き、自分に戻る様子が無いのに諦めの吐息と共に、新入生への言葉を続けた。

新入生達は顔を引き締めて、校長の演説を拝聴する振りをしながら、チラチラと左横の、背の高い金髪の編入生を盗み見る。

ギュンターと講師の二人が、横二列に並ぶ三年生のその真ん中。
16才には成った背の高い三年達の中でも、一際長身で体格良く、艶のある黒髪を背に流し、気品と尊厳溢れる顔立ちの整った「左の王家」の血筋、ディングレーに近寄る。

講師はだが、その近寄りがたい風格持つディングレーに、微笑みかけて気さくに話しかけた。

「ディングレー。悪いが面倒見てやってくれ」

言われてディングレーは、吐息を吐いてその金髪美貌の新入りを見た。

自分とほぼ同じくらいの身長。
肩幅は、自分の方が広い。

が、ひょろりと背が高く見えるものの、その胸元や腕。
腰元は、どう見てもひ弱とは程遠く
『編入生。特に高学年の。
は、大概近衛に上がって名をせる』
の謳い文句に匹敵する、十分な実力派に見えた。

がその顔立ちを見つめると余りに優美な美貌で、どこかの大貴族の婦人のサロンで、可愛がられ、皆に見せびらかされるツバメに似つかわしく、つい
『本気で騎士に成って、近衛に進む気か?』
と口から突いて出そうで、ディングレーは堅く口を閉ざす。

周囲が期待感満々で、新人の腕試しを自分に望み、瞳を輝かせていた。
そんなのに乗って、全校生徒の前で初日から派手な立ち回りなんか、やってたまるか。と自重する。

そりゃ全校生徒は、自分と新入りが対決した方が、校長の退屈な訓辞よりずっと楽しいだろう。
だがこれから三学年、四学年と二年間もあるのに、どういう奴かも解らないこいつと初っぱなから諍う気は無かった。

自分を敵に回せば、この男の二年は悲惨になる。

三学年一の実力者。
と持ち上げられて以来、言動に気を使わなくてはならず、ディングレーは窮屈きゅうくつ極まり無かった。

ちょっと不満を取り巻きに漏らすだけで、その不満の元は次の日顔を腫らして現れたりするから、もう愚痴すら言えなくなっていた。

取り巻きに問い正してもどうせ
「どっかで転んだんでしょう?」
とトボけられるのがオチだ。

…どころか、その瞳は
『貴方に楯突く奴は、俺達が居る限り誰一人居ない』
と得意げで、更に褒めて貰うのを待ち構えた、忠実な犬のように輝いている。

…これをどう正せばいい?

ディングレーは面倒なので、極力、取り巻く男達に本音を隠し続けた。

そして今又周囲は、この特級品の美形が、鼻持ちならない事を期待している。
自分が一言でも不満を漏らせば、その優美な鼻をへし折って二度と騒がれない、歪んだ醜い面に変えてやる。
とばかり、期待を込めてこっちの出方をうかがっていた。

更に講師が彼を自分に紹介する言葉を、三年のみならず少し離れた四年の列の者までが皆、聞き耳立てて伺っている。

「左の王家」の血筋の、三学年一の剣士だ。
困った事があれば彼が何とかする」

講師の言葉に、ディングレーが唸った。

「俺を買いかぶり過ぎだ!」

ギュンターが、ぼそっと零す言葉を皆が、聞いた。
「王家の血筋?
うやまわなくちゃ駄目か?」

ディングレーが、やはり唸る。
「仰々しく頭なんか、俺に絶対下げるなよ!」

ギュンターは言葉を返す。
「だが王家なんだろう?
それなりの、作法があるんじゃないのか?
悪いが俺は、宮廷礼儀はさっぱりの、田舎者だ」

ディングレーははすに、その新入りを見つめる。
「礼儀なんか必要無い。
ここでは誰もが、一生徒だからな」

ギュンターは笑った。
「普通でいいのか?」

当然だ。とディングレーは尊大に顎を上げ、頷く。

が、その新入りの美貌が目に飛び込むと途端、忠告をつぶやいた。

「迫って来る不届き者がいたら、俺の名を出すか、後で俺に教えろ。
お前がこたえる気があるんなら、不要だが」

ギュンターが一瞬呆け、講師は彼の肩を叩いた。

「口ではああ言ってるが、頼りになる」

ギュンターは、講師の言葉に頷いた。
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