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乗馬の講義中過去を思い返すギュンターと暴走族退治
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午後は乗馬で、ギュンターは馬に乗って駆け続けた。
その時も…幼い頃の記憶が朧に蘇ってた。
一人だけ毛色が違うと、近所の領主の息子達に、虐められた。
直ぐ隣領地の領主は、争ってた美女がギュンターの義父の嫁になって以来、自分の息子達を焚きつけてたから、出会うとしょっ中喧嘩。
ギュンターだけで無く、兄達も殴り合いの喧嘩をしてたけど。
ギュンターが一人で居ると、格好の餌食とばかり、悪口が飛んで来た。
「貰われっ子!
お前の母ちゃん、お前を置いて自殺した!」
ムキになって殴りかかり…相手は三人居たから、捕まって殴られて。
けど必ず、長男シュティッツェと次男アルンデルが飛んで来る。
「てめぇら!」
凄まじい怒声を上げ、頼もしい長男シュティッツェが拳握って殴りかかり…アルンデルは蹴り入れて助けに入ってくれる。
けれどその頃はもう…分かってた。
シュティッツェは少し明るめだけど、栗毛。
アルンデルも…栗毛。
シュティッツェの目は空色。
アルンデルは青。
弟のリンネルとラッツェも揃って栗毛。
目の色はブルーグレーと空色。
義父も。
そして喧嘩の原因、隣領主を振った義母ですら、栗毛で青い目。
金髪なんて、誰一人居ない。
叔母に尋ねたら、教えてくれた。
実母は義母の妹で、自分が産まれて間もなくの頃、丘から足を滑らせ川に落ちて死んだ、と。
覚えてなかった。
母の顔も父ですら。
けどなんとなく…自分は兄弟達とは…どこか違うのだと気づく。
ほんの僅か、黙っても通じあう何かが…兄達と弟らにはあり…。
知らぬ間に、自分は弾かれて、一人になる時がある。
その場に人が居ないんじゃ無く、心が…置いて行かれて一人なのだ。
義父と義母。
そして兄達弟達。
彼らは間違いなく、家族。
…だから…同じ屋敷に住むたくさんの叔父や叔母達との方が、話しやすかった。
けれど彼らですら…自分の妻、息子、父、母らと家族…。
いつからだろう?
一人でぽつん…と、居る事が増え…けれどその都度、隣領主の悪餓鬼に見つかり、喧嘩を売られ…。
それ以来、長男シュティッツェがいつも側に来ては、殴りかかってくるようになった。
「殴り返せ!
いつも俺とアルンデルが駆けつけてくると思ったら、大間違いだぞ!」
けれどシュティッツェが俺の顔を殴った時。
義母が来てはシュティッツェの頬を拳で殴って怒鳴った。
「ギュンターの顔は!
私が気に入ってる以上、傷付けたらぶっ飛ばす!」
凄い剣幕で。
シュティッツェに殴られ、倒れ込んだままそれを見て笑ってると。
「あんたもよ!
自分の顔に傷なんて付けたら!
腹に蹴り、入れてやるからね!!!」
つい、怒鳴り返してた。
「顔だけ傷つけなきゃ、腹殴られててもいいのか!!!」
「そうよ!!!」
即答して怒鳴り返され、呆けているとシュティッツェに笑い返された。
横を見るとディングレーが。
併走して来てる。
振り向くと、後続は遙か後ろ。
「…行き先、分かってるのか?」
「その先の岩場を駆け下りるんだろう?!」
叫び返すと、ディングレーは笑って更にトバす。
見事な黒馬の跳ね上がる尻尾を見て、ギュンターも拍車かける。
「行け!
