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ディングレー、久々の取り巻き大貴族らとの夕食

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 ディングレーはスフォルツァと共に、マレーとハウリィを伴い、私室に戻って来る。
戸口でスフォルツァが背を向けるので、思わず声かけた。
「ギュンターは、どうだ?」
スフォルツァは振り向きながら一瞬、戸惑い…。
けれど微笑む。
「ミシュランと比べると、うんと物の分かった人格者です」
ディングレーが頷こうとすると、スフォルツァはしみじみ付け足した。
「…つくづく…外見からは、分かりませんね」

ディングレーはため息吐くと、頷くもののぼそりと言葉を返す。
「俺は流石にもう、あの顔は見慣れたから。
顔に左右されなくなった」

スフォルツァは、笑顔で頷く。
「多分他のグループ生も、私も。
直、そうなります」

ディングレーはそれを聞いて頷き返す。
そして背を向け一年宿舎へ帰って行くスフォルツァの背を見送り、思う。
「(…俺も…。
みんな“王族”忘れて接してくれたら、どんだけ楽か)」

けれど威信を護るため。
それは出来ないと、分かりきっていたから。
俯いて、悲しげなため息を吐き出した。

一年美少年らの部屋をノックし、扉を開ける。
マレーとハウリィは、アスランに剣の振り方を教えていた。

アスランが手に持つ剣の握りを、ハウリィが直している真っ最中で、ハウリィも、そして横に立ち、剣の角度を直してたマレーもが、目を見開いてディングレーを見た。

「…元気だな。
疲れてないのか?」
そう、ディングレーはハウリィとマレーに聞く。
が、気づいてアスランに問うた。

「怪我してるのに、刃物振り回して平気か?!」

アスランは頷く。
「…僕、ただでさえ、みんなから遅れてるのに…。
いてもたっても、いられなくて」

マレーも利発そうな顔を向けて告げる。
「一人で剣を無茶に振って、悪化させるより。
側で僕らが見ていた方が…」

ディングレーは頷く。
「安全だな。
直、夕食だ。
風呂は後にするか?」

聞かれたハウリィも、マレーもが頷く。
「明日は剣だから、アスランは何とか出たいって言ってるので」
ハウリィも頷く。
「だから、怪我が痛まない範囲で振れるよう、練習してるんです」

ディングレーは頷くと
「あんまり、無茶はするな」
と言って頷くアスランを目にした後、扉を閉める。

疲れ切っていたから、召使いを見かけ
「先に風呂を使えるか?」
と尋ねる。

召使いは頷くと
「直ぐにでも、お使いになれます。
…あ。
午後、ローフィス様が来て。
今夜、出かけられるから迎えに来るので、支度して置くようにと」

ディングレーはそれを聞いた途端、一瞬で疲労がふっ飛び。
鼻歌交じりで、浴室の扉の向こうに消えた。

風呂から出ると、召使いが
「三人の一年生達は、今日は自室で食事を取って良いかと。
尋ねられました」
と告げるので、ディングレーは頷き
「では俺は久しぶりに、食堂で取ろう。
俺の食事は、食堂の食卓に運んでくれるか?」
と尋ねる。

召使いは頷き
「まかないの者に。
食堂の食事を一食分増やすよう、伝えます」
と言って下がる。

「(…つまりこの部屋で、俺が食べるはずだった食事は余るから。
奴らが食べる気だな)」

ディングレーの脳裏に、召使い達が余った豪勢な食事を囲み、嬉しそうに舌鼓したづつみ打つ姿が思い浮かんだ。

ディングレーが食堂にやって来ると、デルアンダーは立ち上がり、自分の横の椅子を引いて囁く。
「美少年らに、何かありましたか?」
ディングレーは頷くと、引かれた椅子に腰を下ろし、告げる。
「自室で摘まむそうなので…こちらに来た」

給仕が料理の乗った皿を目前に置き、ディングレーはその後皆が、萎縮してるように見えて、あえて真っ先にフォークを取り、皿の肉に刺して口に運びながら、問う。
「新参者の監督生、ギュンターはどうだ?」

聞いた途端、数名がぎくっ!と身を揺らすのを見る。
ディングレーは眉が寄るのを自覚した。
「(…今のは、俺とギュンターのえっちシーンを想像してた奴らだな!)」
が、ふいに自分の脳裏にその妄想が浮かびかけ、食べた物を喉に詰まらせそうになって、慌てて脳裏から消し去る。

デルアンダーが気まずい皆を庇うように、囁く。
「今日、ギュンターのグループ生の一年が、不似合いで乗りこなせないザムの馬を持っていたので。
ラッセンスとモーリアスが馬の交換を申し出、結果ラッセンスが馬を交換したんですが…。
ギュンターは交換出来なかったモーリアスを、慰めようとしたのか…。
余計な事を口にし、モーリアスの怒りを買いました」

ディングレーが、顔を上げて問う。
「喧嘩になったのか?!」

デルアンダーは
「(ちょっと嬉しそうに見えるのは、なぜだろう?)」
と思ったものの、返事を返す。
「いえ、モーリアスが口で撃破し、殴り合いにはなりませんでした」

ディングレーは短いため息と共に、顔を下げる。
「(…がっかり、してないか?)」
デルアンダーも思った。
が、食卓の皆が同感の表情で、目を見開いてディングレーを見つめてる。

