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ローランデに見つめられて固まるギュンターとオーガスタスに乞うシャクナッセル

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「…助っ人…要るか?」
シュルツは背後からの声に、ぎょっ!!!として振り向く。
背後にオーガスタスの、誰より長身の逞しい体を見、思わず見上げる。

オーガスタスの横には、軽やかな雰囲気のローランデが、浮いてた左足を地に着け、困ったようにオーガスタスを見上げていた。

起き上がったダランドステは、けれど。
少し離れた場所に居る、小柄な二年の背後にオーガスタスの勇姿を見た途端、無意識に身が背後に泳ぐのを自覚した。

自分ですら、敵に回すのを躊躇う、同じグーデン一味の狂犬のような去年のデカい四年、三人を。
たった一人で迎え撃ち、引かず戦った男…。

頬に口の端に…血を垂らし、拳受けるたび飛沫しぶきき散らし、それでも…ぎらりと黄金の目を剥き、睨めつけ、炎のように燃える真っ赤な髪を散らし、突進していった姿を、今でもまざまざと思い出せる…!

「…てめぇとは、いずれ決着付ける!
今日は油断しただけだ!
いい気になるな!!!」

ダランドステはギュンターに、そう言い捨てると背を向ける。

三年数名は、なんで引くのか分からず、けれど暗がりから近づいて来るオーガスタスの姿に気づき、突然きびすを返し、一目散にダランドステを追い抜く勢いで逃げ出す。

「…………………………………」

ギュンターは暫く、腰を低く構え、無言でその慌てて逃げ出すグーデン一味の背を見送りつつ、背後に振り向く。

腕組みして立つオーガスタスの姿を見、屈めた上半身起こすと、ぼやいた。
「…変だと思った。
あの逃げっぷり」

オーガスタスは、腕組みしたまま、頷く。
「ローフィス曰く、一年の頃から上級生と喧嘩し続けたら、同級が俺と喧嘩したいと、決して思わないと」

ギュンターは乱れた金髪、風に揺らしながらオーガスタスを見、頷く。
「…実績が、モノを言うのか?
俺も一年からここに居て、上級と喧嘩してたら。
姿見せただけでも、一目散に逃げてくれたかな」
「かもな」

ギュンターはまた、心の中で荒れ狂う冷たい吹雪が、オーガスタスの…その自分を認める言葉で、つきん…と暖かい痛みに変わるのを感じた。

「聞きたい事がある」
ギュンターの言葉に、オーガスタスが目を見開く。
「返答出来ない質問なら、拒否し、ローフィスに押しつけるぞ?」

ギュンターはそう言われ、顔を下げて沈黙。
「………………………………」

ギュンターが顔を下げたまま、動かないので。
シュルツはローランデの横に来ると、顔を見た。
けれどローランデにも分からず、シュルツに振り向き、首を横に振る。

オーガスタスも眉間寄せ、ギュンターを見て口開く。
「もしかして、俺に答えられるかどうか、今脳味噌フル回転させて…考えてナイか?」

ギュンターは顔下げたまま、ため息吐く。
「とりあえず聞いてみるから、答えられなかったら、無視してくれていい」

言って顔を上げた時。
初めてギュンターの視界に、横に立つ小柄な(オーガスタスからしたら)ローランデの姿が映り。
一瞬で、心臓が跳ね上がる。

ローランデを見たまま、視線が吸い付いて離れない。

シュルツは、ギュンターがじっと見つめる、横のローランデに振り向いたし。
オーガスタスも、ギュンターが微動だに動かずローランデを見つめる様子に、思わずローランデに視線を送った。

ローランデは一斉に見つめられ、顔を下げて小声で問う。
「…もしかして…顔に何か、付いてます?」

オーガスタスが、無言で腕組したまま首を横に振り。
シュルツも無言で首を横に振った。

ギュンターだけが。
今だローランデを見つめたまま、固まっていて。
オーガスタスがため息交じりに、やっと言った。

「お前はどこも変じゃ無い。
あいつが、変なんだ」
とギュンターを、首振って指し示す。

今度、シュルツはギュンターに振り向いたけど。
ギュンターはローランデを見つめたまま、まるで凍り付いたみたいに、固まり続けていた。

ローランデはギュンターを見つめ返すと、囁く。

「…私が、何か…しましたか?」

ギュンターは色白の端正な…美しい貴公子に見つめ返され、その澄んだ湖水のような瞳を見つめ返した途端。
固まったまま心臓がバクついて、所在を失った。

オーガスタスはまた、ため息吐くと。
組んだ腕を振りほどき、スタスタとギュンターに寄り。
腕を掴んで軽く引き、自分の背でローランデの視線を遮り、囁く。

「別にどこか殴られて、そうなった訳じゃないんだろう?」
ギュンターは首を横に振る。
「…どっちだ?
お前、口きけなくなったのか?」

ギュンターは視界をほぼ、デカいオーガスタスで遮られ、やっと少し落ち着きを取り戻し、掠れた声で囁く。
「どこも痛めてない」
「そうか。なら歩けるな?」

オーガスタスに問われ、ギュンターは頷き…。
けれど歩き出そうと背を向けるオーガスタスのその向こうに、まだ自分に視線を送る、ローランデの青く美しい瞳を意識した途端、オーガスタスの背を掴む。