ロレンツォ!」
焦げ茶に白の模様が入るロレンツォは、チラと振り向く真っ黒なサラブレッドに
“駄馬”
と見つめられ、対抗意識を燃やして猛烈に後を追う。
ギュンターは思い切り上体を前に倒して空気抵抗を減らし、馳せるロレンツォを助ける。
ディングレーの黒馬は、併走してくるロレンツォを見、チラ…と乗せている主を見る。
ディングレーは心の中で頷き、つぶやいた。
「存分に駆けろエリス」
黒馬はまるで解き放たれたように、真っ黒で艶やかなたてがみを散らし、ロレンツォより半馬身先を駆ける。
講師は遙か先を駆けるディングレーとギュンターを見、取りこぼされまいと必死で馬を急かす、周囲のディングレー取り巻き大貴族らに零した。
「あいつら、レースと勘違いしてないか?!」
三年の乗馬コースは起伏が激しい土地をひた走るから、皆、馬を庇ってあまり速度を上げない。
だが先頭の二騎がかっ飛ばすのを見て、続々速度を上げる。
講師は思わず遙か先を駆ける二騎に怒鳴った。
「馬に怪我させるな!!!」
ギュンターは思わずその声に振り向く。
が、ディングレーの黒馬、エリスは怒濤の如く駆け、ロレンツォは負けるつもり無く疾風のように半馬身遅れ、併走して行く。
やがて崖の上に辿り着くが…エリスは速度をロクに落とさず突っ込んで行くし。
ロレンツォも負けじと坂を駆け下りる。
どっちも岩だらけの坂を、岩を巧みに避けながら、互いを意識し速度を落とさない。
ギュンターはほぼ馬にしがみつきながら、ディングレーが振り落とされないかをチラ見した。
が、ディングレーもほぼエリスの首に身を寄せ、エリスの走りを極力邪魔しないよう巧みにバランスを保ってる。
ギュンターが視線を戻すと、目前に大岩。
「くそ!!!」
が、手綱を引く前に、ロレンツォはすれすれで避けて行く。
その時ギュンターは、この坂が初めてじゃ無いと気づく。
ロレンツォはこのコースを自分より知っていた。
真ん中に岩を挟んでディングレーと黒馬の姿が消え、次に現れた時、平坦な道となってゴール。
ほぼ同時に駆け込み、平坦な草地でディングレーもギュンターも、思い切り手綱を引いた。
ロレンツォは激しく息を切らしたが、同時ゴールに誇らしげに、前足を蹴り上げ上半身持ち上げ、声高にいななく。
ヒヒーーン!
ロレンツォが前足を下ろして着地し、ギュンターがエリスを見ると…。
黒光りする艶やかな黒馬は、まるで
“やるじゃないか…”
と言うように余裕で、首を少し下げてチラと視線をロレンツォに向けた。
ギュンターは項垂れてロレンツォに囁く。
「…嬉しいのは分かるが。
派手に喜ぶ分、あいつの余裕に負けてるぞ?」
ロレンツォは主のその言葉に、つん!と顔を背けた。
けれど次に駆け込んで来たのは、なんとギュンターが廊下の角で出会い
“綺麗だ”と思った、ゼイブン。
ゼイブンは軽やかに手綱を下げて馬を止め、艶やかなクリーム色の馬は歩を止めた後、息切れもせず、すましてる。
ロレンツォとエリスが見つめても、知らん顔。
ディングレーが声かける。
「講師らは、ずっと後か?
お前が来た以上、コースは合ってるんだろう?」
グレーがかった明るい栗色で、肩まである短髪のゼイブンは、美少年風の顔を上げ、ブルーグレーの瞳をディングレーに向けて言う。
「あんたの家来の二人が。
トバしすぎて接触事故起こしそうになったから。
講師は速度を落とせと…ほら今、降りて来る」
と崖の上に視線を向ける。
ディングレーもギュンターもが、崖の上に視線を向けた。
講師を先頭に、一斉にディングレー取り巻き貴族らと他三年達の馬が、横一列に駆け下りて来た。
ディングレーはゼイブンに振り向く。
「…なんでお前は速度、落とさなかった?」
ギュンターが見てると、綺麗系ゼイブンは眉を寄せてた。
「ムキになってトバす、あんたらと違って。
俺とコーネルにはこれが、普通の速度だからだ」
ゼイブンの馬、コーネルは少し気取ったように
“その通り”と言うように、つん。
と顔を上に跳ね上げた。
ディングレー同様黒馬エリスは顔を背け、ロレンツォも視線を外し、ぶすっ垂れる。
間もなく講師が駆け込んで来て
「何考えてるんだお前ら!
