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ギュンターの午後 国語と合同授業

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 その後の国語の講義で、ギュンターは周囲の視線が…心なしか、変わっていると気づく。
皆、目が合うと怖気るような表情で、視線を外す。

けどダベンデスタだけは。
心配事が無くなったように、にこにこと隣で笑顔を披露するので、ギュンターは首捻った。
「(興味本位で色モノみたいに、ジロジロ見られるのもヤだったが。
今度は怖がられてないか?
…極端すぎる)」

だが。
ローフィスの部屋で課題を書き写した時。
国語の重要性が理解出来て、ギュンターは黒板に書かれた講師の文字をじっと見た。

横平行に文字が並び、行間も一定。
文字の大きさも揃い、更に綺麗。

「(…あんな職人芸、どうやったら身につくんだ…)」
ギュンターは必死で羊皮紙に羽根ペンで文字を書き写しながら、自分の書いた文字があまりにも黒板の文字とかけ離れてるのを見て、絶望した。

ギュンターは横のダベンデスタの文字が。
字は綺麗とは言えないが、判読できて更に字が揃ってるのに目を見開く。

「…どうしたらそう書ける?」
ダベンデスタは気づき、ギュンターの文字を見る。
「…そりゃ…練習するしか無いんじゃないか?」
「…机に座って?」
ギュンターが問うと、ダベンデスタは頷く。
「ずっと文字を、書き続けるのか?」
ギュンターのその疑問に、またまたダベンデスタが頷く。

ギュンターが“そんな苦行、したくない”と言うように前髪を掻き上げるのを見て、ダベンデスタは小声で囁く。
「凄く偉くなって、文字は部下に代筆して貰えば?」

ギュンターは突然、立ち直った。
「…そのテがあったか!」
ダベンデスタは呆れてギュンターを見た。
「偉く成れそうか?」
ギュンターはむすっとしてうめく。
「…なるしか、ないだろう?」
それを聞いて、ダベンデスタは顔下げて提言する。
「…まず、卒業前の課題提出で。
講師に
“読めないから書き直せ”
と突っ返されないレベルまで、字が上手くならないと。
卒業出来ないから、近衛で出世も無理だ」

聞いた途端、ギュンターは苦み走った表情で、両手で髪を掻き毟った。

ふと気づいて、ギュンターは斜め後ろのデラロッサの文字を覗く。
いかにも机の前で、文字の練習。
なんて事からかけ離れて見える、後ろで長い栗毛をひっつめ、肩幅広く体格いい男前なデラロッサですら。
文字が、揃ってた。

ギュンターは唸り出しそうになった。
デラロッサは
「?」
とギュンターの様子を見ていたが。
ギュンター横のダベンデスタに振り向かれ、小声で
「…ギュンターの文字は乱筆どころじゃなく、読めない」
と聞かされ、腕組んでため息吐く。

そして、顔を上げてギュンターを見
「俺はここで、今まで二年。
講義の間、机に張り付いて文字書いてた」
と言い
「その二年をお前が埋めようとするなら。
意図して机に張り付くしかない。
最も今年退学にならなければ、来年は四年。
提出する課題が山積みだから、嫌でも机に張り付くしかない。
進級できそうなら、来年に持ち越せ」

と言われ、ギュンターはオーガスタスですら。
自室の机に、張り付いてた姿を思い出す。

ギュンターは今度オーガスタスに会ったら。
課題の乗り越え方を聞こう。
と、固く心に決めた。


午後の合同授業は、剣で。
中鍛錬場に集まるグループ生の中に、アスランが参加してるのを見て、ギュンターは目を見開いた。
「…ホントに、出る気か?!」

アスランは手に持つ剣を見、しょぼん…と顔を下げる。
スフォルツァが横で
「アスランは貴方とオーガスタスとの、戦いぶりを見て。
少しでも、上手くなりたいと…」
そう、フォローする。

「…それにミシュランは…怪我してても、やれっていつも言ってたし…」
アスランが、俯いて呟く言葉を聞き、ギュンターはため息吐く。

「あのな。
怪我しようが敵に囲まれたら、どうしたって剣振らなきゃならない時もある。
今敵が、ここにいるか?
剣振らなきゃ、命が危険か?」

アスランは俯いたまま、首を横に振る。
「…だろう?
怪我するってのは、戦闘能力がいちじるしく低下する事を意味する。
だからまず、剣の練習より怪我しない注意力を磨かないと。
だがその訓練ですら。
怪我してちゃ、出来ない。
悪いことは言わない。
大人しく怪我を直せ」

アスランは真っ直ぐの黒髪を肩に滑らせ、愛くるしい茶色の瞳を背の高いギュンターに向けて、問う。
「見てても…ダメですか?」
「痛まないんならな。
見てるのも勉強には成るが…。
怪我を治さないと、何も出来ない。
ここで見てて、怪我は治りそうか?」

アスランは、俯ききった。
そして、じくじくと痛み始めた脇腹を感じ、サッテスの処方した…とんでもない味の薬を飲まなきゃ、痛みは引かない。
と思い出し、首を横に振る。