ディングレーは静まりかえる食卓に気づき、顔を上げると、モーリアスに尊大に尋ねる。
「なんて言って勝ったんだ?」
モーリアスは憮然とした表情で、ぼそりとつぶやく。
「“女装で俺は、お前に絶対負ける”」

ぷ………。
ディングレーは吹き出しそうになって、慌てて口を握った手の甲で押さえる。
もぐもぐもぐ…。
口の中の物を飲み込んだ後、口開く。

「…ギュンターは…女装なんて頭の隅にも無いから、さぞ驚いたろうな」

テスアッソンが頷く。
「モーリアスがとうに去った、暫くのち
“俺の方が、背が高い”
と言い返してましたね」

ぷ…。
ディングレーはまた、吹き出しそうになって、今度は口の中に物が入ってなかったと、その時気づく。

けどモーリアスはテスアッソンを睨み付け
「…背が高い…?!
それが俺より女装が似合う、言い訳か?!」
と声を荒げ、オルスリードに
「テスアッソンは伝えただけ。
言ったのはギュンターだから、テスアッソンに突っかかるな」
と注意された。

モーリアスはたしなめられ、少し気まずそうにテスアッソンを見、けど顔を背け、ぼそりと謝罪を口にする。
「…すまなかった」
テスアッソンは幼馴染みのオルスリードの言葉だけは聞く、モーリアスの殊勝さに、内心驚きながら
「いや」
と言葉を返す。

デルアンダーも
“この中で一番気が荒いのは誰か?”と聞かれたら、誰もが
“モーリアス”
と答えるほど気性の荒いモーリアスが、オルスリードにだけは手綱を取られた馬のように従順に見え、顔を下げた。

ディングレーはつい、そんなモーリアスに振り向き
「ギュンターと、殴り合う気は無いんだな?」
と聞く。

が、モーリアスは
「無礼なマネをされれば。
拳を振る用意は、いつでもあります」
と言い切った。

けどディングレーは首を二度、縦に揺らすと言い渡す。
「あいつの拳の威力はまだ、それ程じゃないとは思う。
が、身のこなしは信じられない程素早いぞ?」

モーリアスは
「肝に銘じておきます」
と殊勝に返事した。
が、顔はヤル気満々。

「肝に銘じておくと言いながら、拳振り始めたら頭に血が上って理性消し飛ぶくせに」
オルスリードにぼそっ…。と小声で言われ、モーリアスはむっとする。
「もう五歳の餓鬼じゃ無い」
けれどオルスリードは言い返す。
「五歳は最初。
俺がお前の喧嘩の仲裁したのは、その後数え切れないぞ?」

モーリアスは言い返す言葉が無くなり、オルスリードを睨み付けて食事を続ける。

が、ディングレーがさっさと食べ終わり
「この後、用があるのでこれで失礼する」
と食後酒を断り、席を立った。

立ち上がったものの、妙な雰囲気を感じ
「(もしかしてギュンターがこの後、部屋に来るのか?!)」
と全員が勘ぐってる気がし、ディングレーは
「(誤解は、解けたんじゃ無かったか?)」
と、振り向く。
途端皆は一斉に、顔を背けた。
なのでディングレーは
「多分じき、ローフィスが来るので、彼の用で出かける」
と付け足した。

言った途端、皆がほっとしてる様子を見せ、ディングレーは内心
「(“寝てもいい”と思えるローフィスとの事は勘ぐらず。
“寝るなんて、あり得ない”と思ってるギュンターで、どうしてそこまで的外れな妄想出来るんだ!)」
と、プンプン怒りながら、自室へ戻って行った。

ディングレーが去った後、デルアンダーが俯いたまま、ぼそり…とつぶやく。
「ディングレーとギュンターは、デキて無いと。
もう、分かったハズじゃないのか?」
と、ラッセンスとシャウネスを見る。
二人はデルアンダーと視線が合う前に、顔を背けた。

デルアンダーが今度、モーリアスを見ると、モーリアスはグレーの瞳を真っ直ぐデルアンダーに向け、ぼそりと言う。
「散々思い描いてたのに、今更…。
そうそう、方向転換出来ない」

テスアッソンが、呆れきった。
「…そんなに…詳細に具体的に。
妄想してたのか?!」

テスアッソンの問いに、ラッセンスもシャウネスも、俯き加減のまま無言で頷く。

モーリアスは開き直って、肉を頬張りながら
「そりゃオーガスタスとの3Pも加え、どんな体位で、どっちがどこを愛撫してたかまで。
ばっちり鮮明に、思い描いてた」
と言って退けるので、オルスリードがぶっ…。
と食べてる物を吹き出しそうになり、慌てて手で、口を押さえた。

けれど何とか口の物を、喉の奥に押し込んだ後。
立ち直って告げる。

「だがこれで、ギュンターはディングレーの特別な思い人じゃないと、分かった以上。
ギュンターに遠慮は無用。
言いたい事があれば、きっぱり言える」

物の分かった大人なオルスリードの意見に、デルアンダーとテスアッソンが頷き、シャウネスとラッセンスも軽く相づち打つ中、モーリアスだけは、無言。

気づいたオルスリードが
「…だが拳振って、殴り合って良い。
って事じゃ無い」
と釘を刺した途端、モーリアスは心を読まれたように、ぎくっ。とする。

皆はやれやれ…と顔を下げる中。
オルスリードがぼそり…とモーリアスに言い渡した。

「くれぐれも。
俺に仲裁させるな」

皆が見てるとモーリアスは、つん。と横を向いて、バックレてた。
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