今回は、レースじゃないんだぞ!!!」
とディングレーとギュンター。
それにゼイブンを、怒鳴りつけた。
その後、見回りの依頼を受けたと言う村に駆け込むと、十数人の馬を乗り回す暴走族が、広場で暴れてる真っ最中。
広場は村の中心で、村人達が大勢行き来する中、暴走族らは散乱し、馬上から野菜を運ぶ農婦のカゴを、引っぱる者。
やはり馬上から、村娘のスカートの裾を掴んで引っ張る者。
馬を荷馬車の前に乗り入れ、進路を邪魔する者…。
真っ先にディングレーがエリスを進めると、講師が背後から怒鳴る。
「捕まえたら、村長に引き渡す!!!」
思わずギュンターもロレンツォを進める。
が、ふと気づいて後ろを見ると、ゼイブンは馬を止め、ディングレー取り巻き大貴族を先に行かせてた。
ギュンターは村娘のスカートを引っ張り、からかう馬に乗った若者の横に付くよう、ロレンツォに合図送る。
娘はキャーキャー叫ぶけど、広場に居る村人達もそれぞれ暴走族らにちょっかいかけられ、助けるどころじゃ無い。
ギュンターはスカートを手に持つ若者の横に付くと、どかっ!!!
と足を突き出し、狼藉者を馬上から蹴り落とした。
どっすん!!!
落ちた隙にスカートの裾をハズされ、村娘はスカートを引き寄せて一目散に逃げ始める。
ディングレーと取り巻き大貴族らも、それぞれ自分の馬を暴走族らの横に付け、威嚇する。
ディングレーは拳を振り回し、若者を伸して馬上で気絶させ、デルアンダーは肘でど突いていて、後ろに吹っ飛ぶ若者はそのままバランス崩して落馬してた。
デラロッサも足で蹴りつけ、馬上から派手に吹っ飛ばしてる。
ゼイブンは、逃げだそうとした馬の斜めに馬を進め、相手の馬の進路を邪魔し、追いついたテスアッソンの手助けをさりげなくし、テスアッソンはゼイブンに会釈して礼に変え、そのまま歩を止めた馬の横に馬を付けて、馬上の若者を蹴り落としてた。
10数名居た暴走族らは、ほぼ皆馬から落ち、馬から降りた『教練』の生徒らに、捕らえられて引きずられ、広場の中央で縄で縛られ、それぞれ落馬の痛みに呻いてた。
間もなく村長が、捕らえられた乱暴者を見ようと駆けつけた、大勢の人混みを掻き分け講師の前にやって来る。
「ありがとうございます!!!
本当に、助かった!
この所ずっと続いていて、誰も止められないから調子に乗る一方で、被害も増え続けて!
地酒を振る舞いますから、飲んでいって下さい!」
その後は、困っていた村人達が一斉にテーブルを広げ、酒を運び入れ、農婦達は皆、手作りの食べ物を持ち寄って、『教練』三年生徒らをもてなした。
地酒を振る舞われ、大いに沸き立つ生徒らに、講師は
「飲み過ぎるなよ!」
と怒鳴り、生徒らは活気づいて
オゥ!!!
と一斉に雄叫び、返答を返した。
ギュンターは酒と料理を楽しみながら、ふと見ると。
ゼイブンは自分が助けた、スカートの裾を引っ張られて困ってた、多分村一番の美人に笑顔で言い寄っていた。
デルアンダーが側に来ると
「お前が、助けたのにな」
と告げるので、ギュンターは肩すくめた。
他の取り巻き大貴族も、寄って来て言う。
「ゼイブンだろう?