スフォルツァが
「俺がディングレー殿の私室まで、送っていきます」
と請け負う。
が、ギュンターは気づいて言った。

「グーデン一味が狙ってんだろう?
多勢に待ち伏せなんてされて。
お前一人で怪我したアスラン、守りきれるのか?
…俺が行くから、お前は他の一年の、剣見てやってくれ。
シュルツ!
悪いが俺がアスランをディングレー私室まで送って、そののちここに帰るまで。
君が仕切ってくれるか?」

シュルツはギュンターに頼まれ、いっぺんに顔を輝かせた。
「ええ!
しっかりやります!」

ギュンターはその模範解答に、笑顔で頷く。

アスランの背を押して歩き出すと、シェイルが斜め横に剣持って立っているのが視界に入り、ギュンターはそっと寄って尋ねる。
「…シュルツ、なんであんな嬉しそうなのか、分かるか?
出しゃばったり、威張るタイプに見えない」

シェイルは聞かれて、うんと長身のギュンターを見上げる。
「…シュルツはミシュランにずっと、グループ生の扱いについて、意見してたけど。
まるで聞いてもらえず、五月蠅うるさそうにされ、邪魔者扱いされていつも、“出過ぎたヤツ”って睨まれてたから…。
でも怪我してるのにそれでもやれって、ミシュランが無茶な命令してるの聞いたら…。
もっと勇気があったら、僕だって意見してた」

そう言って俯くと、次に顔を上げた。
「…シュルツはみんなの事思って、睨まれてもきっぱり意見できて、誠実で勇気ある、頼れる人です」

ギュンターはそれを聞き、ぼそっ…と尋ねる。
「…酷い扱いだったか?」
シェイルは、頷く。
「…シュルツと…それにスフォルツァは、怪我したりあんまり上手くないグループ生を、いっつもミシュランから庇ってたから。
ミシュランに凄く睨まれてて、怒鳴りつけられたり、いちゃもんつけられたり…。
嫌がらせされたり、雑用させられたり…」

言った後、シェイルは顔を上げてギュンターを見る。
「でも二人は、嫌な思いしたからって…それで諦めたりしないで、貴方に代わるまでずっと、弱い子を庇い続けたんです!」

ギュンターは、納得いって頷く。
「俺だと…庇う必要も無くなって、それであの笑顔なんだな?」

シェイルが、こくん。
と頷くのを見、ギュンターは
「教えてくれて、ありがとな」
と言い、アスランを再び促し、講師に一言告げて、鍛錬場を後にした。

グループ生達は、怪我を押しても練習すると言ったアスランを押し止める、ギュンターに歓喜の目を向け、見送る。
「…今までだったら…」
「うん。腕痛めて剣振り損ねても、怒鳴られたよな…」
「痛めてるって言ったらさ。
“言い訳するな!
怪我しようが、ちゃんとやれ!”
だぜ?」
「…すんごく、怖かったよな…」
「ギュンターって…。
試合じゃ、オーガスタス相手に凄い戦いして、ナンか怖かったけど」
「…うん…。
試合の時と違って、優しくないか?」
「顔が綺麗すぎるから、見られるとドキッ!ってするけどな!」
みんな、その言葉に笑い、シュルツもスフォルツァも笑顔を見せた。

シェイルはずっと萎縮してたみんなに、笑顔が戻り。
ほっ…としたように、アスランと並んで鍛錬場を出て行くギュンターの、高い背を見送った。

「抜け出す気か?!!!!」

ギュンターが鍛錬場を出た途端。
凄まじいディングレーの怒鳴り声に、皆が剣振る手を止め、振り向く。
見ると一年グーデン一味のドラーケンが、こっそりギュンターの後を追おうとして怒鳴られ、歩を止めていた。

ディングレーは凄まじい青の目を向け、首を振り、ドラーケンは仕方なしに戻ってディングレーの目前にやって来る。

ディングレーは
「剣を構えろ!」
と言い、ドラーケンは言われた途端、真っ青になった。

その後、ディングレーに凄まじい剣を、連続して浴びせかけられたドラーケンは。
必死で持ち上げた剣を握り込んで、支えていたけれど。
とうとう両手で剣を握りしめ、剣がぶつかる瞬間、目を閉じる始末。

マレーがその様子をこっそり伺う。
ドラーケンは嵐が止むことを祈るように、怯えながらも必死な形相で、剣を両手で握りしめ、耐えていた。

からんっ!

とうとうドラーケンの、剣先が折れて飛ぶ。
「まだだ!
代わりの剣を持って来い!!!」

雷鳴のようなディングレーの怒鳴り声に、いつも一年平貴族宿舎で威張ってた時のドラーケンの姿は、微塵も見られず。

怯えながらも剣を構えたまま、一方的に振られるディングレーの剣が剣を叩くのを
“頼むから剣が滑って、自分を傷つけないように”
と祈るので精一杯。

ドラーケンのそんな様子を、他のグーデン配下達も目にすると。
いっぺんに態度を控え、大人しくなった。

三年監督生達は、一斉に講師を伺うが。
講師は口出す様子も無い。

いつも手の焼ける自分のグループの、グーデン一味までもが大人しくなり。
監督生達…ディングレー取り巻き大貴族らは、そっとディングレーに感謝の視線を送った。
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