若き騎士達の波乱に満ちた日常

あーす。

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赤い獅子と金の豹、闘争の決着

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 オーガスタスは内心かなり、呆れてた。
どれだけ剣を振っても、ギュンターは避けて来る。
つい遠慮なんてきっちり忘れ、上から下へと振り下ろすのを止め、背後で剣を一回転させて突然斜め上から、ギュンターの腰目がけ振った。

ギュンターは横へまた転がり避けようとし、凄まじい豪剣が斜め横から膝に当たる軌道なのに気づく。
床すれすれに横から振って来るその剣は、横に転がり避けたりしたら、転がる途中で脇腹を斬り裂かれる。
剣が身に届く直前。
一瞬で前へ、床目がけ飛び込む。
腹を床に付け、床を滑りながら途中身を捻り背を床に付け、そのまま仰向けで床を滑ってオーガスタスの長い足の間をすり抜け、背後へ。

左手床について一気に起き上がると、そのまま飛び上がってオーガスタスの広い背目がけ、剣を上から振り下ろす!

おおおおっ!!!

場内は奇想天外な切り抜け方をした直後、牙剥く豹のように獅子の背に襲いかかるギュンターを見、思わず声を上げた。

がちっっ!!!

オーガスタスは足はそのまま。
一瞬で上体を捻りその剣に剣を当て、止める。

一瞬、オーガスタスの鳶色の瞳が、かっ!と金に光って見え、髪が赤く燃えたぎるように目に映った。
止めた次の瞬間、オーガスタスが腰を僅か屈め、足を滑らせ素早く向きを変える。

ギュンターは止められた衝撃で、宙で一瞬後ろに押され、がそのまま体を捻って着地した。

膝を床に付かんばかりに身を屈める、ギュンターの頭上から。
再びオーガスタスの剣が降って来る。

ギュンターは再び、前へと飛び込む。
オーガスタスの股の間を潜り抜けようとした時。
オーガスタスは振り下ろしかけた剣を横に流し、長い足を持ち上げ、一瞬で横にずれ。
仰向けで滑って来るギュンター目がけ、真横から剣を振り下ろした。

そのまま滑れば、ギュンターの胴は真っ二つ!!!

場内の誰もが青ざめる中、ギュンターは一瞬で床に手を付き滑りを止め、横へ思い切り、腕を胸に抱き込み、ごろごろと転がった。

オーガスタスは振る剣を止める。
そのまま振り下ろしたら床に剣を叩きつけ、剣が折れると予想して。

転がり避けたギュンターはもう起き上がり、剣を握り一気に突進して来る!

細身だが背は高いだけあって、飛び上がって上から剣を振り被られると、首から胸へと斬られる。
オーガスタスは思いっきりその剣に、剣を振り切って叩きつけた。

がっっっつん!!!

ギュンターはその凄まじい剣が、剣を伝って腕に衝撃を与え、思わず左手添え、骨折しそうな右腕を庇う。
が足が宙に浮いていたから、吹っ飛ぶと予想した。

だが予想に反し、そのまま下へと身が落ち、膝を床に付かんばかりに身を屈めて着地。
オーガスタスの胴は目前。
ギュンターは剣を後ろに、一瞬で再び腰を上げ、オーガスタスに襲いかかる。
今度は飛ばず、オーガスタスの胴を真横に薙ぎ払う覚悟で。

けど背後に隠した剣を、横に持ち上げ振ろうとした時。
突然オーガスタスの長い足で、足元を横から思い切り蹴り払われ、一瞬両足が宙に浮き足場を無くす。

激しい衝撃で蹴られたから。
両足斜めに宙に浮いていて、体は背後に転がるのを意識し、ギュンターは肩から床に落ちると踏んで、身を捻って背から床に、どん!と音立てて落ちた。
が床に着く背を支点に、足を思い切り前へと振って飛び上がり、両足付けて着地した。

向かい合うオーガスタスは、間合いから蹴り出された為1mほど先、腰を僅かに屈め立っていて。
ギュンターは再び紫の目をギラリ!と剥いて、剣を振ろうと駆け出した。

その時、カラン!
と甲高い金属音が、妙にはっきり、耳に飛び込む。
ふと目前のオーガスタスに気づくと、オーガスタスはすっかり戦意を無くし、肩を竦めて言った。

「お前、その剣が俺に届くか?」

言われてようやく。
ギュンターは歩を止め、下げて振ろうとした剣を見た。

半分から上が、綺麗に無い。
ギュンターは目を疑い、凝視するものの、目の錯覚じゃ無い。

確かに“ナンか軽い”とは思ったものの、それどころじゃなかったから、無視した。

音のした方へと視線を向けると。
3mほど斜め後ろに、半分に切れた剣先が、床に落ちていた。

ギュンターは一瞬で背後。
端で見ているディングレーへと、視線を向ける。

ディングレーは腕組みし、毅然きぜんとしていた。
が、ギュンターに見つめられ、ため息吐いて、顔を下げる。

ギュンターは狼狽うろたえ、折れた剣をもう一度見つつ囁く。
「…悪い…!…!…」

ギュンターは何か言おうとしたらしいが、言葉が出ない。

ディングレーは促すようにギュンターを見たが、ギュンターはやっぱり金の髪を振り、口は開くものの、相変わらず言葉が出ない。

結局
「ダメだ…。
どうしたってそんな大金、ひねり出せない。
何とかここを卒業し、近衛に入隊後、支払われる給料で分割で払う。
としか、言えない」
と、項垂れて言った。