一年前は、グーデン一味の…今は卒業した、かつての四年に貞操狙われ、逃げ続けてた反動だな」
別の一人も言う。
「最近は酒場で、女口説きまくってるって噂だ」
側に居た彼らの主、ディングレーが顔を下げてつぶやく。
「…顔、ダケは綺麗だが…。
口を開くと下ネタばかりの、凄い女好きだろう?」
その言葉が放たれた途端。
取り巻き大貴族らは全員、ふ…と、ギュンターを見る。
ギュンターが気づいて見つめ返すと
「…お前は、男も好きだっけ」
とテスアッソンがつぶやいた途端。
皆、一斉に視線をギュンターから外す。
ギュンターは怒って
「どの辺が、ゼイブンとダブったんだ?!
下ネタか?!
女好きか?!!!!」
と怒鳴ると。
デルアンダーが振り向き、ぼそり…と言った。
「顔・ダケは綺麗…な部分だろう?」
横のオルスリードが
「当然、そこだ」
と頷き
モーリアスが
「いや、下ネタもじゃないのか?」
と皆に聞き返してた。
ギュンターが睨み続けてると。
ディングレーが背を向け、その場から去り始めるのを合図に。
取り巻き大貴族らはギュンターと目が合わないよう顔を下げ、一斉にディングレーの後に続き、睨むギュンターをその場に一人置いて、去って行った。
間もなく講師が
「帰るぞ!!!
馬に乗れ!!!」
と叫ぶと、一斉に大ブーイングが飛ぶ。
けれど講師が馬に乗り、ディングレーもジョッキを置いて馬に跨がると。
取り巻き大貴族らも騎乗し、まだ飲んでる連中を、馬上からジロリ…と見る。
生徒らはしぶしぶジョッキを置き、お土産のパイを笑顔で差し出す農婦から、会釈してパイを受け取り、それぞれ馬に跨がった。
今度はディングレーを先頭に。
残ってる者がいないか、目を光らせる講師を最後尾に。
三年『教練』生徒らは一斉に『教練』の校舎目指し、日の傾きかけた草原を駆け始めた。
その時も…幼い頃の記憶が朧に蘇ってた。
一人だけ毛色が違うと、近所の領主の息子達に、虐められた。
直ぐ隣領地の領主は、争ってた美女がギュンターの義父の嫁になって以来、自分の息子達を焚きつけてたから、出会うとしょっ中喧嘩。
ギュンターだけで無く、兄達も殴り合いの喧嘩をしてたけど。
ギュンターが一人で居ると、格好の餌食とばかり、悪口が飛んで来た。
「貰われっ子!
お前の母ちゃん、お前を置いて自殺した!」
ムキになって殴りかかり…相手は三人居たから、捕まって殴られて。
けど必ず、長男シュティッツェと次男アルンデルが飛んで来る。
「てめぇら!」
凄まじい怒声を上げ、頼もしい長男シュティッツェが拳握って殴りかかり…アルンデルは蹴り入れて助けに入ってくれる。
けれどその頃はもう…分かってた。
シュティッツェは少し明るめだけど、栗毛。
アルンデルも…栗毛。
シュティッツェの目は空色。
アルンデルは青。
弟のリンネルとラッツェも揃って栗毛。
目の色はブルーグレーと空色。
義父も。
そして喧嘩の原因、隣領主を振った義母ですら、栗毛で青い目。
金髪なんて、誰一人居ない。
叔母に尋ねたら、教えてくれた。
実母は義母の妹で、自分が産まれて間もなくの頃、丘から足を滑らせ川に落ちて死んだ、と。
覚えてなかった。
母の顔も父ですら。
けどなんとなく…自分は兄弟達とは…どこか違うのだと気づく。
ほんの僅か、黙っても通じあう何かが…兄達と弟らにはあり…。
知らぬ間に、自分は弾かれて、一人になる時がある。
その場に人が居ないんじゃ無く、心が…置いて行かれて一人なのだ。
義父と義母。
そして兄達弟達。
彼らは間違いなく、家族。
…だから…同じ屋敷に住むたくさんの叔父や叔母達との方が、話しやすかった。
けれど彼らですら…自分の妻、息子、父、母らと家族…。
いつからだろう?