「…頼む。
ローランデに見つめられると、固まる」

それを聞いて固まったのは、オーガスタスの方。
暫く、ナニをどう言えば良いのか知恵が浮かばず、沈黙した後。
オーガスタスはやっと、呟いた。
「なら目を閉じてろ。
俺が腕を引いてやるし、どっかに足引っかけて転びかけても、支えてやる」

…半分、冗談だった。
が、ギュンターは
「悪いな」
と言って、目を閉じる。

「…………………………………………………」

オーガスタスが目を瞑るギュンターの腕を引いて、ローランデの横を通り過ぎようとした時、ローランデが
「どこか…お怪我を?」
と声かける。

オーガスタスが見てると、ギュンターは目を開きかけ…慌てて目を閉じる。
のでオーガスタスは、仕方無くフォローした。

「砂か埃が目に入ったらしいが、その程度だ」

見ていたシュルツも頷く。
「俺の見てる限りでは全部避けて、どこも殴られてない」

ローランデは目を見開き、感心したように…横を、目を閉じオーガスタスに腕を引かれて通り過ぎていく、ギュンターを見た。

「通り過ぎたか?」
ギュンターに聞かれ、オーガスタスは頷き、引いてる腕を放す。
「もう目を開けてもいいぞ」
並んで歩きながら、ギュンターが目を開けるのを確認し、オーガスタスが口開く。
が、その前にギュンターが言った。
「その件も踏まえて、色々聞きたい」

オーガスタスはチラ…と背後、二メートル程距離を開けて付いて来る、ローランデとシュルツを確認し、ギュンターに問う。
「…別に、剣以外でローランデがお前を、酷い目に合わせたりしてないだろう?
…剣の補習で…ローランデにこっ酷く恥、かかされたのか?」
「もっと深刻だ」

ギュンターの返答を聞いた途端、オーガスタスは歩は止めず、そっ…とギュンターより少し身を離すと、囁く。
「…まさか、色事関係か?」

ギュンターが無言で頷くので、オーガスタスがもっと、ギュンターより離れ歩いた。

けれど中鍛錬場の角から、一人が突然姿を現し、ギュンターとオーガスタスの前に立つと、懇願した。

「お願いです…。
私も、一年達のように…保護しては頂けませんか?」

ギュンターは
「?」
だったけど。
オーガスタスはなよやかな美青年を見下ろし、頷く。

背後から、シュルツの声が飛ぶ。
「ディングレー殿は現在、不在ですが…」

金髪で濃紺の瞳の…すらりと背の高い…。
けれど気品すら感じさせる、美麗な青年。



ギュンターはオーガスタスに小声で
「…三年?」
と聞くと、オーガスタスは頷く。
「二年のラナーンが、グーデンの一番のお気に入りに収まる前。
一番のお気に入りだった…」
「グーデンの愛玩?」

聞き返すギュンターの侮蔑ぶべつの入った語彙ごいに、オーガスタスは眉間を寄せる。
けれど目前の美青年、シャクナッセルは顔を下げて、頷く。
「…私は愛人の子なので…。
父の家の格を上げるため、グーデン殿にお仕えするよう、ここに入学させられました」

ギュンターはそれを聞いた途端、眉間寄せる。
「じゃないと生活の面倒見ないと?
娼婦のように差し出すなんて、とんでもない親だな!」

シャクナッセルは微笑んで頷く。
「…私は父に引き取られる前、母とずっと娼館にいたので…。
さほど辛い思いは、してません」

ギュンターは
「それでも…!」
と怒りを見せたが、オーガスタスは囁く。
「…だが、高級娼館で。
客は選べたし、いい暮らしをしていたんだろう?」

そう聞いて、ギュンターはシャクナッセルが、気品ある楚々とした美青年なのに気づく。

シャクナッセルは寂しげに微笑んで、告げる。
「母が…病気になって…。
娼館に居られず、父に面倒見てくれるよう、頼みました。
その代わりに…」
「…愛人とはいえ、病人の世話を取引の材料にしたのか?!
ハツキリ言って、お前の父親は腐ってる!」

ギュンターがかっか来て、話が出来ないので。
オーガスタスはギュンターの胸に、腕を差し挟んで制し、囁く。
「…保護されたら、父親との取引は、ご破算になるんじゃないか?」

シャクナッセルは俯き…掠れた声で囁いた。
「母は…亡くなったので」

オーガスタスも、怒ってたギュンターもが。
暫し言葉を無くした。

シャクナッセルは顔を上げると、また…寂しげに微笑む。
「元々母は…父の世話になる気は無かった。
蓄えもあるし、森の小屋で…薬草を摘んで…短くても静かに、生を終えたいと。
でも私は…治癒薬があると聞いて…何としても母に…生きて欲しくて…」

シャクナッセルは少し俯き、その後の言葉を告げた。
「私が。
父に連絡し、全ての話を付けたんです。
けれどお陰で…母は痛む事も無く大して苦しまず…寝たきりでしたけど…。
生を、終えられた。
それだけは父に感謝しますが、もうこれ以上は…」

ギュンターが口出そうとした矢先、オーガスタスはギュンターの胸を制してる腕で、ギュンターの胸を押して黙らせ、囁く。
「案内する。
こちらだ」

シャクナッセルは頷くと…オーガスタスの横に付いて、一緒に歩き出した。
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