ディングレーはそれを聞くと、また腕組みする。
「その件についてはもうローフィスから聞いて、覚悟は出来てる。
弁償はしなくていいから、心配するな」

ギュンターは金の髪振って、ディングレーに振り向く。
「…だが!」

がその時、背後に立つオーガスタスが、吐息混じりにつぶやいた。
「お前の替えの剣を、ローフィスに頼んだのは、俺だ」

端に居たローフィスは、腕組みして顔を下げたまま、頷きながら言う。
「で、その剣の調達を、ディングレーに頼んだのは、俺。
弁償責任は俺にある」

ディングレーはかなり離れた場所に立つローフィスを見ると
「…予備の剣を渡せば良かったが、今日は携帯し忘れた。
取り巻きの誰かに予備の剣を借りれば良かったが…。
俺の愛用の剣を手渡したのは、俺の独断。
…つまり責任は、俺にある」
と、ぼそりと告げた。

ギュンターは呆け、背後のオーガスタスに振り向き、見上げて問う。
「…そういうものなのか?
だが剣を使い、折ったのは…間違いなく俺だ」

が、四年剣の講師が銀の真っ直ぐの髪を横に振って、寄って来て言う。
「没落王家ならともかく。
ディングレーの家は大金持ちだ。
お前が手に持つ剣を、お宝のように思ってる俺達とは金銭感覚も違う。
ディングレーにとっては山程ある剣の中で、比較的愛着がある一本だ」

ギュンターは講師の笑顔を見、ディングレーに視線向けると、ディングレーは
『その通り』
と頷いて言った。
「替えの無い、たった一本じゃ無い。
不自由も無いから、心配無用」

ギュンターはけれどまた、剣を見る。
見事な彫刻が柄に彫られ、どう見ても自分の持つ剣の、10倍以上の値段は確実にする。
「(…もしかしたら20倍以上の金額かも)」
とギュンターは思い、そんな剣を
『弁償しなくて良い』
と言うディングレーが、とてつもない金持ちだと感じた。

オーガスタスはギュンターの、頭の中身が分かってるみたいに、肩をぽん。と叩いて告げる。
「王族だからな。
俺達では想像付かない、ケタ違いの金持ちだ」

ギュンターはまた、オーガスタスの言葉が妙にすとん。
と、心に空いた穴を埋めるように腑に落ち、頷く。
「…王族だからか…」

講師はギュンターの前に立つと、笑って言った。
「剣が身代わりになって、良かったな。
本気出したオーガスタス相手で、怪我が無いのが奇跡だ」

三年の、髭の講師も横に来て笑う。
こいつギュンターの避けっぷりは、普通じゃ無いと。
分かったろう?」
その言葉に、四年講師も頷く。

三年、髭の講師は笑顔でオーガスタスに告げた。
「お前らが本気で戦ったから。
誤解も解けたようだ!」

オーガスタスは一瞬場内を見回し、皆目を見開いて無言なのを見、軽く頷いた。

四年講師に『引けて良い』と頷かれ、オーガスタスは中央から端へ、歩き出す。
自然とギュンターも横に並び、一緒に歩き出して問うた。
「誤解されてたのか?」
「俺がな」
「どんな誤解だ?」
「お前は別に、知らなくていい」
「内緒か?」

オーガスタスは一瞬歩を止め、ギュンターを見下ろし。
そしてつぶやいた。
「…不気味な内容だからな。
出来れば口にしたくない」

ギュンターは
「?」
と言う顔をした後
「お前が不気味と思うなら。
よっぽどの、不気味なんだな?」
と聞き、オーガスタスは『その通り』と頷いた。

場内は試合が決着した事も忘れ、たったさっき、牙向き合って凄まじい戦いをした二人が。
今や普通の友達みたいに喋ってる姿が、信じられず目で追い続ける。

「…どういう仲なんだ?」
「…なんで…あれだけ本気で、殺し合いみたいに剣振っといて。
剣が折れただけで、普通に喋ってる?」

次第にざわめく場内で、講師が叫ぶ。
「まだ誰か!
オーガスタスと戦いたい者はいるか?!
ローランデとディングレー以外で!!!」

その声に、全員口を噤み、互いの顔を見合わせ合う。

ディングレーだけが
「どうして俺は除外だ!!!」
と叫び、講師は怒鳴った。
「お前の剣は折れ、予備が無いんだろう?!」

怒鳴り返されたディングレーは、顔を下げて項垂れる。
結局志願者はしばらっても現れず、誰もが声を上げるのを、隣近所に譲り合った。

四年、剣の講師が威厳ある声で叫ぶ。
「では、解散!!!
暴れ足りない者は残って、剣を交えてもいい!!!
が!自己責任だ!!!」

と言い放ち、皆ざわざわと列を崩し始める。

数名が中央に出て剣を交え始め、その他の者達は…今まで頭に思い浮かべていた、ギュンターとオーガスタスのピンクの妄想が。

獅子と豹の、牙を剥き合う激しい闘争に置き換えられ、その異変に慣れず、戸惑いまくった。
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