一人でぽつん…と、居る事が増え…けれどその都度、隣領主の悪餓鬼に見つかり、喧嘩を売られ…。
それ以来、長男シュティッツェがいつも側に来ては、殴りかかってくるようになった。
「殴り返せ!
いつも俺とアルンデルが駆けつけてくると思ったら、大間違いだぞ!」
けれどシュティッツェが俺の顔を殴った時。
義母が来てはシュティッツェの頬を拳で殴って怒鳴った。
「ギュンターの顔は!
私が気に入ってる以上、傷付けたらぶっ飛ばす!」
凄い剣幕で。
シュティッツェに殴られ、倒れ込んだままそれを見て笑ってると。
「あんたもよ!
自分の顔に傷なんて付けたら!
腹に蹴り、入れてやるからね!!!」
つい、怒鳴り返してた。
「顔だけ傷つけなきゃ、腹殴られててもいいのか!!!」
「そうよ!!!」
即答して怒鳴り返され、呆けているとシュティッツェに笑い返された。
横を見るとディングレーが。
併走して来てる。
振り向くと、後続は遙か後ろ。
「…行き先、分かってるのか?」
「その先の岩場を駆け下りるんだろう?!」
叫び返すと、ディングレーは笑って更にトバす。
見事な黒馬の跳ね上がる尻尾を見て、ギュンターも拍車かける。
「行け!
ロレンツォ!」
焦げ茶に白の模様が入るロレンツォは、チラと振り向く真っ黒なサラブレッドに
“駄馬”
と見つめられ、対抗意識を燃やして猛烈に後を追う。
ギュンターは思い切り上体を前に倒して空気抵抗を減らし、馳せるロレンツォを助ける。
ディングレーの黒馬は、併走してくるロレンツォを見、チラ…と乗せている主を見る。
ディングレーは心の中で頷き、つぶやいた。
「存分に駆けろエリス」
黒馬はまるで解き放たれたように、真っ黒で艶やかなたてがみを散らし、ロレンツォより半馬身先を駆ける。
講師は遙か先を駆けるディングレーとギュンターを見、取りこぼされまいと必死で馬を急かす、周囲のディングレー取り巻き大貴族らに零した。
「あいつら、レースと勘違いしてないか?!」
三年の乗馬コースは起伏が激しい土地をひた走るから、皆、馬を庇ってあまり速度を上げない。
だが先頭の二騎がかっ飛ばすのを見て、続々速度を上げる。
講師は思わず遙か先を駆ける二騎に怒鳴った。
「馬に怪我させるな!!!」
ギュンターは思わずその声に振り向く。
が、ディングレーの黒馬、エリスは怒濤の如く駆け、ロレンツォは負けるつもり無く疾風のように半馬身遅れ、併走して行く。
やがて崖の上に辿り着くが…エリスは速度をロクに落とさず突っ込んで行くし。
ロレンツォも負けじと坂を駆け下りる。
どっちも岩だらけの坂を、岩を巧みに避けながら、互いを意識し速度を落とさない。
ギュンターはほぼ馬にしがみつきながら、ディングレーが振り落とされないかをチラ見した。
が、ディングレーもほぼエリスの首に身を寄せ、エリスの走りを極力邪魔しないよう巧みにバランスを保ってる。
ギュンターが視線を戻すと、目前に大岩。
「くそ!!!」
が、手綱を引く前に、ロレンツォはすれすれで避けて行く。
その時ギュンターは、この坂が初めてじゃ無いと気づく。
ロレンツォはこのコースを自分より知っていた。
真ん中に岩を挟んでディングレーと黒馬の姿が消え、次に現れた時、平坦な道となってゴール。
ほぼ同時に駆け込み、平坦な草地でディングレーもギュンターも、思い切り手綱を引いた。
ロレンツォは激しく息を切らしたが、同時ゴールに誇らしげに、前足を蹴り上げ上半身持ち上げ、声高にいななく。
ヒヒーーン!
ロレンツォが前足を下ろして着地し、ギュンターがエリスを見ると…。
黒光りする艶やかな黒馬は、まるで
“やるじゃないか…”
と言うように余裕で、首を少し下げてチラと視線をロレンツォに向けた。
ギュンターは項垂れてロレンツォに囁く。
「…嬉しいのは分かるが。
派手に喜ぶ分、あいつの余裕に負けてるぞ?」
ロレンツォは主のその言葉に、つん!と顔を背けた。
けれど次に駆け込んで来たのは、なんとギュンターが廊下の角で出会い
“綺麗だ”と思った、ゼイブン。
ゼイブンは軽やかに手綱を下げて馬を止め、艶やかなクリーム色の馬は歩を止めた後、息切れもせず、すましてる。
ロレンツォとエリスが見つめても、知らん顔。
ディングレーが声かける。
「講師らは、ずっと後か?
お前が来た以上、コースは合ってるんだろう?」
グレーがかった明るい栗色で、肩まである短髪のゼイブンは、美少年風の顔を上げ、ブルーグレーの瞳をディングレーに向けて言う。
「あんたの家来の二人が。
トバしすぎて接触事故起こしそうになったから。
講師は速度を落とせと…ほら今、降りて来る」
と崖の上に視線を向ける。
ディングレーもギュンターもが、崖の上に視線を向けた。
講師を先頭に、一斉にディングレー取り巻き貴族らと他三年達の馬が、横一列に駆け下りて来た。
ディングレーはゼイブンに振り向く。
「…なんでお前は速度、落とさなかった?」
ギュンターが見てると、綺麗系ゼイブンは眉を寄せてた。
「ムキになってトバす、あんたらと違って。
俺とコーネルにはこれが、普通の速度だからだ」
ゼイブンの馬、コーネルは少し気取ったように
“その通り”と言うように、つん。
と顔を上に跳ね上げた。
ディングレー同様黒馬エリスは顔を背け、ロレンツォも視線を外し、ぶすっ垂れる。
間もなく講師が駆け込んで来て
「何考えてるんだお前ら!
今回は、レースじゃないんだぞ!!!」
とディングレーとギュンター。
それにゼイブンを、怒鳴りつけた。
その後、見回りの依頼を受けたと言う村に駆け込むと、十数人の馬を乗り回す暴走族が、広場で暴れてる真っ最中。
広場は村の中心で、村人達が大勢行き来する中、暴走族らは散乱し、馬上から野菜を運ぶ農婦のカゴを、引っぱる者。
やはり馬上から、村娘のスカートの裾を掴んで引っ張る者。
馬を荷馬車の前に乗り入れ、進路を邪魔する者…。
真っ先にディングレーがエリスを進めると、講師が背後から怒鳴る。
「捕まえたら、村長に引き渡す!!!」
思わずギュンターもロレンツォを進める。
が、ふと気づいて後ろを見ると、ゼイブンは馬を止め、ディングレー取り巻き大貴族を先に行かせてた。
ギュンターは村娘のスカートを引っ張り、からかう馬に乗った若者の横に付くよう、ロレンツォに合図送る。
娘はキャーキャー叫ぶけど、広場に居る村人達もそれぞれ暴走族らにちょっかいかけられ、助けるどころじゃ無い。
ギュンターはスカートを手に持つ若者の横に付くと、どかっ!!!
と足を突き出し、狼藉者を馬上から蹴り落とした。
どっすん!!!
落ちた隙にスカートの裾をハズされ、村娘はスカートを引き寄せて一目散に逃げ始める。
ディングレーと取り巻き大貴族らも、それぞれ自分の馬を暴走族らの横に付け、威嚇する。
ディングレーは拳を振り回し、若者を伸して馬上で気絶させ、デルアンダーは肘でど突いていて、後ろに吹っ飛ぶ若者はそのままバランス崩して落馬してた。
デラロッサも足で蹴りつけ、馬上から派手に吹っ飛ばしてる。
ゼイブンは、逃げだそうとした馬の斜めに馬を進め、相手の馬の進路を邪魔し、追いついたテスアッソンの手助けをさりげなくし、テスアッソンはゼイブンに会釈して礼に変え、そのまま歩を止めた馬の横に馬を付けて、馬上の若者を蹴り落としてた。
10数名居た暴走族らは、ほぼ皆馬から落ち、馬から降りた『教練』の生徒らに、捕らえられて引きずられ、広場の中央で縄で縛られ、それぞれ落馬の痛みに呻いてた。
間もなく村長が、捕らえられた乱暴者を見ようと駆けつけた、大勢の人混みを掻き分け講師の前にやって来る。
「ありがとうございます!!!
本当に、助かった!
この所ずっと続いていて、誰も止められないから調子に乗る一方で、被害も増え続けて!
地酒を振る舞いますから、飲んでいって下さい!」
その後は、困っていた村人達が一斉にテーブルを広げ、酒を運び入れ、農婦達は皆、手作りの食べ物を持ち寄って、『教練』三年生徒らをもてなした。
地酒を振る舞われ、大いに沸き立つ生徒らに、講師は
「飲み過ぎるなよ!」
と怒鳴り、生徒らは活気づいて
オゥ!!!
と一斉に雄叫び、返答を返した。
ギュンターは酒と料理を楽しみながら、ふと見ると。
ゼイブンは自分が助けた、スカートの裾を引っ張られて困ってた、多分村一番の美人に笑顔で言い寄っていた。
デルアンダーが側に来ると
「お前が、助けたのにな」
と告げるので、ギュンターは肩すくめた。
他の取り巻き大貴族も、寄って来て言う。
「ゼイブンだろう?
一年前は、グーデン一味の…今は卒業した、かつての四年に貞操狙われ、逃げ続けてた反動だな」
別の一人も言う。
「最近は酒場で、女口説きまくってるって噂だ」
側に居た彼らの主、ディングレーが顔を下げてつぶやく。
「…顔、ダケは綺麗だが…。
口を開くと下ネタばかりの、凄い女好きだろう?」
その言葉が放たれた途端。
取り巻き大貴族らは全員、ふ…と、ギュンターを見る。
ギュンターが気づいて見つめ返すと
「…お前は、男も好きだっけ」
とテスアッソンがつぶやいた途端。
皆、一斉に視線をギュンターから外す。
ギュンターは怒って
「どの辺が、ゼイブンとダブったんだ?!
下ネタか?!
女好きか?!!!!」
と怒鳴ると。
デルアンダーが振り向き、ぼそり…と言った。
「顔・ダケは綺麗…な部分だろう?」
横のオルスリードが
「当然、そこだ」
と頷き
モーリアスが
「いや、下ネタもじゃないのか?」
と皆に聞き返してた。
ギュンターが睨み続けてると。
ディングレーが背を向け、その場から去り始めるのを合図に。
取り巻き大貴族らはギュンターと目が合わないよう顔を下げ、一斉にディングレーの後に続き、睨むギュンターをその場に一人置いて、去って行った。
間もなく講師が
「帰るぞ!!!
馬に乗れ!!!」
と叫ぶと、一斉に大ブーイングが飛ぶ。
けれど講師が馬に乗り、ディングレーもジョッキを置いて馬に跨がると。
取り巻き大貴族らも騎乗し、まだ飲んでる連中を、馬上からジロリ…と見る。
生徒らはしぶしぶジョッキを置き、お土産のパイを笑顔で差し出す農婦から、会釈してパイを受け取り、それぞれ馬に跨がった。
今度はディングレーを先頭に。
残ってる者がいないか、目を光らせる講師を最後尾に。
三年『教練』生徒らは一斉に『教練』の校舎目指し、日の傾きかけた草原を駆け始めた。
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